冒険が始まった
馬術は王様になるべく教わった。馬も乗れない王など笑い者もいいところだ。その無駄なカッコつけの為の授業が今役に立つとはな。やはり徒歩と馬の足とでは速さは雲泥の差だ。
聖剣の情報を頼りに馬を走らせた。基本的に平原が広がるブリテン南東部。今から迎う魔王の居城とやらはブリテン南西部にあるはずだ。それは聖剣にゴールドを使って得た知識だ。
ランスロットもマーリンもトリストラムも置いてきた。感情任せで飛び出すことは初めてじゃなかったな。ブリテンの王を決める儀式に参加するべく徒歩でカメロットからロンドンに向かったんだった。あの時はグウィネヴィア姫の為に、今はリンカの為に俺は走ってる。
ーー女に振り回されて情け無いな俺。
こみ上げる嗤い。
ーーそれも悪くないな。
ふと空を飛ぶ飛行生物に気が付いた。よく見ると黒い鳥のシルエットに見えた。いや、違う。あれはデーモンだ。金の目は輝き口からはみ出る鋭い犬馬。こちらに向かって飛んでくる。俺はゴールドを使い聖剣の能力で雷を落とした。
ドッゴオオオン!!!
黒焦げになり地面に落ちるデーモン。俺はその横を馬で通り過ぎた。
それから暫く馬を走らせていると地平線の彼方に集落を見つけた。ひと休みできると安心してはいけない。もう既に魔王の領域に入っている。その証拠に土壌は黒く染まり草が紫色、見た事ない色の野草が生えてる。
ーーあの集落に近づいてはダメだ。あれは魔物達の集落に違いない!
馬が緊張してるのが伝わってくる。可哀想に俺に付き合わせるばかりにコイツはきっと死ぬ。魔王との戦いで馬を守る余裕なんて無い。そんなアーサーの不安を感じ取ったのか馬が引き返そうとする。俺は諦めて馬を放す事にした。
そして俺を待ち構える集団に気付き辟易した。
ーー感情任せで突っ込むもんじゃないってのは知ってる。だがな。どうしても許せないんだよ!?
待ち構えるのはオークの集団。しかもきっちり武装してやがる。
ーーリンカ! 俺はいつ身体返せって言った! 勝手に思い詰めやがって! 自己犠牲も大概にしろ!
怒りに任せて俺はオークの武装集団に突っ込んだ。槍を皆装備して青銅の鎧を着てる。槍で俺を突くオーク達。マントを翻し狙いをつけにくくした。案の定マントに穴が空いただけで俺の身体は傷一つない。
「お前ら知ってるか!? 突きはな大して役に立たないんだよ!?」
決してモルガンに攻撃を避けられたから八つ当たりしているわけじゃない。わけじゃないぞ!
マントに引っかかった槍を奪ってオーク達の頭をぶん殴った。因みにアーサーも凛花の様にトリストラムに稽古をつけてもらった事がある。ならなんでモルガンに剣で突きをしただって? その方がカッコいいと思ったんだよ畜生!!
頭には何も防具がないので脳震盪を起こさせ戦闘不能にさせた。次の敵も同様に頭をぶっ叩く。
ーー人の言う事はきちんと聞くべきだよなぁ。
トリストラムの教えに従い割と簡単にオークの集団を倒すアーサーであった。
オークの比較的綺麗そうな槍を奪ってアーサーは魔王の元へと急いだ。
後ろから蹄の音が聞こえる。振り向くとマーリンとトリストラムが乗った馬がこっちに向かってくる。
ーーあっやべっ怒られる。
マーリンはアーサーの保護者的な存在だ。誰かから頼まれたらしくて、やたらと構ってくる。そんなマーリンを黙って置いていったのだ。当然怒る。
馬から土埃を巻き上げながら飛び降りたマーリンの目はつり上がっていた。勢いよく降りたから足痛そう。
「アーサー!! 何故儂らを置いて行くのじゃ!? というか、どうやって元の身体に戻った!? リンカはどうした!?」
わーわー叫ぶので耳を塞いだ。
ーーあーうるせー。俺だってリンカに怒りたいっての。
「あいつがモルガンに願っちまったんだよ。あいつの迷いに気づけなかった俺らも悪い。マーリンにはグウィネヴィア姫を守って欲しかったんだがなぁ」
マーリンはきゅとんと驚き。トリストラムは厳しい顔を更に厳しくした。
「……そうであったか」
「…………」
ワンピースをぎゅっと握りしめてマーリンはアーサーの目を真っ直ぐ見た。
「魔王の元に行くのか?」
俺は頷いた。
「ああ」
「なら連れてけ」
トリストラムが「姫は、どうする?」とマーリンに質問した。
「ランスロットがいれば大丈夫じゃろう。大体魔王の狙いはアーサーじゃからな……」
ーー憎たらしいよな。魔王ってのは。俺が何したっていうんだ。スリやらカツアゲは良くするから神様に恨まれるならまだ分かるんだがな。
遣る瀬無い気持ちでアーサーはマーリン達に「好きにしろ」と言った。
ーー大事な人はこれ以上増やしたくないな。
増やせばまた凛花の様に魔王に狙われるのだ。




