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第九十三話 飛び道具

第九十三話 飛び道具


サイド 大川 京太朗



「無理ぞ」


「マジで?」


 相原君の部屋。その中にある異界工房の応接室にて、持ち込んだ設計図を前に相原君が真顔で首を横に振った。


「え、なんで?」


「法的にアウト」


「???」


 今回持ち込んだ武装。それは『投げ斧』である。ファンタジーとか中世を舞台にした映画でお馴染みのアレだ。


 ゴーレムのダンジョンで手に入れた『ミスリル鋼』をベースに、『パズズの羽』を使った魔道具を組み込んで風による威力、速度、コントロールを引き上げる事を想定していた。


 目的は勿論『飛び道具の確保』である。


 これまで自分は遠距離攻撃をレイラと雪音に任せ、ひたすらに近接戦をしかけていた。だが、パズズ戦でこのままでは少し危ういと思ったのである。


 あの時もしも『自然魔法が使えない環境だったら』『雪音と更に離れた場所で戦闘していたら』『屋根がなく相手がもっと高度をとっていたら』と後になって考えた。


 ダンジョンでの戦闘だったから相手の手の内もわかっていたし、ある程度の環境も把握していた。だが、氾濫に巻き込まれた場合は戦う場を選べない。


 そんな理由で飛び道具が欲しかったのである。


「法律って、銃刀法は冒険者免許で刃物でも申請すれば所持可能じゃないっけ?」


 実際リーンフォースの武装はそれで通ったし。


 本音を言えば空気銃を魔道具で作りたかったのを自重したのだが、投げ斧も駄目なの?


「刃物でも飛び道具の場合はな。一定以上の威力があり、なおかつ魔法使いでなくとも扱える物の場合申請時に没収される。返却はされない」


「……そんなの政府のホームページに書いてあったっけ?」


「書いてあるぞ。警察の方か厚生労働省のページで魔道具の取り扱いについてもっと調べてみ」


「う、うん」


 彼の言う通りスマホで検索してみる。


 ……いや、やっぱりなくないか?そんな事どこにも……んん?


「待った。まさかこの小さく書いてあるのが」


「おう。他の小さい注意書きの中に紛れてわかりづらくなってんのが、そうだ」


「こんなのありか!?」


「気持ちはわかるが声がでけぇ」


「あ、ごめん」


「ええんやで」


 だが、本当にこんなのありか?この場所と大きさだと、あらかじめ『書いてある』って知っていないと気が付けないぞ。


「二年の方に入った先輩に生産系の異能持ちがいてな。その人が魔道具の投げナイフを登録に行ったら没収されたらしいぜ」


「さっき返却はされないって言っていたけど」


「危険物の為、警察にて管理しますってさ。その後はどうなるのか聞いても、お答えできませんの一点張りだってよ」


「そっかー……いや、けどしょうがないと言えば、しょうがないのかな?」


 飛び道具が危険なのは変わりない。いくらモンスター相手に使う前提とは言え、やはり一般人が持つのはアウトか。近接武器と遠距離武器では状況次第とは言え後者の方が強いが、だからこそ危険度も上がる。


 故に没収されてそのままというのも、理解できなくはない。


「けど、だったら最初から『作るな』って大きく書いていてほしいなぁ」


「それな。その先輩もそこの所突っ込んだけど、『貴重なご意見として検討させて頂きます』だってよ」


 普通に作るなと言ってくれるのならいいのだが、何故こんなこっすい通販番組みたいな真似を?これでは気づかずに作って持って来てしまう人も多いだろうに。


 それこそ、没収品が後を絶たないなんて事も……。


「……なんか嫌な予感してきた」


「俺とその先輩もたぶん同じ事考えたぜ。まあ、その人は外聞を気にして黙る事にしたが」


 その没収された魔道具、今『どこかで使われて』いたりしないよね?


 警察も自衛隊も人と物が足りないと言われており、特に最近では対モンスター戦に関してかなり厳しい事になっていると聞く。


 いや、流石にこれは陰謀論が過ぎたか。普通に保管されているか、廃棄されている可能性が高い。というかそう思いたい。


 何より。自分の邪推通りのせこい事をしていた場合真面目な人ほど損をするというか、皆登録せずにヤベー物作る可能性が出てくる。目先の利益のために政府機関がそんな間抜けを晒すはずもない……ない、はず。


「なんにせよコレを作るのはやめとけ。没収されるのがオチだ。俺は非登録の物を作る気もないしな」


「そっかー……ごめん、こんな時間に訪ねておいて」


「いいって……俺達、同志だろ?」


「同志ではないです」


 何を無駄に綺麗な歯を光らせているのか。巨乳派とふくよか派は決して同派閥ではない。


 単純なバストサイズも重要だが、それ以上にバストとウエストの差が大切である。僕は『ボンッキュボン』が好きなのであって、君の様に『ボォォン……』な感じが好きなのではない。


 まあ僕は巨乳派ではあるが、貧乳でも『エロければ、ヨシ!』派でもあるので胸を張ってその辺を主張することはできないしやらないが。


「つうか、なんだよこの設計図っつうか要望書。何を相手に想定しているんだよ。大抵のモンスターはミンチになるぞ」


「いや、ミノタウロスとか相手ならこれぐらいはいるなって……」


「お前大概やべぇのとばっか遭遇すんな」


 言わないでほしい。こっちだってお祓いは一度受けたのだ。


 もう一度受けようとしたのに、その神社何故かお祓いの受付を完全にやめてしまっているのである。


 他の所にも申し込もうとしたのだが、京都の大きい寺や神社は出張お祓いをしなくなっているらしい。『神代回帰』直後はその辺よくやっていたらしいのだが……。


 もういっそ京都に直接行くべきか?それとも奈良とか別の所に……。


「あー、ならいっそレイラだっけ?お前の所の職人に『パズズの羽』とやらを使っていい感じの魔道具作ってもらえば?魔法使い用の杖とか。そっちなら法律に引っかからないだろ」


「いや、ちょっとそれは相性が良くなくって」


「ほーん。そういうのあんのな。まあ聞いた感じ『自然魔法』の使い手らしいし、熱砂やら病魔やらとは相性悪いか」


 納得した様子の相原君に、内心でホッとする。


 嘘は言っていない。レイラも雪音も、彼女らが使う魔法とあの羽の相性が悪いのは本当だ。ただ、それ以上に『白銀の林檎』由来の材料との相性が壊滅的ってだけで。


 だからこそ単純に質量と硬度でぶん殴るつもりで『ミスリル鋼』の投げ斧を考えたのだけど……どうしたものかな、あの羽。質はいいのに使い道が浮かばん。


「そんじゃ、トレードでもしたら?」


「トレード?……ああ、そういうのあるんだ」


「ストアでやっている公式のやつと、民間でやっている非公式のがな」


 自分は詳しくないが、ニュアンスからしてドロップ品の交換会とか存在しているらしい。


 考えてみれば当たり前か。今年の四月からドロップ品の自由な売買が始まったが、それ以外にも戦力強化に使う人も出てきた。


 だが今の自分の様に使い勝手の悪いドロップ品に頭を悩ませている人が出てくるのも、道理である。売るには惜しいが、使うには難しい。そういう時、同ランクの品と交換できたら助かる。


「ちなみに、お勧めの交換できる場所を紹介してもらったりとかは」


「無理。なんだよ『B+』のドロップ品って。それにつり合う品を扱っているとことか知らんがな。お前、しょっちゅう氾濫に巻き込まれるけど今度はどこで遭遇したんだよ」


「の、ノーコメントで……」


「OKわかった二度と聞かない。つうか喋るな」


「はい」


 察しが良くてとても助かる。


「とにかく、俺の手には余る。桜井自動車だっけ?そことか、魔導装備研究部とかに頼ってみるのもいいんじゃねぇの。けど、くれぐれも気を付けろよ?非公式の交換会とか、さっきの規制の件以上にあくどいのが山ほどあっから」


「そうしてみる。色々とありがとう」


「おーう。こっちも将来は鍛冶師としてやっていくつもりだからな。『無理』の一言で済ませていたらやってらんねーから、助言になったら良かったよ」


 ひらひらと手を振る相原君に軽く頭を下げて、自分の部屋へと帰ろうとする。


 それにしてもトレードか。『パズズの羽』はその性質上、信用のできる場所や人物以外に渡すのも気が引ける。彼の言う通り、どうにかコネを頼るしかあるまい。そんな事を考えていたら、異界から出るなりスマホに通知がきた。


 はて、いったい誰からだと思い、画面を確認する。


「げぇっ……!」


 速攻でUターンし、応接室をノックした。


「あん?どったよ」


 疑問符を浮かべながら扉を開けた相原君に、冷や汗をだらだらと流しながら問いかける。


「詳しくは話せないんだけど、『滑り倒している変人だけど真面目な人』と『自分含めコミュ障こじらせた奴ら』が集うパーティーで上手い事コネ作る方法とか知らない?」


「……はぁ?」


『祝勝会のお知らせ』


 そんなタイトルのメールがスマホに通知され、自分の胃がキュと音をたてた気がした。


 いつか来るとは思っていたが、しかし心の準備はできていない。それでも、自分と同格の冒険者が揃う場というのは魅力的だ。どう転ぶにせよ、自分にはメリットがあるはず。


 だが、本音を言おう。



 超行きたくねぇええええええええ……!!いやだよそんなパーティーとか!!無理!マジ無理!理屈に対して僕の陰キャ本能が拒絶するっっっ!!



 困惑した様子の相原君を前に、今から既に心が折れかけていた。



*   *   *



 ダンジョンである。何はともあれダンジョンである。


 色々と悩みは絶えないものの、自分は学生兼冒険者。日々真面目に勉学に取り組むかたわら、迷宮の探索もしなければならない。


 決して祝勝会の詳細について話せないから相原君に、


『流石にアドバイスのしようがねぇ』


 と断られた事に心が砕けたから現実逃避しているわけではない。ついでに東郷さんも赤城さんも忙しそうで連絡がつかない事に絶望もしていない。


 だがあえて言おう。祝勝会はまだ先なのだから、今は目の前の仕事に集中するべきなのだと。なんせ命を扱う職業なのだから。


 そんなわけで、投げ斧が無理ってなった翌日。電車に揺られダンジョンを目指していた。今回は会社からの依頼ではなく、学校の『実習』である。


 一応事前に聞いていたが、マジで授業の一環として外部のダンジョンの探索が命じられるとは。それも学校からそう遠くないとは言え別の県まで。


 移動費と宿泊費が出るのが唯一の救いである。なんせ、実習で選ばれるのは不人気ダンジョンなのだから。


 自分に割り振られたのは『Cランクダンジョン』。熊井君達は『D』で相原君が僕と同じランクだったあたり、生徒それぞれのランクにあったものが選ばれるらしい。


 気乗りしないダンジョンではあるが、現実逃……気分転……冒険者としての自覚を強めるためにも思考を切り替えるとしよう。


 そんなわけで指定された街の駅にたどり着いたわけだが……。


「署名をお願いしまーす!」


「災害復興を後回しにする政府を動かす協力をお願いします!」


 なんぞ、あれ。


 バス停に向かう途中、駅の改札を出てすぐで行われている署名活動に疑問符を浮かべる。いや、署名活動自体はいいし、どこのかは知らないが復興とやらもたぶん必要な事だと思うのだ。


 ただ、『覚醒者に代わる装備を自治体に!』という旗が不思議すぎただけで。


 ……マジでどゆこと???





読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつも励みにさせて頂いております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


Q.なんで学校は緑色みたいなヤベェ奴を呼んだの。

A.あれでも一応、生徒に怪我はさせてないので……。

赤色:教師適性激高。蛮族だけど割り切れている。ただし多忙のため無理。

桃色:教師適性普通。赤色がいない時は真面目。無難だが多忙なため無理。

黄色:自覚している脳筋蛮族。破壊魔。

青色:自覚していない脳筋蛮族。野生の勘を理論と言い張る。

緑色:教師適性普通。蛮族だけどスイッチが入らなければ清楚。


……消去法ですね。え、桜井自動車からも呼べ?他にも学校側から色んな企業や冒険者に声をかけていますが、中々頷いてくれる人はいない感じです。





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― 新着の感想 ―
武器の製造は良くても投げナイフ等の投擲が駄目とか筋が通ってなくて支離滅裂ですよね。 極論その辺に落ちてる石投げたって覚醒者なら軽く時速100㎞を超える豪速球を投げて人を簡単に殺傷できるのにですよ。…
[一言] 警察や自衛隊が役立たずだったのをうまいことイメージアップできたと思ったら今度は「その装備よこせ!」とか、次から次へと言いたいこと言う層はいるもんですなぁ。 いろんな立場があっていろんな意見…
[一言] 新装備はお預けか……。 作品が対モンスターに舵を切っていても、これだけ足を引っ張ってくる人間社会の闇の深さよ。 どうしても縛りプレイになってしまいますね。
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