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スピリットチェンジ!〜訳あり少女は勇者の旅に同行します〜  作者: 阿井りいあ
第十一魂 パウエル

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【心の中の世界】揺さぶり


「ああ、もう夜なんだね。ずっと暗いから、よくわからなかった」

「オースティン。もう良いのですか?」

「うん、だいぶ調子がいいよ。ゆっくり休めたしね」


 あれから、半日ほど森を進んだところで洞穴を見つけたので、四人はそこで一夜を明かすことに決めました。強い魔物は出てきますし、それでも体力は回復させなければならない、ということで、ナオが光魔法で狭い範囲に強力な結界を張ってみんなでしっかり休むことに決めたようです。

 ナオの魔力がかなり消費されてしまいますが、このままじりじりと体力と精神力を削られ続けるのはよくありませんからね。いざという時に全力を出して戦うためにも、ぐっすりと眠って体力を回復させる必要がありました。


『う……うっ……うぅ』


 ただ一人、ナオだけは良く眠れないようですけれど。


「相変わらず、勇者だけはあんまり休めていないみたいだね」

「そうですね。魔王の気配が色濃く漂っているのでしょう。日に日に魘される頻度が増えています」


 もちろん、旅の仲間たちも気づいています。けれど、こればかりは手助けのしようがありません。気にしすぎて休めない、ということがないよう、今日は私がこっそりとノアを派遣してスキルを発動してもらいました。断られる可能性が高かったのですが、流石のノアも、疲れ切った彼らを見て眉を潜めていましたからね。

 しっかりねんねしないと、めっ、なんだよ、と張り切っていましたし、助かりました。


「勇者は、どんな夢をみてるんだろう……あんなに魘されて」

「悪夢には違いないでしょうけど……本人は何も言いませんしね。エミルに聞かれた時は、覚えてないけど悲しい夢だった、と」

「うーん、感情だけは覚えてる夢か。疲れそうだなぁ」


 オースティンの言うように、疲れるでしょうね。目の下にクマができていますし。強制的に眠らせたところで、ナオは耐性もありますから効きが甘く、悪夢を見ることまでは止められないのですよね。耐性が強いのも困りものです。


「あらぁ、そうやってスキルに任せてないで、ぐっすり眠らせることくらい、できるわよぉ?」


 すると、背後から艶のある、そしてどこか鼻にかけたような口調で話しかけてくる声が聞こえてきました。


「ニキータ。そんなこと、できるわけ……」


 オースティンが少し眉間にシワを寄せて口を開くと、ニキータは彼の唇に人差し指を当てて蠱惑的に笑い、言葉を封じました。


「できるわ。簡単よぉ? 運動すればいいのよ」

「っ、やめてくれニキータ。運動? そんなの、十分すぎるほどしてるじゃないか。ずっと歩きっぱなしで、出てきた強力な魔物と戦い続けてさ」


 オースティンはほんの少し頰を染めてから嫌そうな顔でニキータの手をどかすと、反論を始めました。頰を染めているのは、無駄にニキータが色っぽいからですね。そこにそれ以上の感情はないでしょう。

 ニキータは手を払われても気にすることなく、むしろ嬉しそうに微笑みます。それからクスクス笑ってオースティンのクビに腕を絡ませてしなだれかかり、耳元で囁きました。手を払いのけられるたというのに、御構いなしですね。

 オースティンは嫌そうに顔を歪めていますね。女性だから、ここまで近付かれると押し返すこともできないようです。優しい性格が邪魔をしていますね。


「違うわよぉ。まったく鈍いんだから。運動っていうのはぁ……夜の運動のこと。つまりぃ……」


 最後の一言は、オースティンにだけ聞こえるように耳に唇を寄せて伝えています。ああ、何を言ったかなど考えるまでもありません。オースティンが一瞬で耳まで真っ赤になりましたからね。


「はぁ、ニキータ。あまりからかうものではありませんよ」

「からかうなって方が無理よぉ。だってほら。やだぁ、赤くなっちゃって! か、わ、い、い!」

「う、う、う、うるさいっ……!」


 完全にオースティンをオモチャ扱いしていますね。なにが面白いのかわかりません。そろそろいい加減になさい、と声をあげようとした時でした。


「あら。かわいいって言われるのが嫌? でも仕方ないじゃない。あなた、可愛いんだもの。ねえ? どれだけ頑張ったって、身体は女の子にしかなれないんだから」

「ニキータ!!」


 一歩遅かったようです。ニキータはオースティンを揺さぶりにきたのですね。誰よりもそのことを気にして、心に傷を負っているというのに……私は思わず大きな声をあげてしまいました。それでも、ニキータの煽りは終わりません。


「悲しいわねぇ? どれだけシたくても、身体が女じゃ思うように性の処理もできないんだもの。ね、溜まってるんじゃないのぉ? 私が、ここで相手してあげてもいいわよ? っきゃあ! 何すんのよ!?」


 これを許容するわけにはいきません。私はいつのまにか立ち上がり、ニキータの頰を思い切り叩きました。ニキータは叩かれた頰に手をあて、私をきつく睨んできます。


「言葉が過ぎますよ、ニキータ。いくらなんでも、言っていいことと悪いことがあります」

「な、なによ……これまで、興味もなかったくせに、いまさら偉そうに首を突っ込むってわけぇ?」


 確かに、これまでもニキータは、オースティンに対して似たような物言いをしてきました。だからこそ、オースティンはニキータを警戒していましたし、こういう事を言われるのだろう、と心構えもしていたはずです。

 けれどなぜか、そう、なぜかはわかりませんが、私はそれを許せないと思ったのです。ミオが消えて、どうしようもなく心が不安定なオースティンに、さらに揺さぶりをかけるような真似は許せないと思ったのです。ええ、それだけです。


「……驚いたよ、ジネヴラ。でも、ありがとう」


 オースティンも驚いたように目を丸くしています。なぜ、そんなに驚くのでしょうか。どことなく納得がいきませんが、オースティンの気を逸らせたのなら良かったとしておきましょうか。


「あっそ、あたしの敵に回ろうっていうのね。いつでも中立を守ってたジネヴラが!」


 ニキータは腕を組み、再び余裕のある笑みを浮かべてそう告げます。敵とか味方とか……何を言っているのでしょう、彼女は。元々、運命共同体なのですから、協力していかなければいけないのは変わらないのに。


「ニキータ。僕のことをからかって遊ぶのは構わないよ。仕方ないよね? パウエルは気づいてくれないし、リカルドは無視するし。ノアは問題外で、ジネヴラとエーデルは自分が飲み込まれちゃうかもしれないから怖いんだもんね?」

「っ!」

「鬱憤を晴らすには、僕はちょうどいい相手なんだ。わかっていても、僕はからかわれたら反応しちゃうし。好きにすればいいよ」


 やはり、ニキータは相手を選んでその人物が最も気にしている部分を突いていたようですね。サナのこともおそらくターゲットにするでしょうし、ノアやミオにも親はいないとかで良く泣かせていましたから。


「それで、君の気がすむなら僕は耐えるよ。だからサナを揺さぶるのだけはやめて。心の中の世界を荒れさせるわけにはいかないから。そうなったら、共倒れになっちゃう。でしょ?」


 オースティンがしっかりニキータの顔を見つめて言い返しています。男らしいですね、カッコいいですよ、オースティン。


「ふ、ふぅんだ。なによ、知ったような口きいて。あーあ、つまんないの。他に楽しいこと探すわ」


 ニキータは興味が失せた、というようにクルリと踵を返して部屋に戻って行きました。ああは言っていましたが、きっとまた余計なことを言いにきたりするのでしょう。困った子ですが、オースティンの言うように仕方ないところもあるのですよね。


「オースティン、大丈夫ですか?」


 それを理解してたとしても、言われて傷付かないわけではありません。ニキータが去ったのを見届けてからそっとオースティンに確認すれば、どこか弱々しげにふわりと笑って彼は言いました。


「はは、あんまり。あんな風にカッコつけておいて、情けないなぁ、僕は」


 やはり顔色が良くないですね。彼は傷付きやすいのです。本当に、余計なことをしてくれましたね、ニキータは。


「そんなことはありません。先程は、とてもカッコ良かったですよ。この気持ちに嘘はありません」

「本当? それはうれしいな。少し元気出た。あ、これも嘘じゃないよ?」


 オースティンの言葉は本当に嘘ではないのでしょう。だって、とても嬉しそうに笑っていましたから。


これにて今章は終わりです。

次章はまた明日から続けて更新します!


物語も終盤に差し掛かりました。よろしければブクマ、評価などポチりしていただけると主に私が嬉しいです(*´∀`*)


いつもお読みいただきありがとうございます!°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°

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