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第十七章

 鐘は途切れ……髑髏喰は駆けた。


 鉄のグラブとブーツ、それらの重しを着用しながら疾走できるのが、怪人・髑髏喰なのだ。


 火廻りが近づく、残った右腕が上がる。


 髑髏喰は次の瞬間、後方に跳んでいた。


 火廻りの一本しかない腕が再び爆発して、辺りにこまごまな人体を降らせる。


「……だろうな、手品の種明かしは一度きりだ」


 両腕を失った火廻りに髑髏喰は改めて接近する、紅蓮の火炎がドラゴンの舌のように伸びた


が容易く片腕でガードする。


「宴会芸は俺には利かない! ほらっ! やるよっ!」


 火廻りの表情が大きく歪む。鉄の拳が腹部を深々とえぐったのだ。


「おおおええええっっっっ!!!!!」


 口からガソリンを吹き出した火廻りは、その場に崩れ落ち、苦しみにのたうつ。


 巻き散らかしたガソリンがばっと引火し、二人の怪人は炎に包まれた。


「確かにお前は怪人だ、が大した怪人ではない。俺の敵にはなりえない」


 炎など微塵も気にせず、髑髏喰は鈍色の拳を構えた。


 敵たる火廻りはほぼ戦闘不能にした。しかし相手は『怪人』なのだ。油断してはならない。


 ちらちらとした炎のために判別できるが、自分の血の中で足掻く火廻りの脚には、包帯がび


っしりと巻かれている。


 脚の肉も削り、火薬をべたべた詰めているはずだ。


 髑髏喰は火廻りの頭に狙いを定めた。鋼鉄の拳は頭蓋骨など容易く破壊する。


「……さて、祈ったか?」


 ……が、


「待って!」


 髑髏喰の総身が震動する。いつの間にか何者かがこの場に居合わせていたのだ。ただ、振り


向かない、振り向く必要がない。声で判る。



 三田村古乃美。



 あれだけ、動くな、と言い含めたのに聞いてくれなかった。


 突風が怪人達を彩っていた炎の息の根をぷつりと止め、辺りは突然暗くなる。


「……そこまでよ。もう終わり、終わりです」


 そう宣言した古乃美に、髑髏喰は大仰さを演じて振り返る。


 彼女はかたかたと小刻みに震えていた。顔からは血の気が引いていて、強風の中二つの三つ


編みが助けを求めるように動き回っている。


「もうその人はもう動けないわ。だから傷つける必要はないの。殺す事はないの。後は警察に


引き渡して……」


 彼女は怪人・火廻りを指している、だが怪人はこんな事では殺戮を諦めない。諦めないのだ。


 怪人は目的を達するまで動き続ける。ゾンビのように、機械仕掛けのように、立ち上がる。


 殺さない限りだっ!


 髑髏喰は微かに迷った。迷いなど無いはずの彼が、躊躇したのだ。


「お願い!」古乃美の口調に熱が帯びる。


 ふう、と息を吐き、髑髏喰はゆっくりと腕を降ろした。


「ほっ」古乃美は安心したように胸に手を置いた。



 次の一瞬で髑髏喰は火廻りの頭部を潰した。無造作に片方の拳だけで。生卵が中空で破裂したかのように、ぐしゃりと目玉や内容物は飛び散った。



「きゃあああっ! うわわわわわわっっっ!!!」


 古乃美は声の限り叫び、その場に跪く。


「ひ、ひどい……」じわっと目に涙を溜めながら、彼女は見上げてきた。


「殺す事無かったのに。ひどい! ……あなたそれでも人間なの?」


「……違う」髑髏喰は仮面の下で、苦労して声色を変えた。


「俺は怪人だ、人間ではない。人間の理にも言葉にも従わない」


 古乃美の背後、屋上への出入り口が騒がしくなる。警官の姿がちらほら見え出した。


 髑髏喰は素早く踵を返す。


「待ちなさい!」鋭く古乃美が制しようとした。


「逃がさない! ……ここで逃げても私が探す……怪人・髑髏喰。私が必ずあなたの仮面を剥


いで、その罪を償わせる! 絶対の絶対の絶対!」


 髑髏喰は無言だ、語る必要がない。ただ屋上の鉄柵を跳び越え、黒々とした闇へと舞う。



 体にまとわりつく闇は、太陽の光よりも火廻りの火薬よりも、暖かかった。



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