第九章
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「あれ?」
と、立ち止まったのは見知った少女を見つけたからだ。早川里見が階段の横の壁に寄りかか
っていた。一人でじっと考えているようだ。
「早川さん」
「ひ、ひわわわ、かか葛城君、と、古乃美……ど、どうしたの?」
相変わらずあわあわと両腕をバタバタする様子に、優は微笑む。
「君こそどうしたの? こんな所で」
「ええっと、その、何でもないよー」
すーすーと尖らせた唇から空気が漏れる。口笛のつもりらしい。
「ヘンなの、里見」早川の前だと普通の古乃美が、その様子にくすくす笑う。
「悪かったわね! このっ」
早川は古乃美に掴みかかろうとしたが、その前に「どうしてだよ!」という男子生徒の声が
聞こえ、彼女の動きがぴたりと止まる。
「なんだ?」
優は頭だけ横に倒して、階段を覗いた。上階へ続く踊り場に一組の男女が居る。
三浦先輩と、今時の女子高生らしい可愛い女生徒が言い争っていた。
「何あれ?」誰ともなく尋ねると、表情を曇らせた早川が「三浦先輩と……須藤先輩」と律儀
に答えてくれた。
――なるほど。
優は状況を理解した。思い人とその彼女の様子が気になって、二人の話を早川は聞いていた。
密かに窺っていたのだ。
「何で、何でそんなこと言うんだ! 今更、俺頑張っているんだ! お前のために、もう橋爪
に負けないし……だから……」
「ごめん、三浦君、でもあたし……」
「俺がもうエースじゃないからか? 橋爪の方が優れているからか?」
「違うわっ!」
優は苦い気分になる。他人の諍い、しかも男女のもつれに関わりたくない。
迷惑だし面倒この上ない。だが早川と古乃美の息はぴたりと合っていて、二人共さっと壁に
張り付き聞き耳を立てている。
「……古乃美ちゃん」
「しいっ」険しい顔で古乃美は口の前に指を立てた。
「ごめん、三浦君……でも、これ以上、あたし、自分にウソつけない」
「何でだよ! アイツはもう居ないんだぞっ」
「ごめん……ごめん、ううう」
あちゃー、と仕方なく聞いていた優は頭を抱えた。須藤がついに泣き出し、その場にへたり
込んだのだ。とんだ愁嘆場である。
「納得できねーよ! 納得しねーからなっ」
割れた声を残した三浦が階段を駆け下り、彼等のすぐ近くを通過して行った。
「あ」と早川が微かに声を出す。
うっうっうっ、と須藤がしゃがみ込んで泣いている。
――これは、どうしようもない……
ぼんやりそう考える優の横を、むん、と肩を張った古乃美が歩いていく。油の切れたブリキ
ロボットのようなぎこちない足取りで階段を上がり、須藤の傍らで止まる。
「せ、先輩っ……これ使って下さい」
古乃美はポケットからハンカチを取り出し、彼女に手渡した。
――またいつものおせっかい……
仕方なく、優は彼女の背に続いた。
「あなた達は……うん?……君は……かつら、ぎ君? よね? 葛城優君。超イケメン高スペ
ック後輩って、あたしの学年でも有名人よ……友達や先輩達、何人も熱心に推してるわ……そ
れと……あなたは?」
優は唇を結んだままだ。答える必要がない。彼は黙って傍らの古乃美に視線を向ける。
「私は一年の三田村です。三田村古乃美」




