七十、文化祭
たけさんは、その後もモデルとして仕事をしていたが、「やっぱり自分には合わない」と言って、ほどなくして辞めてしまった。
理由としては、徐々に知名度が上がり注目されつつあったことと、それが原因で女子から纏わりつかれることが増え、とてもストレスが溜まるとのことだった。
事務所側は、人気を得ていたたけさんに辞められるのは、大変残念に思っていたが、たけさんの意志は固かった。
季節はやがて秋を迎え、十月に入っていた。
「もうすぐ文化祭やな」
「そうだよね~」
「今年で最後でありんすから、なにか思い出に残る行事をするでありんすよ」
私たちは休み時間、教室でそんな話をしていた。
「なにがええやろな」
「美琴のファッションショーは、どうでありんすか」
「あはは。あかんあかん。あれは、亜矢さんのプロの技術があってこその成功やったんやで。私が自分で化粧してみぃな。バケモンになるで」
「バケモンって・・」
「カラオケ大会っちゅうたってやな、ありきたり過ぎるやん?」
「だよね~」
「あ・・クイズ大会っていうのは、どうでありんすか」
「クイズ大会かぁ~。いいんじゃない?」
「ほんまやな。でもさ、普通のクイズやったらおもろないで」
「普通のって?」
「ようあるやつやん。ありきたりの」
「まあねぇ。じゃ、どんなのにするの?」
「アホみたいな簡単な問題から、めっちゃ難しい超難問まで混ぜてやな」
「うん、それで?」
「時折、ゲームを挟むんや」
「ゲーム?」
「ゲームっちゅうたって、今時のんとちゃうで」
「え・・それってどんなことするの?」
「それはやな・・」
そこで美琴は、他の人には聞こえないように小声で話した。
「えええ~~!それって大丈夫なのかな・・」
「知恵と体力の勝負や」
「まあ・・斬新といえば斬新でありんすな」
こうして私たちは、クイズ企画を具体的に話し合ったのだった。
そして文化祭実行委員会にも話を持ち掛け、「面白い」と言って、許可が下りた。
そしてあっという間に、文化祭当日を迎えた。
「たけさん、それじゃ、私は先に行ってますからね」
私は学校へ向かう前に、たけさんちへ寄ってそう言った。
「そっか。わかった。んじゃ、俺たち後で行くからな」
「はい~待ってますね」
そして私は駅へ向かった。
東雲さんと静香さんと紫苑さんも来てくれるらしい。
あれから紫苑さんは、たけさんとも電話で話したり、結構、交流があった。
東雲さんは、もう何度も紫苑さんの家へ遊びに行ってるらしい。
そうよ・・。
勉強もいいけど、時には息抜きしなくちゃね。
クイズ大会は、校庭の一角に舞台を設置し、そこで行われることになっている。
何人かが競っての早押しとかじゃなく、一人ずつ答える形式だ。
問題は全部で十問あって、全問正解者には景品が贈られる。
この景品の内容を考えたのは美琴だった。
まさに・・美琴らしい選択だった。
私たち三人は学校へ到着し、準備に追われていた。
「お客さんの椅子って、このくらいでいいのかな」
私は舞台の前に、椅子を置きながらそう言った。
「それでええんちゃう。客が増えたら、また設置したらええし」
「はぁ!はぁ!本日は晴天なりでありんす」
紬は舞台の上でマイクのテストをしていた。
「ありんす、ありんす、はぁ!はぁ!」
「あはは。紬ってば、ありんすテストだね」
「そうでありんすよ~。音量はこのくらいでいいでありんすな」
「うん、ちょうどいいよ~」
「それでっと・・食べもんの準備はこれでええな」
クイズの問題で出される食品に、美琴は布をかけた。
「あとは・・なんやったかいな・・」
「美琴、ダンベルはどこ?」
「あっ!そやそや、それや。おおーーい!実行委員長!体操部の部長はまだかいな!」
実行委員長は、生徒会長の弓月くんだった。
「え?まだ来てない?」
「来てへんがなっ!ダンベルもいるし、部員も来てくれんと」
「わかった。呼んでくるね」
そう言って弓月くんは、校舎へ走って行った。
文化祭の出し物は、屋台はもちろんあり、焼きそばやフランクフルト、業者から製造機を借りてきて、綿菓子なんかもあった。
そんな中、私たちが企画したクイズ大会は、文化祭の目玉になっていた。
「僕にも手伝うことがあれば言ってね」
そこで斎藤くんが声をかけてきた。
「ありがと。斎藤くんは、教室で漫画を描いてるところを披露するんだよね」
「そうなんだ。僕一人だから、なんだか淋しいよ」
「そんなことないって~。たくさん来てくれるわよ」
「うん。ありがとう」
「私も時間を見つけて、行くからね」
「うん、待ってるね」
「斎藤くんもよかったら、クイズ大会に参加してね」
「そんな~。僕にはクイズなんて無理だよ~」
「大丈夫よ。きっと楽しいよ」
「漫画に関することだったら、自信あるんだけどな」
「あのね・・ここだけの話・・漫画の問題も用意してあるのよ・・」
「えっ!そうなんだ。じゃ出ようかな」
「うん!そうして~」
「わかった。じゃ、後でね」
斎藤くんが出てくれたら・・漫画の問題を斎藤くんに出してあげよう。
ちょっと贔屓してるみたいだけど・・別にいいよね。
それからほどなくして、文化祭が始まった。
外部からたくさんの人が訪れてくれ、嫌でも盛り上がりの雰囲気が学校を包んでいた。
さてさて~~・・クイズ大会までにはまだ時間があるし・・
「美琴~紬~、時間あるけど、どうする?」
「そやな~、校舎の中を見て回るか」
「そうでありんすな~」
そして私たちは、校舎の中へ入った。
わあ~~・・お化け屋敷とかもあるんだ~。
そういえば・・たけさんと遊園地へ行った時、お化け屋敷へ入ったっけ。
懐かしいな~。
「あっ!斎藤やん」
美琴が教室の入口に貼られてあるポスターを見て、斎藤くんが中にいることがわかってそう言った。
「わあ~・・このポスターも斎藤くんが描いたのかな」
そのポスターは、漫画家が絵を描いている様子が描かれてあり、「中で実演中」と書かれていた。
「入ってみるでありんす」
「うん、そうだね」
中へ入ると、斎藤君が机に向かって絵を描いていた。
その周りを数人の人が取り囲んで、見ていた。
よかった・・見に来てくれた人がいたんだね。
「描いてほしいキャラとかあれば、言ってくださいね」
斎藤くんはギャラリーに向かってそう言った。
「僕、銀さんを描いてほしいなぁ~」
小学生くらいの男の子がそう言った。
「銀魂だね。いいよ」
「わあ~~ありがとう~~」
斎藤くんは嬉しそうに、リクエストに応えていた。
そして次から次へとお客さんが訪れ、斎藤くんが見えないほどになった。
よかったね・・斎藤くん。
ほどなくして、私たちは教室を出て校庭へ向かった。
「そろそろスタンバイしよか」
「そうだね」
「MCは、美琴がするでありんすよ」
「ええっ!私かいなっ!」
「声がよく通るし、なんといっても美琴の物おじしないキャラは打ってつけでありんす」
「マジかいな。ま、ええけど」
「美琴~、張り切ってどうぞ!」
「小春~、あんたまで」
そして美琴は舞台に立ち、マイクを持った。
「え~、本日は我が校文化祭にお越しくださり、ありがとうございます!間もなくクイズ大会を行いますよって、どうぞ奮ってご参加ください!」
美琴~~、いい呼びかけだったけど、ちょっと関西弁入ってたわ。
すると、続々と椅子に座る人たちで、舞台付近は大勢の人が集まってきた。
「クイズ大会だって~」
「参加してみる?」
「お前、行ってこいよ~」
お客さんたちは、口々にそう言っていた。
よしよし・・いい感じだわ。
「小春~」
私が客席を見て回っていると、たけさんが声をかけてきた。
「たけさん~。来てくれてありがとうございます~」
そして東雲さん、静香さん、紫苑さんもいた。
「東雲さん、静香さん、紫苑さん、ゆっくり楽しんでくださいね」
「うん、ありがとう」
「薄柿さん、今日はお招きありがとうございます~」
「ほぅ・・クイズ大会か」
「あっ、紫苑さん、出てくださいよ」
「僕が?」
「そうですよ~、紫苑さんなら全問正解ですよ~」
「東雲くんはどうするんだ」
「僕・・?僕はいいよ」
「どうしてだ。秀才のきみなら余裕だと思うのだが」
「僕は見てるだけでいいよ」
「紫苑、お前出ろよ」
「時雨くんは出ないのか」
「俺も遠慮する」
「どうしてだ」
「なんつーか・・」
たけさんは、あちこちで女子たちが「時雨さんよ~~」と話しているのに気がついていた。
そう・・女子たちはモデルをやってたたけさんを知っているのだ。
「そうか。まあいい」
「で、紫苑さん、出られますか?」
「いや、僕も遠慮する」
「ええ~~どうしてですか~」
「高校生が出す問題に答えたところで、さして意味はない」
「そんなこと言って~。なかなか他にないクイズなんですけど」
「他にないだと?」
「斬新なクイズ方式なんですよ」
「ほぅ・・斬新と言ったな」
「どうですか?出てくださいよ~」
「なるほど・・。なかなか興味深くはある」
「じゃ、申し込みますけど、いいですね」
「ああ。そうしてくれ」
こうして紫苑さんは参加することになった。
「たけさん、じゃ私、持ち場へ行きますね」
「うん。頑張れよ」
「はい~」
参加者は予想以上に多く集まり、十名を軽く超えていた。
問題、いくつ用意してたんだっけ・・足りるのかな・・
問題は、私たち三人が、それぞれ用意していた。
漫画の問題を考えたのは私だった。
そしていよいよ、クイズ大会が始まった。




