サナの変化
「と、いうわけで、私以外の魂同士でチェンジすると、ものすごく頭が痛いみたいなの」
「そうなのか……ふぅ、なんにせよ、良かったよ」
サナは戻ってすぐにみんなに説明をしました。納得したところで、四人は各々、周囲の惨状を見て苦笑を浮かべています。
「だいぶ、その……スッキリしちゃった、ね?」
覚えはないものの、やらかしたのだろうという自覚のあったサナが、最初に口を開きました。まぁ、たしかにスッキリしましたよね。闇の魔力のせいで相変わらず薄暗くはありますが、視界が開けたというだけでかなり気持ち的に開放的にもなりました。
「気にしなくていいぞ? むしろ、感謝したいくらいだ」
「ええ、なんだかモヤモヤしていた気持ちもスッキリしましたもの」
「にゃ! それに、休憩場所の確保ができたにゃ!」
「うう、みんな、ありがとう……」
本当に、皆さんが前向きで助かります。良かったですね、サナ。
「うん、ありがとう……」
「え? どうした?」
「ん? あれ?」
……今、もしかして、私の声に反応したのでしょうか。ナオたちからすれば、今サナは誰にも何も言われてないのに答えたように見えたと思います。まさか、私の声が聞こえるのですか、サナ!
「うん、聞こえるよ!」
「ど、どうしたんですの? 誰と話していますの、サナ?」
やはり、そうなのですね。ついにここまできましたか。表に出ている時も意思疎通ができるととても助かります。ですがサナ、貴女が声に出して話してしまうと、側から見た人たちは独り言を言っているように見えますよ?
「えっ、あ、そっか……」
「うにゃ、だからどーしたのにゃ? サナ、ちょっと変にゃ」
「あ、また声に出しちゃってた! え、えっと」
突然のことで動揺しているようですね。仕方ありません。サナ、私の声が聞こえているのなら、同じように彼らに説明してください。
「わ、わかった」
「……サナ?」
「あー、もうっ、えっと、とりあえず聞いて?」
混乱する頭で、サナはどうにか話し始めました。なんだか面白いですね。本人は必死ですので黙っておきましょう。
「心の中の声が?」
「うん、聞こえるようになったの。今も、ジネヴラの声を聞きながら話してる」
「これまでは聞こえなかったんですの?」
ひとまず落ち着こう、ということで、四人は軽食を摂りながら話し始めました。ナオが簡単な光魔法を放つことで、魔物が近づけばわかるように対策はしてあります。この程度なら魔力も消費しないと言っていましたが、それはナオ基準であるとだけ言っておきましょう。
「うん。私、心の中のことも、これまではずっと知らなかったんだ。けど、みんなと旅をするようになってからわかるようになって、声が聞けるようになって、姿が見えるようになって……それでついさっき、こうして表に出ている時にも、中の人の声が聞こえるようになったの」
こうして改めて聞いてみると、旅に出てからのサナの変化は著しいですね。これまでが停滞していただけに、色々と起こりすぎて心がついていけるか少し気がかりではありますけれど。
けれど、今はそのことは少し置いておきましょう。サナには、この三人に話してもらいたいことがあるのです。
『話してもらいたいこと?』
ようやく、心の中の私と声を出さずに会話することに慣れてきましたね。良いことです。
ええ、これから向かう、ベリラルについてですよ。サナ、あなたもあまり覚えていないでしょうが、あの国には知っておかなければならない真実があるのです。
『ん、わかった』
ベリラルでの思い出は、サナにとっては良くない記憶ばかりですからね。おそらくベリラルの仕組みも覚えていないでしょう。
『あの、さ。ジネヴラがチェンジして説明した方が早いんじゃない……?』
私が、ですか。そうですね、それが最も手っ取り早くはありますけれど……申し訳ありませんが、私は表に出るのが苦手なのですよ。緊急でない限り、表には出たくないのです。
『そっか……わかった。嫌なことはさせたくないもん。説明がんばるね』
ありがとうございます、サナ。私も、わかりやすくお伝えします。
では、お話ししましょう。ベリラルの闇と……サナがあの国から脱出できた秘密を。
ベリラルは、表向きは美しく住みやすい国ですが、裏側は酷く歪んだ国です。国民は外部からきた観光客をベリラルに引き入れるために必死で笑顔を取り繕っていますが、年に決められた人数を確保しないとその分税が増えていくのですから当然です。この国の実情を伝えようとした者は、国民に植え付けられた呪いによって、声を失い、じわじわと命を削られ、やがて苦しみながら死に至ります。
国民は国から生きて出ていくことはできません。美しく活気のある国を見た旅の者たちのおかげで、観光目的の人が増えてはいますが、移住まで考えてくれる人はそんなに多くはありません。ですから年々、税は重くなるばかり。増えた財源は国をより美しく見せるためと、国王一家が贅沢をするためだけに使われ、国民は常に飢えています。
中には、そんな異変に気付く外部の者もいますが……そういった人たちは秘密裏に排除されてきました。
はっきり言って、あの国は異常です。今、魔王が存在し、闇の魔力に飲まれているのはある意味、よかったのではないかと思うほどなのです。一度、あの国は滅びた方がいいと、そんな風に思ってしまうほどに。
「ま、待ってください。い、色々と飲み込むのに時間がかかりそうな話ですわ……でも、ひとつ、どうしても気になることが……」
「そうにゃ……サニャは、ベリラル出身なんにゃよね? ってことは、ベリラルの国民で……」
「その話が、本当なら……じゃあ、なぜサナは今ここにいるんだ? こうして俺たちに話しているし、そもそも国から出てシェンランジア国に住んでたじゃないか!」
そうですね。その通りです。それが、サナの秘密に繋がります。
「……私も、知らない。どうしてなんだろう?」
ただ、その話をする事で、サナの心が傷付かないかが心配なのですよ。あの国で起きた出来事は、私たちが生まれる羽目になった場所でもあるのですから。心に深いダメージを負わないか……それだけが気になっています。
「……教えてほしいよジネヴラ。知るのは少し怖いけど……私はもう、何も知らないままでいたくない」
「サナ……」
サナは、意思表示を声に出して告げました。心の中で私にいうのではなく、はっきりと他の三人にも聞こえるように。
「ジネヴラ、聞こえているんだろう? どうか、教えてほしい。サナの心が折れてしまわないように、俺たちにもその過去を一緒に背負わせてくれ」
「わたくしも、一緒に背負いますわ」
「エミルもにゃ。みんなで背負えば、重たい物も軽くなるのにゃ!」
「みんな……」
それぞれが、サナの肩に手を置き、力強く頷いてくれました。……そうですね。今のサナはもう、あの頃のサナではない。一人ではなく、助けてくれる仲間がいるのですよね。
わかりました。サナの過去を、少しだけお話ししましょう。ただし、サナ。少しでも苦しいと思ったらすぐに言ってくださいね。無理だけは禁物です。
「うん。ありがと、ジネヴラ。教えて」
まったく。教えるだけならまだしも、サナは私から聞いたことを自分の口でみんなに話さなければならないというのに。でも、決意は固いのですね。
私も覚悟を決めて、そして、言葉を選びながら話すとしましょうか。





