太陽の笑顔
あれから、月日が流れました。
世界に平和が戻ったと、国に帰ったフランチェスカが国王に報告することで、混乱しかけていた世界は少しずつ平穏を取り戻していきました。
変わったことといえば、ベリラルという小さな国がなくなり、隣国がそれぞれ地をわけたことでしょうか。色々と問題はあったようですが、フランチェスカの母国、シェンランジア国が間に入ることで比較的平和に解決したそうです。
ベリラルの元国民は、少ないながらも教会の地下に生存しており、事情を全て知った勇者一行の助力によって呪いも解除され、然るべき支援をカルニア国から受けたと聞きます。先手を打って、少しでも交渉を有利に運ぼうと言う戦略でしょう。まぁ、悪くないと思います。少ないとはいえ、難民を受け入れるのはなかなかに難しいことですからね。
……ちなみに、その難民の中に、サナの両親の姿はありませんでしたので、そういうことなのでしょう。その事実は、私たちの中にそっとしまい込んでおくことにしました。
まぁ、小難しいことは良いでしょう。ようやくそういったゴタゴタから解放されて、ナオとサナの二人旅が始まったわけですから。
「よし。これで、俺たちは冒険者だ。二人のパーティーだけど、戦力は十分だろ?」
現在、二人はノストルド国に立っていました。そこで冒険者として登録し、旅を続けることにしたようです。
「魔王を倒しに行くわけでもないもんね?」
「お、冗談うまくなったな、サナ」
だいぶブラックなジョークですけれどね。実際、ナオさえいれば冒険者として稼ぎながら二人で暮していくのは問題ありませんし。むしろ過剰戦力ですよ。飛び級してSランクでもいいほどです。何かあれば、ルイーズも交代して手伝ってくれますしね。
「それにしても驚いた。勇者が魔王討伐の際、相打ちで死んだ、なんて……」
「俺も! いつの間にか死んでんだもんな」
「ナオは大笑いしてたじゃない」
そう、恐らくはフランチェスカがそう報告したのでしょう。私たちが、身分を気にすることなく、二人で旅を続けられるように、と。その代わり、目立った行動は避けなければなりませんが。
「目の色を変える魔道具ももらったし、問題ないけどな。それに、カイルたちとか仲の良い奴らは知っててくれる。エミルの集落もそうだけど、帰ってもいい場所があるのは、ありがたいよな」
「うん……そうだね」
ベリラルを出てすぐにカイルたちの村にいって作戦会議をしましたからね。二人で旅ができるように手配するから、カイルたちには協力者となって欲しい、とその時に話を持ちかけたのです。少なくとも、彼らが勇者一行である事を口外しないように、と。
彼らは当然のように快く受け入れてくれました。ただまさか、死んだことにされるとは誰も予想がつかなかったことでしょうね。今頃、一緒に驚いているかもしれません。
それから、フランチェスカとエミルとも村でお別れとなりました。ノストルドに入ってすぐの冒険者ギルドに寄り、荷物を受け取り、そのまま冒険者として登録なさいとフランチェスカに指示されたのです。
そこで受け取った荷物というのが、魔道具でした。手回しの良いフランチェスカが、お忍びで街に視察に行く際使っていたと言う魔道具を、気前よくナオに譲ってくれ、二人がすぐにでも旅立てるようにとあれこれ裏で手配しつつ、表では事後処理に走り回ってくれたようなのです。
彼女の手腕は素晴らしい、に尽きます。ただ、そんな尽力してくれた彼女とは簡単には会えないというのが寂しくもありますが。
「今はまだまだ無理だけど……いつか、絶対会いに行こうな。最初はエミルとフランチェスカの元に、さ」
「うん。仲間だもんね」
そう、離れていても、四人は仲間という絆で結ばれています。連絡さえ取り合うことは難しいけれど、きっといつかまた再会できることでしょう。それぞれが、その思いを胸に日常を送っていくのです。
『またここに来ているのか、ジネヴラ』
いつもの席で私がスクリーンを見ていると、背後からルイーズが声をかけてきました。それはまぁ。いくらのんびりしていいと言っても、やはり気になりますから。でも、前のように張り付いたりはしませんよ。夜になれば部屋に戻りますし、時には日中も休むつもりです。
『ま、そうもなるよな。あたしだって、何だかんだ心配で、たまに来ちゃうくらいだし』
私の次に多い頻度で談話室に顔を出しますよね、ルイーズは。もちろん大歓迎ですよ。冒険者稼業ですし、なにかあった時にとても頼りになりますしね。
『ナナだって、気になるから来てるんだろ?』
『! あ、たし、は……!』
そうです。ルイーズと同じくらいよく顔を見せてくれるのが、ナナでした。けれど、声をかけられたナナは逃げるように談話室から去って行ってしまいます。
『……ごめん。あたしが声なんかかけたから』
ナナの背を見送りながら、ルイーズは申し訳なさそうに謝ってきます。気にしなくて良いのですよルイーズ。ナナはまたすぐ顔を出しますから。貴方の言うように、気になるから来ているのでしょうし。
それに、すぐには無理です。彼女の傷はとにかく深い。こうして、外に興味を持って見に来てくれるだけ、十分ではないですか。焦らずに、ゆっくりと、彼女のペースで癒えていけばと思うのですよ。
『それも、そうだな……』
ルイーズはそれだけ言うと、じゃあまた来る、と告げて再び部屋へと戻って行きます。再び、談話室は私だけとなりました。
ここに来るのは、今や私と、ルイーズ、そしてナナの他には、オースティン、そしてごく稀にリカルドやノアといったところでしょうか。アリーチェやニキータはさらに頻度が少なく、パウエルやエーデルに関してはあれから姿を見ていません。存在だけは感じますので、ミオのように消えたということはありませんが……いずれ、姿を消して行ったとしても不思議ではありません。
でも、そういうものなのだ、と受け入れるつもりです。消えゆく魂がいたとしても、全員が消えることはないと思ってもいますからね。一度砕けた心が、再び元通りになることは決してないのですから。
ほんの僅かでも元に近付けることは出来るかもしれません。けれど私たちの場合はそれもまた少し違うのですよね。
私たちの場合は、砕けた破片を並び替えて、大元を変えはせずに全く別の物を作り上げているような感覚になります。心を一つに戻すのではなく、複数に別れた破片同士が寄り添うように。
時に苦しみ、問題も起こり、その度に闇が濃くなったとしても……きっと乗り越えていけます。私たちはもう、私たちだけではないのですから。
「ん? サナ、身長伸びた、か?」
ふと、ナオが気付いたようにそう言いました。サナは、そう? と言いながら手を口元に当てて何やら考え始めます。それから、思い付いたように、告げたのです。
「きっと、ナナが歩き始めたんだよ。だから、身体の成長もまた進み始めたんだと思う」
「なるほど……お前、俺と同い年なんだもんな。今はまだ、妹にしか見えないだろうけど。え、もしかして、一気に成長してボインボインになったりすんの!?」
「ば、バカっ!!」
ああ……残念ですね。わざわざジェスチャーまでして言うことでしょうか。ナオはこういうところが非常に残念です。ここ最近はかっこいい所を見せ続けていたというのに。
ほら、サナが顔を真っ赤にして怒っていますよ。微妙なお年頃なのに、変な事をいうナオが悪いのです。怒るのも当然ですね。
「ご、ごめんって。でも、ほら、なんつーか。……早く追い付けよ? じゃないと俺、お前に……」
「……私に?」
モゴモゴと口ごもるナオに、首を傾げてナオを見上げるサナ。私は何となく察しましたが、サナはわかっていないようですね。それで良いと思います。気付けばまた真っ赤になってしまうでしょうし。
ナオは、なんでもない! と言いながら自分の顔をバシバシと叩いて気合いを入れました。そうですよ、シャキッとしてくださいね。私はまた、部屋に戻らせてもらうのですから。
「うっし、行くか!」
ナオが太陽の笑顔で手を差し伸べると、サナが笑顔で返事をしながらその手を取ります。互いに力強く握り合った手と手。遥か昔、双子の兄妹がしていたように。もう、離れてしまわないように。
ラスト、エピローグを本日22時に更新いたします。





