30-4 都市訪問
塔の都市プレンティスに到着したアルたちが都市の入り口に着くと、従士らしいタバードを身に着け、金髪を短めに刈ったまだ20才前半ぐらいの若い男性がすぐに走り寄って来た。アルの前で敬礼する。
「ゴーレム頭閣下とお見受けいたします。早速のご到着ありがとうございます。クウェンネル男爵配下の従士でクリントンと申します。お待ち申し上げておりました」
到着予定時刻や場所を告げておいたわけでも無いのに準備のいい事だ。もしかしたら主要な都市の出入り口全部に従士を配置したのではないかと気付いて、少し申し訳ない気持ちになる。
「ご苦労様です。今到着しました」
「早くて驚きました。クウェンネル男爵閣下は城にいらっしゃいます。ご一緒に居られるのは魔導士団の方々ですね。ご案内させていただきます」
アルは頷いて彼の後ろをついていくことにした。アルたちの姿を見て門の周りに居た一般の人々が何か話をしている。どういう反応なのかはよくわからない。この人は誰だろうと囁き合っている程度かもしれない。
そのまま馬車に乗せられ、アルたちは塔の都市プレンティスのほぼ中央にある城に到着した。先ぶれがあったのか到着すると城の入り口ではクウェンネル男爵がアル達を待っていた。この扱いは彼らにとって当然なのかもしれないが、アルはこういう扱いに慣れておらずあまり居心地はよくない。先程の一般の人々の反応もそうだし、わざわざ門に迎えがきているのもそうだ。どうしたらいいだろう。
「これって、ディーン・テンペストじゃだめなのかな?」
アルは弱気になって周囲には聞こえないぐらいの小さな声で呟いた。パトリシアが女王に即位したと同時に身を引き、今まで暮らしていた秘密の庵に戻った事になっているディーン・テンペスト、テンペストの血を引き、アルの師匠という設定になっている彼の姿でならまだこの雰囲気は耐えられる気がする。
“それはだめよ。アリュはパトリシアの恋人として周囲に認めてもらわなきゃ。アリュが人々から蛮族の脅威をなくしたい。そのために古代遺跡をめぐり、呪文を手に入れようとしているというのを理解しているからこそ、パトリシアはアリュに王配になってほしいという気持ちを抑え、ゴーレム頭という形で行動の自由があるように配慮してくれたの。それに応えてあげて”
そうだった。だから違和感はあるものの、こういった態度は受け入れると一度、心に決めたのだ。なのに、少しぐらついてしまった。アルはぎゅっと自らの胸もとにぶら下がるグリィのアシスタント・デバイスを握った。
「ごぶさたしています」
気持ちを立て直したアルは数人の配下と共に出迎えてくれたクウェンネル男爵に軽く会釈をする。彼とは、パトリシアがタガード侯爵領で挙兵したことを告げに手紙をパウエル伯爵のところに届けた時に会って以来だ。
「娘の件ではいろいろとご配慮いただき感謝しております。きちんとお礼を申し上げねばと考えておったのですが、王都でもその機会がなく申し訳ありませぬ。その件は改めてお礼をさせていただくとして、今回はまたお手間をおかけします。我々が不甲斐ないばかりにご迷惑をおかけして申し訳ない。遠路お疲れだったでしょう。まずはご休憩をお取りください。ささやかですが食事の用意もございます」
ほとんど話したことはなかったが、丁寧な人だ。アルにとっては慣れたことなのでそれ程は疲れていないのだが、5時間近い飛行にターナー卿たちはきっと疲れているだろう。アルはちらりと彼女たちを見た。少しほっとしたような表情だ。無理はよくない。
「ありがとうございます。お言葉に甘えます」
城の小ホールにはテーブルが並べられていた。アルにはクウェンネル男爵と並んで一段高い中央に席が用意されている。向かって右側のテーブル、主賓に近い側にはターナー卿の席があるが、それ以外は立派な服装をした男女が席から立ってアルを待っていた。彼らはおそらく貴族なのだろう。休憩というより歓迎セレモニーのような雰囲気だ。ブライドン、フラーの席はなかった。従士たちは別室ということらしい。頑張ろうと思った心がまた少し揺らぐ。ぎゅっとグリィのアシスタント・デバイスを握る。
“大丈夫、何を喋ったらいいかはサポートするから。リアナほどじゃないけど、わたしもアシスタント・デバイスよ。とりあえずにこやかにしていて。そんな強張った顔じゃだめ”
アルは頭を掻き周囲を見回した。アルの事をたくさんの人々が見ている。にこやかに表情をつくって軽く頷く。
“みんなに座っていいって言ってあげて”
「どうぞ、お座りください」
アルの言葉にその場に居た男女は周囲とすこし言葉を交わしながら座る。
“アリュはまだ座らないで。今回の歎願を受けてパトリシアはここに来る予定になった。今はその日程を調整中。彼女はプレンティス地方がテンペスト王国の一員であり、共に生きていきたいと考えていると伝えてあげて”
調査に来ただけのはずなのに、これじゃまるで為政者みたいだ。アルはちらとそう思ったものの、これも仕方ないかと自分に言い聞かせる。厳密に線引きなんてできないのだ。グリィの話をそのまま皆に伝える。それを聞いて、皆一様に安心したような顔をした。クウェンネル男爵がその横で何度も頷いた。クウェンネル男爵はともかく、他にこの場に集まった貴族たちはプレンティス侯爵家に仕えていた貴族たちだったのかもしれない。パトリシアは罪を犯していた者は罰するものの、プレンティス侯爵家配下の貴族たちはおおむねそのまま代官として残す予定のような事を言っていた。だが、今までこの地方一帯を支配していたプレンティス侯爵が降伏したことで、彼らは自分たちの処遇がどうなるか不安だったのだろう。
話し終えたアルはなんとか役をこなせたと安堵して椅子に腰を下ろした。飛行よりも、ここで数分で喋った事の方が疲れた気がする。
「ありがとうございます。ゴーレム頭閣下からこのようなお言葉を賜り助かりました。これで我々も作業を進めやすくなります」
クウェンネル男爵の口ぶりからすると、アルがグリィから言ったらよいと勧められたことは、彼が想像していた事より踏み込んだ話だったのかもしれない。この場はもしかしたら調査のために顔を知っておいてもらう程度の意図だった可能性もある。
「これ以上の話はしませんから安心してください。私はプレンティス城の調査にきただけです」
アルはやんわりとそう返した。政治には関わりたくない。
“ごめん、アリュ、リアナみたいに考えちゃった。今度からもっと考える”
グリィが謝ってきた。彼女もアルと同じような印象を持ったのかもしれない。周りから勝手にいろいろ思われる事もあるだろうし、今後はアルを利用しようと考えて近づいてくる者も居るだろう。クウェンネル男爵のような人物でまだ助かった。これからは色々と注意する必要もあるだろう。
「大丈夫。これからもよろしく」
アルは小さい声で呟きながらアシスタント・デバイスを上から撫でた。城の召使がワインや果物、軽い食事などを運んできた。まだ時間は昼を過ぎたばかりなのでワインはかるく口をつける程度にして、果物のかごからブドウを貰う。濃い紫色をした大粒のものだ。甘くておいしい。クウェンネル男爵もワインにはあまり口を付けていないようだが、他に参加していた貴族らしい男女は普通にワインを飲み始めた。
しばらく歓談がつづく。アルはグリィの手助けをもらいながら、政治的な発言にならないように注意して言葉を返しながら時間を過ごす。一時間ほど過ぎかなり酔った人間がでてきたのを見計らってアルは傍に控えていた従士のクリントンに話をしてそっとその場を抜け出したのだった。
-----
アルが会議を抜け出すのを見たのか、ターナー卿もアルを追いかけるようにして城のホールから出てきた。
「お疲れさまでした。休憩にはなりませんでしたね」
彼女の言葉にアルは戸惑いながらぎこちない笑みを浮かべた。貴族社会でああいった社交の場は重要な意味を持つ。アルのように政治に全く興味のない者ならともかく、ターナー卿はああいった場で一人でも顔見知りを作るのが大事なのではないのだろうか。アルが不審に思ったのがわかったのか、ターナー卿は首を振った。
「私は今回魔導士団結成という幸運に恵まれ、師匠に推薦を貰って魔導士として雇って頂きましたが、実は平民の出身なのです。貴族の作法はよくわかっていませんし、あの場ではじっと静かにしているしかありませんでした」
アーノルド子爵は魔導士団を作るのに人が足りないという話をしていたが、ターナー卿もそういう境遇だったのか。彼女の呪文熟練度がそれほど高くないのも魔導士になったばかりだとすれば頷ける。
「私のほうもあまりああいう場には慣れてないから早々に出てきたけど、それだとターナー卿も大変でしたね。ブライドンとフラーは何処だろう」
飲み物を運んでいる召使いを呼び止めて聞くと、2人は別の部屋で食事をさせてもらっているらしく居場所はすぐにわかった。廊下で立っていても仕方ない。アルとターナー卿は、2人が居る部屋に向かう事にしたのだった。
読んで頂いてありがとうございます。
月金の週2回10時投稿を予定しています。よろしくお願いいたします。
誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。
いいね、評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。
冒険者アル あいつの魔法はおかしい 書籍版 第4巻 まで発売中です。
山﨑と子先生のコミカライズは コミックス3巻まで発売中
Webで第20話が公開中です。
https://to-corona-ex.com/comics/163399092207730
書籍5巻 コミックス3巻(紙版) 4巻(電子・紙版) 4月10日発売決定
諸々よろしくお願いいたします。




