3-64.レンズを作ろう
なんだか、なかなか治水工事に出発できないね。
それだけいろいろな事を仲間に委ねていたってことなんだろうね。
とにかく、<レンズ>の話だ。
「今晩中にレンズの基本を教えていくね。
レンズが出来て、単レンズ、組レンズまで作れれば、
顕微鏡とか望遠鏡が作れるようになるよ。」
「まずさ、<光>の直進性についてね。
点光源は中心から放射状に光がでる。太陽も点光源で放射状に光がでてる。
だけど、太陽とここでは余りにも距離が遠いので、<平行光>と見做せるの。
この部分がとても重要だからね。」
「ハイ(ALL)」
「次ね。光は真空中では基本的に直進して、一番高速なんだけど、
媒質中では光の速度が落ちる性質があるの。」
「ヒカリ、ここには<空気>があるから、速度が落ちてることになるぞ。」
「ニーニャは応用が利くね。そうなんだよ。ここには<空気>があるね。
じゃ、<水の中>は光が進めると思う?」
「水を通して光が見えるから、きっと進めるぞ。遅くなるけど。」
「うん。正解!」
「じゃ、モリス、今度はガラスのコップに水と細い棒を入れて持って来て」
「承知しました。」
「こうやって、コップに水を入れて、棒を入れて、横から眺めるとさ
水と空気の境目で棒が折れ曲がって見えるよね。」
「え?(ALL)」
「この状態って、実はさ、みんな体験しててさ。
川で魚獲ったり、石拾ったりするときに、水中に入って取ると位置ずれしないけど、水の上からだと位置がずれるでしょ。あれはこの差なんだよ。」
「なるほど(ALL)」
「空気と水で光の進み方にズレが生じる。
だから、この棒みたいにズレて物がみえちゃうんだよ。
ここで、水という媒質によって、光の直進性が崩れる=光を曲げることに成功してるんだけど、わかるかな?」
「ヒカリ様、私は大丈夫です。」
「私も大丈夫です。」
「私も大丈夫だぞ。」
「うん。アリア、モリス、ニーニャが大丈夫だから続けるよ。
他の人は居ても良いし、つまらなかったら自由に解散していいからね。」
「ハイ(ALL)」
「水で光を曲げることに成功したのだから、ガラスでも光を曲げることができる。
ガラスの場合は水と違って、自由な形を作れるから、自由に光を曲げることができる。
これもいいよね?」
「「「ハイ」」」
「特定の位置にある物を、目の前にあるかのように、光を曲げることができたら、遠い物が近くで見ることができるよね。」
「ヒカリさん、判りました。
きっと、レンズ豆の形に中心を膨らませてガラスを成形することができれば、その光が集まる位置にある物を目の前にある物としてみることができます。」
「モリス正解!レンズ豆の形を<レンズ>って言うんだよ。
たださ、あの大きさだと細工がしづらいし、持ちにくいからもう少し大きな形でレンズを作ると、遠くにある物をあたかも手元に寄せて観察できるようになる。
これが<レンズ>だよ。」
「原理を簡単にいうと、外側は薄く作る。中心を厚く作る。そうすることで、光が通る道に差ができて、そのガラスを通してみると、焦点が合った場所にあるものが中心と外側で補正されて目の前に浮かび上がるんだよ。
これを逆に応用するとさ、太陽光を焦点に集めることができて、火打ち石とか無くても晴れた日だったら、そこの集めた光のエネルギーで火もつくんだけどね。」
「ヒカリさん、その大きさや形を工夫することで、物を大きくするための焦点位置が変わります。応用して組み合わせれば位置ずれも補正ができるかもしれません。」
「モリスは計算が速いね。私は図とか書いて説明してもらわないと判らないよ。
でも、頭でそれが組み立てられちゃうんだから素敵だね。
実際にガラスを作って、形を成形するのはアリアやニーニャ達に手伝ってもらわないとね。
ガラスを磨くには結構な知識が必要だから、最初は表面がとても綺麗に仕上がった形のレンズ型を用意して、そこに流し込むのでもいいかな。
ガラスを作ってから、切って磨くには、水晶とかダイヤモンドとか酸化セリウムとか特殊な粒子を泥以下のクリーム状の粒子にまで整える必要があるからね。」
「ヒカリ様、私、それをやってみたいです!」
「うん。度量衡とその精度が上がると、調合とかも勘だよりじゃなくて、再現性が増すんだよ。結構同じレシピのつもりでも、上手くいかないことってあるでしょ?ああいうズレが微細加工技術によって再現性が良くなっていくんだよ。」
「ヒカリ、ちょっといいからしら?」
「ラナちゃん、何?」
「鏡面状にガラスを加工するなら、ヒカリのナイフを使えばいいわ。滑らかに削れるわよ?」
「ラナちゃん、正解!
なんだけどさ・・・。私のナイフを使いこなせる人でないとさ。」
「ヒカリが構わなければ、アリアに私が教えるわ。元のナイフはニーニャが作らないとダメだけど。」
「ニーニャ、アリアにもナイフを作って貰って良いかな?」
「ヒカリのナイフと同じなら今でもいいぞ。」
「アリア、このコップ切らせてもらってもいい?
このナイフで切れるなら、ラナちゃんのナイフで
ガラスの加工が簡単になるんだよ。」
「ヒカリ様、私はガラスが切れるのを見たことが無いです。当然割れてしまうことは知っておりますが。」
「うん。やってみよう。原理的にラナちゃんのコーティングが無いと無理だと思うんだ。石とか金属は個体だけど、ガラスって流体らしくて、結晶性も延性も無いんだよね。
だから、レナードさんや王子の剣と技術では切れないよ。割れるけどね。」
「ヒカリ、おまえ、おれのこと舐めてるだろ。レナードほどじゃないが、技量は心得てるぞ?」
「ニーニャ、王子の剣って何かのコーティングがしてある?」
「まだ何もしてないぞ。壊す前にコーティングの種類を決めた方が良いと思うぞ。」
「じゃ、王子、やってみてよ。」
「まず、金貨からな。」
シャキーン!って切ったよ。
これってとっても凄いんだよ。
金属と金属がさ、擦れて密着せずに分離するってのは、相当高速で削り込まないといけないはずなのさ。あとは界面に油とか差してその摩擦をなくすとかね。
「ほらみろ。レナードほどじゃないが、技は身に着けてる。」
「じゃ、このガラスね。割れるからみんな避難。
あと、王子はアリアにガラスのコップを弁償ね。
アリアは王子から好きな物買って貰っていいから。」
「お、お前。俺、石も切れるんだぜ?
ニーニャ殿、この剣で石を切っても大丈夫か?」
「大丈夫だぞ。刃がこぼれても修復してやるぞ。」
「じゃ、やる!」
「ガラスは集めれば材料として再生できるんだよ。周りに布を被せてもいいかな?」
「布ごと、このガラスのコップを切ればいいんだろ?」
「それで切れ味が変わらないなら、お願いしたいんだけど。」
「布一枚でミスはしないよ。見てて。」
ガキン!、シャリシャリ、サラサラ・・・。
ああ、なんかそういう音だね。
キーンって感じの音じゃないもん。
結晶性が無いから、亀裂が入るとそこから砕けちゃうもんね。
「王子、手ごたえはどうよ?」
「き、切れたと思う。」
「布は切れてるけど、ガラスは割れたよ。」
巻いてある布は綺麗に切れてて、
なんとなく、コップも真っ二つになってる。
けどさ、剣がヒットした場所を起点にひび割れちゃってるね。
いわゆる粉々ってやつ。
破壊の起点以外はちゃんと形が残ってるんだけどね。
「アリア、王子に言って、何でも買って貰っていいから。
あと、これ、ガラス炉に入れれば、また材料につかえるからね。」
「判りました。」
「じゃ、この残った破片を切ってみるよ。」
ラナちゃんのコーティングがされたナイフに魔力を込めて、
<<ガラスを綺麗に切る>>
って、念じながら刃を当てる。
うん。ほら切れた。
あ、断面が融けたガラス状だから、透明に仕上がってる。
これがラナちゃんの言ってたことか。
ひょっとして、ガラス加工の世界が変わるよ。
「ほらね。物質の構造を理解してないと、力任せに切ってもだめなんだよ。
氷を切っても同じようなことになるよ。
ただ、氷は個体だから、生成段階で単結晶になってればうまくいくかもしれないね。」
「ヒカリ、この剣のコーティングの話なんだが・・・。」
「何?」
「そのナイフと同じコーティングをお願いするのダメだろうか?」
「ガラスを切ったりとか、岩の切り出しには便利だけど、魔力も消費するし、一々念じないといけないから、使い勝手が悪いんじゃないかな?
前に、ニーニャとステラが、『パッシブかアクティブで出来ることが変わる』って言ってたよ。
皆と良く相談して決めて。」
「分かった。」
「アリアはナイフを作って貰ったら、ラナちゃんに同じコーティングしてもらって、使い方の指導を受けてね。木を削るようにガラスが加工できるから。
ただ、熱が発生するし、ガラスは刃物より簡単に切れるから怪我には十分気を付けてね。
深い傷ができると、後々大変だからね。」
「わかりました。ナイフもガラスも取扱いには十分に気を付けます。」
「モリスはガラスの大きさと厚み変化とかを計算して、レンズの設計図を書いてあげてくれるかな。
最初は虫が観察できるくらいの大きさの円形が良いと思う。」
「承知しました。」
「ニーニャ、いろいろ沢山お願いしてごめんね。
今度こそ本当にサイナスで待ってるからね!」
「いいんだぞ。飛竜に乗って直ぐにいくぞ。トンネルの位置をきめておくんだぞ!」
「うん!」
いつも読んでいただいている皆様には感謝しています。
今後とも頑張って続けたいとおもいます。
すみません。年末年始はちょっとお休みをいただきます。
本編で橋を架け始めてるのですが、結構大変です。
私自身が土木工事の経験がないこともありますが、
人工数なしで橋は架けられないので、なんらか対策を立てつつ・・・。
いや、ほんと、日本でも橋を架けてる人たちには頭が下がりますね。




