34話 ドッジボール後編と百合百合保健室
『前回のあらすじ。野郎どもの観戦の中、ついに戦いの火蓋は切って落とされた。果たして来夢たち2組は勝利を収めることができるのだろうか?以上、苺れぽーとでしたッ!いぇいっ』
『ねぇ苺……外野に行ったからって開き直って解説役に回るのやめて…』
何故か前編後編に分けられたこの試合だが、現在絶体絶命のピンチである。というのも、我ら2組女子の結束力が果てしなく脆いのである。
遡ること10分前
『来夢ッ!ふぁいと、おー、にぱーですわっ!』
『お、おーけー』
さて誰から狙うか。あの赤毛の……赤泊 夏乃とかいう子は絶対強いだろうから……まずは他の子に小手調べっ!!っと!
素早い投球。流石に男子の頃の感覚が有ればある程度は余裕だ。運動神経自体そんなに悪くない方、いやむしろいい方だと思っているが、男子の頃は周りが凄すぎて僕は運動ダメな奴というレッテルが貼られていた。特にバスケ……
「いたっ!!」
『まずは1人ですわっ!!流石来夢!』
僕がもし今男子だったなら、女子に当てたらブーイングの嵐である。でも今は仕方あるまい。だって土俵に男子がいない…
だが、「これは余裕じゃない?」とかなんとか、苺がフラグ立ててから、戦況はどんどん酷いものになっていった。
『ヌゥゥッゥウ!ナイトメアシューゥゥゥウトォォ!!!!』
『おおっとぉ!五泉汽笛選手の渾身の一撃ィィ!だが威力が弱いィィ!』
越路敦うるさい。喋ったり動いたりしてないと死ぬの??マグロなのお前?
『よーし、今度はコッチの番だよっ!それっ!!』
絵梨の投球。真っ直ぐ僕に向かってくる。よし、これをキャッチして……
『なぁぁぁ!!あぶなぁぁぁぁあい!!』
『へ?』
突然汽笛が横から突っ込んできて僕の前に立ち、ボールに当たりに行く。グァァとか言ってる。行動が意味不明なのです……
『け、怪我はないか、、来夢……』
そう言って倒れるフリ。ちょっと、、厨二病も限度が過ぎれば僕は怒るよ?
その後は一層酷い。先ず妙高桜やら山古志林檎やらのやる気がないため、みんな我先にとボールに当たるようなポジションに立ちに行く。わー、仲間思いだな〜(棒
そして僕の予想通り、赤泊夏乃という美少女の豪速球が止まらない。アレ男子より凄いかも。その男子たちは
「腹ちら!!腹ちら!!美少女の腹ちら!!」
とか興奮していた。
そんな赤泊夏乃の豪速球に、真知、苺、山古志、妙高、見附 柚子etc……なんかがバタバタと当てられていき、2組女子は10分後には6人にまで数を減らしていた。こっちもなんとか頑張って11人までは減らしたが、それでも劣勢である。というか2組に思ったより決め手がいない。
『へへっ、アタイの前には敵なしよぅ!!さて芳樹の幼馴染ぃ!!えと、、なんだっけ、ライチ?ライト?ライツ?』
『来夢ね。タ行から離れて。それッ!!!』
赤泊にキャッチされないよう、金髪の子に向かって投球。今赤泊にボールが渡ったらあっさり全滅する。
しかしそこは流石の瞬発力。金髪ツインテの子を守るようにボールに飛び込み、キャッチして着地。すかさず前に踏み込み、投球ッ!!
『くッ!!!』
腕が痺れる。一撃が重く、キャッチした掌がヒリヒリ痛む。なんだこれバトル小説か?こんな展開誰が喜ぶんだよ
『イタタ………手が……ヤバ』
これは本格的にやばいような。
「ん?もしかして青海川腕痛めた?」
「てか誰だよ来夢ちゃんが運動できないとかほざいた奴。運動神経抜群やん!ポニテがエロいっ!」
「うなじ!うなじ!美少女のうなじ!」
「おい相川、こいつつまみ出せ」
『……は、はは』
もー、ギャラリーが不快、あ間違った、愉快すぎる。体育教師はちゃんと怒れ。給料分の仕事しよ?
『来夢』
ふと聞こえたアリアの声。
しかしその声に違和感を感じる。なんだろう、いつもと違う、どこかが、何かが違う。
『……どしたのアリア??』
『ボール、貸して』
アリアは相手コートを見つめたまま、コチラに声をかける。無機質な声が伝わる。その声に思わずゾッとして、アリアを凝視してしまう。出会った頃、2組の教室に初めて足を踏み入れた時のアリアの目。冷たく、鋭い目。アリア……だよね??
『う、うん…はい』
ヒョイっとボールを投げる。アリアはそれをキャッチして、相手コートを睥睨する。そして、くすりと笑って……
ビュンッ!!
『な!?』
一瞬だった。彼女の投球で、それこそ赤泊夏乃以上の投球で、絵梨ともう1人の女子が同時ヒットとなった。あまりの出来事に息を飲むことしか出来ない。それはギャラリーも同じようで、一瞬だが体育館は静寂に包まれる。直後……
『おおおぉぉぉぉぉ!!アリアちゃんヤベェぇぇぇ!!!』
越路敦が大叫びする。他の生徒たちもやべえだのパネェだの言いながら大盛り上がりだ。僕はまだ唖然として動くこともできない。アリアの一番側にいるからこそ、彼女の異常性に気づく。この子は、、本当に月潟アリアなのか?と
当たったボールは、そのまま転がって外野の真知の所に行き着いていた。歓声鳴り止まぬ中、アリアは静かに
『真知、パス』
とボールを要求する。長い金髪に隠れて、先ほどの目は見えなかったが、やはり無機質なモノだったと思う。
ここで完全に形成は逆転する。アリアの豪速球の前に、赤泊夏乃を除いた1組女子が次々と当てられていく。
『へぇ、この夏乃サマと渡り合える奴がいるタァ驚きだ。2組も骨のある奴がいるじゃぁねぇかぃ!!だがッ!ここで決めさせてもらおうかッ!!』
『………来なよ』
アリアが挑発したようにニヤリと口を歪める。その、魔女のような笑みに、思わず見惚れてしまう。いや、本当に魔女なのではないかという錯覚にまで陥る。
『アリアッ!!』
アリアを応援しようと声をかける。いや、多分これは恐怖からくる声援だ。アリアがアリアじゃないような気がして、怖くなって、声を出して奮い立たせて少しでも安心しようとしている自分。
だけど、その時ハッとした表情になったアリアは…
『……えっ!?あ、あれ?来夢!?』
『…へ??』
ん?あれ?いつものアリア??
『何よそ見してんだゴラァァァァ!!!オリャッ!!』
迫り来るボール。それはスローモーションのように僕の視界の直線上に映る。驚いて少し間抜けた顔をするアリアは、本当にいつも通りのアリアだった。
パコンッ
………
……………
……………………
『やー、、惜しかったべー!!しっかし夏乃ちゃんってパナイのなっ!来夢とアリアちゃん同時ヒットとか流石だわ〜』
「敦〜オメェうるせえ!つか来夢ちゃん顔面ヒットしてたけど大丈夫かねぇ」
「ばたんきゅうって感じだったもんな…くっそ可愛かったわ…」
「月潟さんもスゲよな。なんかメッチャ雰囲気変わったっつーか。あれが百合の力か…」
「来夢ちゃんが倒れた時にすかさず駆け寄る月潟さん………萌える……」
『大丈夫ですの??』
『うう……平気平気。バレーボールってあんな硬かったっけなアハハ』
僕は今保健室にいます。あの時赤泊夏乃の軌道が狂って、そのまま僕の顔面にヒットしてしまい、ばたんきゅうで今に至る。中々いいパンチじゃねぇか。
『……アリア、ゲーム中どうしたの?』
『へ?何がですの?』
『いや何がって……いきなり雰囲気が変わったというか…なんというか』
『………多分気のせいですわね。まだクラクラしてますの?そうだ!次の授業、わたくしとサボりましょう来夢!』
『な!?つ、つまり、、ほ、保健室で、2人きり』
ま、マジで!?美少女と保健室で2人きり!?いいんですか?いいんですよね?
『??どうかされたんですの?』
純粋な顔で、首をかしげるアリア。
うん、アリアはアリアだな。純粋なアリアだ。あれは、多分、気のせいだ。
『それじゃあ来夢、、失礼しますわ』
『へ?いや、ほら、ここ僕のベッド………えっ!?えっ!?ちょ、サボるってまさかここで?』
もぞもぞとベッドに潜り込んでくるアリア。ふわふわの金髪が肌に触れる。途端、僕の顔は真っ赤になり、ベッドから出ようとするも、アリアに腕をがっちり掴まれて動けない。
『えへへ、来夢とお昼寝ですわ〜』
『か、可愛い!故に止められない!ってもう寝てる!?はわ、はわわわ』
保健室の狭いベッドで2人きり。金髪の美少女は、茶髪の美少女の腕を掴んで、幸せそうにスヤスヤと眠っている。一方で腕を掴まれたままの少女は、顔をこれでもかというほど真っ赤にさせて、目をそらしている。
……馬鹿だな、僕は。アリアの熱を感じながら、そう思う。怖がるのは仕方ないのだ。だって僕は、まだアリアのことを何も知らないのだから。アリアがどんな子で、どんなことが好きで、どんなことを考えているのか、、なんて、まだ1割だって把握できていないのだ。
だから、これからもっと知りたい。アリアが僕を好いてくれているように、僕だってアリアをもっと好きになりたい。あ、勿論友達的な意味で。だから、あんな怖い目をするアリアも、そのわけも、いつか知っていけたらいいなって思う。だけどそれは全然焦るようなことじゃなくて、時間はまだたっぷりとあって、だから、今はこれでいいのだ。
『おやすみね、アリア』
『……らいむぅ♪♪』
うぅ、この寝言は恥ずかしい。なんの夢を見てるんでしょ…。うん、寝よう。取り敢えず変な気持ちになってアリアを襲ったりとかしないうちに寝よう!おやすみっ!!
昼休み、あのカウンセラー兼保健室の先生や心配した苺や真知が叩き起こしに来るまで、2人は手を絡ませて、仲よさそうに寝息をたてていたという。
無論、2組男子たちにその噂はすぐに広まった。来夢とアリアの百合カップリングは最早定着してしまったため、来夢は芳樹との噂も相まって「両方いける」とか思われて、何故かその株が男女共に上昇した。本人は全く気づいていないが。




