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一階ごとに記憶が消える塔ー①


 冒険者のレビンは、塔の周囲の魔物に悪戦苦闘していた。

 この塔に入れば、目的の『ハーピーツインの羽根』はすぐに手に入るらしい。

 ただ、塔にたどり着くまでが大変だった。どこからともなく湧き出るアンデッドは、見た目の気味悪さもそうだが、体中から酷い腐敗臭を発し、レビンの気力と体力を奪った。


 吐き気でよろめいた瞬間、魔物に背後を取られる。

 しまった──。


 受け身を取った直後、魔物の脳天を一発の雷が貫く。

 恐る恐る顔を上げたレビンは、フードを被った女の冒険者と目が合った。


「大丈夫?」

「あ……ありがとう」


 差し出された手を掴み、立ち上がる。

 女はアンプリファイドというギルドの冒険者、エラと名乗った。

 彼女もハーピーツインの羽根が目的で、この塔を訪れていた。


 レビンは焦った。まさかの討伐被(とうばつかぶ)りだ。

 他の冒険者と目的が被ってしまえば大抵は話し合うが、場合によっては武力行使もやむを得ない。

 身構えるが、エラは「じゃあ、一緒に行こう」と微笑んだ。


 助けてもらった手前断ることもできず、今回は素材を半分ずつ分け合おうということで、二人はともに歩き出した。





 ニューセントラルの街から遠く離れた渓谷の奥に、その塔はある。

 飾りも窓もない、石造りの巨大な円状の建物だ。


 塔に入ったエラは火の玉を召喚した。

 レンガの隙間からわずかに光が射し込むだけで、明かりがなければ先が見えない。


「真っ暗ね」


 だだっ広い空間に、レビンの声が反響する。


「面倒だ」


 エラは火の玉を分裂させ、一階の空間すべてを照らした。


「わぁ、すっごく広い」


 改めて明らかになった塔の広さに、レビンは息を呑む。

 魔物の気配はない。出発前に仲間から聞いた通り、ハーピーツインは一階にいるという言葉を信じて探し回るが、文字通り何もない。

 やがてエラが二階へ続く階段を見つけた。


「行ってみよう」

「そうね。一階で見つけたって人は、運が良かっただけかも」


 レビンは後を追う。

 風の通り道などないはずなのに、妙な冷気が身体を包んだ。


 階段を上った二人は、薄暗い空間の中で立ち尽くす。

 エラは全体に火の玉を召喚した。

 思いのほか広い床に、レビンは「わぁ」と口を開ける。

 しかし、目的の魔物が見当たらずに首を傾げた。


「あら……ハーピーは”一階”で見つかると聞いたんだけど」

「私もそう聞いた」


 コツ、コツと靴底がレンガを踏む音が、静寂に吸い込まれる。

 レビンは上へ続く階段と、下へ降りる階段を見つけた。塔に地下があるとは聞いていない。どちらに行くか話し合い、地下は危険そうだということで、二人はさらに上へ進んだ。


 広漠(こうばく)とした塔内。

 エラが灯りをつける。


 二人はその階で衝撃的なものを見た。

 空間の隅に、丸まって動かない人影がある。


「うっ……」


 強烈な死臭に、レビンは口を押さえる。

 壁にもたれて息絶えたその人は、鳥の巣のような髪の隙間から頭蓋骨が露出している。かなりの年月、ここに放置されていたのは明らかだった。


「ここ”一階”なんだから、誰か埋葬してあげればよかったのに……」


 孤独な冒険者の最期を思うと、レビンは胸が締め付けられた。


「ハーピーを探す前に、あの人を埋めてあげない?」

「そうしようか」


 二人は遺体の前に膝をつき、心の中で祈りを捧げた。

 浮遊の魔法で運び出そうと立ち上がったエラが、ふと呟いた。


「……入り口は?」

「入り口?」

「今、入ってきた場所」


 レビンはその場で一回転し、円状の壁をくまなく見渡す。

 ない。

 確かに、ない。


 自分たちはたった今、討伐被りはしょうがない、素材は仲良く分け合おうと話しながら塔に足を踏み入れたばかりだ。

 なければおかしいはずの入口が、どこにも見当たらない。

 冷気漂う塔の広間で、腐敗した遺体だけがそこにあった。





 塔に入った瞬間、何か不思議な力で入り口が閉じられたのだ。

 レビンは最初そう思った。


「よし」

「何する気?」

「壁を壊そう」


 杖を構えたエラを、レビンは慌てて止める。


「ちょ、ちょっと気が早すぎない!?」


 聞く耳を持たないエラに、レビンは塔が崩壊したら大変だと訴えかける。


「壊した瞬間に防御する」

「待って待って、防御できても生き埋め──」


 直後、ドンッと重厚な衝撃と共にエラが炎を放った。


「ぎゃあーっ!?」


 レビンは悲鳴を上げ、とっさに頭を両手で覆った。

 涙目のまま顔を上げると、壁には馬一頭分ほどの窪みができ、パラパラと石の欠片が散る。

 防御魔法を解いたエラは「結構分厚いな」と、再び杖を構える。


「ひ、人の話全然聞かないわね!?」

「次は強めに」

「待っ──」


 轟音とともに、窪みは馬車がすっぽり収まりそうな穴になった。

 エラはずんずんと穴を進み、炎の魔法を撃ち続ける。洞窟のようになった壁はいつまでたっても外に繋がらない。

 明らかにおかしいと気づいた。

 これ以上は無駄だと悟り、二人は引き返す。


「ここ……ちょっと臭いが酷いから、ひとまず上に移動しない?」


 レビンは遺体を一瞥(いちべつ)した。

 階段を上がった二人の、肩の力がふっと抜ける。


 また広い空間。

 エラが火をともす。

 何もないわね、とレビンが言う。


「ハーピーは一階で見つかるはずなんだけど──」


 周囲を探るレビンは下る階段を見つけた。

 塔に地下があるとは知らなかったが、少し見てみるか。

 いや、上の階に行ってみよう。

 そんなやり取りの後、「あれ、入り口は?」とエラが振り返る。


 不気味に静まる空虚の塔には、二人の冒険者の足音だけが響き渡った。



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