3-32.ランドル一家(1)
さて、そろそろランドルさん一家と面談だ。
上手く行くと良いな。
「こんにちは~。ねえさん、お客さんだよ。」
「フウマ、いろいろ大変だったね。お疲れ様。」
「うん。無事にベッセルさん、ランドルさん、アルさん、アリアさんを連れてきたよ。あと、例の荷物が満載の2台の馬車がある。」
「うんうん。いろいろありがとうね。まだ夕食の時間には早いから、先ずはモリスと私の二人で会おうか。」
「じゃ、荷が荷だけに、3台とも領主の館の傍に止めて貰うよ。」
「わかった。モリスと一緒に食堂にいるから、みんなを連れてきてくれるかな?」
「了解!」
こちらはベッセルさん、モリス、フウマ、私の4人。ランドルさんの方は、ランドルさん本人とアルバートさん(以下アルさん)とアリアさんの3人。7人での自己紹介から始めた。
「本日は大変お忙しい中、ランドルさんご一家にこの関所にお立ち寄り頂きありがとうございます。心より歓迎致します。長旅の疲れもある中、先ずはご面談の場に出席頂きありがとうございます。狭い所ではございますが、時間の許す限りご滞在頂ければと思います。
私がここの関所の主のヒカリと申します。こちらが領主補佐のモリス、ご一緒頂いたフウマは私の家族となります。ベッセルさんに置かれましては皆さまご存知であると思いますので、後ほどのご歓談の中で交流を深めて頂ければと思います。」
「ヒカリ様、お初にお目にかかります。また、領主自らのご丁寧な挨拶と紹介、誠にありがとうございます。私はメルマで商人を営んでいるランドルと申します。また本日は養子のアルバートとアリアを連れてきましたので併せて紹介させていただきます。」
さて・・・。
<念話>が使える前提が無いのだから、こっちは向こうの情報を何も知らない前提で話を進めるんだよね。いろいろボロがでないように気を付けないと。まぁ、フウマとモリスには到着前に<念話>で判らない振りをすることで話を通してあるけどね。
「これからの会話の前提としまして、私自身が平民の出身であることと、領主になってから間もないため、フランクな言葉遣いで会話して頂けますと、私としても緊張せずに済みます。ご助力いただければ幸いです。
それで、本日はどういったご用件でしょうか?」
「はい。それでお言葉に甘えまして大変ご無礼ではありますが、領主様のご要望を受けて平易な言葉づかいをさせて頂きますことお許しください。
先ずは、お会いできたことに感謝させて頂きます。まことにありがとうございます。」
「ここはエスティア王国とメルマの通過点ですから、いつでもお会いできますよ。」
「それにつきましては今後とも長いお付き合いが出来れば本望です。」
「では、なぜ?」
「2つ目はモリスと会う機会を設けて頂けたヒカリさんの力量に感謝します。」
「モリスは私が領主になる以前から、ここに居ましたよね。」
「私がモリスの子息・息女を養子に受けて以来、お会いできる機会がありませんでした。常に、モリスが不在でありました。本当に不在であったのかは当人に尋ねないと判りませんが。」
「モリスの息子さん、娘さんの件は、フウマがここに居たときに少し話をして知っています。モリスの補佐により、今の私が領主をして居られます。そのモリスの働きに領主として僅かでも感謝の意を示す方法が見つかればと思い、フウマに人材集めとともに、モリスさんのお子さんたちの情報集めの旅に出て頂きました。それと何か関係がおありでしょうか?」
「そうです。フウマさんはヒカリさんの指示の元、人材集めをされていたようです。ヒカリさんの科学への博識さにアリアが惚れました。フウマさんからは領主に会った上で最終決定とさせて欲しいと回答頂いています。」
「なるほど。私が了承すればモリスとアリアさんが一緒に暮らせますね。ただ、面談はこの後させてください。単なる家族の一員として引き取るのか、関所の雇用者として一緒の仲間として過ごして頂くかは今は決められません。」
「はい。すなわち、親子が面談できる場を設けて頂いたことに感謝したいのです。」
「それで、アルバートさんはどのような意思をお持ちでしょうか?」
「どうも、ヒカリさんが前帝国時代のサーガについて情報をお持ちだと伺いまして、是非いろいろ学びたいと申しております。」
「分かりました。アリアさん同様に面談後、一家族として暮らすか、関所の一員として働いていただくか決めたいと思います。」
「ご理解いただきありがとうございます。」
「私から質問しても宜しいでしょうか?」
「はい。」
「失礼な物言いになりますが、お二人が自立されるのであれば、保護者が付き添いに来なくても、本人達の実力で各々が身の振り方を考えるべきではありませんか?まして、ここにモリスが居るか居ないかは関係ないと思いますが。」
「ヒカリさんは人が悪い。」
「何がでしょうか?」
「もし、アルバートとアリアの二人がヒカリさんに興味を示さなかったとしても、私自らがヒカリさんに会いに来るように仕向けていましたよね。」
「失礼ですが、ランドルさんとは初対面ですし、モリスから少々名前を伺っている以外のことは存じ上げません。」
「金貨の小袋の件です。」
「フウマ、何かあった?」
「アルバートさんにプレゼントした金貨の小袋のことじゃないかな」
「フウマ!皆に説明!」
「はい。
ベッセルさんに会いに行った折り、アルバートさんとアリアさんを紹介頂きました。その際、『養父への恩返しのお礼がしたい』と、なんらかのプレゼントを渡したいと相談を受けました。ベッセルさんと何回かの会話の後、ランドルさんに<古銭の収集>の趣味があることがわかり、ユッカちゃんから<古銭の入った袋>を貰い、それをプレゼントしました。姉さんの許可なく、優先事項として動きました。」
「ああ、あれね。価値が判る人が居たなら丁度良かった。
ランドルさん、その<古銭>はアルバートさんとアリアさんに差し上げた物ですので、あくまで雇用面談をするための支度金です。言い方は失礼ですが、ランドルさんを呼んで、来てもらうための物ではありません。」
「わ、私は!
親友の大切な子供たちを私の趣味で売ったりはしない!
本人たちが望むのであれば、どのような人に仕えようと構わない。
けれど、私がこれを貰ってしまうことで誤解が生じることは勘弁頂きたい!
謹んで、この贈り物を返させて頂きたい。
ただ、それを言いたかったのです。」
「モリス、フウマ、どうするよ?」
「ヒカリさんが悪いですな。」
「姉さんが悪いよ。」
「アルバートさん、アリアさん、私を助けて。初めての仕事にチャレンジだよ!」
「ヒカリ様、初めまして。アルバートと申します。もし縁があり雇用いただければ、<アル>等と略称で呼んでいただいて結構です。ヒカリ様がどのような方か判りませんが、父が本気でここまで感情を出して怒った姿を見たのは初めての経験です。
たぶん、ヒカリさんが何かしたのだと思います。」
「ヒカリ様、人間の心は科学や数式の様には扱えない曖昧なものでございます。場合に因っては、最後まで解決に至らないこともあるでしょう。ただ、科学と異なり、対話を重ねることができれば、双方歩み寄って解が得られるという場合もあるかと。」
「アリア採用!魔術ランクはいくつ?」
「いま、錬金術としてのランクは5まで極めております。」
「よし、ちょっとしたコツを教えるから夕食会のメンバー入りね。」
「な、なにか良く判りませんが、よろしくお願いします。」
「アルバート、採用試験に受かりたかったら、養父にどれだけ感謝していて、何をもって、その恩を返せるか、『貴方が思いつく最高の物』を列挙してごらん。何個でもいいよ。」
「1つ目は<メルマの自治権>でしょうか。
父はメルマの組合に対して嫌悪している部分がありますが、ロメリア王国、エスティア王国の財務大臣の二重支配によって、メルマの商人組合が管理されています。この自治権を取り戻すことで、商人本来の姿を取り戻せるはずだと日ごろから考えておりました。
2つ目は、<モリス殿と会える機会>でしょうか。
父の中では親友との友好を深めたく、また我々を本当の子の様に育ててくれました。『お前らは、モリスに会ったときに恥ずかしくない人物であれ』と種々の教養を身に付けさせて頂きました。その成果を見せる機会はこれまでなく、我々がどこかヒカリ様以外の貴族に仕えることになれば、二度と果たせぬ夢であったでしょう。
これは、もう、ヒカリ様の力で実現しましたが・・・。
3つ目は、<趣味の金貨>でしょうか。
私自身が父の影響を受けて、歴史などを学び各種サーガも収集して時代考証も行っています。そのサーガの検証は金貨や遺跡など現物による裏付けが必要になります。父は私たち二人が独立するまで、間接的に情報を収集するだけで、遺跡調査など自分の自由な時間を使えておりません。ですので、金貨など収集できる情報によりサーガの裏付けを唯一の楽しみとしておりました。
4つ目は、<我々二人の独立>でしょうか。
私がこの試験に合格できれば、それも叶うのでしょうが・・・。
これを言うのは反則かもしれません。
以上になります」
「アルバートさん、ありがとうね。
ランドルさん、育てた子供たちに、貴方の生き様や思いは伝わっていましたか?」
「う・・・。く・・・。(グス、グス)」
泣いちゃった。
私、こういうのダメなんだよね。
なんだか、自分が泣かせたわけじゃないんだけどさ。
自分が他人だから感情移入できないっていうか、なんていうかさ。
さて、事務的に一個ずつ片付けちゃおう。
「アルさん、貴方の魔術ランクは?」
「私は地形把握および地図作製スキルはランク5相当です。」
「じゃ、アルさん合格。採用。訓練後、才能が開花したら夕食会メンバー入り。」
「あ、ありがとうございます。」
「ベッセルさん、例の権利書は今日もってきてます?」
「ヒカリさん、大事に持参しております。今、こちらに。」
「ベッセルさん、ありがとう。代わりにもっと大変な物あげるね。私からじゃないけど。それは、夕食のときにでも話しようね。」
「ヒカリさんの大変な物は怖いですね。」
「私より怖いから、今のうちに心の準備しておいてね。」
「モリス、今日から家族と一緒だ。
家が必要?必要なら、川向うの例の物件の隣に建てて。
石は余ってるから部屋の構成だけ変えて注文してね。
しばらくは、モリスと一緒の部屋で我慢してもらって。
ランドルさんとベッセルさんの部屋はありそう?」
「客間といいますか、レイさん達が一時暮らしていた大部屋でしたら空いていますが・・・。」
「あれ?例のマリアさんは今どこで寝てるの?
まだ、川向うの物件が整っておりませんので、メイドの大部屋でして・・・。」
「どうしてそんなことになった?」
「『私が突然来たのが悪いのよ。どこでもいいわ』と、あの調子でして・・・。」
「しょうがないね。私の実力不足だ。レイさんに頼もう。モリス、二人がレイさんの建物の二階で泊れるか確認してくれる?」
「分かりました。」
「じゃ、ランドルさんご一家とモリスさん、ベッセルさんは夕飯までご歓談ください。
私とフウマは食材とってきますので。
フウマ、いくよ!」
「ね、姉さん、ランドルさんは、このままでいいの?」
「夕飯まで楽しみはとっておこう。」
「わかった。いくよ!」
うん。内政が足りてないね。
娼館建てるより先にやることがあった気がするけど・・・。
いや、私のやりたかった優先順位は<奴隷解放>だから、そこの順番は間違ってない。
自分の信念を曲げちゃダメだ!
いつも読んでいただいている皆様には感謝しています。
今後とも頑張って続けたいとおもいます。




