3-33.ランドル一家(2)
さて、人数増えての夕食会だ。
もう、人が入りきれない。
「ベッセルさん、メイドのマリアさんが伝言があるんだって。ちょっと話をきいておいてくれるかな?モリス、そこだけ案内しておいてくれる?」
「分かりました。」
「じゃ、ちょっとフウマと一緒に食材とってくる。」
久しぶりに海に食材を取りに来たよ。
エビ、タコ、魚全部凍らせて採取して、一人二袋ずつの合計4袋の大量調達だ。ここのところパーティーやお客さんが多くて、消費も激しかったはずだし。いくらゴードンさんが凄腕だって、食材が無ければ腕の振るいようが無いしね。
ゴードンさん用の調理場拡張とか、手伝ってくれる弟子も必要な気がしてきた。ここもまた人材募集しないといけないけど、メルマと友好的な交流ができてからかな?そうすれば、優秀な人材が関所にスムーズに来てくれるようになると思うんだよね。
さてと、夕食会だ・・・。こっからが本番だね!
今回はランドルさん一家の紹介よりも、ランドルさんを今回の戦争に巻き込めるかどうかが問題だから、妖精の長4人には別の場所で食事をしてもらうことにした。
ステラとニーニャも今後夕食会のメンバーとなるアルさんとアリアさんは機会があることと、今日はメルマ自治権と食料調達がメインになるので急ぎの挨拶は必要ないから、後日大広間が出来たタイミングでいいことにしてもらった。
なので今日の会食メンバーは、
関所メンバーがモリス、フウマ、ユッカちゃんと私の4人。
王宮メンバーがメイドのマリアさん(お妃様)、ベッセルさんの二人。
ランドルさん一家のランドルさん、アルさん、アリアさん3人。
合計で9人だ。これだとギリギリ座って会食できるね。
「こんばんは。皆さま会食にご参加いただきありがとうございます。旧友との思い出を温めたり、家族の再会など種々ご歓談いただければ領主として幸いです。
今後の皆様の活躍を祈念して、かんぱ~い!」
「「「「「「「「かんぱ~い」」」」」」」」
ベッセルさんは浮かぬ顔。
そりゃね。もう、戦争だけじゃなく、今後の重責ってやつだね。戦争で負けちゃったら生き残る術もないしね。どちらかというと、商人としてランドルさんと交流する楽しい生活を夢見てたんだろうしさ。
でもさ、よく考えて貰えればわかるんだけど、ここの戦争を乗り越えないとエスティア王国は滅びるんだよね。3000人の餓死者なんかでたら、国民がほぼ流出して戦争する戦力を維持できなくなるからね。日本みたいな島国で常に背水の陣を敷いてるような状況じゃないもんね。
誰かが言った『勝つ方の味方をします』は、住人にとって当然の権利だよ。
一方、ランドルさん本人は・・・。
訝し気で、裏を探ろうとしている。
そりゃ、そうなんだよね。全てが上手くできすぎてる。
何か大きな罠で嵌めようとしている貴族がいて、ここで立ち回りを失敗したら、自分だけでなく、二人の養子の運命まで間違った方向に歩ませてしまう危険がある。
その可能性を考え出すと、何故突然にモリスと面会できたのか、そして二人を雇用したいとこの領主が言いだしているのか、全然読み切れない状態のはずでさ。
私だって、そんな上手い話が転がってるとは思わないもんね。
アルさんとアリアさんはその微妙な雰囲気を察してなのか、新しい領主との緊張感なのか、ちょっと縮こまっちゃってるね。
うちのメンバーはいつも通りで平然としている感じ。
てか、ある意味何も考えてないのか、私の犠牲者を生暖かく見守っているだけなのかもしれない。
一番怖いのがお妃様だよね。完全にメイドと化して、部屋の隅で控えている。私がまとめきれないときに登場するんだろうね。『王族からの伝言です』とか、そんな感じでさ。
「ヒカリ様、この会食を心から楽しませ頂くために、お尋ねしたいことがございます。宜しいでしょうか?」
「うん。お昼の話もあるしね。私が答えられることなら何でもいいよ。」
「正直、モリス、ベッセル、私の3人が一堂に会することは無いと3人が思っていました。それぞれが、それぞれの道を歩み、大事な物を守るためには、矜持と生活するための妥協の兼ね合いが必要だと考えていたからです。
『もし、3人が同じ思いで全力を尽くしたいときに集まろう』
『そんな機会があるなら、自然に集まるだろうな』
『それは大事に巻き込まれるか、謀略で個々に嵌められてるときだろうな』
そんなことを語り合って別れました。
私は、ベッセルやモリスが謀略によって騙されているように見えないのです。」
「なるほど。それで?」
「私は大きな運命の渦に巻き込まれたのでしょうか?」
「まだ、巻き込んでないつもりだし、避けることもできるんじゃないかな?」
「二人は既にまきこまれていると。」
「私は巻き込まないようにしてるつもりだけど・・・。モリスどうなの?」
「私は関所の執事長を首になりまして、ヒカリさんの補佐をしてます。私が自ら仕えているのが事実でして、強制や脅し、権力によって支配されていません。全くの自由意思です。それが運命なのか縁なのかは、私には判断できません。」
「ベッセルさん、顔色が悪いけど、私が何かに巻き込んだ?」
「いえ、本日までは巻き込まれておりませんし、ヒカリさんを支援していたのは私自らができる範囲においてです。契約とか報酬といったものに束縛されていません。」
「なんか引っ掛かるけど、後で分かるだろうからいいね。」
「ランドルさん、ランドルさん自身が何か気になることがあって、私と一緒に行動できないのであれば、それはそれが縁なのだと思う。モリスやベッセルさんが私を選んでくれているし、私は二人に報いたいと思っている。それ以上は私は何も言えない。」
「私に手伝えることはあるのでしょうか?」
「それを聞くと、本気で取り組むと思うよ。その質問をしていいの?」
「私は自分の商人としての人の見る目を信じているし、それが私の人生の支えでもあります。また、友人たちの目が狂っているとは考えられません。もし、私が出来ることがあるのであれば、最善を尽くして支援させて頂きたいと思います。」
「ありがとう。とても助かります。ベッセルさんもこれで安心ですね。」
「ヒカリさん、私は友人を巻き込んでしまった気がします。ただ、自らの判断ですので、私は与えられた役目を全力で果たしたいと思います。そのような意味では吹っ切れました。」
「じゃ、皆で夕食を楽しく食べられる状況になったと思うので、モリス、ゴードンさんに食事を出してもらえるように言って。」
「ヒカリ様、私が参ります。」
「マリアありがとう。いつも感謝してます。」
「いいえ、こちらこそ。」
「あの、ヒカリさん。私の状況は何も変わっておりませんが。」
「え?なんで?」
「なにをするか、何に巻き込まれるのか伺っていません。」
「ああ、こっそりと、3000人の食料を3か月分調達して。あとは何とかするから。」
「今もその程度は流通していると思いますが。」
「話が速いね。メルマがロメリア王国で生産する食料を流通させることが出来なくなったら、それは無理でしょ?」
「戦争が起こるので?」
「死ぬ人を最小限にして終結させたい。こっちの手の内がロメリアにばれたら、その途端に食料封鎖が始まるから、そこに備える。何が必要?」
「今の状態が知りたいです。」
「モリス、説明をおねがい。」
「はい。ロメリアへ金貨200万枚相当の負債を負わせることに成功しました。このことが公になると、ロメリアからエスティア王国への武力行使が推測されます。その準備が必要です。」
「モリス、おまえ説明になってないぞ。ロメリアはメルマへの賄賂を通じて、金貨30枚x300日が流れている。つまり、毎年1万枚規模でエスティア王国から金貨の流出をさせているはずだ。それですらエスティア王国にとって、大ダメージのはずで、まずはそこの流れを止めるはずだろうが。200万枚とか意味が分からない。200年分か?国が滅びる額の借金を背負う訳がない。」
「モリスありがとうね。ベッセルさん、田舎の娘がした勝負の話をお願い。」
「はい。
先日の誕生会を兼ねた婚約の儀に備えて、リチャード王子が田舎の娘を婚約者として連れてきました。それにベニス財務大臣が国政におけるメリットが何もないと猛反対を申し立てました。
国王の仲裁により、『国庫に寄付した額の多い陣営を正式な婚約者として認める』という勝負をしました。」
「ベニスの圧勝だろう?借金に話が結びつかない。」
「ああ、ところがその娘さんは金貨は持っていなかったが、魔石や属性石としての資産を大量に抱えていた。結果としてベニス卿が敗北した。」
「それは凄いな・・・。だが、個人資産なんか金貨数万枚だろう。それもベニス卿自身のダメージだ。あ、スニフ卿のバックアップがあったのか?」
「二人合わせて約20万枚の金貨と神器、権利書を払いだした。そこを上回る魔石をその娘さんが積み上げたんだよ。」
「想像が出来ないな。金貨20万枚相当の魔石とかいったら、馬車どころか船で何杯分にもなる。それに、個人の勝負がロメリアの借金になるのも判らないし、まだ一桁負債額が足りない。お前の話も全然意味がわからない」
「もし、その勝負をする際に、ベニス卿自らが『魔石の真贋確認』を要請し、その娘さんが、『偽物が発覚したら、寄付額の10倍を支払う』というルールで勝負をしていたらどうなる?」
「どうにもならんだろ。不正を除外して、本当の財力が示されるだけだ。不利なのはその娘さん側だろう?」
「あ、あの、発言宜しいでしょうか?」
「あ、錬金術師のアリアさんは気づいた?」
「ヒカリ様、その娘さんは・・・。」
「うん、何が起きたかをお義父さんに説明してあげて。」
「お義父様、今のエスティア王国に流通している厚手の金貨は、中身が金で出来ていない偽金貨なのです。一部、エスティア王国で新規に鋳造されているものを除いてですが・・・。鉛などの卑金属で重たいものを芯に使って、表面を溶けた金で覆っていると、金の使用量を少なくさせることができるのです」
「アリア、おまえはそれに前から気が付いていたのか?」
「はい、お義父様。そして、その娘さんも、きっと・・・。」
「いや・・・。そうか・・・。でも、まだ、その王子がどこでその娘を拾ってきたのかもサーガの世界のようで良く判らないし、船何杯分の魔石を城下町まで運んだら私の耳にも入るというものだがな。」
「あ、あの、私も発言を宜しいでしょうか?」
「今度はアルさん、どうしたの?皆の役に立つかもしれない話なら紹介してあげて。」
「魔石については諸説あるのですが、サーガに出てくるような魔物であれば、1つが両掌に収まるぐらいの魔石になり、金貨1000枚では買えないとのことです。もしその娘さんが、何等かの方法でそのようなサイズの魔石を入手できたのであれば、大き目の金貨袋で数袋あれば十分のはずです。
また、一部の高位の妖精であれば、魔石や属性石を生成できたとの話もあり、エルフの族長であれば、そのような魔石生成の話を知っているかもしれません。」
「お兄様!そんなサーガの話ばかり、現実的ではないわ。いま、実際に起きた事実が重要なのよ。その娘さんが実在したかどうかも怪しいわ。田舎の娘さんが金貨を見たことがあるかも怪しいし、その金貨の中身を確認するために溶かしたり、解体もせずに判別できる訳がないわ。まぁ、その娘さんがエルフの族長自身だったら話は違うでしょうけど、こんなところには居ないわ。」
この子ら、勘が働くね。事実の裏付けはできてないけど、それはこの場では証明のしようがないし、ただ、仮説をたてて検証するという行動の基礎ができてるのは凄いな。是非活躍してもらいたいよ。
いつも読んでいただいている皆様には感謝しています。
今後とも頑張って続けたいとおもいます。




