episode70
突如現れた新任の教師は、オレの叔父だと名乗った。オレは叔父...里倉には会った事がないので、イマイチピンとこなかった。しかし、里倉はオレを見るなり泣きそうな顔をしながらオレの両手を握りぶんぶんと振った。
「京司...!貴方が赤ちゃんの頃に会って以来だからほぼ初めましてですが...。お母さんに瓜二つになりましたね!すっかり大人になって...」
「えっと...里倉先生?オレには何がなんだか...」
「そ、そうですね。すみません...。あまりにも嬉しくて、つい。」
オレは別に良いのだが、オレの後ろにいる叶弥が大丈夫ではなかった。里倉が手を握った事が気に食わなかったのか、オレを背後から抱きしめて里倉に睨みをきかせた。
「?君は?京司の友達ですか?」
「あ?オレは京のこい...ふぐっ」
「あぁ、コイツはオレを引き取ってくれた家の息子さんです。」
「...もしかして、"五十嵐組"...?」
「えぇ。」
オレがそう言うと里倉は顔を暗くした。
「本当は私が引き取りたかったのですが...。姉さんとお義兄さんはほぼ駆け落ち同然だったもので...。その末に生まれた京司の事も親戚一同が腫れ物を触るかのような扱いで...。葬儀も貴方のいない所で済ませてしまって、直接お別れをさせてあげられなかったのが今でも悔いに残っています...」
「あれ?でも駆け落ち同然だったのにどうして赤ん坊の頃のオレを知って...?」
「もともと私と姉さんの関係は悪くなかったので、手紙のやり取りをしていましたし、こっそり姉さん達とも会っていたんです。その時に赤ちゃんだった貴方にも会っていたんです。」
なる程。そういう訳か。どうりでオレには記憶が無くても里倉には、一つの思い出として残っている訳だ。里倉はジッとオレを見つめると、とんでもない事を言ってきた。
「京司。もしよろしければ私の、ウチの子になりませんか?私も結婚しているのですが、妻が不妊で子供がいず...。姉さんの忘れ形見である貴方を引き取りたいのです。京司。貴方もいつまでも赤の他人のお世話になる訳にはいきませんでしょう?」
「返事は直ぐにとは言いません。」そう言うと、「校長室までの案内、お願いします。」と促してきたのだった。
里倉を校長室へと案内し、教室へと行ったオレ達はどこか上の空であった。急に母の弟でオレの叔父を名乗る男が現れたのだから仕方もないであろう。オレの中では五十嵐の家を出る。なんて事を考えた事はなかった。五十嵐組で若頭となる叶弥を支えながら生きる。五十嵐の家に引き取られてからオレはそう生きていくのが当たり前だろうと信じてやまなかった。それが今更現れたぽっと出の叔父によって崩されていってしまう。オレはそれに恐怖を感じた。もし、里倉が凛太朗さんの元へ行ってオレを引き取りたいと申し出たら?凛太朗さんはどうするだろう。家族の繋がりを大切にする人だ。もしかしたら...。そう考えてしまっているオレに、「京司」と叶弥が声をかけてきた。
「たしかに血の繋がりは大事だ。だがな、今のオレ達にはそれよりも強い絆で繋がっている"家族"である事に違いはない。それはオヤジも組の連中も同じ考えだ。だから安心しろ。お前は、"田河 京司"は将来オレの、"若頭補佐"になるんだろう?違うか?」
オレは叶弥にそう問われ首を横に振った。
「...違わない。オレは"五十嵐の人間"として生きていく。そう決めたんだからな。」




