第八十三話 依頼
第八十三話 依頼
サイド 大川 京太朗
光陰矢の如し。なんて言ったら大げさだが、あっという間に入学から一週間が過ぎ去って九月の上旬。
夏の暑さはまだまだ続いており、日差しは大地を強く照らしている。だが、そんなものは人工異界には関係ない。
「ふふ、やっぱりこの格好は慣れないですね」
そう苦笑するのは、セーラー服姿のレイラである。
ただのセーラー服ではない。黒のセーラー服だ。黒地に白の襟。ミニスカートの下から覗く彼女の白い脚を、制服の色が際立たせている。
銀色の髪はローツインテールに結ばれ、どこか儚げな女学生といった風貌だ。ただし、その巨乳は儚さとは縁遠いサイズだが。それがいい!
「わかります。ですが、旦那様がお喜びになるのでしたら……」
その隣ではにかむ雪音。こちらは白い普通のセーラー服だが、黄色のカーディガンを羽織っていた。
膨張色と言われる黄色だが、それが雪音の爆乳と合わさって柔らかい曲線をもった膨らみを強調させている気がした。
白いニーソックスは彼女のむっちりとした太ももに食い込み、今すぐ頬ずりしたい欲求に襲われる。
「………」
そしてリーンフォース。彼女は無言無表情のまま、タイトスカート姿でそこにいる。
白のワイシャツに黒のスーツ。タイトスカートは膝辺りまであり、そこから伸びる足には濃い茶色のタイツで覆われ足元は黒い低めのヒール。
服装自体は極一般的な物である。だが、それが包み込むわがままボディが清楚とかそういう雰囲気を吹き飛ばしている。
二メートル前後の男女問わずかなりの長身とされる体格に、それに支えられたロケットおっぱい。人ならざる身だからこその前に突き出た綺麗な長乳である。
ちょうどいい範囲でくびれた腰に、乳に負けず劣らずな巨尻。長い金髪も後ろで一本にまとめた、飾り気のないものだ。服装と髪型はお堅い感じなのに、美貌とスタイルのせいでいやらしさ全開の『いかん女教師』姿である。
「それで、いつまで見ているだけなんですか?『先輩』」
「だん……『京太朗君』。今日は補習なんですから、真面目に受けないと駄目ですよ?」
「……保健体育の授業を始めます。ベッドの前に立ってください」
上目づかいに笑うレイラ。ぎこちないながらも優しく微笑む雪音。機械的に、だからこそこれからの事を思うと背徳感を覚えるリーンフォース。
――青春を、送れないなら、演じよう。
大川京太朗、魂の俳句。
やっぱいいなぁ!『高校の後輩と幼馴染と美人教師でエッチな保健体育シチュ』!!
絶対に現実には起きないし、やろうと思えばそういうお店でしか体験できないだろう。だが、自分にはハーレムがある!!
え?リアル高校生なら普通に青春しろ?彼女ぐらい真っ当につくれ?
うるせぇ●すぞ。
「じゃあ先輩。まず、私とキスの練習をしましょうか」
「な、ならワタクシは服を脱がせてさしあげます!」
「胸部の衣服を解放。はさみます」
こちらの腕にそれぞれ抱き着くレイラと雪音。押し付けられた胸の感触を楽しむ自分の正面では、スーツとワイシャツのボタンをはずして大人っぽい黒のレースが施されたブラジャーを露出させるリーンフォースが。
白い肌と黒いブラのコントラストに、下着に締め付けられ乳肉の柔らかさを主張する深い谷間に視線が奪われる。更に、リーンフォースはなんの躊躇いもなくフロントホックを外した。
母さん、父さん……産んでくれて、ありがとう……!!
* * *
幸せな時間を永遠に享受する事はできず、他にもやらねばならない事がある。そう、仕事だ。
桜井自動車の専属冒険者となった事もあり、そこからの依頼である。内容は子会社である『桜井重工』の工場から三キロの位置に不人気ダンジョンがあるので、その間引きだ。
なお、今日は日曜日だがダンジョン探索を目的にした外出に限り自由に授業を休んでいいのが冒険者専門学校である。後で補習はあるけど。教育機関として大丈夫かという心配は、正直ある。実技でも各地のダンジョンに派遣される予定だし、どんだけ間引きさせたいんだ。
学校と言えば、教室も相原君のおかげかかなり過ごしやすくなった気がする。
いきなり勧誘される事はなくなったし、時々怯えた目や嫉妬のこもった目で見られる事はあれど基本的に必要以上に関わらない状態だ。
相原君曰く。
『あくまでお前は強いだけの奴って見られているからな。人格面はこの短時間じゃ知りようもないから、警戒はするけど様子見って空気にしといたぞ。担任も協力してくれたし』
との事。また。
『まあ、この空気もしばらくすれば落ち着くさ。ここに来た段階で最低限の社交性は持っている連中だ。同年代の冒険者と関わる機会なんて貴重だから、一カ月もすれば交友関係も出来上がってくるだろうよ』
とも言っていた。やはり彼が味方だと心強い。流石はクラスのAグループでトップをはっていた男。
なお。
『それにしても、このクラスで雪女と契約しているのはおよそ半数。残りはエロ自体に照れからくる拒否反応を持っているな。猥談は難しい。しかも、どうやらお前ほどの素質を秘めた奴はいなさそうだぜ……』
発言が残念過ぎる。突然IQを下げるな。あと僕に君の性癖に関する素質はないです。オッパイストとふくよか好きを一緒にすんな。
遠い目で窓の外を眺めつつ電車に揺られながら、雪女との契約率について少しだけ考えた。
照れからくるエロの否定……なるほど、わからなくもない。周りから『こいつエロだぜー!』と思われるのが嫌で、女性に関わること自体を『男らしくない』と思う様にしている、と。
だが女体への興味は当然あるだろう。たぶん『女なんて興味ないムーブしていればそのうち美少女の方から声をかけてきてくれるぜ』と根拠もなく考えているに違いない。
甘い……東郷さんに奢ってもらうパフェより甘い。
僕もそういう羞恥心はもっているが、それ以上に『僕が普通にしていて美少女や美女から好かれるわけがねぇ!』とよく理解している。間違いなく灰色の青春一直線だとも。だからこそ、エロスを解放できるのだ。いや、公言はしないけども。
待っていても幸せはやってこない。おっぱいを……夢と希望の象徴を掴みたいのならば行動しなければならんのだ。
人間の女性に恋愛目的で声をかけるのはハードルが高い。僕には跳び越えられない高さだ。しかし、雪女は違う。
彼女らはゴリゴリにウェルカム態勢である。日本各地に残る伝説のチョロインを舐めてはいけない。『Cランク覚醒者』なら対策さえすれば彼女らを……自分好みの美女や美少女を確実にゲットできるのだ。
立てよ男子たち!性欲に嘘をつくという事は、己の命に嘘をつくという事だ!!『食欲』『睡眠欲』に並び三大欲求として語られる『性欲』!生命である限り、ここから逃れる事はできない。
法に従うのは当然だが、だが全てを否定してはいけないのだ。今一度、なんで『性欲』というものが生物に存在するのかを考えてほしい。
……まあ雪女と子供を作るのは無理だから、『繁殖』とか『遺伝子の存続』とか言われたら困るけど。
待てよ?皆が皆雪女と契約していると、今後の出生率やばいのでは?そういや前にテレビでそんな事を言っていた気がする。
ついでに魚山君が『覚醒者の子供は覚醒しやすい。能力の遺伝も普通にありえる』と言っていた気がするな。つまり、雪女と契約する冒険者が増えたら、その分将来の覚醒者の数が減るのでは?
……恥じらいって大事だと思う。どうか今後も雪女と契約していない彼らには人の社会を歩んでもらおう。
そんな事を考えていれば、目的の駅に到着。道中、ここが近くなってくるとチラリと遠くに海が見えた。ホームに出れば心なしか潮の匂いがしないでもない。
改札を抜けると、スーツの上着を腕に抱えた四十歳ぐらいの男性が立っている事に気づいた。その首から提げられている名札を目視し、足早に近寄る。
「すみません、貴方が田中さんでしょうか……?」
「え?ああ、はい。ではもしかして貴方が」
「はい。大川京太朗です。よろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします」
軽く会釈し合う。自分が言うのもなんだが『ザ・平凡』って感じのこの人は田中さん。桜井重工の社員さんで、今回車を出してくれる人である。
車を用意してもらわずともバスを使うし、なんなら徒歩でも問題ないと赤城さんには言ったのだが。『人と関わる事、使う事も覚えないとダメだよ。ゆっくりでいいから、慣れなさい』と返されてしまった。
これは高く買ってくれていると思うべきか。そうなら嬉しいが、少し緊張もする。あまりコミュ力は高くない。むしろ低い。
……ついでに、小声で『少し心配だし』と付け加えられたのは非常に遺憾である。ダンジョンにそもそもたどり着けないとでも?だが東京駅での醜態もあって否定できねぇ。
それでも弁明させてもらえば、あれは東京という魔都だからこそ発生した異常事態。別に自分は方向音痴ではない。更に言えば、地方の駅は迷えるほどでかくない。前に田舎の不人気ダンジョンに行った時は、改札を出たらそのまま駅の外でバス停だったぞ。
だがまあ、ここで『やっぱり車は不要』と言っても逆に迷惑だろう。田中さんの車に乗せてもらってダンジョンストアへ。大きな企業の人だけあって、話の上手い人だったから道中退屈する事はなかった。けど課長職の人をわざわざ案内によこさんでも。
子会社と言っても桜井重工って十分でかいよな……そんな人を使い走りにするとか、赤城さんって何者なんだ本当に。冒険者関係の責任者で部長さんらしいけど、それだけとも思えない。
ともかく、ストアについたので一端帰っていく田中さんを見送り、中に。ロッカールームで準備を終えてゲートに向かった。
受付を終え、ダンジョンの中に入るなり抜剣。レイラ達を呼び出す。思考は既に切り替えている。油断できる場所ではないし、なにより仕事の時間だ。
レイラが魔法で照らしてくれた内部は、他のダンジョンとはかなり毛色の違うものだった。
人工物めいた所はいくつも見てきたが、通路全体に鋼板が張り付けられているのは珍しい。道幅は三車線分。天井までの高さは六メートルほど。剣を振り回すにはなんの問題もない。
周囲を確認しながら、ツヴァイヘンダーを背に固定するためのベルトを外して切っ先に巻いていく。
即席の柄……とも言い難い物を用意して、そこを握った。普通に振るう分には籠手があるのでいらないが、今回は敵が敵だし『魔力開放』を使った時の事も考えなくては。
そう考えていると、リーンフォースが声を上げる。
『動体反応あり。前方、数一。接近中。距離二十メートル』
「各員、手筈通りに」
「「はい!」」
『了解』
彼女らの返事にかぶさる様にして、耳慣れぬ足音が聞こえてきた。
重い金属がぶつかる、低く響く音。地響きを伴って現れた『それ』の姿が魔法の明かりに照らされる。
――このダンジョンは、いわゆる不人気ダンジョンだ。だがしかし、かなり儲けられる。
その理由とは、ここに出てくるモンスターだ。
二メートル半の巨体に、全体的に分厚い『装甲』。黒と灰で彩られた全身は鈍く光を反射し、鋼の体を誇示する様に見せつけてくる。だが、その赤い眼に感情など存在しない。
顔の中央やや上にある、赤い『モノアイ』。額には外国の文字が一節刻まれ、僅かに発光している。
―――グォオオオオオ………!!
雄叫びの様に稼働音をあげるその怪物は『アイアンゴーレム』。
ロボットアニメにでも出てきそうな鋼の巨人が、右手に持つ斧を振り上げた。
読んで頂きありがとうございます。
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Q.京太朗は高校生でバイトみたいなもんなのに、流石に過剰じゃない?
A.重工側の忖度ですね。
赤城
「私は誰も指名してないよ?ただ『個人的に将来を期待している未来のエースを送りますから、送迎をお願いします』ってあちらに電話しただけで」
桜井重工
「『赤城』がそう言うって、やべぇのが来るんじゃん。来年部長になる田中君、君に決めた!」
田中六雄
「吐きそう」




