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レッドサイレンスー⑥


 アンプリファイドの訓練場では、ラビアが話をまとめる。


 エラとジャスミンはケイブスケルトンを討伐した後、手柄を横取りする勢力に襲われた。魔法を使うほどの相手でもなかったので、エラは格闘術で応戦した。ジャスミンは突然の襲撃に気が動転し、証言ができないほどの精神的な傷を負っている。


「これがエラの言い分」


 そして、ギルドが疑う状況は。

 敵対勢力がケイブスケルトンを討伐した後、エラが横取りを行った。自分が被害者である状況を演出するため、あえて魔法は使わなかった。ジャスミンは口止めのため脅され、証言できないほど精神的に追い詰められている。


 ペイルブルーは深く頷く。「悪いが、君が旅人だと知って疑念が強まった」と疑い深い口調に、エラは「何の関係がある」と即座に言い返す。

 でもさ、と慌てて割って入ったラビア。


「もしも私がエラだったら、相手を生かしておかないと思うのよね。横取りしたなら相手を殺す。ジャスミンって子も、口止めするくらいなら始末して相手にやられたと偽ればいい」


 ラビアは「もしもの話よ?」と付け足した。


「殺さなかっただけマシだと? そんな当然の行いで疑いが晴れるのか」


 張り詰めた空気の中、エラは「どうも私を犯人に仕立て上げたいらしいな」とペイルブルーを見据える。


「……いつも問題を起こすのは浮浪の者だった」

「あなたはもう、憲兵じゃない」

「煩わしい人間関係も責任もない流れ者だという自覚はあるか?」

「責任がなければ、こんな探偵ごっこにも付き合わない」


 ペイルブルーは立ち上がり、訓練場に置かれた木剣をエラへ投げて渡す。顎で中央を示されたエラは、杖を床に放り捨てて対峙した。

 ラビアは、魔導士が命の次に大事にすると言われる杖を、彼女があまりにもぞんざいに扱うのを見て驚いた。それだけ頭に血が上っているということか。


 二人はしばし睨み合った。

 エラは長いため息の後に、「やめよう」と呟いた。


「剣の強さと意見の正しさは何の関係もない」


 馬鹿げたことだと、木剣を下ろす。ペイルブルーも冷静さを取り戻し、ゆっくりと構えを解いた。


「……旅人ならこんな面倒ごと放り出して、さっさとどこかへ逃げればいいものを」

「後味の悪い旅はしたくない」

「気にしない性格に見えるが?」

「それは私を誤解しすぎだ」


 エラは木剣をウェポンラックに戻し、床に転がった杖を拾い上げる。

 ラビアは内心、あんなニヒル男なんか叩きのめしちゃえばいいのに、とエラを応援していただけに、「なんだ、つまんないの」と大きく伸びをした。


 もはや作戦会議や上司の指示などどうでもよくなり、昼ご飯でも食べようかと腰を上げた時だった。

 階段を「ほっ、ほっ……」と誰かが降りてくる声が聞こえる。


「いたいた、炎のオズワートさん」


 現れた男は「どうも、装備課のロッテンです」と、腹の肉を揺らしながら陽気に手を上げた。


「乙級クエストで杖を失くしたと聞いてね。よければ装備課から支給するよ」

「大丈夫です。もういただいています」


 ロッテンはきょとんと目を瞬かせ、「ありゃ、本当だ」とエラの右手を見る。ギルド見学中に貰った予備品だ。


「こりゃまた……言ってくれればもっと上等なのがあったのに」


 ロッテンは苦笑しながらエラの杖を手に取り、魔力を込めて「……ん?」と首を傾げる。


「これ、装備品登録は済んでいるかい?」

「ええ」

「総務課に魔力検査証は提出したかい?」

「予備品なので要らないと言われましたが」


 不審がるロッテンは、低く唸りながら「預かってもいいかい?」と顔を上げた。


「構いません」


 ラビアは「え、杖なくていいの?」と当然の疑問を口にする。

 ペイルブルーが「クエストも出撃制限中だから、どちらにしろ要らないだろう」と言えば、「あ、そっか。ご愁傷様だねぇ」と笑った。


 ロッテンは「悪いね、それじゃあ!」と手を振りながら、またえっちらおっちらと階段を上っていった。




 *




 ロブ、エルバ、イニェンの三人は、目的の人物の家の前で頭を悩ませていた。


「お義父さん、申し訳ございません! 彼女にクエストを勧めたのは僕です!」


 ロブが叫べば、ドアの向こうからは「誰がお義父さんだ!」と男の怒鳴り声が返ってくる。


「ジャスミンと話をさせてください。あなたの大事な娘さんを守った魔導士が、今ギルドで疑われているんです。ジャスミンの証言さえあれば……」

「娘は怯えとる! もう放っておいてくれ!」


 渋い顔のイニェンが「私に任せて」と小さく言い、ドアの前に立つ。


「私はイニェンです、ジャスミンの友達です! ジャスミン~、皆心配してるわよ」


 少しの沈黙の後、再びドア越しに声が響く。


「私の誘いを断った子なんか友達じゃない、と言っているが!」


 ロブが目を細めれば、イニェンは「そんな事もあったっけ……?」と苦笑いし視線をそらした。常に一人でクエストに行くソロ派の彼女にとって、誰かの誘いを断るなど日常茶飯事すぎて記憶にもない。

 それじゃあ俺がと、エルバは前に出る。「ジャスミン、少しでいいから話を聞かせてくれよ」と声を張れば、「え、エルバ君!? エルバ君がいるの!?」とジャスミン本人の声がうっすらと聞こえた。


 イニェンは「お、手ごたえアリ?」とささやき、ロブは「なんか腹立つな……」と腕を組む。

 しかし三人の期待は「だめだ、帰ってくれ!」という父親の叫びによって、水をかけられた焚火のようにむなしく消え去った。


「エルバの顔でも厳しいか……こりゃ相当だな」

「ああ、俺の顔で釣り出せないとは」


 とぼとぼ歩き出す二人の背中に、「あんたらもっと演技できないの!?」とイニェンの声が飛ぶ。


「イニェンこそ、私は友達だからいけるとか言ってたくせに」

「喋ったことあるし。ロビーで一緒にコーヒー飲んだし」

「それで友達判定は重すぎないか?」

「私にしちゃ仲良い方でしょ!?」


 いがみ合うロブとイニェン、「俺の顔でも駄目か」とぼやくエルバ、その奇妙な三人組を、少し離れた物陰から伺う男がいた。


「お三方、何かお困り事でも?」


 いっせいに振り返った三人の前で、男は「ああいや、何か言い争ってたからさ」と両手を前に持ってくる。


「俺、ニューセイブにあるレッドサイレンスってギルドのもんだ」


 エルバが「ああ、レッドサイレンス」と呟けば、男は「知ってんのか!」と表情を明るくした。


「俺ら、このニューセントラルに支部を作ったばっかでさ。クエストの依頼があれば、どこよりも早く受け付けるぜ」


 ロブは手を振り「俺らは大丈夫だ、他当たってくれ」と笑う。

 そりゃ残念、と素直に引き下がった男に、ロブは「頑張れよ~」と軽く声を投げかけた。


「もう昼か」

「何か食ってく?」


 ロブとエルバは言葉を交わしながら、海鳥の鳴き声が響く青い空を見上げる。ジャスミンの件はどうすっかなぁとボヤきつつも、彼らの意識はすでに昼食の店探しに切り替わったようだ。


 ──アルゴンたちはどこ行った?

 ──マリアーナもいないな、クエストに行ったんじゃないか。


 耳に飛び込んだ名前にはっと足を止めたイニェンは、前行く二人を呼び止めて声を潜める。


「……今、アルゴンとマリアーナって聞こえた」


 忘れるはずがない。

 ハイドレンジアのクエストで、自分をニューセイブの宿屋に置き去りにした仲間──だった者たち。

 イニェンは拳を握って振り向くが、そこにはもう男の姿はなかった。



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