3-17.プレゼント
やることいっぱい。
戦争は避けたいけど、なんとかしないとね。
この時代の戦争ってどんな感じなのよ?
まぁ、その前にいつもの報告会だ。
「よし、みんな。夕ご飯だよ。報告会だよ。ニーニャ達、冷蔵庫の話はどう?」
「出来たぞ。それぞれの印を石板に彫り込んでもらって、動作確認もできたぞ。クロ先生、ラナちゃん、シルフのおかげだ。氷も作れるといいからと、長老も参加してくれたぞ。合計12枚の石板を積んで馬車は出発した。ヒカリの許可証を持って行ってるから王宮迄いけると思うぞ。イワノフは街道と開拓者の住居整備の指揮をとらせるため、石工のドワーフ3人で出発してもらったぞ。」
「ありがとね。開拓者40家族分の住居とかインフラ整備は、来週ぐらいには到着すると思うから、特急になるけどお願いね。」
「大丈夫だぞ。自由なアイデア、予算無制限でインフラまで自由に村を作れる機会は無いからな。みんな喜んでるぞ。完成したら酒を奢ってやって欲しいぞ。あと、水路の整備で石材が足りなくなる可能性があるぞ。ヒカリがまた取ってきてくれるといいぞ。」
「わかった。石のサイズを教えて。ただ、私は石を切れないんだよね。どうしたものか。」
「ニーニャさんが作られた<業物>のナイフに私が魔道コーティングをしましょうか?」
「ニーニャ、そういうもの?」
「天然の岩山相手だと、ちょっと特殊なコーティングが必要だぞ。ユッカちゃんのは特殊というか、ほとんど神器級のコーティングが施されてるぞ。ステラはどの種類のコーティングをするつもりだ?」
「ナイフ側を強靭にして、接触する物質を軟化・脆くする二重コーティングを考えていました。」
「ステラ、鎧や剣のようなものを切りきるには十分通用するコーティングだが、今回のような岩山から石を切り裂くためには、刃が抜けきらないため、異物を排出するようなアクティブ作用を持たせたコーティングでないと、石を切り出せないんだぞ。」
「そうでしたか・・・。ドワーフさん達の知恵は奥が深いですわ・・・。」
「岩ぐらい融かしちゃえばいいじゃない。」
「ラナちゃん、何かアイデアある?」
「高温で溶かす作用を持つコーティングだと、刃を入れた場所から溶けて刃にそって外側へ削れた部分が出てくるわ。そうね。例えば、氷を熱くしたナイフで切る感じになるかしら。」
「それ、聞く分には凄いし、簡単そうだけど、そんな高温になったら危なくない?」
「ヒカリ、貴方が使うなら魔術で制御できるでしょ?そもそもコーティングを発動させるにも魔術が必要だし。<綺麗に融けて切れろ>って念じて切れば、コーティングが発動するわ。」
「ニーニャ、どう?」
「聞いたことが無いコーティングだが、私の<業物>ナイフが耐えられるか確認してみるといいぞ。耐えて使え得るなら石切も捗るぞ。今のところ<重力軽減>の魔術はヒカリしかいないから、頼むぞ。」
「ヒカリ、多分大丈夫よ。昼間借りてたこのナイフにコーティングすればいいのね?」
「はい。」
ラナちゃんが私のナイフを撫でる。詠唱も何も無しだ。ボウっと光ったような気もするけど、気のせいかもしれない。
「ヒカリ、出来たわ。ハイ!」
「あ、ありがとうございます。」
腰の子袋に入れてある金貨を取り出して切ってみる。
真っ二つだね。
今度は、立てて縦に切ってみる。王宮でレナードさんが切った向きだね。
スパっと真っ二つ。
「ラナちゃん、これ、凄くない?」
「ヒカリが凄いのよ。使いこなせてるじゃない。」
「いや、コーティングないと切れないでしょ?」
「ま、どっちでもいいわ。そのうちわかるわよ。」
「ありがとう。これで明日の岩の切り出しが捗ります。」
「がんばって。」
「ヒカリ、このまえの娼館サイズの石が5-6個必要だぞ。場所は牛を囲ってある辺りがいいぞ。」
「わかった。明日やっとく。次、モリス報告お願い。」
「はい。
本日はヒカリさんとベイスリー殿と3人で今後の関所の都市化について話をしました。基本は川を渡った反対側に1km四方の敷地を整備して、それに隣接する形で農村を集めるイメージとなりました。
さきほどのニーニャ殿の石は樋や道路などの整備に使わせて頂き、家は木造を想定しております。」
「今日会話してて思ったけど、ベイスリーさんは真面目な人だねぇ。騎士ってああいうもの?」
「いい意味で、<普通>の騎士様ですね。ヒカリさんは<普通>では無いので、物足りないのですよ。」
「悪気は無いよ。ホント。助かってる。人脈とか人の指揮とか私には無能力だもん。ただ、戦争で人が死ぬことを運命みたいのを考えてるのが、私の感覚にはあわないんだ・・・。」
「ヒカリさんが戦争に持ち込まなければいいでは無いですか。本人も戦争にならない場合はそれで承知しているのですから。」
「そだね。そうしよう。情報が全然ないけどね。」
「ヒカリさん、戦争になるのですか?」
「あ、ステラ。やっぱ戦争だね。国力が10倍あって、軍隊も10倍くらい持ってるみたい。メルマの港を封鎖されて、食料難になって餓死者も出ると思う。」
「ここの森や農地での食料を供給しても間に合いませんか?」
「ざっくりだけど、3000人分の食料を輸入に頼ってるらしいんだ。」
「そ、そんな状態で喧嘩売って、戦争になるって・・・。」
「誰が喧嘩売ったんだろう?怖いね。」
「ヒカリさん?」
「私は素敵な人の婚約者候補になっただけだよ。純愛ってやつだね。」
「ヒカリさん、ベイスリーさんの騎士道とかより、餓死者3000人の方が酷いことになりませんか?」
「そもそも、誰が戦争仕掛けるような喧嘩売ったのさ。ねぇ?クロ先生、ラナちゃん!」
「ヒカリ殿ですが。」
「ヒカリさんですわ。」
「きみら、そういうこと言う?ロメリア王国に仕えるナイトメアか、その先祖に封印されたんだよね?」
「我々とヒカリ殿の喧嘩は関係ないと思いますが。」
「お~い~。そんなこと言う?ユッカちゃんに封印してもらうよ?」
「おねえちゃん、呼んだ?」
「あ、ユッカちゃん。この人たち封印しても構わな・・・。
えええ???ユッカちゃん、どうしてここにいるの?フウマは?」
「フウマおにいちゃんのお遣いで戻ってきたよ。」
「え?なんだって?」
「ベッセルさんのところで、ランドルさんに会ったの。プレゼントが要るんだって。」
「何が必要なの?」
「わかんない。フウマおにいちゃんに聞いて。」
<<フウマ、聞こえる?>>
<<聞こえる。今客室に一人だからこのまま話を続けられるけど、そっちは大丈夫?>>
<<こっちは皆で夕ご飯と報告会。ユッカちゃんが来たんだけど?>>
<<じゃ、全員にオープンで<念話>通すね?>>
<<うん。その方が話が早くて助かる。>>
<<じゃ、状況を説明するよ。長くなるけど勘弁して。
昨日のうちにベッセルさんを訪問できて、いろいろお話をしていたんだ。一方で、ベッセルさんの古くからの友人も王子の誕生会に出席予定で城下町に来てたんだけど、誕生会が急に中止になったもので、ベッセルさんを訪問したんだ。で、想像の通り、その訪問してきた人物がランドルさんだったんだ。
ベッセルさんは、王宮の中のこととか、誕生日が中止になった事情とか全部知ってるんだけど、そこは戦争になる可能性が高いし、メルマの有力者に対して自分が自治権を持ってるとか言えないので、単なる旧友として話をしていたんだけどさ・・・。
俺が『優秀な人を雇いたい』みたいな話題を3人で雑談しているときに振ってみたんだ。そうしたら、ランドルさん自らが『優秀な子2人が居るが、おいそれとは手放せない。大切な知人からの預かりものだからだ。』みたいなことを言ったのさ。一人が地政学に長けていて、メルマやロメリアの地図や政治情勢に詳しい男性。もう一人は錬金術のような科学に長けた女性なんだって。
ここまでOK?>>
<<いいよ。続けて。>>
<<その二人が今回の旅に同行していて、別の宿屋に宿泊していたんだ。で、今日の昼間に二人と会う機会を設けて、いろいろ話をしたんだ。アルバートさんが18歳の男性、アリアさんが17歳の女性。つまり、モリスさんのご子息とご息女であることが確定したよ。当然、モリスさんのことを言うわけにはいかないし、ロメリアとの戦争が近いことも言えないから、『とある領主の元で優秀な人材を求めていて、ランドルさんから二人を紹介された。』って話を切り出したんだ。
ランドルさん自身も二人を独り立ちさせる時期が来てるし、二人もいつまでも世話になりっぱなしでは悪いってタイミングでもあったみたいなんだ。今後の身の振り方を探す一環として、今回の城下町での貴族の集まりに参加しに来たんだって。
その二人が言うには、『雇用を受ける条件は、ランドルさんを満足させられるようなプレゼントを頂ければ、その恩に報いて奉公に出向きます。』って回答だったんだ。
ユッカちゃんのお遣いとプレゼントの意味分かった?>>
<<全然わかんない。
フウマが二人を攫ってくれば話が早いね。
それかこの関所で二人を強制的に捕縛しよっか。>>
<<ヒカリさん、お止めください。ランドル殿は食にもある程度興味を示しますが、我が子のように育てた二人を手放すようなプレゼントとなると、そうですね・・・。
彼は金貨を収集していたはずです。他国の印が入った物や旧国の金貨などですね。沈没船のが見つかると、その財宝の引き上げに結構な額を出していたと思いますが、かなり高位の魔術師でないと、深い位置の沈没船の財宝にたどり着くことは出来ないようでしたね。>>
<<モリス、流石だね。フウマ、そういう話は何か聞いてる?>>
<<ベッセルさんからは、お金、土地、利権、美女では動かない。魔道具、魔術、知識にも関心を示さないとは聞いていた。収集癖があるのかは聞いてなかったよ。>>
<<今、ベッセルさんに聞いてきて。こっちで心当たりを当たるから。>>
<<分かった。ちょっと行ってくる>>
「モリス、これ見て。」
と、ユッカちゃんのカバンから<粘土の洞窟>で拾った例の古代の文字が書かれた金貨の革袋を取り出す。
「ヒカリさん、私にはこの文字は読めません。ただ、これが本物であれば希少性は高いと思います。」
「むぅ。誰かこれ判る人いない?」
「私もわかりませんわ。」
「私も読めないぞ!」
「妖精さんたち、どうですか?」
「この文字は見覚えがあるのじゃが、忘れてしもうた。」
「ヒカリ殿、ストレイア帝国の出来る前の頃の国の言語だと思うのだが。」
「僕は金貨に興味がないから判らない。だけど、この紋章はストレイア帝国より古い時代だね。」
「私はわかんないわ。興味もないもの。」
「みんなありがとうね。で、ストレイア帝国って何?」
「ヒカリさん、エスティア王国やロメリア王国を統治する格上の国のことです。」
「あーあーあー。ユッカちゃんが持ってたペンダントにも書いてあったあれか。」
「あれは、お母さんのだよ。」
「うんうん。ユッカちゃんのお母さんは伝説の人かもしれないね。」
「わかんない。」
「このまま戦争が拡大していったら、いずれユッカちゃんのおじいちゃんとかおばあちゃんに会えるかもね」
「おねえちゃん、一緒にいろんなところ冒険できるね。」
「うん、そうだね。」
<<姉さん、聞いてきた。確かに金貨のコレクションはあるみたい。>>
<<こっちも価値は不明だけど前帝国時代の金貨が見つかった>>
<<誰が持ってたの?>>
<<洞窟の宝箱>>
<<また、姉さんか>>
<<この金貨をユッカちゃんに持ってってもらうけど、それでいいかな?>>
<<ああ、是非とも。それがあれば話は進むと思う。あと、できればパスタとかデザートもユッカちゃんのカバンで運んで貰いたい>>
<<分かった。ゴードンに伝えておく。あ、あとね。冷蔵庫の部材もったドワーフさん達が出発した。王宮とお妃様に話通して、作業しやすい環境整えてあげて。3日後には着くと思う。>>
<<わかった。冷蔵庫の件は明日から動くよ。今晩はユッカちゃんと合流してから、早速アルバートさんとアリアさんに会いに行こうと思う。>>
<<フウマありがとね。頼りにしてるよ。>>
<<姉さんもがんばって。>>
「じゃ、ユッカちゃん、この革袋しまって。あと、ゴードンさんに言っていろいろ好きな物作って貰ってから出発してくれる?」
「わかった。おねえちゃんもがんばって!」
「うん。」
「モリス、どうしたの?喜んでいいよ。上手く行くよ。」
「え?ああ・・・。この件はとても感謝しております。きっと上手く行くのでしょう。それよりも、先ほどの3000人の餓死者の件が都市計画の打ち合わせのときから気になっておりまして・・・。先ほどのステラ殿の話にも出てきて思い出してしまいました。」
「メルマを迂回して、港を作って、あの船を浮かべて、そこから新しい海路でも開拓する?」
「いえ。私も地政学に詳しい訳ではございませんが、陸路のメルマ経由での農産物が多いはずです。当然海路からも食料の調達はしてるかもしれませんが、今の航海技術では、積み下ろしや難破のリスクを考えると、隊商を組んで陸路輸送するほうが確実なのです。」
「メルマを押さえても、食料の調達自体が困難になるってこと?」
「海路を押さえても、異国からの貿易を考えますと、航路が完成していても往復で一か月はかかるでしょう。新規開拓の場合、商権や信用の問題がありますので、半年は見込んで頂く必要があるかと。」
「それは、ちょっと、本気で困ったね。皆で考えようか・・・。」
いつも読んでいただいている皆様には感謝しています。
今後とも頑張って続けたいとおもいます。
文中<隊商>という言葉での違和感があるかもしれませんが、
一応、キャラバン=隊商とのことです。
商人が部隊を組むから<商隊>とするより隊商で記述させて頂いております。




