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第七章

「不審者、とんでもねー奴らしいぜ!」


 受業は次の時間も自習になった。が、情報が早い山本は、前の時間突如とした起きた異変の


詳細を、もうスマホから仕入れていた。


「何でも、火を吹いたらしい……口から」


「は?」優は強めに聞き返した。それではウルトラ怪獣だ。バルタンが好き。


「いや、マジだって」


 生徒達の寄せられる眉に、山本は手を振る。


「ガソリンみたいなものを口に含んで火を吐くんだとさ、そんな芸があったろ? で、どうも


格好はこの学校の運動部のもので、顔は包帯だらけで判らない、とさ」


「なんだそれ」


 優が呟くと、何故か彼を取り囲んでいる女子生徒達が、同調して頷く。


 どうも想像しにくい犯人だ。山本情報が正しいのならバカバカしい位に支離滅裂だ。


「……だから職員会議か」


 権現先生も列席している会議を思う。時計塔高校敷地内で、運動部姿なら生徒である可能性


が高い、となると学校側は『管理責任』という避けたい問題にぶつかるのだ。


「おいおい、学生の悪戯にしちゃあ度を超えているだろ? 生徒に火を吐いたんだぜ! ガソ


リンだし、一歩間違えば大惨事だよ」


「確かに……」優もそこは認め、他の生徒の後ろに隠れるような古乃美を思った。しばらく彼


女の傍らから離れられない。


「それって……」数秒の空白の後、優の隣の女子生徒が、おずおずと口を開く。


「怪人……なんじゃないの?」


 瞬間、集まった生徒達が凍り付いた。皆、怯えたような、何かを期待しているような、どっ


ちつかずの視線を交わし合う。


「バカバカしい」その意見を突き放し椅子の背に保たれる優だが、一年二組の面々に浮かぶ憂


色は消えない。


「……この学校は、怪人に呪われた学校だ」


 山本の声は珍しく沈んでいる。


「大正時代の開校以来、幾多の怪人が跋扈し、報道できないような事件を起こしてきた、その


王様が……」


「髑髏の王」


 優が驚いたのは山本の言葉を継いだのが古乃美だったからだ。早川の隣で今まで口を開かな


かった彼女が、ぽつりと漏らした。


 教室が静まり返り、突然エアポケットの中のような静寂が訪れた。 


「……で、狙われたのは誰?」


 耐えられなくなった優が訊くと、山本は「ああ」と元気なく応じる。


「野球部の先輩だって。スポーツ特待で受業免除だから練習してた」


「え! そ、それって三浦先輩?」


 今までただ唇を結んでいるだけだった早川里見が、びくり、と体を震わせる。


「い、いや」山本は見たこともない迫力の彼女に気圧されている。


「……違うけど」


 ほうっ、一回り縮むくらい大きく、早川が息をついた。


「お前、もしかして」 


 山本が敏感に気配を察すると、あわあわあわと早川は小さな腕を上下させる。


「ち、違います。そんなんじゃないです、そんなんじゃ、ありませんっ」


 非常に判りやすい反応だが、目元まで赤くした彼女の動きは、すぐに止まる。


「そんな筈がないでしょ? 私が三浦先輩なんて……そんな高望み無いよ……ただ、ただ昔か


ら近所で、昔から知っていた、というだけ、昔から優しかったの、それだけ」


 昔から好きだったの、としか優には聞こえない。


「そうだよなあ、三浦先輩、付き合っている彼女いるしなぁ。ええと、須藤先輩だ……こない


だもデートしてた。映画観て喫茶店行って、ラウンドニャンで二時間」 


 山本は無神経な情報通か、無神経なストーカーだ。空気を読めない情報を持ちすぎている。


「……でも、なんだかあの二人、最近ギクシャクしているって噂だけど」


「それは! 須藤先輩が酷い人なのっ。須藤先輩は、三浦先輩と付き合っているのに、橋爪先


輩に告白したらしいの! 酷い人」


 また早川にスイッチが入り、そのまま怒りをぶちまけそうな勢いだったが、皆の視線が集ま


っていると悟り、腕を上下させてあわあわを再開させた。


「あ、別にそんな…私、その、そんな意味じゃなくて」


「そうだ!」山本が自前の空気を読まない能力を駆使して、膝を打った。


「火廻り、てのはどうだ?」


「ヒマワリ? なんだそれ?」誰かのツッコミに、山本はドヤ顔になる。


「今度現れた怪人の名前……怪人・火廻り! ……だってこの高校の名物だろ? 決めた、怪


人・火廻り、だ」



感想、いいね、評価、ブクマ。




頂けたら幸いです。

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