36話 そこは甘い甘い青春の浄土
『あらぁ芳樹くん!久しぶりね〜!ごめんなさいね、ウチの来夢ったらまだ寝てて』
『あ〜、気にしないでください。まぁいつものことですし……』
『ちょっと起こしてきてもらえるかしら?』
『な!?お、俺がですか??いや、大丈夫なんですか?』
『大丈夫よ!きっとびっくりするわ!』
『は、はぁ』
階段を上りながら、考える。昔はこうやってお寝坊の来夢を起こしにきていた気がするが、来夢がああなった今、それは大丈夫なんだろうか?
というかおばさんは狙っててやってないか?
コンコン
『ら、来夢ー、起きてるかー?』
『………ん、、ふわぁぁぁ……おやす……』
『いや起きろって!』
扉越しに叫んでみる。やはり寝起きらしい。土曜日の来夢の起床時間は10時。それをさらに30分もオーバーしている。中学の時は吹奏楽部の朝練とかで早起きしていたのだが、どうやらその反動が来ているらしい。
『……ねむ〜、なんでよひき(芳樹)が起こしに来るのさ…………』
ガチャっ
部屋の中から眠そうな顔の来夢が出て来た時、俺は思わずフリーズしてしまった
『ふぁ??』
ピンク色のミニスリップやら何やらを着てその白い肌を露わにした来夢の格好。乱れた髪に、強調された大きな胸、そして透けて見える身体の隅々。絶世の美少女が、とんでもなく扇情的な格好で寝ぼけ眼を擦っている。あの、これは、教えてあげたほうが良かったり??
『……ふぁ?何?なんかトマト祭りでベチャベチャにされたみたいに真っ赤になって…………あ、あああ、ああああああ、、あああああああ』
来夢も気づく。自分がどんな格好をしているかに気づく。見る見るウチに来夢の顔もトマティーナでべちゃべちゃにされたみたいに真っ赤に……
『ひゃ、あああ、
ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁああああああ!!!!』
ものすごい勢いで、ドアが閉められた。いつも余裕そうな来夢も、この時ばかりはダメだったらしい。そしてこちらも、何回も来夢の姿を想像してしまい、おばさんが上に登って来るまで呆然と立ち尽くしていた。
………
………………
…………………………
み、見られた!見られた見られた見られた見られた見られたぁぁぁ!!こんな格好絶対見られたくなかったのにぃぃぃ!!
『お、お婿に行けない……』
まぁ元々「お婿」にはなれないが。よし、今日はもう布団から出ない。今日オンリーでニート!
『来夢〜!朝ごはん、食べなさい!』
お母さんが部屋の外から呼びかける。出たくないですぅ。
『全く、香澄ちゃん!昨日そのまま寝かせちゃったの?だめじゃない!』
『や、だって、伊奈姉が……』
『アタシのせいにするじゃないよ。香澄、お前来夢虐めたら承知しないからな』
イケメン伊奈姉様ご立腹です。流石常識人。
『ったく。来夢、入るよ?』
僕の部屋には鍵がついていないので、入室は簡単だ。お姉ちゃんが近づいて来るのがわかる。
『香澄も母さんも色々無理やり過ぎなんだ。ほら来夢、どんな格好なのか知らないけど、取り敢えず出ておいで』
『……お、お姉ちゃん…』
ちょっと感動して涙出てきた。だけど、僕が布団から出てきた時、お姉ちゃんの顔もトマティーナした。そんなことは気にせず、お姉ちゃんの手を取ってベッドから降りる。
『………お、お姉ちゃん?』
『……来夢、、お前その格好で昨日香澄とイチャコラしてたのかい?』
『い、イチャコラて…』
『クッソ、羨ましい』ボソッ
『へ?』
『いや、悪い、ちょっと刺激的すぎてな。来夢、一応その、派手じゃない下着は残っているのか?』
『わかんない。なんかお母さんが全部持ってそう…』
『わかった。あのバカども取っちめて持ってきてやるよ、心配しなさんな』
そう言って、お姉ちゃんが頭を撫でる。この芳樹以上のイケメンっぷりには惚れざるを得ない!!
『お、お姉ちゃん〜!ありがとう!ほんと大好き!』
勢いで抱きついてしまうが、特に恥ずかしさはない。
『な、な、な、か、可愛すぎるぞこの妹!!』
と、向こうの方から熱い抱擁。窒息しそう…
『すごい、伊奈姉は了承を取って向こうからデレさせた……これが大人……』
『来夢の妹っぷりに磨きがかかっててお母さん嬉しいわあ〜』
『あの、俺はいつまで扉のそばにいれば…』
……
…………
…………………
伊奈姉の奪還劇により、今僕はようやくふつうの格好でリビングにいる。猫耳付き黒パーカー、シャツ、下は暗めのショートパンツと黒ニーハイ。普段着だ。普通に可愛いから気に入っている。
『そういえば芳樹はなんできたんだっけ?』
『お前、まさかそれ普段着か?』
『そうだけど。どったの?』
『いや、可愛いなぁって』
『今日見タコトハ忘レロ、デナイト殺ス』
『怖ぇ!その目怖ぇ!!』
芳樹は先ほどのダメージが抜けていないらしい。僕だって抜けていない。もう泣きたい。
『でさ、マジでなんなの?朝からよくも僕を辱めてくれたよね?責任とってよねって言われても仕方ないレベルなんだよこれ?』
『いや、お前だったら寧ろ責任取りたい…』ボソッ
『…………は?』
は?は?は?なに?僕の聞き間違い??
『来夢は可愛いし、寧ろああいうの、アリだし。お、俺、お前のこと………』
や、やばい。いっときの気の迷いで芳樹が狂った!お母さんも香澄もあの和やかな目は何!?
『お前のこと、す……』
『だぁぁぁぁあぁぁぁあ!!やめろばかぁ!!お前、いっときの気の迷いが一生の黒歴史になることだってあるんだよ!?こんな2日連続で黒歴史を更新したくないよっ!』
『いや、俺は、』
『黙れパリピ!嫌い嫌い嫌い!!平気で人の黒歴史作りに来るやつマジで嫌い!!』
『……お前のそうやって恥ずかしさを誤魔化そうと必死に騒ぐの、正直メッチャ可愛いと思うぜ』
『な!?ひゃ、ひゃぁぁ』
ご多聞漏れず赤面する。僕赤面症だったっけな?
『……うっさいバカ芳樹。マジで無い。本当ナイ』
『お母さんみた??お姉ちゃんが落ちるのソロソロだよ』
『ええ、近日中には落ちるわね』
『外野うるさい!!』
近日中に発表みたいに言うな
……
……
『それで?何しにきたのさ本当』
『あ、ああ。これなんだ。ほれ』
『は?「スイーツ浄土」?あー、スイーツ食べ放題のあれか』
『2人で行こうぜ!』
『………普通この流れでそう来る??今日はもう丁重にお帰りいただこうと思ってたのに。てか絵梨はどしたの?』
『絵梨は、風邪引いたらしくてな。誘ったけど熱があるらしくって…』
『浄土行ってる場合じゃないじゃん!大事な看病イベントだよ!?ここでイケメン度見せつけてゴールインしてよ!』
『いや、意味わかんねえんだけど…』
『うーん、まぁ、別にいいけど。あ、レディースデーなのか』
レディースデーとは、TS娘にとってのTSメリットの1つだ。女性が思う存分優遇される日。え、3時間でこのお値段!?
『お、おおおお。抹茶ティラミス、ブルーベリーチーズケーキ、クリームブリュレ、ミルフィーユ、、このチョコフォンデュ可愛い!』
『な、いいだろ?』
『うん、行こう!今すぐ行こう!あれ、でも芳樹行って大丈夫なの?』
『あー、これ女子同伴ならなんでもいいんだとよ。ほぼカップルデーみたいなもんだが…』
『まぁ利用できるものはトコトン利用してやろう。最高じゃんスイーツ浄土!』
『よし、じゃあ行くか、スイ浄 (スイーツ浄土)デート!』
『からかうのもいい加減にしてね?』
甘いものを食べるためであって、決して芳樹の言うようなデートではないっ!
……
…………
……………………
「なッ!何あのカップル!?美男美女すぎて目が死ぬ!!」
「茶髪の子可愛すぎない!?モデルさんかなぁ!」
「彼氏の方ヤベェな、超イケメンじゃん」
「惚れそう…」
「あ?今なんつった?」
「あ?悪い?」
あー、1組のカップルが崩壊する瞬間を目の当たりにしてしまった。きっとどっかの誰かのリア充爆ぜろ攻撃が効いたんだね……
『髪、下ろしてるんだな』
『結ぶのだるかったからねぇ。モタモタしてたらお母さんに「デート用の服装!」って感じでドレスアップさせられそうだったし…』
『ハハッ、変わんねえなあの人は。まぁ、下ろしてる方だってすげえ可愛いと思うぞ』
『芳樹も変わんないねぇ…』
サラッと言うからイケメンなのだ。いや、イケメンだからサラッと言えるのか。まぁどっちでもいいが。
『アハッ☆御都合主義もここまで行くと涙しか出てこないッ!!』
『どこに向かって喋ってるんだ?』
店に入って選り取り見取りのスイーツ達を選んでいる最中、僕は見てしまった。
『ヤバっ!まぢでスイーツ最高なんだけど!storyつけよっかな!可愛い〜!』
『もう、苺ったらハシャギ過ぎ!ねぇ、汽笛もなんか選びましょ』
『し、漆黒の果実……く、クク』
『うん、それライチね』
苺を筆頭とした2組のお嬢様方のスイ浄会。そして芳樹のオーラに震えた。一瞬で見つかったのである。
『おあ!?来夢じゃん!!で、しかも芳樹くん!?ほほぅ、これはこれは』(ニマニマ
負けたなガハハ!これは言い訳できない。みたところ苺と真知、それにくっつくように汽笛、そして苺とよく話している女子たちだ。汽笛が縮こまっているのを見る限り、おそらく真知について来たら何となく団体として店に入ってしまったのだろう。
『苺も来てたんだな』
『芳樹くんもスイーツ好きだったんだねぇ〜、いや、好きなのはスイーツの方じゃぁないか〜えへへ。2人っきりでスイ浄とか〜』
『や、別にそういう関係じゃっ!』
『そうだよ苺。ガチもガチの偶々偶然何の因果かこうなっただけなんだよ……』
僕はジト目でそう答えるも、苺はニマニマ笑いをしたまま「そうかそうかつまり君はそういう奴だったんだな」と言わんばかりの嬉しそうな顔だった。エーミールェ……
『自然教室の夜の女子会であんなこと言ってたからちょっと心配だったんだ…。絵梨ちゃんのために、身を引いてるんだって。でもそんなことなかったんだね!うん、アタシ、来夢の恋応援してるから』
と、近寄って来て耳元で囁く。自然教室で蒔いた種が台無しじゃないか。
『わ、我が友来夢ぅ!助けてぇぇ!ここ我から最も遠い世界だったのだぁぁ!』
『き、汽笛……なんでついて来ちゃったのさ。ここリア充共の魔窟だよ??君の憎む敵の総本山みたいなものなのに…』
『真知が、真知が行こうって言うからぁぁ!うわぁぁあん!』
『真知、せめておめかしさせて来させるべきだったとは思うよ…。汽笛のコミュ障前面に押し出されてる』
『いや、私も成り行きだったのよ?これ以上ぽっちゃりになりたくないのに』
『真知はそのぽっちゃりが可愛いんだよ。でもまぁ、ここ太りそうだよね』
『真知、汽笛ちゃん、来夢のデートの邪魔しちゃ悪いよ〜?ほら、来夢、ガンガンアタックしてきなよ♡最後には
「僕のことも…た・べ・て」
ってさ〜〜キャーー!!』
『妄想たくましいよぅ…』
さて、、席について、それで、
『食べ辛い…………』
その後、終始和やかな目で見られた来夢は、、今度来るときは絶対絵梨含めて3人で来ようと誓ったのだった。しかしスイーツは美味しく頂きました。
この日を境に、来夢に関する噂の拡大、そして来夢の受難は一層凄まじいものとなってゆくということも含めて、今回のオチとさせていただこう。
『えへへ〜♡ラムレーズンケーキおいひい!芳樹〜、はい、あーーん!』
『ら、来夢!?お、おま、おまえ、絶対酔ってるだろ!!嘘、ラムレーズンで!?』
『む、僕のあーんはいらないの〜??』
『い、いるけど………あ、あーん』
『あーーん、と見せかけてパクッ!!ん〜〜♡美味しいな〜〜。えへへ、引っかかった〜〜』
上機嫌な来夢が家に帰って酔いが覚めてから、「死にたい」と連呼したことも、あーんしてもらえなかった芳樹が自分の恋心を再確認したのも、全ては甘い甘い、デザートのように甘い青春の1ページである。




