第5☆
「お、終わりました」
マキは息も切れ切れで僕の命じた作業が終了したことを告げる。
僕がマキに命じた事は、マキが盗撮した3Dモデルの画像の全消去と、12☆World用の3Dモデルの髪型と髪の色、目の色の変更だった。
せっかくのRPG用アバターなので、髪と目の色は好きな色の群青色にした。
ウルトラマリン。
髪型は現実同じ短髪。ゲーム内でも走るし、髪は短い方が走りやすい。
まぁ、その作業を、罰としてマキは僕にくすぐられながら行っていたのだ。
その時間およそ15分。
まぁ、殴られなかっただけありがたいと思って欲しい。
ってか、これ以上頭部を傷つけると、取り返しのつかないアホになるかも知れないので止めたのだが。
VR機が本格的に社会に浸透してから、アバターの外見を変更するのは、非常に難しくなった。
それはセキュリティーの面から生まれた事で、VR機が社会で利用され始めた時、別人を装うトラブルが発生したため、あまり自分の外見を偽ったアバターは基本的に製作不能になるようにロックをしてある。
性別を偽るなんて論外だ。……例外はあるが。
それは生まれ持ったモノだからしょうがない。
まぁ、その”例外”以外の人が出来る事はせいぜい髪の色や目の色を変える事くらいで、それでも専用ソフトとある程度の知識が無いと出来ない事なのだが、それを画像の消去も合わせてたった15分で行ってしまうのは、さすがゲーマーと言ったところだろうか。
しかもくすぐりのおまけ付き。
マキは精魂付き果てたのか、ベッドに突っ伏して倒れている。
「で?アバターを作ったのは良いけど、俺プレエク3持ってないんだけど?」
と今更のような疑問を口にする僕。
ちなみにプレエク3とはプレイエクスペリエンス3の略称だ。
なんか、流れに任せていたけど、良く考えると僕はプレエク3を持っていない。
ならマキのを借りてやるのかと思ったが、βテストに選ばれるほどのゲーマーであるマキが、今日の12時12分サービス開始のゲームを今から僕に貸すなんてありえない。
どうする気だろう?サキのを借りてするのか?
(勝手に他人のモノ借りてゲームをするなんて生理的に嫌だな)
なんて思っていると
「んーそれー」
とマキは紙袋に入っている大きな箱を指差した。
……まさか。
僕はその紙袋の中身を見る。
中身はプレエク3本体と12☆World同梱版だった。
「マジかよ……」
僕は思わず感嘆の声を上げる。
プレエク3の12☆Worldの同梱版は、1万2千台という生産数の少なさと、
同梱版限定の12☆Worldのアイテムコードが付いているため、今ネットオークションで通常価格のおよそ10倍以上で取引されている超激レア商品だ。
電気自動車が買えてしまう。
「えへへー。私とサキ姉ぇのたなプレだよー」
とマキ。
たなプレとは七夕プレゼントの略称。
ここ50年で流行り出した、七夕の日、7月7日に、女性から意中の男性にプレゼントを贈る、ゲーム会社が企画し始めた販促日だ。
バレンタインデーとの違いは、バレンタインデーは意中の男性にチョコを贈る代わりに、たなプレは1年間ぼっちになってしまうひこぼしに習い、1年間浮気をしないくらい夢中になれるモノを送る事らしい。
まぁ、つまり、意中の男性に送るたなプレは、ゲームなどのホビー商品が主流という事だ。
ちなみにたなプレのお返しは、送ってくれた彼女の誕生日に、送られた商品の3倍の金額のモノを渡す事らしい。
あえて、一月後とかではなくて、誕生日という特別な日のプレゼントのグレードを上げる事を要求することに、女性のしたたかさを感じなくはない。
(てか、コレのお返しっていくらだ?3倍返しなんて普通の高校生のお小遣いで出来る範疇を超えているぞ?)
なんて心配していると
「お返しはいいからねー」
とマキ
「いや、そうはいかないだろ? こんな高価なモノ」
通常価格でも、10万はする。
「いいってー。これはサク兄ぃに対するお礼のプレゼントなんだからー」
「お礼のプレゼントって、別に僕は何もしていないぞ?」
「何もしてくれなくても、一緒にいてくれる事だけでいいんだよ?」
とマキはニコニコ笑顔でこっちを見る。
「サク兄ぃが一緒にご飯を食べてくれる、話してくれる、笑ってくれる。
それだけで私たちは色々救われているんだよ。コレはそのお礼」
「いや、それは……僕も同じだろ?」
僕は困惑しながら、聞いた。多分マキと、僕に
「一緒にご飯を食べたり、話したり。そんな事は僕もありがたいと思っているし、それに対して今更いちいちお礼のプレゼントなんてしちゃいけないんじゃないのか?」
「いや、プレゼントなんてそんなモンじゃないの?」
「え?」
「特別な事が無くても、一緒に生きてくれていることがうれしい人に贈るプレゼントが、本当のプレゼントだと思うけどね、むしろ、何かしてくれたから、何かをしてほしいから渡すプレゼントなんて、邪道じゃないのかな?」
「ううん」
言葉に詰まる僕。まさか小学生に感心させられるなんて。
「まぁ、コレはたなプレだから、その意味をサク兄ぃにはしっかりと感じて欲しいとは思うわけだけどねー」
「は? なんだ、やっぱり3倍返しを狙ってたのか?」
それなら、先ほどの感心を取り消さねばなるまい。
と思う僕。
マキはその言葉を聞くと大きくため息をついて、やれやれとリアクションする。
「なんか、がっかり。まぁ、そんなもんかねー」
とマキは上を仰ぎ見る。
「まぁ、そんなにお礼したいなら、私は誕生日ケーキにサク兄ぃ特製プリンタルトを 作ってくれたらそれでいいよ」
とマキはなぜか残念そうに言った。
しかし、プリンタルトとはまためんどくさいモノを希望する。
僕のプリンタルトは、まずケーキ型で大きなプリンを焼いて、その後タルト生地を焼き、崩さないようにタルト生地にプリンを置いて、上から手製のカラメルソースをかけて、冷蔵庫で冷やして出来あがる、僕の自慢の一品だが、エッグタルトと違い、焼いて、焼いて、置いて、冷やすという工程がめんどくさくて、作るのが嫌いな料理の一つだ。
まぁ、それでも10万円のプレゼントに対する対価としては格安だが。
「うーん。じゃあ、この特典の限定アイテムコードはマキが使えよ」
まだ大きく広がるプレゼント格差が気になった僕は、マキに限定コードの譲渡を提案した。
マキの誕生日は来月だ。
この足ではバイトも出来ないし、高価なプレゼントを用意できない代わりの、せめてもの気配りのつもりだった。
しかしマキは大きく首を振って、ソレを拒否する。
「正直受け取りたい所だけど、私にはβテストの特典があってねー。併用も出来ないらしいし、ソレはサク兄ぃしか使えないんだよね」
とマキ。
「ふーん、そうか」
「ところでサク兄ぃ。そろそろご飯にしない?ニボシがサービスを開始したらぶっ通しで遊びつくしたいんだよね。早期クリア者にはなんか特典もあるみたいだし」
ねぇねぇとねだるマキ。
生粋のゲーマーであるマキは、一度ゲームを始めるとエビを使ったお菓子を食べている者のように簡単には止めれない。
しかも負けず嫌いだ。
サービス開始から万全の態勢でゲームを始めると、
「最初は独走出来ていたのに、後から追い抜かれるなんていやだ」
とか言い出して、学校を休みそうな奴だ。
出来れば、スタートダッシュから遅らせて、12☆Worldに対するやる気を少し軽減しておきたいのだが、高価なプレゼントをもらった手前、あまり強く出れない僕は、マキの提案に同意した。
「ただし、夜ごはんはしっかり食べること。寝る時間は10時だ。いいな?」
「えー。ご飯なんて一食抜いてもいいじゃん。寝るのももう少し遅くても……」
「ダメだ。今日の夜は6時30分と9時半にこっちの家に行くから、その時間までにゲームを止めてリビングにいる事。もしいなかったら、これから一週間。全ての食事にニンジンを混ぜる」
青ざめるマキ。
兎みたいな2本のツインテールをチャームポイントにしているくせに、マキはニンジンが嫌いだ。
欠片でも食べたら、吐いてしまうだろう。
マキは大きくうなずきながら言った。
「必ず、リビングにいます」




