新春 猫にゃんにゃん 其の三
「……で、猫にゃん様がどうして此処においでなのかな?」
寝そべりながら大あくびをしている〝猫にゃん様〟を見ながら、圭吾が聞いた。
「実は、猫にゃんさまは犬わんさまとお約束をおかわしにござりましたが、つい眠気に勝てずにほんの一時うたた寝をしてしまわれましてござりまする」
「あーわかるわ……約束してても、眠いものは眠いもんなぁ……」
「おっ!話しのわかる奴だの……気に入ったぞ」
猫にゃん様は、ポンと膝を……否々腿を……?……とにかく足の一部を叩いて、圭吾を見ながら言った。
「何を呑気な……猫にゃんさま。たとい一時といえど、律儀な犬わんさまの事にござります。さぞやお待ちかねの事でござりましょう」
「……ん……とは言うてもなぁ……」
「はっ!もしやお約束の場所をお忘れではありますまいな?……やや、大当たりでござりましたか?」
「そうなのじゃ、目を覚ましてからずっと考えておるのだが、どうしても思い出せぬのじゃ……」
「思い出せぬと申されましても……」
再びいえもりさまが、二足放心している。
「いえもりさま……」
圭吾が呼ぶと、いえもりさまは我にかえって圭吾の肩によじ登って来た。
「猫にゃん様は、かなりのボケボケみたいだな……」
「お言葉をお慎みくだされまし。ああ見えても猫にゃんさまは、それはそれは尊いお方なのでござりまするゆえ……」
……おっ!いえもりさまも、そう思っているのかと、心中で突っ込みを入れる。
「うーん……そうは見えんが……」
「見えずともそうなのでござりまする」
……おっ!またまた……
いえもりさまは、なかなか正直ものだ。
「わかったわかった……で、なぜ猫にゃん様はうちに居んのかな?」
「……はぁ……それがでござりまする……」
昼間陽当たりの良い二階の空き部屋で、我が家の猫共と仲良くお昼寝をしていると、カタコトと屋根の上で音がした。
あんまり気にする質ではないが、引っ切り無しに猫達が上を見て気にするので、身軽ないえもりさまが、護りたるお役目もあるので、屋根に上がって見る事とした。
そうした所なんとも吃驚な、いえもりさまにとっては霊験あらたかで、それはそれは尊い猫神様の〝猫にゃん様〟が、日向ぼっこをしながら微睡んでおられた。
吃驚仰天のいえもりさまは、その身を呈しありがたくひれ伏してご挨拶をした。
「お久方ぶりにござりまする。如何して此方にお越しにござりましょうか?」
「ほんの一時うたた寝をしておったら、世の中が違ったようで、小高い丘に居たように思うに、その丘が無くなっておった。致し方ないので、そろそろ約束の場に参ろうかと思ったが、その場を忘れてしもうた。どうしたものかと思案しておったが、世がいろいろと変わっておって、何やら面白くなったものだから、ふらふらと遊んでしまった。そうしたら疲れてしまったので、此処で休んでおった」
と、疲れたご様子の〝猫にゃん様〟が答えられたので
「それはそれは、ありがたき光栄にござりまする」
……と言って、いえもりさまは猫にゃん様を、むさ苦しい我が家にお越し頂いた。
「……むさ苦しい……ってのはないけどかな」
……やっぱり正直ものだ……と苦笑する。
「いやいや若さま、猫にゃんさまはそれ程に尊いお方なのでござりまする」
「ふーん……まっいいけどさ。猫にゃん様は、何時までうちにいるのかな?」
「それがでござりまする」
「ふむふむ……」
「お聞き頂きましたが通り猫にゃんさまは、お約束の場所をお忘れのご様子。思い出されるまで、今しばらくおいで頂くことはかないましょうか?」
「はあ?……かないましょうか……ったって……」
「それに猫にゃんさまは、かなりのお方ゆえ……暫しの間私めがお側におらねば大変な事になりまする」
「大変な事?って、いったいなんだ?」
「とてもとても大変な事にござりまする。もう大変な事になっておりまする」
「だからなんだ?そんなに大変な事をしでかす事ができるっての?あの猫にゃん様」
「それは大変にござりまする。あの様なご容姿にござりまするが、神様にござりまするゆえ物凄いお力をお持ちなのでござりまする。のみならず、ご短気なご気性ゆえ、直ぐに事を起こされるのでござります。ゆえに霊験あらたかな……と、もうせるのでござりましょう」
「ふーん……事って?」
「事は事でござりまする」
圭吾は再び、とっても嫌〜な感じがしたので、それを思いっきり打ち消した。