2話 王からの招待状、地獄(見合い)からの誘い
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2話『王からの招待状、地獄(見合い)からの誘い』
どうぞ、お楽しみください。
――女神の居候後 勇者の屋敷――
騒がしい朝食が終わり、ダイニングで今日の予定を考えていると、玄関のベルを鳴らす音が聞こえた。
「こんな朝早くから、一体誰だ?」
俺は不審に思いながら、玄関に向かうセバスを目で追った。
しばらくすると、セバスが戻ってきた。
「旦那さま、王国からの使いの者が、いらしております」
「王国からの?」
予想外の来客に驚きつつ、俺は使いの者を通すように伝えた。
「失礼いたします! 陛下の勅命で参りました! ハンス・ポーターと申します!」
そう名乗ると男は、緊張した様子で俺に向かって礼をした。
おそらく根が真面目なのだろう、その男はとても綺麗な角度で腰を折り、深々と一礼をしている。
茶色の短髪、清潔感がある顔立ちで、育ちの良さがうかがえる。
そして羽織っているマントの留め具にあしらわれた王家の紋章が、彼が陛下の名代として来ていることを証明していた。
「ハンスと言ったな、こんな格好ですまない、陛下の勅命とのことだが?」
「はい! こちらでございます!」
彼は俺の言葉にすぐさま反応し、体を起こすと、腰のポーチに入れていた書簡をセバスに渡した。
セバスが書簡を受け取り、それを俺のもとへ持ってきた。
俺は書簡を受け取り封蝋の印章を見て、陛下の書簡であることを確認していると、セレーネが勢いよくダイニングに入ってきた。
「クロードさぁん! 私の部屋ってどこになりますか〜? 日差しのあまり入らない部屋がいいんですけどぉ〜!」
「うるさっ! いま来客の対応中だ! あとにしてくれ!」
俺は女神への敬意を完全に無くした物言いで彼女に退室を
促した。
「え〜? 早くふかふかのベッドでごろごろしたかったのに〜」
彼女はぶつぶつと文句を言いながら、部屋を後にした。
その一部始終を見ていたハンスは唖然としていたが、ふと我に返り、声を張り上げた。
「さ、ささ、さすが勇者クロードさま! あのような見目麗しい女性をすでに囲……いえ、お側に置かれているとは! ご婚姻はいつ頃のご予定でしょうか?」
彼の言葉に、俺はすぐに否定の反応を見せた。
「誤解だハンス! あれはそんなんじゃない。事情があって住まわせているだけだ」
「そっ、それは、大変失礼いたしました!」
彼は、叱責でも受けたかのように、再度綺麗な角度で頭を思いっきり下げるのだった。
「ハンス、頭を上げてくれ。陛下の書簡は、たしかに受け取った! 茶の用意をさせるから、返事を書くあいだ、ゆっくりしていってくれ」
俺はハンスに労いの言葉をかけ、頭を上げるように促した。
「はっ! ありがとうございます! ですがお二人の時間を邪魔してはいけませんので、私はこれで失礼いたします!」
「いや、だからあれは……それに、返事はどうする?」
「お気になさらず! 陛下からは『返事は直接聞かせてほしい』と仰せつかっております」
「そ……そうか」
「では! 私はこれより王都に戻って、書簡を無事に届けたことを報告させていただきます! それでは失礼いたします!」
「あっ……おい!」
俺の言葉を待たずに、彼は部屋を後にし、セバスも見送りのために部屋を後にした。
「……行ってしまった」
俺は手に持っていた書簡をとりあえず開けてみることにした。
【勇者クロードよ、急な手紙で驚かせたことを先に詫びよう。しかし、重大な案件であることを理解してほしい】
(重要な案件? 魔王の残党が攻めてきたのか?)
俺は最悪の事態を想定して手紙の先を読みだした。
【単刀直入に言おう、勇者クロードよ、城での見合いの場を用意した!】
『妻をめとり、子を作りなさい』
【心配するな! 見合いの相手は、よく知った者たちだ。では、明日の朝に迎えをよこすから、城で待っているぞ】
「なん……だって?」
俺は手紙の内容を理解できず、間抜けな声を漏らした……
――その日の夜 勇者の屋敷――
「お見合いですかぁ?」
「あぁ、そうだ! お見合いだ!」
夕食の席で俺は今朝受け取った陛下からの書簡の内容を、肉を頬張るセレーネに説明した。
「だから明日の朝、王都へ行ってくるから、大人しく留守番してくれ」
「えぇ〜! お見合いってパーティ……じゃなくて、晩餐会形式ですか? なら私も連れてってくださいよぉ〜」
「知るかっ! それに見合いの場に、女連れなんてできるかっ!」
俺は彼女の願いを断ったが、それもありなのでは? と考えていた。
「『よく知った者たち』と書いてあったが、どうせ魔王討伐の祝宴の時に、ちょっと挨拶しただけの人たちだろう。ならこいつを同行させて……いや、ダメだ! それでは陛下の顔に泥を塗ることになる……」
俺はどうやって今回の見合いを回避するかで、思いを巡らせていた。
「なんか、浮かない顔してますねぇ? そんなにお見合いが嫌なんですかぁ?」
「当たり前だ! まったく知らない相手と、しかも貴族と結婚なんて、どんな地獄が待っているか……」
俺は自分の持つ英雄の称号を使って好き放題しようと、画策するやつらの顔を想像して怖気がした。
「かったいですねぇ〜、どちらかと言うと選び放題の立場なんですから、美人で若い子を選べばいいのに〜……あっ! でもロリはダメですよ! ロリは!! コンプラは守ってください!」
「ロリ? コンプラ? 何を言ってるんだお前は? ともかく、そういうことだから、屋敷を留守にする間、変なことをしでかすなよ!」
「えぇ〜……まぁ仕方ないですねぇ〜、お土産を期待して、待ってますからね!」
俺は彼女が急に聞き分けがよくなったことを不審に思いながらも、明日のことを考えると気が重くなり、進まぬ食事をなんとか腹に入れ、早々に眠りにつくことにする。
(明日のことは、明日考えよう……多分なんとかなるさ)
現実逃避に近いことを考えながら、ゆっくりと意識を眠りの底へと向けるのだった……
――見合いの日の朝 勇者の屋敷――
ひさしぶりに朝日で起こされることなく、自然と目が覚めた俺はベッドから立ち上がると、近くに置いた木剣を手に取りかまえ、一度だけ大きく深呼吸して木剣を振る。
「しっ! しっ! しっ!」
静かな部屋のなかで一人、ただ剣をふる風切り音と俺の漏れる息、そして外から聞こえる民たちの動きだす音だけが響いていた……。
素振りに満足した俺は汗を流すため風呂に入り、身なりを整える。
そして慣れない正装に身を包んで、軽い朝食にしようとダイニングに向かうと、既にセレーネが椅子に座っていた。
「あっ! おはようございます、クロードさん。今朝はお早いですねぇ」
「えっと……おはようセレーネ、そっちこそずいぶんと早いんだな」
魔王討伐後にパーティを解散して以来、こんなに身近に感じる朝の挨拶はひさしぶりで、すこし恥ずかしさを覚えつつ俺は挨拶の返事をした。
「今日は、楽しいお見合いの日ですからねぇ、しっかりお見送りしてあげないと! と思って早起きしましたよ」
「なにが楽しいだ……おもしろいの間違いだろ!」
「ありゃ、バレてました……」
彼女は『てへっ』と舌を出して、わざとらしく笑って見せた。
「しかし、なんだかんだで気合い入った格好されてるじゃないですか?」
「気合いなんて入ってない! 内容が内容だが、陛下の催しには違いないんだ! ちゃんとした格好にもなるさ」
そう言うと俺は服を見せるように腕を広げた。
深い青を基調にした上着でいたるところに金色の刺繍を施した、パーティ用の正装だ。
魔王討伐の凱旋後のパーティのために、イリーナが用意してくれた物だ。
「もうこれに袖を通すことなんて、しばらくはないと思ってたんだけどな……」
「そこは仕方ないですよ! なんてったってアナタは、魔王を倒し! 絶世の美女たちが卒倒するほどの美しさを誇る、美の化身たる女神セレーネを救い出した、勇者クロードなんですからぁ〜!」
「だれが美の化身だ! 食の魔神の間違いだろ!」
「ひどいっ! 食は人間の持つ贅沢の極みですよ! なら女神だって極めてもいいじゃないですかぁ〜、うゎ〜ん!」
「うるさいっ! わかったからさっさと食え!」
俺は彼女と何度目かの言い合いを終わらせると、食事に手をつけた……
朝食を済ませ、そろそろ迎えの来る頃だと思い、屋敷の外に出ると、すでに門の前で立派な馬車が待機していた。
そして俺の姿を見ると、御者と思われる男が近づいて来た。
「勇者クロードさま! ハンス・ポーター、陛下の勅命により、お迎えにあがりました!」
「ハンスか!? お前、御者もするのか?」
「はい! 身につけておいて損はないと思っていましたが、勇者クロードさまを、お乗せすることができて、光栄の極みであります!」
「そ……そうか」
「はい! 勇者クロードさまのために、最高級の馬車をご用意させていただきました! どうぞお乗りください!」
俺はハンスの真面目さに苦笑いしつつ、後ろで待っていた、セレーネとセバスに声をかける。
「では行ってくる」
「いってらっしゃいませ……旦那さま」
「いってらっしゃ〜い! ……あっ!」
セレーネは何かに気づいたように俺の近くに来た。
「髪にゴミがついてましたよ〜、お見合いなんですから、気をつけてくださいね!」
「あっ……ありがとう」
「はい! ではでは、お土産期待してますねぇ!」
彼女の意外な一面に驚きつつ俺は馬車に乗りこむ。
「……よし! かかった!」
彼女のつぶやきに、気づくわけもなく、俺を乗せた馬車は王都へと向かうのだった……
――王からの招待状、地獄(見合い)からの誘い 完――
最後まで読んでくれてありがとうございます。
陛下の策謀に巻き込まれ、セレーネになにかを仕込まれる、そんな幸せに一直線(?)な、主人公クロードの物語を今後もお楽しみください。
▼次回予告
3話『そして、地獄の門は開かれた』
この後、すぐにお読みいただけます。




