五十三、お笑い講座
お正月も三が日が過ぎ、やっと時雨さんが帰って来た。
私はお雑煮を作って、時雨さんちに届けるつもりでいた。
まだ冬休みだもんね~。
今日は、ずっと家にいるのかな・・
あっ・・東雲さんもいるよね。
お兄さんは今日からお仕事だし・・
あ・・でも帰ってきたら、お兄さんも食べるよね。
ってことは・・お餅もたくさん用意しなきゃね。
ふっふ~・・時雨さん、なんて言ってくれるかな~。
えっと・・そろそろいいよね。
私はお餅を袋に入れ、鍋を抱えて家を出た。
「こんにちは~」
「おーう、入れよ」
中から時雨さんの声が聞こえた。
「あのー!お鍋を抱えてるんで~開けてください~」
「おお~そうか」
そして時雨さんが玄関を開けてくれた。
「よう~小春」
「お雑煮、作って持ってきました~」
「うん。ありがとな。さっ、上がれよ」
「はーい」
私が部屋に上がると、東雲さんがちゃぶ台で勉強していた。
「東雲さん~こんにちは~」
「薄柿さん、こんにちは」
「勉強中だっだんですね」
「お雑煮、作ってくれたんだね」
「そうなんですよ~」
私はそう言いながら、ガスコンロの上に鍋を置いた。
「休憩する時、言ってください。お餅を入れますので」
「小春~、お前もこっち来て座れよ」
「はい」
そして私もちゃぶ台の前に座った。
「時雨さんも勉強してたんですね」
「うん。ちょっとの時間も惜しいからな」
「そうなんですね」
それからしばらく、私は黙ったまま、二人が勉強する様子を見ていた。
時雨さん・・真剣な顔してる・・
そういえば・・勉強する時雨さんの顔って初めて見る気がする・・
やっぱり・・かっこいいな・・
「あ?なんだよ」
私が時雨さんを見つめていたら、そう言われた。
「あ・・いえ・・なんでもありません・・」
「気になるから見んなよ」
「あ・・はい・・」
「薄柿さん、健人くんのこと、本当に好きなんだね」
「え・・東雲さん・・」
「和樹、くだらねぇこと言ってんじゃねぇよ」
「あはは。健人くんは本当に照れ屋さんだからね」
「和樹だってそうじゃねぇか」
「僕はもう、静ちゃんの前で照れたりしないよ」
「はいはい~、ごちそうさまっ」
時雨さんは嬉しそうに笑ってそう言った。
あ・・東雲さんの耳に・・穴が開いてる・・
え・・ピアスとかしてたの・・?
ちょっと想像つかないんだけど・・
「東雲さんって、ピアスとかしてたんですか」
「え・・?ああ。うん、以前、ちょっとね」
「和樹はホストやってただろ。そん時の名残だよ」
あ・・そっか・・
ホストやってたんだよね・・東雲さん・・
「小春」
「はい?」
「俺もホストやったことがあんだぜ」
「ええええええ~~~!う・・嘘でしょ・・」
「まあ・・やったっつったって、一日だけどな」
「え・・一日・・?」
「俺、ホストクラブのコンテストに出さされて、んで、優勝したんだぜ」
「ええええ~~~!まっ・・マジですかっっ!」
「うん。マジ」
「ひぃ~~・・時雨さんが・・ほ・・ホスト・・」
「んで、俺の源氏名、ルイってんだぜ」
「る・・ルイ・・」
「僕はリュウだったんだよ」
「り・・リュウ・・」
うわあ~~・・なんか・・すごい話だわ・・
でも・・この二人がホストか・・
ヤダ・・超かっこいいかも~~!
なんか・・見てみたい気がするんだけど・・
あ・・お兄さんだって・・絶対にかっこいいよね・・
ヤダ・・マジで見たくなってきたわ・・
「さーて、休憩にするか」
時雨さんがそう言って、背伸びをした。
「あ、そうですね。じゃ、お雑煮温めてきますね」
私は台所へ行き、火を点けてお餅を人数分入れた。
「時雨さん~、適当にお椀とか借りますね~」
「ああ~、なんでも使ってくれ」
「はーい」
そして私は、お味噌汁の椀を出して、そこに入れた。
「お待たせしました~」
私は時雨さんと、東雲さんの前にお椀を置いた。
「薄柿さん、ありがとう」
「んじゃ~、いっただきまーす」
そして二人は、お雑煮を食べた。
「どうですか・・?」
「おおお、これマジで小春が作ったのか」
「そうですよ~」
「とても美味しいよ。薄柿さん」
「わあ~そうですか、よかったです~」
「う~ん・・ハムエッグに塩かけるの忘れたり・・ラーメン失敗して泣いたりした・・あの小春がねぇ・・」
「なんですか~時雨さん」
「信じらんねぇな・・人って成長するもんだな」
「もう~美味しいなら美味しいって言ってくださいよ~」
「あの小春がねぇ・・雨でも降るんじゃねぇのか」
「時雨さんって、ほっんと素直じゃないですね!」
「あのさ・・小春・・」
「なんですかっ」
「俺・・振ってるんだけど・・」
「え・・」
「そこは、上から目線のクセがすごい~だろ」
「げっ・・」
「ったくよ~~・・振りも読めねぇのかよ」
うっ・・そんなこと・・すっかり忘れていたわ・・
不覚だったわ・・
そうだ・・この間の仕返しもあったんだわ・・
よーーしっ・・ここは、新ネタで仰天させてやるっ!
何にしようかな・・
インガスンガスン・・とかいうのもあったけど・・ちょっと時雨さんにはレベルが高すぎるよね。
っていうか・・私もわかってないんだけど・・
えっと・・そうだな・・
あっ・・女性が凄むっていうの・・あったよね・・
よしっ・・それで行こう!
そこで私は、すっくと立ちあがって、口を開いた。
「あんたらぁ~!舐めとったらぁ~ストロー鼻に突っ込んでカックンいわせたろかぁぁ!」
そう言って凄むと、時雨さんと東雲さんは、私の思惑通り仰天し、まさしく絶句していた。
ふふふ・・やったわ!
「なっ・・」
「ああ~~・・怖かったぁ・・」
私はそう言って、右手の人差し指を口へ持って行き、ブリっ子して見せた。
ふふ・・落ちもバッチリだわ。
そして私は、何事もなかったように座った。
「えっと・・薄柿さん・・?」
「おい、小春」
「なんですか~」
「お前・・どんだけ引き出しあんだよ」
「ふふ・・」
「くそっ・・なんか悔しいぜ」
「まだまだ、こんなものではありませんよ~!」
「ちょ・・えっと・・二人とも、どうしたの?」
「あああ~~驚いてしまった自分が情けないぜっ!」
「健人くん・・どういうこと?これってなに?流行ってるの?」
「和樹、どやさ~って知ってるか」
「どやさ・・?いや・・知らないけど・・」
「嬉しいって意味なんたぜ」
「へぇー」
「だから、今度、嬉しいことがあったら由名見にそう言ってやれよ」
「あ・・ああ・・うん・・」
「由名見、驚くぜ~」
「まあ・・そうだね・・」
ぎゃ~~・・どやさって、マジー?って意味なんですけどぉ・・
それを東雲さんが・・静香さんに使うの・・?
いや・・絶対にやめた方がいいわ・・
「あの・・東雲さん。静香さんに使うとしたら・・もっと他がいいんじゃないかな・・」
「というと?」
「えっと・・そうですねぇ・・」
なにがあったかな・・
ノート・・持って来ればよかったな・・
思い出せ・・小春・・
「あっ、挨拶はどうだよ、小春」
「えっ・・・・それって・・もしかして・・」
「そうだよ。あれだよ」
「でも・・あれは・・」
「なあ、和樹」
「なに?」
「今度、由名見んちへ行ったらこうやって挨拶しろよ」
そこで時雨さんは立ち上がった。
「ごめんください!どなたですか!東雲和樹です!お入りください、ありがとう!」
すると東雲さんは、さっきよりも仰天していた。
「どうだ、和樹」
「えっ・・」
「これ、おもしれぇだろ」
「う・・うん・・。でも・・意味がわからないよ」
「意味なんていいんだよ。由名見を驚かせてやれって」
なんか・・ちょっと変なことに・・
っていうか・・時雨さん、挨拶ギャグをここまで気に入ってたとは・・
挨拶なら・・以前、美琴が「お邪魔しまんにゃわっ」って言ってたっけ・・
そっちの方が、短くていいんじゃない・・?
「あの・・東雲さん」
「なに・・」
「挨拶なら、これはどうですか。えっと・・お邪魔しまんにゃわっ」
「え・・」
「くそっ・・小春・・どんだけ出てくんだよ」
「っていうか・・薄柿さん。これって何の話してるのかな・・」
「あれ・・?どこからこんな話になったんですかね・・」
「さあ?どこからだ?」
そして私たちは、大声で笑った。
でも・・東雲さんの顔は、引きつっていた。
-------------------------------------------
※ 文中に出てくるギャグ
「インガスンガスン」は、吉本新喜劇、末成由美さんのギャグです。
「ストローカックン」は、吉本新喜劇、未知やすえさんのギャグです。




