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第百二十六話 桃と黄と青

先日は休ませていただきありがとうございました。


第百二十六話 桃と黄と青



サイド 黄瀬 薫子



 ボロボロの街を、桃花の後ろに乗せてもらい走る。凄まじい速さで流れていく景色の中、視線を彷徨わせた。


 萌恵と行った小物屋にトラックが頭から突っ込んで潰れている。


 桃花と行った服屋のあるデパートは踏み潰された様に崩れ、葵と行ったバーは燃えていた。


 そして、小さい頃に翠と喧嘩したおもちゃ屋も……今は残骸だけが残る。


「接敵しますよ、薫子」


「ええ、任せなさい」


 怒るべきなのだろう。憎むべきなのだろう。氾濫を引き起こしただろう有川大臣に化けた怪物を、そして今正に破壊を続ける巨人どもを。


 だが、負の感情に飲まれて討ち取られるのは面白くない。戦いの中で死ぬ事は本望ではあるが、別に進んで死にたいわけではないのだ。


 優先順位が定まっている。ただそれだけ。過去のなんて事のない日常の思い出よりも、今とこれからの命をかけた戦場こそが黄瀬薫子の最も渇望するものなれば。


 私のうちを満たすのは、これから起きる戦いへの高揚のみであった。


 蹄でアスファルトの地面を傷つけながら疾走するユニコーン。時速二百キロ以上を叩きだすその俊足でもって、既に巨人の姿を正面に捉えている。


『■■■■■■■■……』


 ビルの中に腕を突っ込み『なにか』を掴みだす巨人。よほど飢えているのだろう。こちらには目もくれずに両手で貪り食っていた。


 当たり前と言えば当たり前。巨大で強力なモンスターという事はそれだけ存在を維持するのに魔力を必要とする。要は燃費が糞みたいに悪い。


 氾濫が始まって現在二十分いったかどうか。たったそれだけの時間で奴らは消滅の危機に瀕している。


 何が言いたいのかと問われれば、たった一言。


「隙だらけ」


 足元を駆け抜け様に、巨人の足首へと思いっきり剣を叩きつけた。


 なるほど、あの巨体を支えるだけあって頑丈だ。しかし、そんなものは関係ない。


『■■■■■────ッ!!??』


 絶叫とも驚愕ともとれる雄叫びをあげて転倒し、近くのビルに頭から突っ込んだ。



『固有異能――破壊者』



 私のこの剣に物理的な強度など関係ない。その辺のブロック塀だろうが戦艦の装甲だろうが、等しく発泡スチロールの様に叩き割る事ができる。


 左足から大量に血を流して声をあげる同胞に反応してか、他の巨人どもが私達に視線を向ける。


 それは足元を這いまわる虫けらに向けるものではない。明確な殺意の籠められた、『敵』であり『獲物』への視線。


「クハッ」


 上等だ。お互いに求め合おうじゃないか。命という宝を奪い合うからこそ、戦いは面白い!


『■■■■■■■■■■■■────ッ!!!』


 咆哮をあげながら迫る巨人たち。その一歩が踏み出される度に大地が揺れるというのに、しかしユニコーンの足は一切臆する事はない。


 純潔の象徴とされるこの聖獣のもう一つの側面。地上のいかなる馬をも上回るその走りが今ここに発揮される。


「全機、攻撃開始」


 駿馬の疾走も巨人の殺意にも一切心が動かされた様子もなく、桜色の髪をなびかせた飼い主殿が静かに告げた。


 黄金の錫杖が振るわれる。そして、それに応える様に轟く獣の遠吠え。聞く者に否応なく本能的な恐怖を与えるその咆哮は巨人たちの足さえ一瞬止めさせた。


 トラックなみの巨体に赤黒い体毛を生やした怪物。口の端から涎の代わりに炎を噴かせ、深紅の瞳を爛々と輝かせる存在が崩壊した東京を見下ろしていた。


 魔獣ガルム。地獄の番犬と伝わる神話の存在が、同じくおとぎ話の存在とされてきた巨人たちへと牙を剥く。


 ビルの屋上から突如現れたその影が駆けていた巨人に跳びかかり、その喉笛を狙う顎。


 だが相手もる者、不意を打ったその一撃をなんなく回避するなり咄嗟に裏拳で迎撃さえ狙う。


 それに対しガルムはその四肢を折り曲げたかと思えば空中で拳を木の葉の様に避けるなり、逆にその腕を足場として疾走してみせた。


『ガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!』


 獣の咆哮と共にその牙が巨人の首に吸い込まれる。


 牛さえ丸のみにする大口。戦車砲すら防ぎかねない強度を誇る皮も肉も力ずくで食いちぎり、ダムの決壊の様に血潮を宙に放出させた。


 声にならない悲鳴をあげてよろめく巨人。その肩を蹴って別のビルの中に跳び込み、オフィスを破壊しながら獣は姿を隠した。


 首の傷を押さえる巨人とはまた別の個体も、一匹の龍と交戦中である。


『オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!』


 普段ならばその瞳に深い知性を感じさせるピラトゥスドラゴン。スイスにある『遭難者を助けた龍』として伝承が残るかのドラゴンは、しかし今だけは魔物の本能のまま牙と爪を振るった。


 全長九メートルほどの巨体をもつ龍は両翼を広げて宙を自在に舞い、巨人の槍を危なげなく避けてみせる。


 ドラゴンと巨人。先の地獄の番犬との戦いも合わせて、さながら神話の再現じみた光景がビルに囲まれた中で繰り広げられていた。


『■■■■■■■!!!』


 幾度槍を突いてもかすりもしない。魔力不足という飢餓状態で突然現れた強敵を前に、元より理性を失っていた巨人の瞳が獣性に飲まれていくのが見てとれた。焦りか怒りか、乱暴になった槍の横薙ぎを躱した直後にドラゴンは体を翻して尾を振るう。


 宙を舞いながら繰り出された縦一回転。巨人の右目がその一撃で潰れ血をまき散らした。怒りと痛みの声をあげる巨人が更に攻撃を激しくするが、むしろ好機とばかりにドラゴンは奴の懐に飛び込む。


 引き絞られる強靭な四肢。そこに膨大な質量と速度をのせて巨人の胸へと突撃。斜め上から踏みつけられるようにして、近くのビルへとその巨体が叩きつけられた。


 ガラス片と瓦礫がガラガラと地面に落ちる中、巨人の眼前でドラゴンの顎が開かれる。


『ォ──────!!』


 放たれるブレス。収束した魔力の奔流は、解放される直前でその頭蓋に叩き込まれたフックで逸らされる。


 ビルに押し付けられたまま巨人が放った拳を受け、龍の口から放出されたブレスが向けられた先は奴の右肩。熱線を受けた巨人が絶叫をあげ体を跳ねさせ、のしかかるドラゴンを強引にどかす。


 翼をはためかせ悠然と空に逃げるピラトゥスドラゴン。それを憎々し気に睨みつけ、槍を投擲せんと構える巨人。右肩と右目から夥しい血を流しながら、その一撃が外れるとは思えないほどの覇気を感じた。


 そんな光景を私達は……桃花は見ている。


 当然、見ている『だけ』などという事はありはしない。


 もう一体の使い魔、不死身の鳥『フェネックス』。その視界も同時に受信しながら桃花はそれぞれの敵の位置を正確に把握していた。その次の行動さえも。


「―、――、―――」


 桃花が左手に握る木札に何かの数字を唱える。錫杖もあって両手が離れている手綱を代わりに操作し、ユニコーンを走らせた。


 私達が巨人を仕留めるのは難しい。この剣の刃渡りはあの巨体を斬り殺すには短く、彼女の使い魔達は強力だが巨人を圧倒するほどではない。



 しかし―――ないのなら、余所からもってくればいい。



 妹の様に巨人と正面から打ち合う体を用意する事はできない。


 狩人の様な機動性と破壊力を同時に持つ事も難しい。


 だがそれがどうした。あいにくと私は英雄譚に出てくる様な戦も大好きだが、血と泥にまみれた戦いも好きなのだ。その勝利に、戦いに、貴賤などありはしない。


 いいや、本音を言おう。戦いの場に立てるならなんでもいい。


 ピラトゥスドラゴンを狙い、槍を放とうとした巨人。その頭部が突如爆発する。続けて私が転倒させた個体、ガルムが首の肉を引きちぎった個体もまた頭を爆散させた。


 衝撃波と青い光の混じった爆炎。その中を白い骨と赤い血肉が落ちていく。その破壊力たるや巡航ミサイルに匹敵するかもしれない。


「びゅーてほー」


 適当にそう呟けば、木札から声が返ってきた。


『当然です。私のデータは完璧ですから』



*   *   *



サイド なし 



 東京都某所。とある山中。


 桜井家本家邸宅に比較的近いその中腹にて、数人の男女がいる。


 簡易的な天幕が張られた場所では動きやすさを優先してか、ツナギ姿の男女がパソコンを始め幾つもの機器を操作し何かを話している。


 まるで映画に出てくるワンシーンの様な光景だが、場違いなモノが二つ。


 一つは、電子機器という現代的な物品の中に魔法陣の様な物が書かれた木札がある事。それも、かなり重要な物とばかりに扱われている。


 もう一つは、天幕から少し離れた位置に立つ一人の女性だ。


 ボブカットの黒髪に青いメッシュを入れた眼鏡の人物は、その端正な顔立ちに一切の表情を浮かべる事なく目を閉じている。


 いっそ人形かと思うその姿だが、頭部から生えた獣の耳や臀部の尻尾が時折揺れる事で生きている事を伝えていた。


 また、その服装もかなり変わっている。


 頭には南米の部族が付けていそうな鳥の羽飾り。胴体には青い着物を身に着けているものの、右腕が肩から露出する様にしてサラシを巻いた胸まで露わにしている。更には腰から下は黒い布を前後に垂らしただけという、やたら露出が多い上に国際色が豊か過ぎてわけがわからない。


 ついでに言えば、腰から酒の入った瓢箪まで提げていた。本人の顔立ちが怜悧な美女のそれ故に、格好の珍妙さが際立っている。


 そんな不審者の誹りを免れない彼女に、ツナギ姿の女性が話しかけた。


「荒川様!お嬢様から射撃用意の指示が来ました!」


「わかりました」


 恭しくもハキハキとした声を耳にして、ようやく女性……『荒川葵』はその切れ長な目を開く。


 彼女は大きく左足を前に出した。それこそ小さく地響きがなり、足首まで地面に埋まる程に。


 そして左手を突き出したかと思えば、掌に一張の洋弓が現れた。


 木製のシンプルな作りをしたその弓の大きさは、なんと三メートル以上。本来人が使う弓は大きくても二メートルと少し程度のはずである。地面に下の部分がつかないようにかなりの角度をつけて構えているが、それでもおかしい。


 更には、彼女の剥き出しの右腕にも変化が現れた。


 まるで黒曜石で固めたかの様な巨大な手甲。それが包み込んだのだ。指先が余裕で地面につきそうなその巨腕には、一本の槍が握られている。


 荒川葵はその巨腕でもって槍を弓に番えた。まるで矢をつがえる様に。


 いいや、それは本当に矢なのだ。矢羽根さえも取り付けられた、黒い鏃を持つそれは弓に劣らず巨大なれども確かに矢であった。


 ギチギチと弦が引かれる。いったいどれほどの力が加えられているのか、辺りに弓が引き絞られていく音が響いた。


「目標地点の画像はこちらです。高さ十七メートル、目標は巨人の頭部との事です」


 ツナギの女性がそう言いながらパソコンの画面を荒川葵に見せるようにして向けた。それを彼女は一瞥だけすると、無言で僅かに構えを調整する。


 それは弓に関わる者であれば国を問わず疑問を抱く不可思議な構え。狙った位置になど飛ぶはずがない。


 しかし、世の中には例外が存在する。



―――荒川葵。二十五歳。彼女はかつて将来を有望視されるアーチェリーのホープだった。


 小学生でありながら高校生も出る大会で優勝。既に世界レベルにも達するとされた彼女の腕は、日本ではあまりメジャーではないスポーツだというのに多くの注目を集めた。


 日本の一般家庭から生まれた突然変異。そうとしか言えない彼女の出現に世間がわいたが、最も反応したのは両親だろう。


 彼らはできうる限りの教育を彼女に与えようとした。練習場所を、コーチを、時間を。自分達の娘の才能を殺さないために。


 そうして雇われたコーチたちも皆全力で荒川葵の教育に取り組んだ。それが弓を愛する者としての情熱か、あるいは己の名声の為だったかは定かではない。


 しかし。確かなのは『全力』だった事。皆が皆、教えられる側も含めて必死だった。


 その結果は―――県大会ですら、結果を残せないほどに彼女を落ちぶれさせた。


 断じてコーチたちが無能だったわけでも、葵が怠惰だったわけでもない。しかし、その努力が実を結ぶ事はなく、何よりこの世の判断材料で最も確かなものは『結果』である。


『神童も歳をとれば凡人』『早熟だっただけ』『これが彼女の限界』


 注がれた期待は失望へと変わり、世間の関心は彼女から離れていく。それでもなお、両親は諦めきれなかった。


 かつての栄光というのは誰にとっても忘れ難き美酒である。それ故に毒となるこれに、彼女の両親は病みつきだった。


 貴女ならもっとやれるはずだ。


 期待は妄執に変わり、荒川葵を傷つけた。親の思いに応えようとした子の心身に深々と。なまじ最高の『射手』としての教育環境が、彼女に普通の教育というものから遠ざけたのも一因だっただろう。


 そして、とうとう限界はやってくる。張り詰めた弦が切れる様に、唐突に彼女は父親の部屋から猟銃を盗み出して家を出た。


 深夜。月だけが彼女を照らす中。いったいどこへ向かうつもりだったかは本人もわからない。


 ただ、その先には誰にとっても悲劇としかならない結末が待っていただろう。


『やあ、お嬢さん。こんな夜更けにお出かけかい?』


 立ちはだかった、赤毛の女がいなければ。


『夜を暇だと言うのなら、どうか私に君の時間をくれないかい?絶対に、退屈だけはさせないから』


 竹刀袋から木刀を引き抜いた女は、空に浮かぶ三日月の様に微笑んだ。



 引き絞られた矢が、放たれる。


 弓からは『カーン』という音が響き、ほんの僅かに遅れて矢が風を切る音と衝撃波が辺りをつつんだ。


 放たれた矢は雲の上まで飛んでいき、肉眼では追う事ができなくなる。いいや、そもそもその速度だけで常人では目視不可能の領域であったが。


 本来なら当たらない矢。途中でどこかに落ちて、下手をすれば『悲劇』をうみかねないその一射。


 しかし。


「――命中報告!巨人の一体を撃破!」


 天幕からの声が響く。それに対し、葵は無言無表情のまま次の矢を生み出し弓に番える。


 この弓はただひたすらに強靭かつ強力なだけである。


 この矢は戦車すら一撃の破壊力が籠められているだけである。


 この手甲はただひたすらに強く大きな弓を引くだけのものである。


 その一射を必中とするのは、ただ偏に彼女の技量のみであった。


――彼女に弓の何たるかを教えたコーチたちは決して無能ではない。むしろ優秀でさえあった。


 ただ一点。彼らは大きな勘違い……いいや、常識に捕らわれていた故に見誤った事があった。


 本来、狙撃とは周囲の風や湿度。距離など様々なデータを頭にいれ、計算をしなければならない。極論、『馬鹿に射手は務まらない』。


 だがしかし。先人が残した言葉にこんなものがある。



『馬鹿と天才は紙一重』



 正確な意味はやや違うかもしれないが、文字通りの意味では当てはまる。


 荒川葵、二十五歳。彼女は凄まじいまでに……馬鹿だった。


 同時に、構えも計算も何もかも放り捨てているのに『的に当てる』天才でもあったのだ。


『びゅーてほー』


 天幕に置かれた木札から聞こえてきた仲間の声。それに対し、彼女はキッパリと答える。それが世界の真理であるかのように。


「当然です。私のデータは完璧ですから」


 ついでに言えば、自分を『心の底から頭脳派だと思い込んでいるタイプの馬鹿』だった。




Q.結局青いのはなんなの?

A.の●太くんからあやとりの才能と形状記憶合金メンタルを抜いて、代わりにクール系美女のガワと狂人メンタルを突っ込んだなにか。


Q.三人はなにをやったの?

A.黄色が敵の動きを止めて、桃色が座標を目算で出して、青色が撃ち抜く。それだけですね。


読んで頂きありがとうございます

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。

心配して頂きありがとうございました。体調を崩しやすい季節ですので、私が言えた事ではありませんが皆さまもお体にはお気をつけて。



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― 新着の感想 ―
止まっている的なら距離があっても風だけを読めれば命中させられるでしょうけど、無作為に動いている巨人を数=数十キロ先?へ狙撃して命中させるのは不可能かと。 自動追尾のスキルとかないとさすがに。 それ…
[一言] ユニコーン? あれ?京太郎サン何してるんですか? バケツヘルムのバーサク弾丸狂人が四つんばいしてるシーンが脳裏に浮かんでしまうのですがなんででしょうか。
[良い点] 青いの誰も悪くない、いや悪いのは青い奴の頭だけだったとか予想できんやん
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