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新春 猫にゃん にゃん 其の五

 察するに……。

 いやいや、流石に疎い圭吾でも、猫にゃん様のご性格は、何となく察しがついた。


 ……かなり〝ヤバい〟って事だ……


「……そういえばうちの猫達も、理由もなくヤバい時あるもんなぁ」

「なんか申したか?」

 耳の良い猫にゃん様が素早く詰問した。

「……猫にゃんさま……死んでしまった者たちはいたし方ござりませぬが、今保留の者たちはお慈悲をお与下さりませ」

「……今保留…って、まだまだ死ぬって事か?いえもりさま?」

「猫にゃんさまは、徹底しておられるのでござりまする……」

「はあ……?じゃあ……今保留……っていうのは?」

「かなりの事をした者共は、同じ苦しみをお与になっておりまするゆえ、今しばらくは死なずに苦しみ抜くのでござりまする」

「……同じ苦しみ……ねぇ……」

 想像力が乏しい圭吾ですら、考えただけでぞっとする。

 嫌いな者は仕方ないにしろ、良かれと思ってした事が裏目……なんて事も無いとは限らない。特に圭吾なんかは…….。

「はあ……まじかあ〜」

「若、何をされておられまする?」

「え?いやぁ俺にも身に覚えはあるかな?……って?胸に手を当ててよーく考えてんだ」

「若、我が家の猫殿にされている仕打ちなど、猫殿達は一回寝てしまわれれば、忘れておられまする」

「おっ、そうか……」

「しかしながら、猫にゃんさまの〝天罸〟が恐ろしいとお考えになるような事は、最早なさらないでくだされまし……」

「お……おうわかった……」

 圭吾がほっと胸を撫で下ろしていると、いえもりさまは吸盤のある可愛い手を打って声を上げた。

「……おおそうだ!……先ずは犬わんさまをお探しするが先決にござります。あの律儀な犬わんさまの事でござりまする、いかばかりかお待ちの事でござりましょう」

「そうなのじゃ、流石のわしもそれは気にやんでおるのじゃ」

 殊勝な面持ちで猫にゃん様が言ったので、圭吾はしみじみと猫にゃん様を見つめた。

「さようでござりましょう……。先ずはお忘れの約束の場を思い出して頂きまして……それからといたしましょう……それまで今保留の者たちはこのまま、このままという事といたしましょう……そういたしましょう猫にゃんさま」

「うーむ。確かにのう……。思い出すまで難儀であるし、いっぱい考えるとまたまた眠うなってしもうしのう」

「さようにござりまする。またまたうたた寝をなされては、犬わんさまに更に難儀を与えてしまわれまする」

「確かにのう……。家守りよわしは、何処へ行けばよいのかのお?」

「猫にゃんさま……そればかりは私めには……」

「ふむ……それもそうじゃな……。うーむ。犬わんは何処で待っておるのかのお……」

 猫にゃん様は、憤怒すると仕返しは早いし短気だが、自分勝手にのんびりとした所もある性格のようだ。

 おっとりとした物言いと動作に、丸々として愛くるしい容姿だが、残酷な事を残酷と思わずに最も簡単にやってのける、ちょっと〝ヤバい奴〟と圭吾はよんだが、殊勝な面もちゃんと持っている……らしい。

 そしていえもりさまが、これ以上大事にならないように、上手い事ごまかそうとしているようだが、酷い事をした人達は、このままずっと同じ苦しみを与えられ続けるって事だろうか?


 ……このまま、このままって事だもんな……


 兎に角猫の目のような……。猫の神様だから仕方ないのか……。

 いろんな面をお持ちな猫にゃん様だが、やっぱり圭吾にはそれはそれは尊いお方には見えない。

「犬わん様とは、何処で別れたんすか?」

 しおれて、尻尾と耳を垂れ下げ気味の猫にゃん様に、圭吾は聞いた。

「うーむ。上じゃ上……確かこのちょっと先の上であったかのお……」

「上?」

「天空でござりまする」

「天空……」

「あの日は、犬わんがかなりの深刻な面持ちで、相談したい事があると申しての。わしは暇であったから〝おお良いぞ〜〟と申したのよ。すると犬わんは大そう喜んだが、ちと用がある故、その用を足して参るから……と申したのじゃ」

「……は?」

「それでわしは、ポカリポカリと浮かんでおる、丁度寝心地の良さげな真っ白な雲に乗り、のんびりと参ろうと思うての……ところがその雲の、ポカリポカリの浮かびようが、これ又心地ようて……余りの心地良さについついうたた寝をしてしもうたのじゃ……」

「……その雲が此処よりちと先の小高い丘がござりましたが、其処で消えてしまった物のようにござりまする」

「なるほど……」

「そうなのじゃ〝いたた…〟と一瞬目覚めたのだが、そのまま再び寝てしもうたらしいのじゃ……」

「……眠い時は眠いっすもんね」

「おお……わかってくれるか……そうなのじゃ……ついつい眠ってしもうたのじゃ……わしとても、大そう犬わんには申し訳ないと思うておるのよ。困ったものよと思いあぐねておる時に、ちと腹の立つ事があったが故、〝すわっ!許せじ!〟となってしもうたのじゃ」


 ……って、死ぬ羽目になった人はどうすりゃいいんだ?……まっ、神様だからいいのか……


「〝すわっ!〟と憤怒しておったが〝おお……犬わんとの約束があったわ〟と思い立っての、其処此処を探索しておったら、これ又世の中が変わり果てておって、面白いやら珍しいやらで、ふらふらしすぎて疲れてしもうたのよ」

「……で、我が家の屋根の上で、一息ついておいでだったのでござりまする」

「なるほどねー」


 ……まじ猫にゃん様は面白い。が、決して友達にはなりたく無いタイプだ。


「待ち合わせの場所って、定番は有るにはあるんすけど……」

 何を思ったか、圭吾は含み笑いを浮かべて、二人を見つめて言った。

「……定番?」



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