3-01.冒険の兆し
関所での誕生会も終わって、お妃様も無事にベッセルさんのところへ返却。
よしよし、今日こそ馬車で関所に戻ろう。
経済戦争は収束するまで時間がかかるからね。
急速な処置は経済危機になっちゃうから。
さ、何しようかな。
「ベッセルさん。ちょっとちょっと!」
「おはようございます。昨日はどちらへ?」
「ちょっと食事をしてきました。これ、お裾分けです。で、お妃様を預かって欲しいの。」
「あ、はい。大丈夫ですが・・・。」
「で、昨日ここでパーティーしたってことにして欲しいの。」
「そ、それは大丈夫なのでしょうか?」
「この食材と私たちが一緒にいれば大丈夫かな。」
「わかりませんが、パーティーをしたような跡を残しつつ、これらの料理を並べればよいですね?」
「うん。」
ーーーー
「お妃様、おはようございまず。そろそろ私たちは関所へ帰ろうかと思います。お別れの挨拶に伺いました。」
「ヒカリさん、おはようございます。そう、帰らないといけないわね。馬車の準備は出来てるのかしら?」
「はい、私たちが自分達の馬車がありますので、そちらで帰路に着きます。お妃様には大変お世話になりました。今度お時間がありましたら、狭いところですが関所までお越しください。」
「何を言ってるのかしら?帰るのは私でしょう。貴方の言葉の使い方はおかしいわ。」
「はい。お妃様は城下町から王宮へ帰られます。ベッセルさんが手配をしてくれています。私たちはここから関所まで帰ることになります。おかしかったでしょうか?」
「城下町?ベッセル?ここは関所でしょ!モリスやニーニャ、エルフの子らは?」
「はい。関所にいます。」
「だったら、ここが関所で合ってるじゃない!」
まずいまずい。お怒りモードになってしまった。
ベッセルさんと交代だ。さり気なく鎮静化の魔術をステラにお願いしておこう。
「お妃様、昨晩のパーティーはお楽しみいただけましたか?食材はヒカリさんが持参したものですので、関所の味を楽しめたことと思います。」
「ベッセル、貴方は昨日ヒカリの関所に行かなかったわよね?」
「はい、こちらで食事を提供しておりました。」
「ここはどこ?」
「私の自宅でございます。」
「ヒカリさん!昨日あなたの関所で貴方の誕生パーティーを開いたわよね?」
「関所では各種お祝いの会があったと思います。」
「関所に行ってない?」
「おおよそ60kmありますので、早馬でも片道1日はかかります。馬車ですと3日はかかるかと思われます。」
「貴方達、私を騙そうとしてるわね?」
「「・・・。」」
「なんで返事をしないの?」
「お妃様、もしよろしければ、朝のハーブティーは如何でしょうか?こころが落ち着きます。」
と、ステラが声を掛ける。
その意見自体をひっくり返すようなことは無く、皆で食堂へ向かう。
さり気なく、昨日の食べ物やパーティーの残骸が残ってる。
「お妃様、昨日のパーティーの片づけが済んでおらず、申し訳ございません。」
「いいわ。ハーブティーを頂戴」
「はい、こちらになります。関所で採れたハーブで作っています。」
「美味しいわね。昨日の食事もこのハーブティーも。」
ちょっと一息ついてくれている。このまま穏便に終わればいいのだけど・・・。
「ベッセル、ここの屋敷に冷蔵庫はあるのかしら?」
「は。冷蔵庫と申しますと?」
「大きな地下室で、氷が詰まっていて、食材が置いてある倉庫のこと。」
「いいえ。ございません。」
「ヒカリさん、関所にはあるのよね?」
「はい。昨日こちらで話題に上がった通りです。」
「夢?」
「「・・・。」」
「騙されてる?」
「「・・・。」」
「ヒカリさん、もし貴方にとって、とても大切な人が居て、その人を夕食に招待しておきながら、その人を騙すようなことをなさるのかしら?」
「と、申しますと?」
「そうね。夢のような魔法を使って、遠いところへ移動して、実在する人物と話をして、食事を楽しむ。だけど、朝には元の場所に戻っている。そんな魔法を使って、人を騙すのかしら?」
「もしも、そのような話が実際に起こっていたとしますと、『それは騙したこと』になるのでしょうか。」
「騙してないわ。食事に招待して、送り返しただけだもの。」
「そうですか。良かったです。」
「貴方、それをしたのね?」
「いえ、私がお妃様を騙すようなことをしないと、理解頂いて安心したのです。」
「なんなのかしら・・・。」
「それでは、私たちは関所に戻ろうかと思います。またお会いできるときを楽しみにしております。」
「あ、ちょっと待って。」
「はい。」
「神器をあげたわね。冷蔵庫を作る約束で。」
「冷蔵庫が必要でしたら、ニーニャ達を派遣します。氷を作る宮廷魔術師をご用意いただければと思います。」
「昨日、関所の冷蔵庫に預けて来たわよね?」
「と、いいますと?」
「昨日の勝負で私が買った神器とか権利書よ。」
「お妃様、私が昨日お預かりしておりますが・・・。」
と、ベッセルさんが神器3点とメルマの自治権の権利書を差し出す。
「なんで、これがここにあるの?ニーニャは!」
「関所に呼びに行って、こちらに来るまで6日ぐらいかかるかもしれません。弟子達だけでも冷蔵庫の作成は可能かもしれませんが。」
「誰が魔法使いなの?」
「ステラとフウマでしょうか。6属性の全てを魔術ランク3まで極めています。」
「貴方達、私を関所まで運べるの?」
「私は風と共に移動できますが、妖精の力を借ります。妖精と交信できない方は浮遊できないので、一緒に移動しにくいかもしれません。」
「俺の飛行術なら自分は飛べるけど、人を抱えてというと重さの制限があるのでバランスが結構大変なことになります」
「なら、私が軽くなればいいわ」
「ステラ、フウマ、お妃様を軽くできる?」
「「できません」」
「お妃様、仮に軽くできても人目につきます。飛行術は限られた者しか行使できません。公に見せれる魔術ではありませんし、知られると暗殺される危険もございます。彼女彼らの為にも、ご内密にお願いします。」
「わかったわ。
ヒカリさん、<宮廷魔術師を必要としない冷蔵庫>、<空飛ぶ乗り物>これを作ってくれないかしら。料金は先払いで、この神器3点とメルマの自治権ね。」
「あ、あの期限は?」
「あら、やってくれるのね?私が死ぬまででいいわ。がんばって。」
「はい!」
ーーーー
「姉さん、大丈夫なの?」
「うん。全然わかんない。けど、あれがお妃様から最大限引き出せた譲歩だよ。<誰かが何かを隠してる。だけど不問にする>ってことね。とても寛容な判断で助かったよ。」
「ヒカリさんなら、なんとかしてしまう気がしますわ」
「うん。皆の協力があればできると思う。いくつかやってみたいアイデアはあるからね。先ずは、このメルマの自治権をベッセルさんになんとかしてもらおう。商売関係はベッセルさんに頼るしかない。」
「私ですか?」
「嫌?」
「全力で支援させて頂きます。」
「ありがとう。はい、権利書。王宮に置いてきた金貨の返却とか、これから起こる金融危機のソフトランディング策とか、ロメリア王国側との折衝とかもベッセルさんに任せる。私たちは関所に戻らないと。関所にモリスっていう優秀な管理人さんがいるから、何かあったら連絡してね。」
「分かりました。事後処理はこちらで対応させていただきます。ゆっくりとお休みください。」
さて、やっとパーティードレスから解放されて、馬車の旅っと。馬一頭だと不安だっていうんで、ベッセルさんにもう一頭買ってもらっちゃった。王宮の<贋金>とか下手すると通貨危機になっちゃうもんね。魔石も国庫に入れてしまえば、経済の混乱はないはずと思いたい。
しかし、馬車ってのは痛いね。クッションを敷いても道が凸凹だから大変。この辺の技術革新も欲しいよね。
「おねえちゃん、冒険するの?」
「するよ。」
「本当に?試練?」
「多分、試練になるよ。私が知らない世界で戦うことになる。でも、そこで手に入れたものが今回のお妃様から宿題の答えに使えると思ってるんだ。」
「姉さん、ひょっとして。」
「ヒカリさん、ナイトメアを?」
「僕は行かないよ。悪いね。その代わり畑とか見守ってあげる。心配しないで行ってきて。」
「みんな、ありがとうね。関所に行くまで、いろいろ作戦立てようか。」
いつも読んでいただきありがとうございます。
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