表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

私はこの世界の全てを知っている その3





あいつ、やりおった。

何でうまくいかないのと癇癪起こして、軌道修正かけようとしやがった。シナリオを戻せば、攻略キャラ達が自分の方を向いてくれると思ったようだね。

んな訳ねぇだろ、と私は言った。ついでに止める為、重い一撃をボディーに入れさせてもらった。

相手は美少女?馬鹿野郎。顔と実力と身分が免罪符になると思うなよ。

足元に転がる美少女にやられた、残念な令息共を、同じく沈めていく。勿論、私一人ではない。兄もいる。息子さんを陥れようとしたのだ、ファンの兄が許す訳がない。また、一人の令息が宙に舞った。あれはもう、意識がないな。そして兄、いつの間にあんなに強くなったのだろう。

さて、気を取り直して考えよう。この展開はあったな、ラスボス戦前だったか。主人公の力を狙われ誘拐されて、その時一番好感度が高いキャラが助けに来るんだったと思う。

理由は違うし、未遂に終わらせたし、平民なめんなと返り討ちにしてしまったし…。

正直、ここまでゲームの流れから剥離してしまえば、もう記憶は使い物にならないのではと思う。それに私以外に転生者がいたとして、その人がシナリオを悉く破り捨てていたとしてもだ。ここまで誰か分からない、なんてあるのだろうか。

出来る限り観察していたが、怪しい動きをしていたのは、呻き声を上げている美少女ぐらいだ。起きたようだ。






美少女は喚く。

彼女は生まれた時から記憶を持っていた。此処が生前やり込んでいたゲームの世界だと、歓喜したという。主人公ではなかったが、彼女にとってはどうでもいい事であったらしい。前世のクソみたいな人生に比べたら、こっちの方が恵まれていると。記憶があれば、上手く立ち回って自分が主人公になればいい、未来は約束されたようなものだと。

なのに、何も起きない。

彼女も他の転生者の存在を疑った。そいつが邪魔をしていると。しかし、いくら探っても誰がそうなのか分からなかったという。

因みに私と兄の存在だが、主人公はプレイヤーによって性格が変わるものだから、多少おかしくても特に気にはしていなかったそうな。おかしいって失礼だな。

そして一番の違いは、攻略キャラだという。

全員何かしらの重い過去を抱え、主人公の出会いによって払拭されていくという流れ。なのに、


 「なんで、なんでなんで……!!自力で過去を乗り越えてるのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


今日一、渾身の叫び。

そうだったんか、知らんかった。息子さん以外とは余り喋らんから。

兄が不審物を見るような目で美少女を見ている。知らなければ、そうなるよね。


 「やっぱり、あんたたちがそうなんでしょ?!!」


 「…ちょっと何言ってんのか分からないです」


 「分からないはずねーだろ!」


兄は本当に分からないのよ…。

美少女は大人しくしてそうに無い。私は兄に、息子さんと第三王子に伝えてくれるよう頼んだ。心配気な表情をしたのは一瞬。転がる令息共を縛り上げて行ってくれた。うん、私この子より強いよ、物理的に。

王子と聞いて、途端に大人しくなった美少女を見下ろす。彼女も気付いていたらしい、王子の息子さんへの重い想いに。自分がやったことが、王子の逆鱗に触れる行為だと、ようやく気付いたのだろう。あの人王族だし、権限持ってるからね。加担した令息共も、ただでは済まない。


 「…大体、あれも、おかしいのよ!あんたもそう思うでしょ、相手は同じ男よ?!メインキャラじゃないくせに出しゃばって、ホント無理!マジで気持ち悪い!!」


全否定か。前世では多様性だなんだと言われていたが、中には受け入れられない人もいた。でも、口に出すことでは無いだろう。自分が無理だからといって、その人自身を否定するのは違うと、私は思うのだ。同じ人間、けど全部同じじゃないって、誰かが言ってたし。

それに、見てれば分かるぞ。どんな形にしろ、誰かが誰かを想うのは、いい事だ。幸せな事だ。重い軽いは別として。

……という訳で、


 「これは、乙女ゲームで!私がっぼっっ???!」


不愉快なこと言いそうになっていた美少女に、鼻フック。

大丈夫よ、私の指は今浄化し続けているから。ちゃんと配慮してるわ。






 「これはゲームじゃないの。私にとってもアナタにとっても、現実なの」


 「ケガしたら痛いし、致命傷負ったら死ぬことも有り得るの。兄も息子さんも王子も、他の人達も、生きてるの。勿論、心無い言葉をぶつけられたら、傷付くわ。感情があるの。私とアナタと同じなの」


 「アナタはちゃんと考えた?アナタがやろうとしてた事は、誰かを傷付ける事。誰かの命を奪う事。アナタはアナタの幸せしか考えてなかったようだけど、もしゲームの通りに事が起こっていたら?多くの人達が犠牲になったとしたら、アナタは自分の幸せの為だから仕方ないと言うの?」


 「アナタはその可愛い外見で随分甘やかされてきたようだけど、人はアナタの思い通りに動くものじゃないの。人形じゃないの。アナタを満足させるだけの存在じゃないの。彼等には彼等の人生があって、思いがあって、生き抜く力がある。前に進む力がある。アナタはその邪魔をしようとしていた、台無しにしようとしていた、アナタが考えるアナタだけが幸せになる為のシナリオの為に」


 「やっと気付いたのね。ええ私よ、アナタと同じ転生者。平和の為には努力は惜しまないの。私はアナタよりこの世界の全てを知っているわ。今後、アナタが今以上に阿保をやらかすのなら私は黙っていない。徹底的に戦って勝つ。もし、アナタがやらかした事で、私の大事な人達に何かあってみろ、ツブシテヤルカラナオマエノスベテヲ」











…今日も平和だ。

穏やかな学園生活が送れている。

兄と私の目の前には、青褪めた美少女がちんまりと座っている。手が震えているので上手くお茶が飲めないようだ。兄はこうなってから、ずっと怪訝な顔である。

私としても、居心地がいいとは言い難いのだが、仕方ない。この美少女、喉元過ぎればまたなんかやらかしそうだから、見える範囲に居てくれた方がいい。光属性は少ないから、捕まえておきたいという上の判断もあるのだろう。


 「……鼻、大丈夫なの?」


 「っっ…、は、はいだいっ、だいじょぶ、ですっ」


私が声を掛けると必要以上に怖がるので、それは主に兄の役目だ。すまん、兄よ。

彼女達のやらかしは、未遂ともあって関係者しか知らされてない。主犯の彼女は王子の怒りで極刑一択だったらしいが、息子さんの必死の待ったで、魔力を封じられ監視付きの解き放ちになった。

監視役が、私たちだ。それを聞いた美少女、その場で半狂乱に泣き喚いたらしい。

事情を知らない方々は困惑したが、あの兄妹が居れば今後は大人しいんじゃないかと意見は一致。今に至る。


 「……、…」


最初に比べると、まるで別人だな。

あの時は怒り心頭で、色々と口から出まかせにしてしまったが、訂正する気はない。

誰か分からない、もう一人の転生者。ここまで隠れるということは、表に出たくないのだろう。ならば、この美少女にも誤解させたままでいい。

私はなにもできなかったが、その人は必死に努力してくれたのだ。ささやかながらの、私の恩返し。

顔も知らない人だけど、あなたの平穏は守り通すと誓おう。






………魔物が居て、魔法があって、前世とは全く異なるファンタジーな世界だけど、私は此処で、生きているぞ、友人。本当は君が来たかったかもしれないけど、存外、楽しい。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ