七十三、お宅訪問
「はい、これ」
私は翌日、教室で美琴にメモを渡した。
「あ!もしかして紫苑さんの番号?」
「うん、そうよ」
「わあ~~!早速、訊いてくれたんや~~!ありがとうな」
「小春・・仕事が早いでありんすな」
「それで・・かけるの?」
「もちろんやがなっ!かけいでかい」
「なに・・会う約束とかするわけ?」
「紫苑さんがOKしてくれたら会うに決まってるやん、な?紬」
「そうでありんすな。私はもっと、花魁の話をしたいでありんす」
「私はやっぱりお笑いやで」
二人はとても楽しそうに話していた。
「小春はどうするん?」
「私は・・会員じゃないし・・」
「会員じゃなくても、特別に許可するっ!」
「許可って・・私は別に・・」
「小春も一緒に行こうや」
「そうでありんすよ」
「何を話したらいいか、わかんないし」
「合気道の話したらええやん」
あ・・合気道か・・
紫苑さんはやってないけど、お母さんがやってるのよね。
紫苑さんのことだから、きっと詳しいに違いないわ。
そうね・・会うのもいいかも。
「そうだね。んで、三人の方が楽しいし」
「そやでっ!やっぱり私らは三人でないとな」
そして放課後・・
早速、美琴が電話をかけた。
「もしもし?あ、どうも~~こんにちは。私、美琴ですねん。そうそう。昨日は、文化祭、ありがとうございましたぁ~!そうそう、そうですねん。いや、用事っちゅうか、紫苑さんと話がしたいな~って思いまして、それで電話させてもろたんですわ。それで、会いたいな~って思ってるんですけど、ええですか?っんな~策略とか違いますって。紬も小春も会いたがってますねん」
げ・・私はそんなに・・
「それで、どうです?はいはい、あっ、そうですかぁ~!ほな、今度の日曜日でええですか?えっと、そやなぁ~、ああ、はいはい、そうしましょか。わっかりましたぁ~。ほな日曜日に!」
「紫苑さん・・なんて?」
「最寄りの駅に来てくれって」
「そうでありんすか~。会ってくれるでありんすか・・」
「紫苑さん、私らのことちょっと疑ってたわ。おもろい人やな」
「純粋なんでありんしょな・・」
こうして私たちは、日曜日に紫苑さんと会うことになった。
いいのかしら~・・
美琴たち・・変なこと言って、機嫌を損なわなければいいんだけど・・
そして日曜日が訪れた。
私は朝から出かける支度をし、家を出た。
「よう、小春」
「あっ、たけさん」
アパートの前を、たけさんが歩いていた。
「今から行くのか?」
「そうなんですよ~」
「俺も今からバイトなんだよ」
「そうですよね、お疲れさまです」
「楽しんでこいよ。紫苑によろしくな」
「はい~、では行ってきます~」
私は自転車を走らせ、駅に向かった。
その後、美琴たちと電車で会い、私たちは都内へ向かった。
紫苑さんの指定した最寄りの駅に着くと、紫苑さんが改札の外で待ってくれていた。
「やあ、きみたち」
「紫苑さん~、もう待っててくれたんや~」
「おはようございます、紫苑さん」
「今日は、よろしくお願いしますでありんす」
「早速なんだが、話とはなんだ」
「まあまあ~、そないに急がんでも~」
「いや、僕は勉強があるので、手短に願いたいのだが」
「紫苑さんの家って、ここから近いん?」
「そうだが」
「外で話すとゆっくりでけへんし、家にお邪魔させてもろてもええですか?」
「僕の家に?」
「そうですがな~」
「僕の家に来ても、なにもないぞ」
「そんなんは、ええんですわ。なんもいりません」
「そうか。じゃ行くとしようか」
ええ~~・・いいんだ・・
絶対に断られると思ったけど・・いいんだ・・
そして私たちは紫苑さんの案内で、紫苑さんが暮らすマンションに着いた。
うわあ~~・・なんか、高そうなマンションだな・・
「ここだ」
そこは三階の312号室だった。
「入ってくれたまえ」
「お邪魔します~」
私たちは中へ入らせてもらった。
あっ・・なんか買ってくればよかったな・・しまった・・
部屋は1LDKだったが、とても広く、リビングは二十畳くらいはあった。
リビングには大きな書棚が置いてあり、たくさんの本が並べられていた。
私たちは、ソファに座らせてもらった。
「紫苑さん・・テレビはないんですか」
私はそう訊いた。
「テレビなど必要ない」
「え・・テレビ、観ないんですか?」
「テレビなどもはや、時代遅れだ。パソコンがあれば事足りる」
「そうなんですね・・」
「お茶くらいは入れる、待っていてくれ」
そう言って紫苑さんはキッチンへ行った。
「なんか手伝うことがあれば、言うてくださいよ~~」
美琴がそう叫んだ。
「なにもない。それより話とはなんだ」
紫苑さんは、コップに入れたお茶を、トレーに乗せて運んできた。
「話しとはなんだ」
「実はやな、私と紬、紫苑さんのファンクラブを作りましてん」
「なっ・・なにぃぃぃ!ファンクラブだとっ!」
「そうですねん。もうな~私と紬、紫苑さんの真面目な姿勢と、物知りなところが好きになりまして、それでファンクラブ作ったんですわ」
「僕を高く評価してくれるのはありがたいが、クラブなどと。一体何を企んでいるのだ」
「あはは、企みなんてありませんって。私たちは、紫苑さんともっと話がしたいだけなんですわ」
「だからなんの話なんだ」
「私はお笑い。美琴は花魁」
「なるほど、そういうことか」
「私な~、性格もこんなんやし、関西のお笑いっちゅうたって、わかってくれる人はいてないんですわ。でも紫苑さんは、少なくとも理解しようとしてくれましたやろ。だからそれが嬉しいんですわ」
「そうか」
「私も同じでありんす・・。今の若い人は花魁に興味を持つ者はいないでありんす。でも紫苑さんは知ってるでありんした。それがとても嬉しかったでありんす・・」
紬・・今の若い人って・・あなたも十分・・若い人なんですけど・・
「僕は花魁に、さして興味はない。ただ雑学として知っていただけだ」
「それでもいいでありんす・・。知ってるということが大切なんでありんす・・」
「僕とそういう話がしたい気持ちは理解したが、クラブは解散してくれ」
「えええ~~~!そんなあ~~あきませんか?」
「僕には関係ない」
「紫苑さんって、恋愛とか、興味ないん?」
「ないね」
「あらら・・クイズと同様・・即答でありんしたな・・」
「でもさ~、将来結婚とかあるやん?」
「それは先のことだ。今の僕には勉強だけだ」
「はぁ~~・・今しかでけん恋愛ってあると思うんやけどな~」
ルルル・・
そこで紫苑さんの携帯が鳴った。
「ちょっと失礼」
そう言って紫苑さんは電話に出た。
「ああ、きみか。いや、今は客人がいる。女性三人だ。ああ、そうだが。なにを言ってるんだ、勘違いしないでくれ。え・・今からか?それは別に構わないが。あはは、そうじゃないさ」
え・・紫苑さんの笑った顔、初めて見た・・
なんていうか・・結構・・素敵な笑顔なんだけど・・
美琴と紬も、紫苑さんの顔を凝視していた。
「そうか。それでは待っている。ああ、じゃ、後で」
そこで紫苑さんは電話を切った。
「突然なのだが、大学の知り合いがここに来ると言っている」
「え・・友達ですか・・?」
美琴がそう訊いた。
「友達ではない。知り合いだ」
「私ら、いてもええんですか?」
「別に構わないが」
「それって・・女子でありんすか・・」
「そうだが」
「えええええ~~~!マジか~~!」
「驚くことはないだろう。地球には女性と男性、この二種類しか存在しないのだから、五割の確率だぞ」
「そりゃま・・そうやろけど」
知り合いが、一人住まいの男性の家に来るって・・それって知り合いじゃないでしょ・・
しかも・・来るっていうことは、少なくとも何度かここを訪れているってことよね・・
でも紫苑さんは・・恋愛に興味がないって言ってるし・・
「紫苑さんさ~、ギャグの中で何がお気に入りなん?」
美琴が話を変えるようにそう言った。
「お気に入りという境地までは、まだ行っていないが、共感できるものはあったな」
「えええ~~、それってなんです?」
「花紀京という、かつての人気団員が、押し入ってきたヤクザに対し「ここには、いてへんぞ」と、ロッカーで匿っている者の居場所を自ら知らしてしまうと言う杜撰な下り。あれはいけない。花紀京という人は、その後「なんでわかったんや」と言うんだ。僕は思わずそこで笑ってしまった。当然じゃないか、わかるに決まっているだろう!と口に出していたよ」
「あはは、そうなんや~」
「なぜ共感できたかと言うと、人間というものは、何か後ろめたいことがあると逆に大袈裟に隠そうとする。例えばだな、放火犯などに見られることだが、犯人はなぜか現場へ戻って確認したがるんだ。現場検証の写真にも写り込んでいることが、ままある。それと花紀の行動は共通点があるのだ」
「あはは~、さすが紫苑さん。すごい分析やな~」
「それを客席の者は、笑って観ているんだ。あれは笑わせようとして、わざとああ言ったのだな」
「そやで~」
それからしばらく、お笑いの話が続いた。
紬は、どこで口を挟もうかと、タイミングを計っているようだった。
花魁の話をしたいんだね・・
「そういえばっ!紫苑さん、花魁が「ありんす」とか言うのって、なぜだか知ってます?」
私は紬の気持ちを察して、そう言った。
「あれは方言を隠すためだ」
「おお・・そうでありんす・・」
「廓詞と言って、出身を隠すために使われたのだ。ちなみに「ありんす」だけではなく「なんし」という言葉もあるぞ」
「そうでありんす・・。おいでなんし、とか言うでありんすよ」
「きみは、花魁が好きなのだな」
「そうでありんす。絶世の美女が花魁でありんすからな・・」
「それを傾城と言うのだぞ」
「傾城・・?それはなんでありんすか・・」
「城が傾くほど美しいという意味だ」
「おお・・そうでありんしたか・・」
「国、つまり城を滅ぼすほど、君主が大夫に入れあげてしまうことの意だ」
ひゃ~~~・・紫苑さん、ほんとにすごいわ・・
ピンポーン
そこでインターホンが鳴った。
あ・・来たんだわ・・
どんな人なのかな・・
紫苑さんは玄関へ行き、その人を中へ招いていた。
「どうも・・こんにちは・・」
え・・
なに・・
めちゃくちゃかわいいんですけど・・
その女性は、私よりも小柄で細く、顔は有村架純に似ていた。
「きみたち、紹介する。この人は大学の知り合いで、下田夏海くんだ」
「初めまして・・下田です・・」
下田という女子は、とても大人しい感じで、おしとやかだった。
「初めまして。薄柿小春です・・」
「柴土美琴です・・」
「路考紬でありんす・・よろしくでありんす・・」
私たち三人は、なぜか圧倒されていた。
「下田くん、きみも座りたまえ」
「う・・うん」
そう言って下田さんは、私たちの向かい側に座った。
そしてそれは、紫苑さんの隣だった。
げ~~~・・なんか・・カップルそのものなんですけど・・
「下田くんとは、学部も同じでサークルも同じなんだ」
「サークルって・・?」
私はそう訊いた。
「ミステリー同好会だよ」
「そうなんですか・・」
いかにも紫苑さんらしいサークルだわ・・
「あの・・慶太くん・・」
げぇ~~~!慶太くんって・・下の名前で呼ぶ仲なんだ・・
「なんだ」
「私・・ケーキ買ってきたんだけど・・」
「またか。気を使うなと何度言ったらわかるんだ」
「でも・・お客さんいるって言ってたし・・」
「そうか。それじゃ、遠慮なくいただくとしよう」
「私・・お皿の準備するね」
「ああ。頼む」
このやり取り・・
美琴と紬は・・どんな顔して見ているんだろう・・
紫苑さんは、さほどでもないんだけど・・
下田さんは・・絶対に紫苑さんのこと好きだよね・・
「なんだ」
私たちは黙ったまま、妙な雰囲気になっていたので、紫苑さんがそう言った。
「あのさ・・紫苑さん。下田って子・・彼女ちゃうん・・?」
美琴が小声でそう言った。
「バカなっ!勘違いも甚だしいぞ」
「でもさぁ・・じぶんらそんな感じに見えるで・・」
「はっきり言うが、僕は恋愛に興味はない。下田くんは、ただの知り合いだ」
「いや・・下田さんは、紫苑さんのこと好きやで・・」
「僕には関係ない」
あらら・・紫苑さん・・
冷たいのね・・
でも、少なくとも・・現時点では、紫苑さんってモテモテ男子よね・・
美琴と紬・・どうするんだろう・・




