3-82.橋を架けよう(18)
トレモロさんと仲良くなれるの?
しないとダメなんだよね?
何やってるんだろうね・・・。
トレモロさん自らが新しいお茶を入れてくれた。
全員にお茶を配り終えると、静かにステラの前の席に腰掛けた。
「ステラ様、私は何か重大な勘違いをされていますでしょうか?」
「何がでしょうか?」
「ステラ様に同行されている方達ですが、例えば魔族の高貴な令嬢とかで、ステラ様と親密な関係でいらっしゃるとか。」
「魔族ではないですわ。でも、怒らせたり命を狙うと人族どころか、人間の文明が傾くぐらいの影響がありますわ。」
「それは、脅し文句では無くですか?」
「ヒカリさんは、ツマラナイ駆け引きはされません。なので、先ほど『帰る』と、言い出したのです。ヒカリさんの帰りを慌てて引き止めたのはそういうことですわ。」
「ステラ、それは言い過ぎだよ。」
「だって、ヒカリさんが本気で怒ると、無口で帰ろうとするんですもの」
「確かに喧嘩する気もないぐらい不機嫌だった。あ、ユッカちゃん、昨日の残りのクッキーあるかな?あったら出して。」
「おねえちゃん、あるよ~。いっぱいあるよ~。<岩キノコ>も必要?」
「<岩キノコ>は砂糖にならないみたいだよ?」
「そうなの?ざんねん・・・。」
「ステラ、クッキー食べながら話するのは失礼じゃない?」
「トレモロさんが不機嫌になっても、それなりに困りますが、戦争には成らないので大丈夫です。」
そこいらにあった木のお盆を借りて、ザラザラとクッキーを並べる。
私達4人はクロ先生含めて、お盆のクッキーを食べ始める。
「ステラ、これお土産じゃないけど、トレモロさんに食べて貰うと失礼かな?」
「『一緒に食べよう』で大丈夫ですわ。小さなボタンの掛け違いが起きてるだけですの。」
「トレモロさん、このお菓子を一緒に食べませんか?」
「人族の者が食べても大丈夫でしょうか・・・?」
「お~い~!ステラ、何とかして!」
「ウフフ。ヒカリさんの機嫌が、やっと怒鳴って頂ける程度に戻りましたわ。これなら、話を続けても大丈夫ですわね。
トレモロさん、そのお菓子は魔術でも何でもありません。先ずは召し上がってから感想をくださいな。」
「ハ、ハイ!」
ステラに命令されたトレモロさんは手が震えながら、恐る恐るクッキーをつまむ。
そ~っと、顔の前に運んで、不自然にならないギリギリで臭いを嗅いでるね。
そして、少しだけカリッと歯でかじりとる。
舌で転がして、味を噛みしめてからゴクッと飲み込んだ。
さて、どんな感想が出て来るかな?
「ステラ様!こ、これは!」
「そこの魔女にして、私の主のヒカリさんが作った物ですわ。偉大なる魔女は砂糖をお求めでいらっしゃいます。」
「ス、テ、ラ!!」
「ウフフ、ヒカリさんが本気出しましたわ」
「絶対誤解してるから!ステラの冗談が冗談になってないもん。」
「私、嘘は言ってませんわ」
「そ、そうだけどさ。いろいろ不味いでしょ?」
「トレモロさんは口が堅い人だから、心配ありませんわ。それに、本当のことを言って、信じて貰える数少ない人ですわ。」
「それって、モリスとかランドルさんみたいな感じってこと?」
「はい、そうですわ。きっと、お知り合いかもしれませんわ」
「トレモロさん、ちょっと質問があるのだけど良い?」
「え、あ、ええと、ヒカリ様と呼べば宜しいでしょうか。何なりとお申しつけください。」
「あ、私に敬語は禁止ね。フランクな言葉で会話しよう。面倒だから。」
「承知・・。わ、分かりました。そうします!」
「トレモロさん、エスティア王国にいるベッセルさんとか、その関所の入り口で執事をしているモリスさんとか、サイナスの物流を取り仕切っているランドルさんとか、ご存知です?」
「その御三方は、私のアカデミー時代の先輩に当たります。」
「へぇ、ステラの言う通りだ。凄いね!それで侯爵って凄くない?」
「ヒカリさんの倍は生きてるでしょうし。そういう人もいるでしょう」
「ヒカリさん、ステラ様のおかげなのです。アカデミーに入る前ですが、ステラ様がナポルに立ち寄られて、先の風土病の解決に尽力して頂き、その成果を全て私のモノとして与えて去って行ってしまったのです。」
「ステラ、それ隠してたよね?」
「隠してませんわ。『ナポルのメディチ家当主のことは知ってる』と、ここに来る前に言いましたわ。」
「そうだね。そうだね。私が勝手に誤解したよ。わかりました。
じゃ、誤解を解きながら、何が貰えるか考えよっか。」
「それでこそ、いつものヒカリさんですわ。」
「ヒカリさん、私自身はご覧の通り、蓄財と呼べるようなものがありません。私で役に立てることはありますか?」
「ステラ、どうする?」
「ヒカリさん、航海術とか欲しがってましたよね?」
「飛竜じゃダメかな?」
「大航海は飛竜でも無理ですわ。遠いですもの。」
「なら欲しい。でも、戦争が終わるまでは要らない」
「なら、<醤油>を探して貰うとか、如何でしょうか?」
「ステラ、そういうのも有りなの?」
「トレモロさんは、各種航海術を生み出して、新規航路の開拓と交易を成立させている方ですわ。」
「そっか、そっか!じゃ、<醤油>ください。」
「ステラ様、ヒカリさん、会話についていけない私に、何かヒントを頂けないでしょうか?」
「ステラ、この人、醤油知らないみたいだよ。」
「ヒカリさん、そもそも航路が開かれて無ければ、単語も調味料も判る訳無いですわ。」
「シルフに聞いて、連れてって貰うとか。」
「ヒカリさん、流石にシルフ一人では何かと問題があるので、アルさんかフウマさんのお手伝いが必要と思いますわ。」
「ステラ、ナイス!アルさんに頼もう。そうしよう。」
「あの・・・。新規航路の開拓を依頼されるのでしょうか?」
「トレモロさん、なんかね?西の遠くの大陸に<醤油>っていう調味料があるの。それの入手と作り方を身に着けてきて欲しいよ。」
「西に大陸があるのですか?」
「って、言ってたと思う。ちょっと、考えてみる。お菓子食べて雑談してて。」
ユッカちゃんがクッキーのことをいろいろ教えてる。
砂糖が如何に大事で、高価で、入手できないかを説明してる。
ホント、いい子だ。
トレモロさんも、うんうん頷いている。
こういうときって、子供を使うのが良いんじゃないかな?
ーーーー
で、シルフと<念話>を通そう。
<<シルフ、今話しかけて大丈夫?>>
<<ヒカリ、久しぶりだね。畑にいるから大丈夫だよ。>>
<<いつも、いろいろありがとうね。ラナちゃんも来てくれて。>>
<<彼女は好奇心旺盛だからね。あれでもヒカリのことが好きなんだよ。それで、今日はどんな用事かな?>>
<<長老を助けたとき、<醤油>の話が出たでしょ。シルフが教えてくれたと思うんだけど、覚えてる?>>
<<もう、橋も治水工事を終えて、大航海に出るのかな?>>
<<ううん。砂糖を買いに来たら、ステラの知り合いに会って、<醤油>を取ってきて貰えるかもしれないの>>
<<今の人間達の船だと、迷わず進んでも片道三ヶ月ぐらいかかるよ。僕も手伝おうか?>>
<<え?>>
<<凄く遠いし、未知の航路は到達可能性が低いからね。ヒカリは<醤油>が欲しいんだろ?>>
<<欲しいけど、今の戦争を終結させないと・・・。>>
<<僕と、誰か関所の大人と、飛竜を一人借りれれば・・・。片道一ヶ月ぐらいにはできるよ。>>
<<難破して、帰ってこれないとか無い?>>
<<関所の森に隠してある、ヒカリの船を使えば大丈夫だよ。あれはニーニャ達の補修が完璧に仕上がってるからね。>>
<<判った!ちょっと、こっちで相談してみる。頼むときはまた連絡するね。>>
<<畑はきれいにできてるよ。軌道に乗れば僕らの支援が無くても普通に収穫は出来るから、そっちの心配はしなくていいよ。>>
<<ありがとね>>
ーーーー
「あの、すみません。」
「ヒカリさん、何でしょうか?」
「もし、トレモロさんの指揮で新規航路の開拓が出来るなら、お願いしたいのですが・・・。」
「おねえちゃん、さとうを買いに行くの?」
「ううん。砂糖はもうあるみたいだよ。多分、お金さえ出せばトレモロさんが分けてくれると思う。」
「ヒカリさん、先ほどユッカちゃんからご説明頂きましたので、先ずは樽を1つほど届けさせて頂ければと思います。」
「あー。じゃ、そのお礼は<魔石>でもいいかな?金貨が手持ちに無いから・・・。ユッカちゃん、大き目の1個出してあげて」
「うん!」
ユッカちゃんがカバンの中から手探りで魔石を探してるフリをする。
なんだか隠し方が上手くなったね。
「はい。トレモロさん、これどうぞ!」
目を見張るトレモロさん。
ソフトボールサイズはあんまり見ないサイズなんだろうね。
まぁ、いいや。
「トレモロさん、砂糖の話はお終いでいいかな。足りない分は<岩キノコ>一袋ってことで。あと、マストに使う丸太も貰っといてね。運ぶの面倒だから。」
「ヒカリさん?」
「あ、質問要らない。ステラに後で聞いて。
船、水先案内人、飛竜一人を渡すから、<醤油>とってきて。
片道一ヶ月ぐらいだって。
必要経費は魔石と属性石で先払いするよ。
クロ先生、闇の属性石を2個お願い。
ステラは、魔石を2個お願い。
私は光の属性石を2個担当する。
ユッカちゃんは、風が良いかな。」
「ハイ(ALL)」
各自が自分の荷物の中をゴソゴソとやり始める。
ユッカちゃんのを見ていたから、みんな言わないでも判るのがいいね。
お茶を飲んでる机の上に、例のソフトボールサイズの属性石と魔石が合計8個並んだ。
「トレモロさん、足りない分は船が帰ってきてから精算でいいかな。
あと、船を運んでくるから、その係留場所を教えてください。」
「ス、ステラ様、た、助けてください。」
「トレモロさん、怒ってないヒカリさんは大丈夫ですわ。
船着き場を教えて貰えれば、明日ぐらいには船も水先案内人も渡せるわ。
ヒカリさんの機嫌が悪くなるのが一番不味いの。
答えになってますよね?」
「わ、分かりました。精鋭を用意して航海に向かわせます。」
このあと、実父であるモリスにアルさんを旅立たせる許可を貰ってから、シルフに連絡した。飛竜と一緒に船も運んでおいてくれるって。
関所に戻ったらアルさんと相談だ。
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「アルさん、ちょっと相談が・・・。」
「はい、何でしょう?」
「ここの架橋の拠点でアルさんしか出来ないことってある?」
「いえ。娼館も服飾関係も片付きましたし、中長期的な食糧調達も服飾店の夫婦に任せれば大丈夫でして、資金も渡しました。例の贋金の件はフウマさんとアドルフさんが行っています。」
「すっごい手際の良さだね。そんな優秀な人物だからこそ、重要なことを頼んでも良い?」
「とっても怖い気がしますが、話を伺います。」
「メディチ家のトレモロさんって知ってる?」
「はい。父の後輩でありながら、侯爵にまで上り詰めた優秀でカリスマ性のある方と伺っています。」
「新規航路の開拓に出るから、ちょっと手伝って欲しいの。」
「わ、分からないけど、分かりました。父に連絡を入れても良いですか?」
「モリスの許可は貰ったよ。ランドルさんとアリアはまだだけど良いかな?」
「では、明日にでもナポルへ出発すれば宜しいでしょうか?」
「そっか、飛竜使えないか。
朝になったら<タカさん>に送ってもらうよ。
旅の準備はナポルでして。判らないことはトレモロさんかシルフに聞いてね。
それでいいかな?」
「分かりました。今日が最後の晩餐ですね。」
「そんなことないよ。私が代わりに行きたいぐらいだもん。
橋とか治水とかやっておくから、海の幸を堪能してきてね。」
「ハイ!」
あ~、冒険というか旅に行きたいね。
でも、ひたすら海とか飽きるかもしれないね。
アルさんの感想を良く聞いてから、未開の航路に出かけるか決めようっと。
いつも読んでいただいている皆様には感謝しています。
今後とも頑張って続けたいとおもいます。




