3-23.お妃様(3)
レイさんの調子はお妃様と関係あるの?
誕生会では何ともなかったのに・・・。
「レイさん、お話が出来る状況ではございませんね。」
「い、いい、いいえ。だ、だい、だいじょじょうぶです。」
もう、言葉が言葉になってないよ・・・。
「ヒカリさんの誕生会で挨拶もして会ってますわよね。何かあったかしら?」
と、お妃様が手を広げてみせる。すると、腰の短剣がキラリと光った。
「ヒィィィ」
「お妃様、失礼します。」
と、お妃様の腰の短剣を取り外して、門番の所まで持っていって預かって貰った。これで落ち着くかな・・・?
「ヒカリさん、ありがとう。レイさんが落ち着きを取り戻したわ。」
「ヒカリさん、ご迷惑をおかけしました。あの短剣には辛い思い出がありました。」
「もし、二人にとって、問題がなかったら、あの短剣について伺っても宜しいでしょうか?」
「そうね。懺悔の意も込めて、私から話をさせて頂きますわ。
もう、20年以上前のことと思います。私がまだお妃でなく、単に辺境の村の族長の娘であった頃の話です・・・。
ストレイア帝国は領土拡張のために、数年に一度の大遠征が実施される時期でした。エスティア王国も帝国を構成する公国の1つとして、遠征への参加要請があり、公国の存続のためにも出兵拒否はできません。当然その負担は領地内の街や村か兵を集め、大遠征に向かわせる必要がありました。
私は族長の娘として、装備から食料迄全てを自弁し、その遠征に参加する必要がありました。そのときの私の身分は爵位も無い村人の娘であり、元の村に帰るための帰りの食料すら持たない片道切符の遠征でした。私自身、死は怖くありませんでした。それよりも死ぬ前に何等か村に報いるためには戦争で戦果をあげるしかなく、村が国より手厚く扱われるよう願うだけでした。
ロメリアを抜け、ストレイア帝国の周辺砂漠を越え、さらに西へと進み、独立国であったペルシア公国に到着しました。
そこは獣人で構成される国で、奴隷としての希少性も高く、また、周囲の人族との連携も弱かったことから、多勢に無勢の力技で押し切り、王宮まであっという間に押し込みました。
敵の攻撃を真っ向から受けるような特攻隊に選ばれるのは帝国の騎士ではなく、エスティア王国のような辺境の公国が当てられ、さらに正規騎士ではなく、私たちのような領地民が使い捨てに使われました。
本来、弾除けの捨て駒であったはずですが、私は僥倖に恵まれ、ペルシア国王とそのお妃様を切り捨て、大将首をあげることに成功しました。そして、王宮のすぐ後ろの隠し部屋に、小さな女子が居るのを見つけました。
ヒカリさんはご存知ないかもしれませんが、このような遠征の場合、王族が助かることはありません。一族を滅ぼし、後顧の憂いをなくします。つまり、私はその獣人の子を殺す必要があったのですが、私にはどうしてもその子を殺せませんでした。かといって、護衛兵も略奪権も無いので匿うこともできません。
私が出来たことは・・・。
獣人にとって命より大事な尻尾を切り落とし、耳を切り落とし、炎の魔術で止血し、簡単な治癒魔法を施した後で、奴隷の印を刻むことでした。
私は王族の首を上げた報酬として<奴隷の子>を貰うつもりでしたが、周囲は歓喜に湧き、私はその戦乱の中でその<奴隷の女の子>を見失いました。
私はエスティア王国の一兵士でしたので、戦果としてはエスティア王国のものであり、褒賞はエスティア王国の王子が戴き、私は王子の婚約者になりました。
私はその大遠征から帰還して以来、この短剣を携えたことはありません。
しかし、今回、ヒカリさんの行動に刺激を受け、つい昔の姿で訪問したため、このようなお話をさせて頂く状況になりました。
以上になりますわ。」
「レイ、レイ、レイ・・・・。」
「ヒカリさん、大丈夫です。お妃様、無用な過去の告白をさせるに至り申し訳ございません。また、戦時中において、敗者側の王族が生き延びることはあり得ません。奇跡以外のなにものでもこざいません。本心からお礼を言わせて頂きます。私の命が救われるように種々配慮して頂き、本当にありがとうございました。」
「ふぅ・・・。ヒカリさんも物凄い切り札を何枚も持ってるのね。敵わないわ。このことを承知でレイさんの娼館を守りたかったのかしら?」
「いえ、レイさんの本心は分かりませんが、『奴隷としてではなく、自立して職を得たい』との意思を尊重し、支援させて頂きました。その支援を無にしたく無いのは私の本心でございます。」
「え?この娼館はヒカリさんが建てたの?」
「お妃様、その通りでございます。タダで貰いました。また内装等の支度金もいただきましたし、食事も関所の職員と同等に扱って頂いております。」
「ヒカリさん、私にも何か頂戴!」
「アイスクリーム。飛行体験。夢。で如何でしょうか?」
「分かったわ。残りは<空飛ぶ馬車>よ?」
「承知しております。今回の件が片付いたら取り掛からせて頂きます。」
「あの・・・。それで、お二人でこちらに来られたのはどういったご用件だったのでしょうか?単に昔話をしに来たのではないはずですよね・・・?」
「う~ん、う~ん・・・。」
「ヒカリさんが迷っているなら、私からのお願いは取り下げるわ。」
「レイさん、戦争になるんだ。死者を少なくするためには、貴方の力を借りたいと思って、ここに二人で来たの。」
「フウマさんほどではありませんが、暗殺部隊として敵陣に乗り込む点では、ある程度お役に立てると思います。是非使ってください。足りなければ、娼館で働くメンバー全員を追撃に送り込みます。」
「欲しいのは貴方達の兵士としての命ではなくて、貴方達の持つ情報なんだよね・・・。」
「と、いいますと?」
「いま、エスティア王国はロメリア王国の飛竜隊によって、制空権を握られているんだよ。飛竜隊の騎士団長なんかがここを利用してるのであれば、そこから情報を聞き出したいんだよね。ロメリアとの戦争が始まる前に飛竜の調達方法とか、隊員の構成とか上空からの監視情報とかいろいろ。できれば、女の子にぞっこんにして、こっちのある程度の<お願い>を聞いて貰えるようにしたいんだよ。」
「あら、お安い御用です。というか、彼ら、それネタに使ってモテる演出してるぐらいですから。」
「だったら合コンでもしよう、そうしよう!」
「「<ゴウカン>?それは、ヒカリさんと言えど・・・」」
「ち、ちがう! 若い男女が集まってパーティーするの。お酒飲んだり、お食事して、いい雰囲気になるの。雑談したりしてさ。そのあとは気が合ったメンバーはそのまま二人で娼館の空き部屋でもどこでも。」
「「なるほど」」
「できれば、早い方がいいんだけど。3日後ぐらいに別のお客さんが来るから、そっちとのセッティングが被らないと良いんだよね。」
「あら、飛竜隊の隊長さんだけでよければ、ここ連日宿泊されてます。ただ、偽装も必要ですし、<お願い>をするには、隊員が多い方がよさそうですね。今、ちょっと聞いてきます。」
「今?」
「この時間なら問題ないでしょう。問題あっても構わないですし。少々お待ちください」
って、行動に移すの早いな。
すごい行動力だね。
あと、レイさんは夕食会メンバーではないけど、いろいろな技を知っちゃってるからね。<妖精>とか<念話>がNGワードだって、こっそり教えておかないとね。
「ただいま!OKでましたよ。『ちょっと部下呼んでくる』って言ってました。明日の夕方から男女各5人の5:5です。娼館の二階の空き部屋も5室前払いで予約されました。」
「はや!一泊いくらなの?」
「一律金貨1枚。精算と予約分で金貨7枚。さらに、食事の準備用に追加で金貨3枚を頂きました。」
「そっか、10人分の食事を金貨3枚か・・・。ゴードンとモリスとで早速相談だ。で、女の子5人も出したら、娼館の通常営業の方は大丈夫なの?」
「え?エスト、イスト、ミスト、あとはヒカリさんの4名ですよね。残りは当然うちの子出しますけど。」
「え?」
「ヒカリさん、楽しそうね。いろいろ準備につきあうわよ。」
「領主様!よろしくお願しますよ!(にっこり)」
「二人して、そんなこという?」
「「ハイ」」
もうさ・・・。
王族に勝てる訳ないじゃん?
たぶん、遺伝子と生きてきた重みが違うんだよ・・・。
行動力と切れの良さじゃ敵わない・・・。
なんか、自分がどんくさく感じるね。
いつも読んでいただいている皆様には感謝しています。
今後とも頑張って続けたいとおもいます。




