4話 やり直し勇者誕生
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4話 『やり直し勇者誕生』
どうぞ、お楽しみください。
――セレンディア城 談話室――
近衛騎士が重厚な扉を開いたその先には、戦場のなかで見慣れたはずの、でも何かが……どこかが違う『彼女たち』の姿があった……
その部屋にいたのは、3人の女性で俺は彼女たちをよく知っていた。
「遅い! クロードのことみんな待ってたんだよ!」
部屋に入って早々に俺を叱責したのは、軽戦士の冒険者クレスだ。
だが、今日のクレスは、いつもの色気のない軽装と打って変わり、太陽のように明るいマリーゴールド色の幾重にも重なったフリルとレースのドレスでふわりと身を包み込んでいる。
いつもは頭の横で雑に結んでいたオレンジの髪は、頭の後ろで上品に結い上げられ、小さな花の髪飾りが添えられていた。
「クロードさま、お待ちしておりました……どうぞこちらにおかけください」
そう言って俺を隣に座るように促すのは、神聖術師の聖女イリーナ。
彼女は普段の聖女の法衣を思わせる服ではなく、まるで花嫁を連想させるような純白のロングドレスを身に纏い、その胸元は大きく開かれ、それを目立たせるように施された金の刺繍は彼女の地位の高さと女性らしさの両方を示していた。
いつもは降ろしていたブロンドの髪も、両側に作った三つ編みを後ろに結わせ、彼女の少女としての一面を感じさせた。
「いつまで惚けてるの? そのっ……テーブルのクッキー……美味しいわよ……」
そう俺に言葉を詰まらせながら話すのは、精霊術師の魔女ルーシェだ。
彼女は夜空のように深い藍色のイブニングドレスを着ていた。
体のラインがしっかりとわかるスレンダーなそのドレスは、深い藍色を際立たせる銀色の刺繍が施され、スカートは深い切り込みが入っていて、彼女が脚を組むたびに透き通るような白い肌をちらりと覗かせた。
そして、腰まである藍色の髪は、緩やかに後ろで結われてうなじや鎖骨を露わにし、大人の女性の持つ妖艶さを醸し出していた。
ここにいる3人は、間違いなく俺の元冒険仲間たちだった……
「お前ら……どうしたんだこんなところで?」
俺は状況が理解できずに、部屋の扉の前で彼女たちに問いかけていた。
するとクレスが、俺の問いに反応する。
「どうしたって……やっぱり変かな?」
「いや、変とかじゃなくてだな……」
俺が返答に困っていると、イリーナが割って入った。
「そうですよ、クレスさん。この日のために、みんなで一生懸命準備したんですから……変なんてことありませんよ!」
「だから、そうじゃなくて……」
するとルーシェもそれに賛同する。
「そうよ! 私たちがここまでしたんだから、感謝して頭を下げて喜ぶべきね!」
「なんでそうなる!?」
俺は彼女たちの勢いに押されて動揺したが、一呼吸おいて、冷静に状況を考えることにした。
(今日俺は、陛下が用意した見合いのためにここへ来た。陛下の口ぶりから、おそらく見合い相手は俺の知る人物であり、彼女たちは、互いによく知った仲だ。つまり!?)
「なんだ! そういうことかよ! まったくびっくりさせるなよなお前ら〜」
俺はすべての合点がいったとおもい、彼女たちに安堵の声を漏らす。
「えっ? クロードどういう……」
「わかってるってクレス! お前たちは俺の見合い相手の品定めに来たんだろう?」
俺は彼女たちがここに来た理由を言い当てて見せた。
……が、俺の後ろにいた陛下が大きなため息を吐いたのが聞こえ、彼女たちの反応も、俺が想像してたものと違ったものだった。
「クロードさま、とてもおもしろい冗談を仰られるのですね!」
イリーナが口に手を当てながら、後ろに控えていた侍女に笑いかけた。
「アンタ……本気でわかってないの?」
その一方でルーシェの俺を見る目に、なにか殺意のようなものを感じた。
「えっ……? 違う……のか?」
俺が情けない声で質問を返すと、俺の後ろにいた陛下が、堪え切れずに口を開いた。
「くっ!……はっ! はっ! はっ! どんな反応をするか楽しみにしてたが、全く……予想外の反応で笑いが抑えられんぞ!」
陛下は、俺の反応がいたく気に入られたみたいだが、状況がいまだに理解できない俺は混乱したままだった。
「いや、すまない。クロードよ、貴公に剣を持たせれば向かうところ敵なしだが、こと色恋に関しては、ゴブリンすら呆れる鈍さだな」
「ゴブリンって、さすがにそれは酷くありませんか?」
俺は言い返してみるものの、大したことも言えず陛下の言葉を待った。
「良いか? 勇者クロードよ……貴公の前にいる彼女たちこそが、貴公の見合いの参加者たちだ!」
(………………えっ?)
「はぁぁぁぁぁぁ!?」
俺の思考が、陛下の言葉を理解するのに数秒かかり、理解と同時に声を上げていた。
「陛下! いったいどういうことですか!?」
「落ち着け、クロードよ! 貴公は言っていたな? 魔王ベルガドーラは、またいつか戻ってくると?」
「それは……確かに、奴を倒したときに、いつか戻ってくると言い残して消えたとは申しましたが……」
「だからこそだ! 魔王がいつ戻ってくるのか? それは十年後か? それとも百年後か? そんなものは誰にもわからぬ……ならばこそ! 勇者の血を絶やしてはならないのだ!」
要するに陛下は『俺に子を作り勇者の血を存続させろ』と言っている。
(理屈はわかる。しかし、その相手が彼女たちだって?)
俺が理解と混乱の交差に悩まされていると、陛下は俺の横を通り過ぎて部屋の奥に移動する。
「さぁ! 勇者クロードよ! ここに貴公を知り、貴公と結ばれることを望む娘たちがいるぞ! 貴公はどの娘を妻とするのだ?」
「なっ……?」
俺のことなどお構いなしに陛下がどんどん話を進めていく。
「長き時をともに過ごした幼馴染か!? それとも信仰深き聖女か!? それとも才溢れる魔術師か!? それとも!?」
陛下は高らかに選択肢を挙げ、彼女たちが俺を見つめると同時に、陛下が満面の笑みで俺に目線を向ける。
「全員……と申すなら、それでも余はかまわぬぞ……」
俺の思考は完全に停止していた……
(なんだこの状況は!? 選ぶ? 誰を? この3人から? 無理だ! だって彼女たちは冒険仲間で、今までそんな素振りなんて……)
俺は今までの冒険の日々の……彼女たちとの記憶を思い出していた……
「クロードは私がいないと本当にダメなんだから……」
「クロードさまのためでしたら、わたくし……どんなことでもいたします!」
「別にアンタのためじゃないわよ! でも……アンタがそう言うなら、またしてあげるわよ……」
(……あったわぁ〜、めっちゃあったわぁ〜)
俺は今になって自身と彼女たちとの歪んだ関係性に気付いた。
(なぜ今まで気付かなかったんだ俺はっ……!? いや、そんなことよりもこの状況をどうにかしないと!)
彼女たちの熱い視線と陛下の期待の視線が俺に向けられて、部屋の空気が薄く感じるほどの圧迫感に、俺は考えがまとまらず、無意識に心の中で叫んでいた。
(誰か助けてくれ! この状況を! どうすれば正解なのか教えてくれ!!)
……そのときだった。
「やっと願いが決まりましたね! クロードさん!」
その瞬間、俺の髪から光が溢れ、部屋全体を包み込んだ……
俺は眩しさに閉じた目をゆっくり開くと、部屋の中にいる全員がまったく動くことなく止まっていた。
「何が起きたんだ?」
「何って、私が時を止めたんですよ!」
俺は声のする方に振り向くと、そこには俺の屋敷で留守番をしているはずのセレーネが、部屋のなかでふわふわと宙に浮いていた。
「なっ……? セレーネなのか? なぜここにいる?」
「それはですねぇ〜、クロードさんの前髪にちょちょいっと細工しまして、今までの内容を全部見聞きしてたんですよぉ」
「細工……って、あのときか?」
俺が屋敷で馬車に乗る前、彼女が俺の前髪からゴミを取ってくれたときのことを思い出す。
「はいっ! あのときです! まぁそんなことは置いといてぇ〜、クロードさんには、私からプレゼントがあります!」
「プレゼントってなんだ? この状況を打開できるものなのか?」
「それはクロードさん次第です! 私はアナタの願いを叶えるためのプレゼントを贈りますが、どんなプレゼントになるかは完全に運任せなんで、あとはクロードさんが頑張って願いを叶えてください!」
「おいっ! 話が違うぞ!!」
「では、コチラをどうぞ〜」
そう言うと彼女は、光の塊のようなものを俺に向けて放ち、俺はまた眩しさに目を閉じるのだった……
【スキル:『セーブ&ロード』機能を獲得しました】
【スキル:『記憶回想』を獲得しました】
【初回特典解放:談話室前をスロット1にセーブしました。初回特典が消滅しました。今後のセーブは任意となります】
【初回特典解放:スロット1をロードします】
【初回特典が消滅しました。今後のロードは任意となります】
俺は聞き慣れない声を感じつつ、また目を開けるのだった……
――スロット1 ロード後――
「着いたぞ! ここが目的の部屋だ」
目を開けるとそこは、いかにも王族専用の部屋だと思わせる重厚な扉があり、その両横に全身を甲冑で包み、ハルバードを手にした近衛騎士が直立不動の構えで佇んでいた……
――やり直し勇者誕生 完――
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
ヒロインたちに迫られた、うらやまけしからんなクロードは、一体どんな選択をするのか?
ぜひ、お楽しみください!
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▼次回予告
5話『やり直し勇者は、悪手する』
明日 20:00 投稿予定です。




