感情
ちょっとだけ残酷表現ありです。
目が醒めるとそこは牢の前だった。しかも、牢の扉が開いていた。
ーーモルガンが脱走したか!?
慌てて起き上がった。そして、違和感を感じた。じめじめした地下室ならではの湿気を感じた。カビ臭い匂いがする。鮮明な情報に戸惑った。
ズサ
ーー誰かいる!? モルガン!?
部屋の階段にモルガンがいた。逃げられると思い叫んだ。
「待て!?」
自分の声が喉を震わせた。
ーーえ?
自分の姿を見下ろした。足があった。手があった。ようやく自分の身に起きている事を理解した。アーサーは自分の身体に戻ったのだ。
「おめでとうございます。魔王様に感謝して下さい。あ、あとリンカさんにもね」
「どういう意味だ?」
モルガンの輝く金の瞳は細められた。
「リンカさんが貴女に身体を返したいと言ってましたので、私はそのお手伝いをしたまで」
アーサーは部屋を見渡した。自分とモルガン以外誰もいない。
「リンカは!? リンカは何処いった!?」
くすくすと笑う魔女。
「魔王様の元にいます。ああ、それとグウィネヴィアはもう用済みなので返します」
「ふざけるなっっ!!?」
聖剣を鞘から抜き放ち、モルガンに向けた。聖剣は本来の遣い手に握られて嬉しそうに光を反射した。突きの構えでモルガンへと突進した。
「はああああっ!!」
だが、空を切った。モルガンは黒猫に変身したのだ。とてててて と階段を上って行く猫。その姿を追った。
地上の眩しい光に目が眩んだ。地上にはオークとオーガがグウィネヴィアを連れてこっちに向かって歩いてきた。銀の瞳は不安そうに揺れている。
「アーサー様」
「姫……」
グウィネヴィア姫がそこにいるのに、アーサーは別の人物を捜していた。
ーー俺は馬鹿か!? 魂なんて見えるか判らない存在を捜すなんて!?
目の前のグウィネヴィア姫を優先して助けるべきだと頭では分かってるのに、感情が追いついてくれない。
立ち尽くすアーサー。それに焦れたのか、1人の騎士が動いた。お腹のぽっこりした豚鼻のオークと筋肉質なツノの生えたオーガの首が切断された。血しぶきが姫の顔に飛び散った。
「きゃあああ!?」
姫は俺の元へ駆け寄り縋りつく。その光景を茫然と眺めていたら叱責がとんできた。
「アーサー!? 何故姫を助けない!?」
「ランスロット……」
鬼の形相でランスロットはアーサーを睨んでいた。
先日リンカから「姫が好きですか? 」 という質問に対してアーサーは 「好きだった」と答えた。そして、過去形だったことに気づいた。
ーー俺はもうグウィネヴィア姫が好きではない。
ランスロットがグウィネヴィア姫を熱を帯びた目で見ていても何も感じなかった。
姫を引き剥がしランスロットに渡す。
「ランスロット。姫を頼む」
戸惑う姫と騎士を置いて俺は街の外へ向かった。




