第七話 小笠原沖海空戦
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第一機動艦隊を飛び立った攻撃隊を率いるのは関行男中佐だった。海兵七〇期のこの航空士官は愛機である愛知B8A艦上攻撃機「輝星」の機上で興奮の極みにあった。輝星は名機とうたわれた「流星改」の後継艦攻で、流麗な機体に二基のジェットエンジンを搭載している。
「全機突撃せよ!デカい奴から沈めろ!」
彼の命令一下散開した攻撃隊は猛然と米第71任務部隊に対し殴り掛かっていった。
迫りくる災厄から空母を守るため「ウースター」級軽巡、「ギアリング」級駆逐艦が対空砲火を瞬かせた。だが、彼女たちが守護すべき空母はあまりにも多かった。結果として一部の空域で対空弾幕の密度は低下し、日本軍攻撃隊は次々と米空母に攻撃を加えていった。
ゲティスバーグ級空母「アポトマックス」の甲板に対艦噴進弾が直撃。燃え残ったケロシンが延焼効果を引き起こし、甲板上に火炎地獄を発生せしめた。
その隣では軽空母「アルフレッド」が二つに折れ、甲板上に駐機していたベアキャットが次々と海に転落していく。
「あいつら、やってくれるじゃないか。俺たちも行くぞ、帆足、突っ込め!」
721空の指揮官機で野中五郎は吼えた。24機の富嶽が次々と高度を下げる。彼ら721空の保有機は本来その倍だったが、ハ-54エンジンの構造の複雑さから稼働率が低く、戦力半減の状態で戦闘加入と相成ったのである。しかし、その胴体に抱いた一機当たり20本の航空魚雷の威力は絶大だ。
「容候、容候、ヨーイ、テーッ!」
爆弾槽から20本、全機合わせて480本もの航空魚雷が放たれた。高密度の雷撃網はクラーケンののばす触手のように米空母をからめ捕った。12本の魚雷を同時に受けたゲティスバーグ級空母「ポートロイヤル」が横転、同型艦「プエブロ」「ヴェラクルス」もその後を追った。
「ガッデム…」
バークはギリリと奥歯をかみしめた。空母戦力の優勢を頼み反撃すべきか?いや、最早無理だ。我々は11隻もの空母を喪っている。
いまおれに出来ることは、攻撃隊を収容しつつ退却することだけだ。
「撤退しよう。今作戦は失敗した。攻撃隊を収容しつつ後退、ハワイへ戻るぞ」
「司令官、撤退するのですか!?ここまで来て…」
マッキャンベル参謀長がかみついた。パイロット出身の彼の眼は赤くなっていた。辛かろうな、と思いながらもバークは心を鬼にして命じた。
「ミスタ・マッキャンベル。今回は我々が負けた。だが、この戦争はまだ始まったばかりだ。この戦いを経験した将兵はジャップとの戦いを学んだ貴重な存在だ、一人でも多く連れ帰らねばならない。未来の勝利へ向かって、脱出するのだ。責任は私が負えばよい」
参謀長はうなだれて敬礼すると、撤退指示を参謀たちに出し始めた。
それを見ながらバークは静かに椅子に座った。
(おそらく私は査問会にかけられるだろう。だが、さっき言ったように戦いはまだ始まったばかりだ。日本軍の戦力は強大だが、補充はきかない。それに比べ我々は、まだ多数の空母を保有しているし戦艦部隊は無傷だ。次は必ずわが合衆国海軍が勝利する。絶対だ)
「よくやったな、三島。敵は空母11隻を喪い退却。陛下は今回の戦闘に参加した各員に、お褒めの言葉を賜った。君に対しても何らかの叙勲が行われるだろう」
GF旗艦「播磨」の公室で山口多聞大将は三島をねぎらった。戦勝記念の酒盛りが行われているらしく、艦内には将兵の騒ぐ声が響いている。だが、三島の表情は決して明るくなかった。
「長官。私は職を果たせませんでした。敵の機動部隊は損害を受けながらもいまだ健在、戦艦部隊は無傷です。この状況下で喜ぶことはとても」
山口はふ、と微笑んだ。
「ならば、これからもその手腕をふるい、今回成し遂げられなかった敵艦隊撃滅の策を練ってくれ。アメリカの戦力は巨大だ。まだまだ沈め足りんよ」
そういって山口は一杯やれ、と盃を差し出した。越乃寒梅が注がれていた。
「ありがとうございます」
三島のはらわたに染み渡った酒は、久しぶりにうまかった。
「なぜあなたが解任されるのです、ソック」
バークはどうしてこうなった、と言わんばかりの形相でマクモリス太平洋艦隊司令長官に詰め寄った。
「老兵は死なず、ただ消えゆくのみ、だよバーク君。敵の謀略を見抜けなかった太平洋艦隊司令部にすべての責任があった。君はよくやった。あの状況下で残存空母をよく連れ帰ってきてくれた」
「ソック」・マクモリスは柔和な笑みを浮かべた。それこそ、毒酒を仰いで自殺するソクラテスのような。
「後任の人事は明後日付で発表される。…君だ」
唖然とするバークに対し、マクモリスは大将の階級章を手渡し、その手を固く握った。
「頼むぞ。なんとしても、今回の仇を打て」
新たな公室に入ったバークは日本海軍人事表を持ってこさせた。今回彼の部隊に敗北を味あわせた男がどんな男なのか…。彼の目にある男の名が止まった。兵学校で恩賜の短剣を授与されたエリート。しかし依怙贔屓人事で出世した若手士官を邪険に扱ったとして軍令部の窓際部署に回されていた男。その男がつい最近になって連合艦隊主席参謀の座についていた。
「トモカズ・ミシマか。今回はお前にしてやられたが、借りは必ず返す。次は小手先の謀略に引っかからないぞ、正々堂々勝負だ」
バークの双眸に、熱い炎が灯った。
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