3-45.関所の巡回
さて~。
飛竜から<協力の証>より強い支援を手に入れたから
早速治水工事に取り掛かりたいね。
実際問題、私はそんな経験ないですから!
その出発前に関所内を巡回だ。
よしよし、まずお茶にしよう。
暫く帰ってこれないだろうから、
準備はしっかりとしたいしね。
「ユッカちゃん、ステラ、お茶にしたい。」
「ヌマさんにお食事あげたら食堂にいくよ。」
「私は革の世話と、うちの子達に技術支援してから行きますわ」
「わ、わかった。モリスと話を進めておくよ」
二人とも私と私が連れてきた飛竜の世話で大変だったんだね。
いろいろ人を増やさないと皆の負担がどんどん増えるね。
さて、どうしたものだか。
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「モリス~。話する時間とれそう?」
「飛竜との対話はもう済んだのですか。」
「うん。好きにして良いって。もう一人飛んでくるからそっちの世話も必要かも。」
「そ、そうですか。私が念話で会話しても宜しいので?」
「大丈夫だと思う。いまいる人が族長のヌマさん。次来る人が族長のお母さんのグルーさん。食事が2人前必要になるから、その辺も宜しく」
「あ、で、朝の続きとか私の留守の間の話をしておきたいんだけど、今時間大丈夫?」
「収穫の税収の打ち合わせがありますが、キャンセルしましょうか。」
「え?いまの関所の執事長やベイスリーさんは対応してくれないの?」
「ベイスリー殿は人の指揮には長けておりますが、経営や金銭管理には少々疎い点がございます。また、関所の執事長は、あくまで関所とこの館の管理を主としていますので、農地の管理一般は私が行っています。」
「う。ここも人材不足か。」
「私では役者不足でしょうか?」
「ううん。違うの。私の我儘が大きくなってきたから、適切に人を増やさないと皆のやりたいことが出来なくなってきたねって話。」
「ヒカリさん、宜しいでしょうか?」
「何?」
「私はヒカリさんの育った国の事情は分かりません。しかし、この国の事情はヒカリさんより存じているつもりですので、少々お話をさせて頂きたいですが、宜しいでしょうか?」
「うん。」
「まず、衣食住が足りた環境で、死に直面しないような仕事があり、尚且つその仕事で収入が得られるような環境で生活している人は、この関所や農地で働いている人たちだけです。
この前提が守られていて、尚且つ領主自らがその前提を守るために必死に活動されていることを皆が知っています。
であればこそ、ここで働く全員が一生懸命に自分の役割を果たそうと必死に行動しております。
各自が自分のやりたいことだけを中心に据えて行動していては、この素晴らしい環境が無くなってしまうことを身に染みて分かっているのです。
なので、領主自らの我儘がどの程度のものであれ、それは多くの場合、必要なことと受け止められるでしょう。」
「う。なんだか価値観の違いってやつだね。
表面上の言葉は理解できるけど、皆の気持ちが全然理解できてないことが判ったよ。
そうか、私はとても保護された環境で生きてきたから、その最低限の保護が無い状態がとてつもく怖かったんだよね。
けど、皆は『この保護された状態で、これ以上何を望むのか?』ってことなんだ。」
「なので、無茶を申されても、こちらで上手くやります。人手もこちらで適宜増員しております。ご安心を。」
「ゴードン、モリス、ステラ、ニーニャの手数が心配。」
「ゴードンの元にはお妃様のメイドが付いてます。暫くは問題ございません。私に関してはこの後の打ち合わせで、騎士団の会計長をしていたものと話をまとめますので、そこの負担は今後不要になります。
ステラさん、ニーニャさんは種族も違いますので具体的にお話を伺った方が宜しいかもしれません。」
「そっか、そんな大事な打ち合わせだったんだ。ごめん。直ぐ行って。私は私でできること片付けておくから。」
「いえいえ。ヒカリさんが安心して行動出来れば私としても幸いです。行ってまいります。」
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「ゴードン、お茶を・・・。」
「ヒカリさん、お元気になられた様で良かったです。モリスはいなかったですか?直ぐにお茶を出します。食堂か寝室どちらが宜しいでしょうか?」
「ううん。お茶はここで勝手に飲むからいいよ。何か足りないものある?」
「ヒカリさんが調達してくれる食材や、ヒカリさんの農場からの収穫物は素晴らしい物ですが、普段使いするような食料を届けてくれるような御用聞き商人が欲しいですね。」
「あ~。そういうの必要だね。今まではどうしてたの?」
「今までは私かモリスが買い出しに行っておりました。しかし、それぞれの時間がとれず、人も増える一方でして、その教育にそれぞれが掛かりっきりな状況です。
であれば、商人に入って頂いた方が我々としては人手不足が解消するかなと。」
「わかった!ランドルさんに、いい商人を紹介してもらえるように言っとく。他には?」「そうですね。この館の食堂が手狭になりつつあることと、昼間は皆がばらばらに利用すること、そして、農場の運営などで人が増えており、その方達もこの館の料理の噂を聞いているとのことですので、なにか<食堂>のようなものを開設することは可能でしょうか?いまの関所の<休憩所>に併設するような形でも結構ですが。」
「それは、ゴードンにとっても嬉しい?忙しすぎて大変とかならない?」
「いま、お妃様のところからメイドの方達が来ておりますが、お妃様直属の彼女らは食事を作ることも含まれているのだそうです。そのため、『手伝いとして使っていいので、いくつか簡単なレシピを教えてあげて欲しい』と、お妃様から頼まれています。」
「それを聞くと、ゴードンが忙しくなるようにしかみえないんだけど。」
「彼女らは、自分たちが覚えた技を確実にするための実践の場が欲しいので、多くの人たちに料理を出すことで技に磨きをかけたいと申しています。今は夕食会のメンバー10名程度にしかヒカリさんと同レベルの料理はだしておりませんので、彼女らは自分の学んだ料理が本当に作れるか判らないのです。」
「じゃ、立派な調理場付きの食堂を一棟建てよう。場所はニーニャ達と相談だ。窯とか水のインフラも考えないといけないしね。」
「きっと、関所を通過する人の利用も増えることでしょう。皆が喜びますよ。」
次はだれのところに行こう?
お妃様のところかニーニャの所だよね。
簡単そうなところから片付けよう。
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「マリアさ~ん。今、お時間大丈夫ですか?」
「あら、動けるようになったのね。心配したわ。うちの子を呼びにやったのよ。近いうちにお見舞いに来るわよ」
「マリアさんの別荘の訪問ですか?」
「何言ってるの。貴方のお見舞いよ。腐った飛竜と一緒に寝て倒れてるの見たら、死んじゃうと思うでしょうが。」
「王子が来られるのですか?」
「そうよ。あの子もロメリアと戦争を起こせないから待機ばかりで暇なのよ。」
「いつごろ、どのような人数で来られるのでしょうか?」
「そろそろよ。一人か仲のいいレナードと二人で来ると思うわ。この大事なときに城を大掛かりに抜け出したりしたら、私に何かあったと思われるじゃない」
「王族って、割と自由が利くものなんですね・・・。」
「適当なことしてても許してもらえるのは、私とあの子だけよ。『出かける』って許されないと本当にどっか行っちゃうから。念のため言っておくと、あの子以外にも王子王女はいるのよ?」
「そ、そうなんですね。リチャード王子としか面談したことがなくて・・・。」
「他所の国で修行したり、政略結婚に向かったり。内向的な子は政治に興味を示したり、貴族のパーティーでちやほやされてるわ。」
「リチャード王子の王位継承権とか伺ってもいいですか?」
「継承権の順位では3番目かしら。二人の姉がいるわ。あとは側室の子なんかもいるわね。私との結婚以前の隠し子が居たら、それはそれで揉め事になるわね。」
「実質皇太子という扱いなのですか?」
「あの子、私が言うのもなんだけど、馬鹿じゃないし行動力もあるから、それなりに人望もあるのよね。知らなかったの?」
「レナードさんから、『現国王の世継ぎとして大事にしたい』みたいなことは聞いたと思いますが、良く判ってませんでした。
こう、その、側室の継承順位の低い人が遊び歩いていたのかと。」
「エスティア王国は強大な力を持っている訳でないし、政略結婚で嫁ぐ姉を見てれば、自由に生きたいと思うわね。でも、あの子なり国を支えたい気持ちはあるみたいよ。この関所を自分の手中に収めないと不味いって思ってたみたいだし。」
「わ、私で良かったのですか?」
「そこは偶々よ。ベニス卿の手ごまのジャガ男爵を取り除きたかっただけだし。ヒカリさんには悪いけど、代わりは誰でも良かったのよ。ヒカリさんはお飾りで、実質スザクに管理させるつもりだったみたいよ。」
「フウマさんには本当にお世話になってます。感謝してもしたりないです。」
「彼は家系の職業上、表舞台で活躍することはできなかったのよ。ヒカリの指示でいろいろなことが出来て喜んでるみたいよ。『いつも姉さんには敵わない』とか、言いながらだけどね。
あ、雑談が過ぎたわね。なんの用事だったのかしら?」
「何点か確認しておきたいことがございまして、参りました」
「この建物いいわね。貰ってもいいのかしら?」
「その辺りの事情も伺おうかと思いまして。」
「そうね。とても良い住まいよ。うちのメイドを何人か常駐させたいわ。その代わり、私が居ない間は貴方の直属のメイドとして使っていいわ。」
「ありがとうございます」
「他に何かあるかしら?」
「飛竜との交流に成功し、制空権を取り戻しました。」
「あら、戦争が始められるのね?」
「はい。川の堤を防衛拠点とすべく、本格的に活動が始められそうです」
「それだけじゃないのでしょ?」
「はい。あくまで、表舞台で防衛するのに必死な振りをします。裏はトンネルを掘って、ロメリア王宮を急襲します。」
「ニーニャが言ってたわ。『ヒカリはあの神器で裏山にトンネルを掘るんだろう』って。」
「あとは、雨が降ればいいだけね。」
「その地域に住む八百万の神にお願いすることになります」
「いわゆる妖精さん達ね。ヒカリのお願いなら聞いてくれるかもしれないわ。だって、ここの収穫物の成長と味がとんでもないことになってるもの。」
「私も寝室でポタージュを飲ませて頂いて、ジャガイモの味にびっくりしました。」
「私はそれ飲んでないわ。」
「え?私は、それしか食べてないのですが・・・。」
「今後の楽しみにしておきましょう。
とにかく、何不自由なくさせてもらってるわ。帰るのが嫌になってきてるもの。
ヒカリさんも、どんどん自由に行動していいわよ。」
「は、はい。ありがとうございます。」
なんか、自然に歯車が噛み合ってるのかな。
皆、特に不満なく、私がしたいことを応援してくれてる雰囲気。
いいのかね?
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「ニーニャ、おまたせ~。」
「私はヒカリが元気になって嬉しいんだぞ。関所の中の工事と、土木工事に向けての準備は着々と進んでいるぞ」
「ニーニャはさ、土木工事とかより、精錬とか武器の製造の方が楽しかったりする?」
「どっちも楽しいぞ。なにか欲しい武器ができたのか?」
「ううん。これから土木工事に行くとさ、しばらくこの関所に戻ってこれないと思うんだ。だから、精錬とかそっちのが好きだったら、残っててもらおうかと思ったの。」
「ヒカリが居ないなら、精錬したり武器や防具の研究をするぞ。ヒカリが居るなら一緒に行動するのが楽しい。だから、優先順位が変わって無ければトンネル堀に行くぞ。」
「そっか。なんか、王子が私のお見舞いにくるらしくて、出発が2-3日遅れるかもしれない。その間に食料の追加調達と、度量衡の整備、ガラス製造の準備ぐらいできたらいいかな。あと、<食堂>も欲しいみたい。」
「食料はヒカリとユッカちゃんしか今のところ新鮮に調達できないぞ。領主を首になったら、狩人をすればいいんだぞ。
<食堂>は石さえもってきてくれれば、好きな場所に適当につくるぞ。ドワーフ達も慣れてきて、モリスの家族の家もあっという間につくったぞ。
それで、<どりょうこう>と<がらす>が何か聞いてもいいか?」
「うん。<度量衡>ってのは決まった<単位>を揃えることなんだよ。
重さ=1kgって決めて、その国や地域では、その重さを量って決める。
例えば、麦やジャガイモの収穫があったら、1kgを銀貨1枚とか決めておくのね。
20㎏を一袋って決めておけば、10袋数えて、それが銀貨200枚ってすぐ計算できるし、
取引もしやすい。不正があったら直ぐに判るから公平なの。」
「それは大切な考え方だぞ。重さだけか?」
「重さ、長さ、時間の3つが基本の単位だね。もっと物理学が進むと、<でんき>に関しての単位も必要になってくるけど、暫くは難しいかな。」
「長さは分かるぞ。ヒカリは一歩を1mというときがあるぞ。これも私とステラでは一歩の幅が違って不公平になるけど、ヒカリの言う1mにすると、不公平がなくなるぞ。」
「うんうん。そんな感じ。ニーニャは<時間>って分かる?」
「朝、昼、晩、一週間、一か月、一年。
<忙しいときは時の流れるのが早い>っていうぞ。」
「正にそれ!時間にも単位をつけることで、速さが測れるようになるんだよ。」
「時間は見えないし、止められないし、溜められないから測れないぞ。」
「太陽が作る影は、必ず同じ向きにあるんだよ。
この世界は地軸が傾いてないから、1年の間、ほぼ同じ位置から太陽が昇って、同じ位置に沈む。だから毎日同じ位置に影ができてるはずなんだよ。
この自然界の法則を利用して、
影の位置で、今が朝から夜のどの辺まで過ぎたかを知ることが出来るのが日時計。」
「今度線を引いて試してみるぞ。でも、曇りや雨だと影が出ないぞ」
「うん。太陽の動きで大体の時間はわかるけど、もっと細かくとか、夜でもわかるようにするには、<水時計>が便利なんだよ。」
「わかったぞ。桶に水を貯めて、その溜まった量で過ぎた時間を計るんだな!」
「うん。水路を整備してくれたときに、『水車の回転は一定が良い』って、言ってたでしょ?同じ様に、太陽がでている間で水がどれだけ溜まって、夜の間に水がどれだけ溜まるかを量っておけば、時間を計ることもできるようになるよ。」
「ヒカリ、時間が測れることが分かったけど、何の役に立つんだ?」
「いろいろあるよ。<昼の真ん中に集合>とか、<夜が2割過ぎたら会議開催>とかできるでしょ。あと、作業時間を計算したりもできるようになるね。」
「それは、ドワーフ達が酒を飲んで寝過ごすのに困るルールだぞ。」
「うん。全部が全部を決める必要はないけど、軍隊の進軍とかでも役立つでしょ?」
「雨の進軍では、太陽も水も使えないぞ。
あ!砂時計を使うのか?でも砂を測るのは大変だぞ。重いし、たくさん用意しなくてはいけないんだぞ」
「コップみたいな容器に小さな穴を空けておくの。コップから砂が無くなるまでの十分の一の昼の時間とか、百分の一の昼の時間とか決めておくの。
『砂が全部なくなったら、昼間の十分の一が過ぎたね」
って分かるでしょ。」
「言ってることは分かるが、湿った砂は滑らないし、箱から砂がこぼれたり、飛んでいくし、今度はしっかりした箱に入れてしまうと、砂がなくなったか確認できないぞ。」
「そこで<ガラス>の登場だよ。透明な石でコップとかの容器を作るんだよ。」
「全然わからないぞ。」
「ラナちゃんが閉じ込められていたクリスタルのペンダントがあったでしょ。
あれもガラスの一種でさ、2000℃ぐらいまで熱を加えると、溶けて細工ができるようになるんだよ。普通の金属では溶けちゃうから、もうちょっと低温で、特殊な金属が融けないぐらいの温度で柔らかくなるガラスを準備するんだけどね。」
「みたことが無いぞ」
「私もこっちの国きてからは見たことがないけど、モリスさんの家族のアリアさんは知ってたよ。」
「ヒカリ!それを見たいぞ!作りたいぞ!」
「うん。私もそれを知りたいんだよ。どこで材料手に入れて、どうやって加工したのかさ。」
「アリアを捕まえるぞ。トンネル工事の準備は後回しだぞ。」
「うん。じゃ、一緒に行こうか。」
いつも読んでいただいている皆様には感謝しています。
今後とも頑張って続けたいとおもいます。




