100. タケルそしてメンバー達
■スタートス聖教会
~第9次派遣2日目~
スタートスに戻って来たタケル達はすぐにダイスケを宿舎の部屋へ連れて行った。
一人で歩くことは出来たが、足元がおぼつかなかったのでタケルとアキラさんが両側から支えてやった。
明るい場所で見ると出血量の多さに改めて驚く、腰から背中が血でぐっしょり濡れている。
食堂で血だらけのダイスケを見たミレーヌは小さい悲鳴を上げたが、新しい服をすぐにとりに行ってくれた。
ダイスケの部屋でアキラさんに服を脱がせるように頼んで、タケルはタオルと水を汲んだ手桶を持ってきた。
椅子に座った上半身裸のダイスケは腰の傷跡はすっかりふさがっていて、特に後遺症は無さそうだった。
だが、顔色が真っ青なままだ。
タオルを絞ってから渡し自分で拭かせてやる。
タケルは背中に回って別のタオルで拭いてやった。
濡らしたタオルはすぐに血で真っ赤になり、何度か桶の中でタオルを絞る。
体の血がほとんど落ちた時には手桶の水も真っ赤になっていた。
この世界はゲームではない。
アバターではないから怪我をすれば血が出て痛みもある。
頭では理解していたが、これほどの出血を目の前にすると恐怖心が沸いてくる。
ダイスケをベッドに寝かせてやって部屋を出た。
アキラさんも表情は変っていなかったが心配しているはずだ。
タケルは一人で考えたくなったので、先に風呂を使わせてもらうことにした。
この時間にはお湯が沸くように教会士トリオが準備してくれているはずだ。
タオルと着替えを持って、壁の無い露天の風呂へ向かった。
湯船に浸かって乾いた風を頬に受ける。
昨日はあれだけ気持ちよかった風呂が今日はそうは思えない。
洞窟では何が失敗だったのだろうか?
4人で固まっていた方が安全だったのか?
しかし、2匹で突っ込んでくれば結果は変わらなかったのでは無いか?
ダイスケとアキラさん、この二人なら戦力的には問題なかったはずだ。
あのぐらいの鹿なら既に二人とも一人で倒せる強さになっている。
食事の時に流れをアキラさんに確認する必要がある。
今日は遠征の2日目だが、残りの二日もダイスケは寝かせておくしかないだろう。
3人で明日洞窟に行くのも難しい。
ナカジーはかなり動揺していた。
これまでが上手く行き過ぎていたのだろう。
大きな怪我も無く、タケルの魔法、聖教石の加工、魔法石、魔法武具、資金の獲得・・・、そしてメンバー同士の関係、全てが上手く行っていたように思う。
タケル達以外の勇者チームが撤退したのも、こういった経験をしたからなのだろうか?
この世界は魔法や剣技を楽しむつもりでは続かない。
わかっていたつもりだが、今回の件も神からの試練なのだろうか・・・
悶々と一人で考えながら風呂から上がった。
■スタートス聖教会 宿舎食堂
ダイスケの部屋にはナカジーがベーコン入りのスープパスタとパンを持って行ってくれた。
まだ、起き上がるとめまいがすると言うので、部屋でおとなしくさせている。
タケル達三人は今日もミレーヌお手製の肉料理を前に酒を飲んでいるが、食事も会話も弾まない。
「アキラさん、洞窟の中では鹿の角はかわせなかったんでしょうか?」
「・・・うん、タイミングかな」
「タイミングですか? 避けるのが遅れたとか?」
「ちょっと刀を振るのが遅れたんだと思う」
躊躇ってしまったのか・・・
少しでも躊躇うと獣は一気に距離をつめてくるからさらに怖くなる。
その気持ちは良くわかる。
タケルは獣を見れば出来るだけ早めに遠い距離から火や風を放つようにしている。
もちろん魔法力に自信があるからだが。
「僕が行けば良かったんだろうけど・・・」
「いえ、アキラさんが気にすることではないと思いますよ。ダイスケも無敵の刀を持っていたんですしね」
「刀が強すぎるのかも」
「刀が強すぎる? どう言う意味ですか?」
「あっちの世界では刀で生きてるものを攻撃することなんて無いでしょ。刀が強くなっても、ダイスケには戦った経験がないから・・・」
なるほど、自信過剰になっているという事なのか。
確かにどれだけ太い木が切れるようになってもそれだけでは駄目だ。
そのための実戦訓練のつもりだったが、イメージの自分と実力が未だ噛み合っていないから、獣を前にして怯えや躊躇いが出てしまう。
「アキラさんはボクシングの経験が活きていると思いますか?」
「うん、結局は殴るための練習だったからね」
今日は酒を飲みながら丁寧に話してくれる。
ダイスケのことでアキラさんも責任を感じているのだろう。
「アキラさんは、これからどうしたら良いと思います?」
「・・・、やっぱり修練と実戦を繰り返すしかない。片方だけでは絶対駄目」
「そうですよね、俺もそれしかないと思っていますけど」
「タケル・・・」
「どうしたの、ナカジー?」
いつもの半分も飲まず、食べず、話さないナカジーが口を開いた。
「私、怖いよ」
「うん、俺も怖いよ。初めてあんなに血が出てるの見たし」
「うん、それもそうなんだけど・・・」
「ナカジーは他のリーダーと前に来た時はケガをしなかったの?」
「うん、逃げ回っている間にリーダーがやられちゃったから」
「それなら、ケガを見るのは少し慣れてるんじゃないの?」
「慣れてないし、前の人達はほとんど知らない人だったし、私は何も出来なかったから、あんまり気にならなかったけど、今は違うじゃん!」
今回のメンバーは何度も一緒に来て親しくなっているから、タケルも友人や家族のようなシンパシーを既に感じている。
ナカジーも同じだろうし、本人は治療も出来るようになっているから、それが逆にプレッシャーになっているのか。
「そうだね、ナカジーも治療魔法ができるようになってるから、既に重要な戦力だよね」
「うん、そうなんだけど。なのに、あんなに血が出てたら怖くて何にも出来なかったし、魔法が使えても意味無いじゃん。それに、自分が怪我するのもやっぱり怖いし・・・」
「それは、慣れて行くしかないと思うんだけどな」
「そんなこと言っても、絶対に慣れないよ・・・」
「まあ、あせる必要は無いよ、少しずつ強い敵で実戦経験を積んで行けば気がついたときには慣れてるって」
「そうなのかなぁ・・・」
ダイスケの傷と同じくらいナカジーがショックを受けている。
自信を失うと魔法に影響が出るだろう、何とか自信を取り戻して欲しいがタケルにも良い案はなかった。
それでも、弱い相手といつまでも戦っても魔竜を倒せるようにはならない。
チームの力を強くするためには、強い敵との実戦経験が間違いなく必要だ。
その考えは今でも変わらない。
だれかがメンバーから抜けるようなことになったら寂しいだろうが、リーダーとしてタケルは覚悟が必要なことを理解していた。




