瞳を閉じたり開いたり
特定の楽曲およびその作詞者の方を誹謗中傷する意図はございませんm(_ _)m
すでに他の方が指摘していらっしゃるのを目にしたこともありますので、今更なのですが。
Jポップ等の歌詞や曲名で、「瞳を閉じて」、あるいは逆に「瞳を開いて」といったものが見受けられますね。あれってちょっとおかしくないですか、というお話です。
「瞳」とは、眼球の中の瞳孔、もしくは瞳孔プラスその周囲の虹彩――いわゆる「黒目」――を指します。目全体を指して「瞳」と表現するのは、あまり正確とは言えないでしょう。
瞳孔は、明るい所では光の入り過ぎを抑制するために小さく(縮瞳と言います)、逆に暗い所ではより多くの光を取り込むために大きく(散瞳と言います)なります。これは光の多寡により反射的に起こるのですが、生命活動の喪失と共に、この反応も失われます。つまり、虹彩の筋肉が弛緩し、瞳孔が開きっぱなしになってしまうわけです。
瞳孔反応の有無を死亡の確認に用いる、ということをご存知の方も多いでしょう。
つまり、ヨル=フォージャー(CV:早見沙織さん)が「瞳を開きなさいこの豚野郎」と言ったら、そういう意味になります。いや、作中にそんなセリフはありませんけれども(多分)。
もっとも、「瞳」を「目の比喩表現」として許容する見解もあるようですので、間違ってると一概に決めつけるべきではないかもしれませんが。
ところで、「ベラドンナ」という植物はご存知でしょうか。
西欧に自生するナス科の多年草で、和名はオオカミナスビ、オオハシリドコロ、セイヨウハシリドコロ。
ベラドンナの名はイタリア語で「bella donna」(美しい女性)という意味で、中世ヨーロッパの貴婦人が、瞳を大きく見せるために実を絞った汁を用いたことに由来します。
実などに含まれるアトロピンという成分に、散瞳を誘引する効果があるのです。ただし、これは持続性が強く、なかなか元に戻らないため、現在では散瞳薬としては硫酸アトロピン、塩酸フェニレフリン、トロピカミドなどの薬品が用いられているようです。
眼科で眼底検査のために「瞳孔を一時的に広げる目薬」なるものを差された経験のある方もいらっしゃるでしょう。
ちなみに、このベラドンナ、薬効成分だけでなく強い毒性も持っており、特に根茎と根が危険です。
しかし、鳥類や鹿、ウサギなどの多くの動物はベラドンナを食べても中毒を起こさず、ベラドンナを食べた動物の肉を人間が食べ、食中毒を起こして死に至る、ということがあるそうです。なお、犬や猫も中毒を起こすそうです。
何だか瞳の話から完全に明後日の方向に飛んでしまいましたが、史実中世ヨーロッパや中世ヨーロッパ風異世界を舞台とした作品で小ネタとして使えるのではないかと思い、書き記すことにしました。お役に立てば幸いです。
最後にもう一度、瞳に話を戻します。今度は瞳孔だけでなく、虹彩も含めた、いわゆる「黒目」についてです。
ところで、当然のように「黒目」と言っていますが、青や緑や茶色の場合は何というのでしょう? そう言えばあまり考えたことが無かったですね。
それはさておき、人間の場合、眼球における「黒目」部分の割合が小さく、相対的に「白目」が目立ちます。
一方、ほとんどの動物――人類の近縁であるゴリラやチンパンジーなども含め――では、白目はほとんど目立ちません。
自然界においては、白目部分が大きいことは不利に働きます。敵と遭遇した際、視線がバレバレになってしまうからです。
にもかかわらず、人間は何故白目が大きくなる方向に進化したのか。それは、群れの仲間同士、お互いの視線によって、言葉以外の部分でもコミュニケーションが取れるように、という意味合いなのだとか。
「瞳は口ほどにものを言い」というわけですね。




