31-2 氷原の古代遺跡探索 後編
「警戒しながら行こうか」
アルは隠れていた場所から身を起こして軽く身震いをした。温度調節呪文を使っているので寒いわけではない。祖父から聞いた話を追体験する気持ちが強くて興奮してしまっているのかもしれない。浮遊眼呪文を一度解除し、改めて眼を作り出して背中に載せる。盾呪文だけでなく魔法抵抗も自分に使っておく。
“気を付けてね”
“もーまの加護を”
コーリンに平等神モーマの加護を祈られてしまった。平等神と言えば聞こえはいいが、貧しい者は裕福な相手から奪ってもいいのだとして盗賊が信仰する神でもある。アルとしてはモーマの加護は望んでいない。
「平等神モーマをコーリンは信じているの?」
“平等神判らない。ラミアの口ぐせ。勝負のとき言う”
コーリンではなく、ラミアたちが信仰していたのか。
「それなら、平等神モーマではなく、運命の女神ルウドでお願いしても良いかな?」
日頃の行いが幸運をもたらすという教義を持つルウド、祖父は運命の女神ルウドによく祈っていた。
“判った。るうどの加護を”
「グリィもコーリンもありがとう」
アルは左手でグリィのアシスタント・デバイスのペンダントを握り、その手首にあるコーリンのアシスタント・デバイスの腕輪を右手で撫でる。
“アリュなら大丈夫”
“大丈夫”
深呼吸をしてアルは気分を落ち着かせた。周囲を警戒しながら隠れていた場所からゆっくりと動き出す。3分ほど移動して崩れた石材の前に到着した。ラットマンが入り込んだ割れ目があるところだ。アルの祖父が来た時には人が入れたはずなのだが、どうなのだろう? それからさらに壁が崩れたのか。そう考えながら見ると、入り口を覆う石材は割れて細かくなったものが多かった。ラットマンが住処にしているこの場所を安全にするために入り口にカモフラージュとして積み上げたのかもしれない。このあたりにもシロケナガボンゴのような魔獣が生息しているのだろうか。
『石軟化』
浮遊眼の眼で先にラットマンが居ない事を確認した後、アルは積み上げられた石灰岩の形を変え、ラットマンが通っていたすき間を自らが通れるぐらいに広げていく。本当なら岩を一つずつ動かしてラットマンの偽装を確認したいところだが、そんな悠長な事はしていられなかった。あまり時間がかからずに小さな空間に出る。ここでアルは警備ゴーレムを2体取り出し、自分の前後を守ってくれるように指示を出す。
“問い合わせが来たわ”“問い合わせきた”
グリィとコーリンがほぼ同時にアルに伝えてきた。
「えっ? 何? 誰から?」
“ここの管理者って言ってる。なんて返事をしたらいい?”
研究塔やテンペストの王城のように管理するための魔道装置があるのか。
「僕は冒険者アル。ここに知識を求めに来た……って伝えてみて」
アルは周囲に見回した。天井に一つ、魔道具がある。見た目は光の魔道具だが、そこからアルの侵入を感じ取ったのだろうか。見えている? 言葉は聞こえているのか。
“『B2C9-00かよく帰って来た。冒険者アルよ、何の知識を求めるのか』って言われたわ。B2C9-00は多分私の製造番号ね”
“私も同じ。『A6M2-58』呼ばれた。『A6M2-58』は製造番号”
製造番号を知っているということは正しくここが工房なのだろう。それにプレンティス城の扉の警備装置とちがって、かなり友好的だ。
「まずはグリィ、製造番号B2C9-00に配布されている機能の詳細、あとは出来ればアシスタント・デバイスについてもいろいろ知りたい」
アルの言葉をグリィが伝えるのにはしばらく時間がかかった。アルはラットマンが階段を上がってこないか、他のラットマンが帰ってきたりしないか耳をそばだてる。
“弟子希望についてはタッカー様に直接申し込めって言ってるわ。自分はそれを受け付ける権限を持っていないって。タッカー様っていうのはきっとここの主じゃない? 気になって最後にタッカー様と話をしたのはいつって聞いたら、260年前だって。リアナからきいた苦難の時代のきっかけとなった大地震の頃よ”
大地震に遭って移動したのか? いやそれなら、何か告げて出発するはずだ。ということは犠牲になった可能性が高いだろう。それ以来、ここの工房はそのままになっているのか。管理をする魔道装置はどこにあるのだろう? 唯一閉まったままだった金属製の扉の中か? それとも、プレンティス城のように隠された部屋があるのだろうか。
「タッカー様が住んでいたのはどこ?」
“ここのすぐ隣、北側の建物だって”
このあたりは瓦礫の山ばかりで建物など残っていない。
「調べてみよう」
アルは一旦、穴を抜けて外に出た。おそらくだが、前の管理者の死が確認できれば管理者権限を受け取ることができるのではないだろうか。ここに到着したときに最初に調べたところでも遺体が残っていた。北側の残骸の山を調べてみるべきだろう。
建物の構造を考えながら瓦礫を念動呪文で動かしていく。ラットマンだけでなく他の魔獣なども呼び寄せないようにできるだけ静かにだ。30分ほどかけて、アルは3人の遺体を発見した。こちらもほとんどが土に還りかけており、身につけていた服であろう繊維も触ると崩れてしまいそうだ。
『梱包』
『保持』
聖水をかけ安眠を祈った後、呪文を使って丁寧に遺体を保護すると、一旦釦型のマジックバッグにしまう。再びアルは通路の入口に戻った。
「タッカー様かもしれない遺体を回収してきた。確認してもらえるだろうか?」
アルは天井にある光の魔道装置に見えるものをじっと見つめて返事を待つ。
“『階段を下りて、一番奥、右手の部屋に遺体を持ってきて欲しい』だそうよ”
ここで見てくれるわけではないようだ。一番奥の右手は唯一金属製の扉が閉まっていた所だ。その中に管理用の魔道装置はあるのか。祖父の話にその扉の存在は出てこなかった。グリィのペンダントを回収したところで話は終わり、あとは帰りの食糧の関係でそれ以上の探索を諦めたと言っていた。金属の扉を開けることができなかったのか。金属軟化呪文はタガード家の秘匿呪文なので無理だろうが、解錠呪文ぐらいは持っていても不思議ではないはず。とは言え、この呪文も禁呪なので運が悪ければ入手も難しいのか。
「途中の蛮族は倒していいのかな?」
“扉の外に何が居るかわからないが、うるさいだけの存在だから処理してもらっても構わないって”
それなら何の遠慮も要らないか。アルは後ろから他のラットマンが帰ってくるのを警戒して、力場の壁呪文で入って来た道を一旦封鎖したあと、警備ゴーレムを連れて階段を下りる。空気は淀んでいるが、息苦しくはなかった。
階段の下の通路には暗闇の中、ラットマンが3体いて、お互いの毛づくろいのような事をしていた。アルは呪文を唱える。
『魔法の火花群』 ラットマンのみ
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