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第百五話 雪音の強化

第百五話 雪音の強化



 祝勝会から二日後。十月も目前となり、気温が段々と夏だった頃とは離れ始めた頃。


 学校も休みだし、依頼も補習もないので人工異界にレイラ達と集まる。理由はもちろん、異界内にある工房の机の上にある二つの『ドロップアイテム』についてだ。これらは駄騎士さんとのトレードの結果である。


 祝勝会から帰るなり届いた目録を読み、レイラ達とも相談した結果この二つを選んだのだ。連絡してすぐに交換となったあたり、駄騎士さん側もかなり焦っていたらしい。


 なにやら電話越しに『取れ高が……ネタ切れが……』と聞こえていたが、気にしない事にした。


 怨霊一歩手前な事を呟いていた自称騎士の事は置いておいて、トレード品を見ていく。一つは勿論『ユニコーンの角』。純白に金の螺旋が描かれたそれは、美しくも本能的に恐怖を覚えるほどに鋭い。伝え聞く通り、そこらの槍よりよほど鋭そうだ。これのみを見せられれば、『聖槍の穂先』と言われても信じてしまいそうなほどである。


「レイラ、早速これで『白の魔石』が作れるか試してもらえる?」


「はい。お任せください。準備はできております!」


 ニッコリとほほ笑んでくれるレイラ。そうして彼女が机とは別の台座にある物を手で示す。


 それは木桶の中に銀色の三脚を設置し、その上部に何かを嵌める輪が取り付けられた非常に奇妙な……というか珍妙な魔道具だった。


 え、これなの?


「その……これは?」


「これにユニコーンの角を嵌め、先端を水に浸しておく事で魔石を作る魔道具です。勿論木桶部分と銀色の塗装は『林檎』を材料に使っております」


「な、なるほど……これで大丈夫なの?」


 言っては悪いが、見た目がちゃっちい。木じゃなくてプラでいいのなら百均で揃えられそうである。


 そんな自分に、レイラが困った様な笑みを浮かべた。


「これが試作品というのもありますが、大切なのは『綺麗な水』と『ユニコーンの角』。そしてそれらが放つ魔力を受け止め循環させる器ですので、シンプルな作りでも問題ありません。見た目はあまりよくありませんが」


「そういうものなんだ……」


「そういうものです」


 まあ、彼女が言うのならそうなのだろう。


 早速レイラが三脚の上部にある輪っかに上から角を刺し込んで、その先端が下にある桶の中に行くようにした。


 そして桶へとペットボトルに入れた水道水を流し込む、と。


 ……水道水でいいんだ。いや、日本の水は凄く綺麗って事で有名だけども。


 ま、まあ。ユニコーンの伝説が作られた頃ではこれほど綺麗な水を用意するのは大変だっただろうし、多少はね?


 なんとも言えない気持ちになるが、それも彼女が水に手をかざして呪文らしきものを呟くまでの事だった。


「おぉ……」


 角とそれが浸された水が淡く輝きだしたのである。なんとも幻想的であり、視ているだけで心が洗われる様だ。


 魔力感知に疎い自分でも感じられる清浄な気配。なるほど、これは『聖獣』とユニコーンが呼ばれるわけだ。


 先ほどまで不安がっていたのも忘れて、少しの間その光に見とれてしまう。そんな自分にレイラはニッコリと微笑んだ。


「これで三日ほど待てば魔石ができるはずです、主様」


「ありがとう、レイラ。疑ってごめん」


「いえ、見た目が悪いのは事実ですから」


「ありがとう。それじゃあ、もう一つの方を見ていこうか」


 そうして視線を向けた先にあるのは、一発の古びた鉛玉だった。


『竜殺しの魔弾』


 主にルーマニアで伝わる竜、あるいは竜人である『ズメウ』。現代のダンジョンに現れたそれは人と竜を掛け合わせた様な姿をしていたらしい。そのランクは『B』と、似た見た目のリザードマンよりも格上である。


 駄騎士さんが自衛隊よりズメウのダンジョンの間引きも依頼された事があったそうで、その際にドロップしたのだとか。


 それで、そのズメウであるが……伝承だとあんまりパッとしない。いや一部のズメウは凄まじい力や知能を持っている伝説もあるのだが、全体だと微妙である。だがそれでも『Bランク』なあたり、やはり『竜』というのは恐ろしい。


 だが今重要なのは、伝承におけるズメウの死因に『鉄砲で撃たれた』というのが存在する事。


 魔弾の伝説は数あれど、仮にも竜を殺した銃弾などそうはないだろう。ズメウのドロップするこれは、死因として伝わる神通力を付与された弾丸なのかもしれない。


 魔力感知に疎い自分でさえもわかるほどに、現代の弾丸と比べて原始的な見た目でありながらかなりの威圧感を放っている。


「この弾丸を加工して魔道具を作るんだよね」


「はい。雪音の扇子に仕込もうかと」


 そう、この魔弾の使い道は雪音の強化である。送られてきた目録を見た時にピンときたのだ。


「改造にはどれぐらいかかりそう?」


「およそ三日でしょうか……なるべく早めに仕上げましょう」


「いやいや。別に急ぎではないし――」


「あのっ」


 レイラと話していると、それまで無言だった雪音が声をあげる。


 何か改造案に意見あるのかと視線を向ければ、彼女はどこか不安そうにしていた。


「よろしいのでしょうか。ワタクシがそれを使わせて頂いても」


「うん?そりゃあ勿論」


「ですが、元はあの羽は旦那様の武装に使うはずだった物。旦那様の身の安全のためにも、ここは」


「いやいや。前にも話したけど、僕に飛び道具は無理なんだって」


 本当は中距離の攻撃手段を持ちたいが、法的に不可能である。こっそり持つにしても、これ以上爆弾を抱えたくない。


 かといって法に触れない飛び道具となると……投げナイフや投げ斧を魔道具の助けなしで敵に当てる技量は残念ながら自分にないのだ。


 であれば合法的な遠距離攻撃の手段である魔法方面の強化は、非常に魅力的である。


「……本当によろしいのですか?」


「ああ。これからも頼りにしてる」


 いやマジで。何だかんだうちで一番魔法攻撃の威力が高いのは、『樹王』状態を抜けば雪音である。


 彼女は自身の力に不安を覚えている様だが、それは戦闘速度についていくのが難しいから。であれば、『攻撃を当てられればいい』。


 敵がどれだけ素早かろうが当てられる。もしくは当てやすくなる。それがこれをトレードした理由であった。


「わかりました。雪女は度胸!全力で尽くさせて頂きます!!」


 ぐっ、っと両手を握る雪音。なお、彼女は着物姿ではなくノースリーブのタートルネック姿である。


 端的に言おう。エッチだ。


 元々でかいのに寄せて上げられた胸をついつい凝視していると、雪音が照れた様に笑いながら両手の平でその爆乳を持ち上げてきた。


「その……今から『こちら』でもご奉仕しますか?」


「是非!!……と言いたいけど、レイラに働かせておいて自分達だけっていうのも」


「いえ、別に気になさる必要はないのですが……わかりました。では、私とリーンフォースも混ざりましょう」


「了解」


 そう言って左右から抱き着いてくるレイラとリーンフォース。レイラの巨乳が右の二の腕に押し付けられ、リーンフォースの爆乳が左肩にのった。


「これが、エデン……」


「それ前にも言っていた様な気が……」


「ま、まあ。良いではないですか」


「奉仕モードに移行します」


 母さん……父さん……僕は今日も元気です。



*   *   *



 一週間後。十月に入り気温の変化が激しくなった頃。雪音の新装備を確かめるため、電車に揺られとあるダンジョンを目指していた。


 まあ目的はもう一つあるのだが……それは探索が終わってからでいい。駅を複数越えて他県まで足を延ばしたから、今日はホテルに泊まらないと。ダンジョンの探索だから学校から多少はお金が出るのと、未成年でも普通に電話で予約が取れたのは幸いだ。


 結構賑わっている駅の様で、ホームを出た後も人が多い。そんな中をするすると通り抜け、バス停に向かった。


『だからこそ!我々は自衛する力を持たなければならないのです!』


 何やらマイクで大きくなった声が聞こえてきたのでそちらに視線を向けてみれば、そこには中年ぐらいのスーツを着たおじさんが何やら怒鳴る様に喋っていた。


 気温もだいぶ落ちたというのに、額に汗を浮かべて何かを熱弁している。


『自衛隊が秘密裏に作り出した兵器を、政府は未だ地方に配備しない!予算の都合とは言うが、しかし普段から横領と中抜きをしている奴らが何を言うのか!!』


 あー……『ユマニテ』だっけ?『金剛』を地方に配備しろとか言っている。


 例の護衛依頼から少し後、政府は『金剛』の名前と大まかな性能。そして大雑把な必要金額を公表した。その製造に覚醒者の手が必要な事も含めて。


 これには『ユマニテ』を始め『覚醒者不要論』をあげていた人達は勢いを削がれるも、『それと冒険者制度が必要なのはイコールではない』と活動を続けていた。


 流石にそれは無理があるというか、やはり時期尚早だと思うのだが……。


『そもそもの話!金がないと言ってもこれは日本だけでやっているからなのです!ダンジョン問題はこの国だけの問題ではありません!世界の問題です!国連からもうすぐ来る使節も交え、運用と製造について話し合うべきなのです!!』


 理想論が過ぎる様に思えるんだよなぁ。


 今の国連は、イギリス以外の常任理事国全てが賛同している『国連による覚醒者部隊の設立と派遣』にご執心だ。それについて、この前テレビで有川大臣が『日本から覚醒者と予算を引き抜くつもりにしか見えない』といつもの胡散臭い笑みで批判していた。


 それで有川大臣がまた炎上していたのは置いておくとして。ダンジョンが世界規模の問題というのは、理屈ではわかる。ただ、なぁ……。


 微妙な気持ちになるのは自分だけではない様で、前にお爺さんがやっていた時と違い立ち止まる人の数は少ない。僕も周りの流れに乗ってその場を通り過ぎた。


『政府は『金剛』の技術を独占するつもりです!政府要人だけを守り、国民には何もしない!我々はその選民思想を断固として認めてはならないのです!納税者である我々には、政府が考える利己的な政治を否定する権利がある!!』


 ちょうどやってきたバスに乗り込み、カードをかざして中に。残念ながら座れそうもないが、まあダンジョンが近付けば席も空くだろう。


 未だ演説をするおじさんの声が遠のいていくのを感じながら、ユニコーンの角について考える。


 無事に『白の魔石』はあの魔道具で作り出せた。ビー玉サイズの白い結晶は、確かに『白魔法』の力を宿していたのだ。レイラが『林檎』を素材に作った桶の効果か、質もかなりいい。


 ただし、駄騎士さんからトレード時に聞いていた通り角にも回数制限がある。流石に一度や二度の使用でダメにはならないが、作れる魔石は十数個から二十個といった所だとレイラが言っていた。


 その使用に関しては彼女に任せている。何やら雪音とリーンフォースの燃料片手に相談していたが……戦力が増すのなら大歓迎である。


『―――覚醒者は選ばれた存在か!?いいや違う!人は皆平等であり、対等です!そんな社会を守るためにも、民主国家の――』


 所々距離の為聞き取れないが、あのおじさんの声がまだ聞こえてくる。それもすぐに届かなくなり、到着まで暇をつぶそうとスマホを手にソシャゲの周回をするのだった。





読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


Q.パズズの羽とか、流石に駄騎士さん危なくない?

A.

駄騎士

「ご安心ください。そのためのユニコーンです!!」

京太朗

「やっぱアレ淫獣では?」

ユニコーンにはとばっちりな気もしますが、元の伝承からエロモンスターなのでセーフですね。


Q.もう一個の理由ってなに?

A.まだ秘密ですが、某人物が謎の怖気を感じているかもしれません。




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― 新着の感想 ―
[一言] ユニコーンって 処女かどうかを見分けられないからとりあえず女性には姿を見せるけどその女性が処女じゃないって解ったら発狂しながら殺すらしい。 女装して香水をかけた青年でも可 ケツが処女ならO…
[一言] 京太朗の感じてるだろう感覚に沿って考えながら読んでたら、段々と演説するおっさんの主張が「ただの雑音じゃね?」と感じるようになってきました。 人の世の雑事は気にしてもしゃあないなあという気づき…
[一言] ユマニテのプロ市民の一部が実は他国の工作員で逮捕されたら火消しとは行かなくてもクールダウンにはなりそうですね。
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