30-8 扉の先
「ゴーレム頭様、大丈夫ですか?!」
ターナー卿の叫びにアルはふっと我に返った。コーリンの説明はよく判らなかったが、ぼっとしているわけには行かない。素早い力場の壁呪文で作り出した壁は3分ほどしか持たないのだ。
アルはターナー卿たちの待つ細い通路に急いで戻った。魔法の矢がアルの作った壁に当たるカツンカツンという甲高い音が止んだ。アルは浮遊眼の眼を動かして先程の部屋を覗き込んだ。アルがつくった壁は消えていて、扉にあった魔道装置からの青白い光の矢も止んでいた。
「どうしようか考え込んでしまってた。ありがとう。激しいね、これは」
アルは思わず頭を掻きながらそう言ってごまかした。内心はグリィの事が心配でたまらないが、アシスタント・デバイスについては、リアナの事もあって極秘事項なので明かすわけにもいかない。
「急ぐ話ではないし、少し部屋に戻って休憩しようか。そこで対策を考えよう」
「わかりました」
アルの提案に3人はすこしほっとしたような表情をして頷いた。彼らにとっては初めての体験で緊張している上に迷路の探索で疲れているのかもしれない。アルたち4人は迷路になっている細い通路を進む。地図ができているので帰り道に迷うことはなかった。アルはその後ろを歩きながら、リアナに相談してもらおうと、パトリシアと契りの指輪を使って念話をつなぐ。
“忙しい所にごめんね。今大丈夫かな?”
“はい。アル様。大丈夫ですよ。今日はいつもより早い時間なのですね”
パトリシアからはすぐに応答が返って来た。アルは今の状況や、グリィが陥った状態などを急いで説明し、それをリアナに尋ねて欲しいとお願いする。アシスタント・デバイスの事に関してはマラキのほうが詳しいだろうが、リアナも全く知識がない訳ではないだろう。しばらくして返事が返って来た。
“アル様、おちついてください。グリィは大丈夫です。リアナは3時間ほどすれば回復するでしょうと言っています”
“3時間? それはどういう?”
パトリシアが伝えてくれたリアナの説明によると、アシスタント・デバイスに組み込まれている魔道回路というのは極めて複雑であり、作られた当初には想定できていなかった点、脆弱点というものが少なからず存在するのだという。そして、コーリンの連続問い合わせという言葉からすると、魔道具間で行われている通信網を悪用して極めて速い速度で問い合わせを送りつけられた際にそれを処理しきれずに、機能不全に陥るという既知の脆弱点を突かれたのではないかと考えられるらしい。
とはいえ、これについては機能不全に陥るものの、3時間ほど経てば自己解析機能が働いて状態は回復して再び活動できるようになるらしい。尚、これらの攻撃に対して、リアナやコーリンは既に対策された機能が機能追加されていて問題ないとのことだった。だからコーリンは無事だったのか。
“グリィはどうして機能追加してないのかな?”
“よくわかりません。リアナによると、グリィは配布されている機能のすべては適用してないそうです。説明に新たな人格の取得っていうのがあって不安でもあり、又、今の所不便は感じていないからと言っていたようです”
新たな人格の取得……? そういえば以前、パトリシアを研究塔に逃がし、その後、ナレシュと連絡を取ろうと国境都市パーカーに行った頃にグリィはそんな事を言っていた気がする。大きな追加機能があるのだが、機能追加するのに、丸一日かかるからまだ試してないとか……。
“とりあえず、それだとすると3時間待てば大丈夫なんだね”
“コーリンが大丈夫だったというのなら、その可能性は極めて高いと思うとリアナは言っています。気になるのならマラキに見てもらうしかありません”
マラキはゴーレムの修理のために研究塔に居る。アル自身が行ければ良いのだが、転移の魔道具はパトリシアに預けたままだった。移送呪文とマジックバッグを組み合わせて使えばアル自身が研究塔に行く事は出来なくもないが、その場合、戻ってくるのが大変だ。ターナー卿を放って置くわけにもいかない。とりあえず、移送呪文でコーリンをグリィの人形ゴーレムに装着させて一緒に送り込めば状況説明もさせられるだろう。リアナの話でひとまずは安心だが、念のために送り込んでおくか。
“ありがとう。パトリシア。話をして落ち着けたよ。後でグリィは念のために研究塔に送ってマラキに見てもらうことにする”
“はい。グリィが居ないとなると、アル様はお気をつけてくださいね”
“うん。気を付ける。パトリシア、愛してるよ”
アルは念話を切った。そろそろ迷路のような細い通路を抜ける。通気口を抜ければあとは調査のために専有している小部屋まではもうすぐだ。
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翌朝、アルたちは再び例の鉄の扉の前に立っていた。アルは憔悴しきった顔である。結局、昨晩はあのまま調査は再開せずに今日に持ち越したのだ。クウェンネル男爵への報告は1日ずらすことにした。アルはそのままじっとグリィの目覚めを待ったのだが、彼女のアシスタント・デバイスは3時間経っても沈黙したままだった。
今はグリィのアシスタント・デバイスを研究塔に移し、マラキに調査をしてもらっているが、原因はよくわかっていない。彼の話によるとグリィの魔道回路はマラキたちの魔道回路に比べても格段に複雑な造りとなっていて、マラキにもよくわからない部分が多く、グリィの自己解析機能に任せて時間が解決するのを待つしかないという話であった。気は焦るが、アルが行っても何も出来ることはないらしい。
「ゴーレム頭様、大丈夫ですか? 体調がお悪い様なら、急ぐ話でもないと思いますし、また次の機会に改めてでも大丈夫かと思います」
ターナー卿はそう言ってアルを心配するが、アルは首を振った。いい案は思いつかなかったが力業での解決は出来るだろう。さっさと片付けてしまいたい。今となってはきっとこの扉の魔道装置を無力化したらグリィが回復するのではないかという気持ちになっていた。
「大丈夫だよ。何か思いついたことはある?」
一応、3人に聞いてみる。
「盾を持って近づくというのはどうでしょう?」
ブライドンが手を上げてそう言った。アルは頷く。魔法の矢呪文であれば、盾で防ぐことができるだろう。
「そこから先は?」
「魔力切れを待つ……?」
アルの問いに今度はフラーが答えた。その手もあるかもしれない。とは言え、時間がかなりかかりそうだ。
「石軟化呪文ですか? それが使える魔道具があり、プレンティス侯爵家が関城を攻めた際に使われたというのを聞きました」
「うん、僕が思いついたのもそれだった。他にもいい方法はあるかもしれないけど、やっぱりそれしかないかな。今回は盾じゃなく壁を作って魔法の矢は防ぐことにするね」
嬉しそうにターナー卿がハイと答えた。アルと同じことを思いついたのが嬉しかったらしい。ブライドンとフラーは悔しそうにしている。
『力場の壁』
アルは白く不透明な壁を作り出して、扉の前を四角く囲う。そうした処理をした上でアルは慎重に扉に近づいていった。前回、攻撃されたところまで近づいてみたが、今回はカツンカツンと甲高い音がしない。壁があるために人の存在を感知できないのかもしれない。
『石軟化』
これで石はまるでゼリーのように柔らかくなった。あとは直径20センチほどの穴をあける。スプーンを使うイメージでくるりと抉れば……。と、スプーンは途中で引っかかった。掬えるだけの分の石材を取り除く。石材と石材の間に金属の網が埋め込まれていた。これも石軟化対策か。メヘタベル山脈のときは木材だったので手間がかかったが、金属なら簡単だ。
『金属軟化』
アルが2つの呪文を使っているのをみて3人は驚いていた。どちらもタガード家の秘匿呪文なのにとターナー卿が他の2人に囁いているのがかすかに聞こえた。今更だが、これらがつかえるというのはあまり見せないほうが良かったのかもしれない。これらの呪文やセネット家の遅延呪文などの扱いについては機会がある時にアーノルド子爵にでも確認しておこう。
そうこうしているうちに壁には直径20センチほどの穴が開いた。浮遊眼の眼を動かして、穴を越える。ブライドンの使う浮遊眼の眼も後を追ってきた。
穴の向こうはこちらと同じように5メートル四方ほどの小部屋になっており、そこから幅2メートルほどの通路が伸びていた。そして小部屋の入口の壁に魔法感知呪文に青白く反応する丸い円盤のついたペンダントがぶら下がっており、その横に金属のプレートが貼り付けられていた。
アルとブライドンの浮遊眼の眼はそれに近づいていく。プレートには以下のように書かれてあった。
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|・金属の扉には必ず横のペンダントを身に付けてから近づくこと |
|・その先の迷路では分岐でかならず曲がる角度が鋭い側を選ぶこと|
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このような説明がここにあるということは、もうこの探索は終わりが近いということだろう。
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