30-2 出発の前に
タバサ男爵夫人の所に立ち寄り今晩の件を相談したアルが自分の部屋に戻ってくると、部屋の前には丸々と太った年配の男性が1人、そして年若い男女が3人部屋の前で待っていた。年配の男性は服装からしておそらく貴族で、このタイミングでの訪問者となると新しく魔導士団団長に就任したアーノルド子爵のように思われた。あとの3人は揃ってローブ姿で魔法使いのようだが、服装の装飾などからすると、1人の女性は魔導士、後の男女は従士といったところか。4人はアルの姿を見つけると揃って頭を下げた。
「お待たせしたようですね」
アルはにこやかに微笑んで片手をあげる。タバサ男爵夫人がアルの訪問の意図を聞いて大騒ぎをしたし、手元に戻って来たばかりのアシスタント・デバイス、テスをリアナの要望もあってタバサ男爵夫人に預ける事にしたのでその説明をしたりしていたので、ここに戻ってくるまではかなり時間がかかってしまった。貴族を待たせるなんて大変な事をしてしまったという気持ちはあるが、ゴーレム頭としては、相手が貴族だとしても自分から頭を下げるわけにはいかないらしい。リアナの希望は他の貴族に対して宰相などと同じような地位にいる者として対応してほしいというものだった。アルとしてはかなり落ち着かないのだが、王城内ではそういう態度で過ごすしかないようだ。
「いえいえ、ゴーレム頭閣下はお忙しい身、私はその方にお願いする立場ですのでお気になさることはありません」
その貴族はにこやかにそういって微笑む。人当たりのよい雰囲気を持つ人物だ。
「私はアーノルド子爵と申します。本日、正式にテンペスト王家の魔導士団団長の職をパトリシア陛下から拝命いたしました」
やはりそうなのか。あまり魔法使いには見えないし、彼の身体から魔法発見の反応はないが、実はすごい魔法使いなのかもしれない。アルから確かめるような視線で見られているのに気が付いたのか、アーノルド子爵は慌てて首を振った。
「団長を拝命いたしましたが、残念ながら私は呪文が使えません。私の亡くなった父が団長を務めた事があっただけなのです。おそらく色々と閣下にお教えを乞う事が多いと思います。よろしくお願いいたします」
魔導士団の団長が呪文を使えないなんて! アルとしては極めて意外だったが、彼の話によると、騎士団配下を除くと、テンペスト王家に仕える魔法使いはほとんど残っていない状況で、これから魔法使いギルドや高名な魔法使い、騎士団配下の魔導士などと話し合って組織を作っていくしかなく、まずは以前の組織を知る者が集められたらしい。これは色々と大変そうな状況だ。
「ご苦労様です」
アルは思わずそういって軽く頭を下げる。
「いえいえ、これも亡くなった父たちの世代が不甲斐ないばかりに陥った事態。我々が頑張るしかないのです。今回、プレンティス城での事件の共同調査を御快諾頂きありがとうございました。こちらのターナー卿をお連れ頂きたいと考えております。何卒よろしくお願いいたします」
「ターナーです。ゴーレム頭閣下と一緒にお仕事ができるなんて光栄です。よろしくお願いいたします」
「従士のブライドンです」
「同じく従士のフラーです」
アーノルド子爵の横に立っていた3人が順番に頭を下げる。卿をつけて呼ばれるということは彼女が魔導士なのだろう。年のころは20代前半、ストレートの金髪は肩当りで綺麗に整えられている。身長はアルよりすこし低いぐらいなので160㎝ほどだろうか。女性にしてはすこし低めの声で、落ち着いた話し方であった。ブライトンは身長170㎝ほどの男性で黒い髪を綺麗に整えている。ターナー卿と同じぐらいの年令に見えた。フラーは女性で、身長、年齢どちらもブライトンとほぼ同じぐらい。赤い髪をターナー卿とおなじく肩当りまでのばしているが、彼女のほうはすこしウェーブがかかっている感じである。3人とも緊張している様子であった。ターナー卿からは呪文の反応があるが、2人の従士からはその反応はなかった。まだあまり呪文の習得は進んでいないのだろうか。
「ゴーレム頭のアルフレッド・チャニングです。よろしくお願いします」
アルはそういって手をさし出す。3人はおそるおそるといった様子でその手を取った。アルが微笑みながらしっかりと握手をすると、3人もぎこちないながらも微笑んでくれた。
「いつ出発します?」
「今からでも可能です」
ターナー卿は意気込んでそう答えた。たしかにドイル子爵は出来るだけ早くとは言っていたが、そこまでの案件ではないだろうと思って今日の夜はもう大事な予定を入れてしまっていた。
「魔導士団から行くのはこの3人ですか?」
「あ、はい。えっと、もう少し用意したほうがいいですか?」
アルが問うと、アーノルド子爵は様子を伺うように尋ね返して来た。パトリシアの警備などの仕事もありあまり人数を出すのは難しいらしい。アルは軽く首を振る。
「いえ、その必要はないです。明日の朝出発にしましょう。飛行呪文を使って行くので日が暮れる前には到着できるはずです」
アル単独なら4時間もかからない距離だが、この3人の飛行呪文がどれぐらいの長距離を飛ぶことができるのかはよくわからない。多めに見積もっておこう。
「え、えっと……了解しました。ですが、従士の2人は飛行呪文が使えません」
「そうなんですね。でも、馬車で行くのは時間がかかりそうです。明日は僕の後ろに運搬呪文で椅子を作るので、そこに座ってもらいましょう」
アーノルド子爵を含めて4人とも揃って目を見開いて驚く。運搬呪文で人を乗せて運べるというのはまだ浸透していないらしい。今回の調査では、この3人に色々と説明し、経験してもらうことにしよう。
「了解です。では、明日の朝、2番目の鐘ぐらいでよいですか?」
アーノルド子爵の提案にアルは頷いた。朝2番の鐘、夜明けからおよそ1時間後でこれはテンペスト王国でもシルヴェスター王国と変わらない。
「はい。では、準備をして中庭に集合で」
-----
夜、アルは薔薇の花束を持ってパトリシアの部屋を訪れた。花束を買ったのはこれが初めてだったが、これほど高いものだとは思わなかった。扉をそっとノックすると、召使のドリスがすぐに部屋の中に迎え入れてくれた。
礼を言ってアルが部屋に入っていくと、中にはパトリシアが待っていた。なんとなくアルにパトリシアはまぶしく見える。
「即位おめでとう。これから大変だと思うけど頑張って。これはえっと」
アルは花束を差し出し、そこまで言ったところで言葉に詰まった。ナレシュは大丈夫だと言ってくれたが、自信がない。だが、ここはきちんというべきところだ。
「パトリシア、大好きだよ。政治の事や戦争の事はぜんぜんわかんないし、そう言った事は何もできないけど、僕の恋人になってください」
その言葉にパトリシアは大きく驚いて口に手をあてた。じっとアルの顔を見る。頬からは涙が伝った。そしてアル様と小さく呟くと花束を受け取った。
「ありがとうございます。ありがとうございます。卑下するのはお止めください。アル様はテンペスト様の生まれ変わり、テンペスト王国の守り神のような存在です。テンペスト王国を抜け出したあの時、アル様に出会えなければ私は誰の庇護も受けることができなかったでしょう。プレンティス侯爵家の魔導士に狙われた時も、アル様は私を助けてくださいました。アル様のお力がなかったら、私は女王にはなれませんでした。私が今あるのは全てアル様のお陰なのです。ずっとお慕い申し上げていました。私でよければ……喜んで」
アルがずっと不安に感じていたことは杞憂だったようだ。2人の気持ちは同じだったらしい。ナレシュに勧められた通り、きちんと口に出してよかった。アルはパトリシアに歩み寄ると、しっかりと抱きしめたのだった。
読んで頂いてありがとうございます。
月金の週2回10時投稿を予定しています。よろしくお願いいたします。
誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。
いいね、評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。是非よろしくお願いします。
冒険者アル あいつの魔法はおかしい 書籍版 第4巻 まで発売中です。
山﨑と子先生のコミカライズは コミックス3巻まで発売中
Webで第20話(New!)が公開中です。
https://to-corona-ex.com/comics/163399092207730
書籍5巻 コミックス3巻(紙版) 4巻(電子・紙版) 4月10日発売決定
諸々よろしくお願いいたします。




