32-2 調査活動
翌日、アルは朝早くから運搬呪文で作った椅子にオーソンとメアリーを乗せ、空から周囲の偵察に出発した。地上から高度100メートルぐらいでゆっくりと南に向かって飛ぶ。中規模の集落の方はそれほど脅威でもないだろうから後回しでいいだろう。気になるのは大規模だという蛮族の集落だ。
「何か見つけたら教えてね」
グリィたちも一緒に見ているのであまり見落としはないつもりだが、それでも目はたくさんあるに越したことはない。それに付近の地形を見ておくのも今後の為になるだろう。
「あいよー」
「はーい」
オーソンとメアリーが元気よく返事をした。コーリンが聞いた話によると、鉄鉱山から南に10キロほど行ったところという話だったが、正確な座標などはわからない。ミュリエル川を越えたあたりで既に木々の緑が濃く、ゴブリンなどの蛮族が作る粗末な家などはそれに紛れて見つける事ができるのか不安であった。だが、30分程飛んだところで、それは杞憂に過ぎなかったことが判った。
深い森の中に60ヘクタールほどの土地が切り拓かれ、そこに雑然と粗末な小屋が並んでいたのだ。見落とすことなどありえないほどの規模であった。ところどころから煮炊きでもしているのであろう白い煙が上がっており、二足歩行の蛮族の姿も数多く見えた。ゴブリン、ホブゴブリンだけではなく、オークらしい影もある。合わせた数は500を優に超えるだろう。もしかしたら1000も超えているかもしれない。まぎれもなく蛮族の大集落であった。
“アル、ここ見て”
アルの視界に半透明の小さな白い丸が浮かぶ。蛮族の集落の中心に木で作られ、赤黒い布で飾られた高さ5メートルほどの建物の屋上らしきところにその白い丸はついていた。以前損傷の激しい呪文の書を2つ並べて見せるときにグリィがアルの視界に影響を与えた事があった。それを応用した手法であった。そこをみると木で作られた檻のようなものがあった。
『知覚強化』 -望遠
アルはその檻らしきものを凝視した。中に手足を折り曲げるようにして縛り上げられた人間の子供らしい姿が2つあるのがわかった。泥だらけで粗末な服を着ている。服装からすれば村の住人だろう。年令は5才前後だろうか、眼を閉じて動かないので生きているのかよくわからない。見えている相手だからと念話呪文を試してみるがそちらの反応もない。
アルは自分が攫われてきた時の事を思い出して唇を噛んだ。胸元のグリィのペンダントをぎゅっと握りしめる。
「どうした? アル」
蛮族の巨大な集落を見ていたオーソンがアルに声をかける。
「集落の中心の建物の上に檻があって、その中に5才ぐらいの人間の子供が2人しばられてる」
「なんだって?」
「えええ?」
オーソンとメアリーが揃って驚きの声を上げる。アルは2人にも知覚強化呪文を使い、その姿を確認してもらった。
「この近くに村なんてないよな?」
オーソンがアルやメアリーに問いかける。二人はそろって首を振った。
「ミュリエル川北岸のどこかの村が一番近いと思うけど……、チャニング村でそんな話はなかったわ」
震える声でメアリーが答える。チャニング村の南側を東から西に流れるミュリエル川、それを越えたところにある人間の拠点は鉄鉱山になるが、そこに人間の子供は居ない。子供がいるとすれば、チャニング村や、それと同じようにミュリエル川の北岸にあるいくつかの村ということになる。一応、ここから東に険しいシプリー山地を越えていけば辺境都市レスターにはたどり着くはずだが、そちらからは30キロ以上の距離がある。西はナッシュ山脈の高い山々がそびえたっており南は未開地域、どちらも人は住んでいないはずだ。
「こいつは厳しいな。救うのは無理だ」
空中に浮かびながらオーソンが呟く。ここまでの規模だとすると集落の中に上位種は当然居るだろう。ゴブリンメイジが居れば空も飛べるし呪文で攻撃もしてくる。たった3人で相手にできるような数ではないというのはわかる。だが、あの檻の中の子供、生きているのならなんとか救い出したい。アルは首を振った。
「1人でなら忍び込めると思う。メアリーたちは一旦チャニング村に連れて帰るね」
「忍び込む? どうやって?」
「そんなの無理よ」
オーソンは大きく声を荒げて首を振った。メアリーは泣きそうな顔をして手を伸ばしアルの服の裾を掴んでいる。どうしよう? アルが考えているのは隠蔽呪文とオーク変身呪文の2つの方法だった。どちらがより安全に行けるだろうか。
隠蔽呪文だと、精神集中が必要なので探知回避呪文は使えず、魔法発見呪文を使ってゴブリンメイジなどを避けながらの移動となる。ただし、隠蔽呪文はゆっくりしか移動できないという問題がある。
それを考えるとオーク変身呪文の方が安全そうだった。習得した直後、試しに使ってみたものの身体への違和感が酷くて二度と使うことはないと思っていた呪文であったが、オークも言葉は喋れるので動物変身呪文で他の人間に変身した時と同様に呪文が使える。もちろんオークが呪文を使うのは変ではあるのだが、探知回避呪文を使っておけば怪しまれる事はないだろう。問題は話しかけられた時だが、コーリンのおかげで何を言っているかまではわかるのであとは身振り手振りでなんとか切り抜けるしかない。2人を救うためなら身体の違和感ぐらいは我慢しよう。
「わかった。こんな時に使える呪文があるんだ。説明するよ」
アルは進路を変え、オーク変身呪文の説明をするべく安全そうな近くの岩山に向かったのだった。
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アルはオークの姿で落ち着かない気分で蛮族集落の道を歩いていた。周囲にはたくさんのゴブリンがせわしなく歩いているのだが今はオークの姿であることもあって、アル(オーク)を避けるようにかなり怯えた様子で道をあけるのだった。魔法発見呪文の反応がたまにあるが、全部呪文をつかっている反応で魔道具のはないので、辺境都市レスターや国境都市パーカーに比べれば探知系の魔道具の数はかなり少ないようだった。慎重に人間の子供が捕らえられている檻のある建物に近づいていく。
建物の周りにはゴブリンたちがたくさん集まっていた。そこにはゴブリンだけでなく、その上位種も居て、上位種はアル(オーク)が近づいていってもさすがに逃げ出したりはしないようだった。その上位種はゴブリンメイジに似ていたが、胸に螺旋を描いた紋章を描いた服を着ている。蛮族はギャウギャウ叫び興奮状態にあるようだった。
“たんれぶ称えよ言ってる”
コーリンがそう囁いた。タンレヴ? よく知らないが蛮族の王か神のような存在だろうか。何か狂騒的な雰囲気であった。宗教的な儀式のようにも見える。現在探知回避呪文を使って保持している呪文はオーク変身呪文以外に魔法発見呪文と浮遊眼呪文、そして飛行呪文の3つであった。飛行呪文で一気に飛び上がり檻のある屋上までは行けなくもないだろうが、建物の周りには今、多くの蛮族が集まっている。空を飛べば当然注目されるような状況では浮き上がったとたんに怪しまれてしまうだろう。
物陰に移動して隠蔽呪文を使って出直すか……。アル(オーク)は悩んだ。だが、胸に螺旋を描いた紋章を描いた服を着ているゴブリンからは呪文の反応がある。何の呪文をつかっているかわからないが、それがもし魔法感知であれば、隠蔽呪文をつかっていたとしてもすぐ見つかってしまうだろう。周りに気付かれずに囚われている子供たちを救う何かいい方法はないだろうか。アル(オーク)はとりあえず浮遊眼の眼を建物の屋上に向かわせることにした。
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