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マイ・プレイス  作者: 国木田エイジロウ
出会って、別れて、また会って
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第20話 旅路の始点

 ラーメン屋で航大、京子、水原監督は豚骨の出汁が効いたラーメンを味わう。

「美味しい?」

「ええ。久しぶりに食べた気がします。小学校以来……ですかね?」

 その言葉に水原監督は驚いた。高校生とはいえ、アスリート。カロリー、糖質など食事のことについて考えているのだと感心すると同時に、それに水を差すようで申し訳なく思った。

「そんな顔しなくても……ただ食べる機会があんまりなかっただけですよ」

「そ、そうか……」

 水原監督には気になることがあった。無論だが、3人が集って食事をするのはこれが初めて。何度か監督は航大と京子の仲睦まじい様子を見ていたのだが、気になったことがあったので聞いてみる。

「そういえば、二人は幼少期からの友人、いわゆる幼馴染かな?」

 監督が聞く。

「まあ、そうですけど」

 航大が答える。

「ゆ、友人……」

 京子は寂しく独り言を小さく呟いたが、航大や水原監督の耳には届いていないようだ。

「その頃の話を聞いてみたいな! 大村くんがどんな道を歩んできたのかも含めて、ね?」

 監督が聞く。少し考えて、航大が返す。

「……わかりました、監督」

「ちょ、わかりました、じゃないよ〜』

 顔を赤らめる京子。

「なんだよ、恥ずかしい記憶でもあるのか?」

「色々あるんだから。私だって……」

「なんだそりゃ」 

 困った顔をした航大の反応を見て、笑みを浮かべる水原監督。

「まあ、今から話すことは明日の決勝にも関係ある話なんで。色々ありましたし、全てを理解しなくてもいいんです。ただ、何か攻略法というか、ヒントになれば幸いです。長い話になりますけどよろしくお願いします」

「うん。先生……いや、監督は全部受け止めるから大丈夫!」

「私も大丈夫。航大くんの全部、受け止めてみせる……」

 恥ずかしいことをよく言えるな、と航大は少し顔を赤くし、咳払いする。

 では気を取り直して、と一呼吸置いた航大は、これまでの旅路、その全てを話し始めた。



 新宿リトル。関東ではそこそこ名の知れたチームだが、未だに全国大会の扉を開くことはできていない。

 小学校4年生となった航大は、父の紹介でこのチームの一員となった。

 背番号は10。父が入団前に何度も練習に付き合ってくれたおかげで手に入れた背番号だった。

 父、大村おおむら雄一ゆういちは元社会人野球の選手で、都市対抗野球でそれなりの成績を残していた実力者。そんな父とのキャッチボールは楽しかった。

 航大ができるようになったことはとにかく褒める。優しくで穏やかな父が野球に携わっていたことは当時の映像を見るまであまり想像できなかったが、野球の楽しさを教えてくれたのは、紛れもなく父であった。

 航大のチーム内での立ち位置は2番手の投手。言うまでもないが、航大より実力が上の選手はいる。

 その一人が代々木(よよぎ)隼人はやと。チームのエースナンバーである1番を背負う背の高い投手。クラスは違うが航大とは同じ小学校で、スタイルがよく、運動神経は抜群。どんなスポーツも軽々しくこなしてしまう様は、クラスの女子をとりこにした。

 彼がいる限り、航大に出番はなかった。いつも試合は代々木の全試合完投。勝ち負け関係なく、ベンチを温める日々が続いた。

 


 リトルリーグ公式戦が始まっても練習試合同様、航大に出番が来ることはない。代々木も実力ある投手ということもあり、完投、ときには完封でトーナメントを勝ち進んでいく。気がつけば、準決勝だ。

「さて、今日の試合だ。うちが長年勝てない秋葉東リトルとの一戦。この試合に勝てば間違いなく全国は目の前だ。先発はーー」

 スタメンが呼ばれるが、航大の名前は勿論なかった。

 この試合が終わったら、もう野球を辞めてしまおうか。



「そんな暗い顔するなよ〜。きっと出番はあるぜ」

 話しかけてきたのは、同学年の青沼。新宿リトルのレギュラー捕手。小学校は航大とは少し遠いところらしい。

「はっ、レギュラーだからそんなことが言えるんだよ、全くーー」

「勝負を決めるのは、準備だ。いつでも出られるように準備しとくんだぞ。たとえ出番がなくても、それだけは忘れるな」

 先ほどとは違った真剣さが伝わる声のトーンが航大の耳に届く。

 やれやれと、思いつつ航大は控えの捕手を座らせて数球投げた。


 試合が始まるまで、時間があった航大は球場の外の自販機に小銭を入れる。

 何を買うか。できれば水か、お茶にしたいが目ぼしいものはなかった。

 どうしようか迷っていると後ろから可愛らしい声がした。その声の主は女子であることを瞬時に理解した。

「あ、あの……」

「あ、すいません。すぐ決めますの……え?」

 振り向いた航大の後ろにいたのは、対戦相手、秋葉東のユニフォームを着た選手であった。おまけに背番号は1。航大がおそらくこの先着ることはないだろうと思っていた番号を彼女は着ていた。おそらく相当な実力の持ち主なのだろうと航大は悟った。

肩にかからない程度のさらさらとした髪に整った顔立ち。美人とはこういうものか、と航大は思った。


「なんかごめんね、試合前に」

 飲み物を買った二人はベンチに腰掛ける。試合前に球場外のベンチで違うユニフォームを着た少年少女が一緒に座っている光景は異様だった。

「いやいや、自分は多分試合出ないから大丈夫。一応準備してはいるけど」

 半ば諦め気味な航大の顔を見て、野球少女は言った。

「じゃ、相手のエースをマウンドから降ろしたら、君が出てくるってことでいいのかな?」

 にっこりと笑う無邪気な彼女を見て、航大は戸惑う。

「保障はできないかな……。だって俺、公式戦で一度も投げてないし」

「え? 嘘?! 相手のエースの代々木くん、だっけ。練習見てたけど二人の実力にそんな差は感じられなかったけどなぁ……」

 時計を見ると、試合開始時刻が近づいていた。

「あ、もうそろそろ時間だね。お互い、ベストを尽くしましょ!」

「うん」

「そうだ、名前! まだ聞いてなかったね。私は山川京子。あなたは?」

「大村航大。よろしくな」

 二人は握手を交わす。

 これが、航大と京子の最初の出会い。全ての始まりである。

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