五十二、複雑な心境
「小春~」
その日の夜、時雨さんから電話がかかってきた。
「時雨さん、あけましておめでとうございます」
「うん。おめでとう」
「今年もよろしくお願いします~」
「こちらこそ」
「今も勉強中ですか?」
「いや、もう終わったぜ」
「そうですか~、お疲れさまでした」
「今日は、なにしてたんだ?」
「あっ、今日ね、お兄さんと葵さんと一緒に、初詣に行ったんですよ~」
「そっか~。よかったな」
「葵さんね、着物着てて、すごく綺麗でしたよ~」
「そっか。そりゃ、兄貴も大喜びだな」
「お兄さんね、私が、葵さん綺麗ですねって言ったら、当然だよって」
「あはは。まったく兄貴のやつは、恥ずかしげもなくそういうこと言うからな」
「でね、初詣の帰りに、葵さんを私の部屋に招待したんですよ」
「へぇー」
「で、お雑煮を一緒に食べたんですよ」
「え・・それって小春が作ったのか」
「はい~」
「マジかよ!ラーメンさえろくに作れないで、泣いてたお前がかよ」
「もう~~、それは言わないでください~」
「あはは。んで?葵ちゃんなんだって?」
「とっても美味しいって言ってくれました~」
「そっか。よかったな」
「時雨さん、帰ってきたら、作ってあげますね」
「うん。楽しみにしてるぜ」
私はお兄さんに対する葵さんの思いを、少し話してみようと思った。
「葵さんってね、すごくお兄さんのこと想ってますよ」
「そうだろうな」
「好きな人が幸せになってくれることが、一番大切なことだって言ってました」
「そっか」
「葵さんって、すごく気持ちに余裕があって、大人の女性って感じですよね」
「そりゃそうだぜ」
「え・・」
「葵ちゃん、いくつか知ってんのか、お前」
「いえ・・知りませんけど」
「いくつだと思う?」
「うーん・・そうだなぁ・・二十三くらいですか?」
「あはは。ちげーよ」
「え・・いくつなんですか」
「三十二だよ」
「えええええ~~~~!え・・だって・・お兄さん・・二十二ですよね・・」
「うん」
「じゅ・・十歳も年上なんですか」
「うん」
「めちゃくちゃ若く見えるじゃないですか!」
「だろ」
「だからか~~、あの落ち着きぶりは・・なるほど~。お兄さんと並んでても、ぜっんぜん年の差なんて感じませんよ」
「そだな」
「へぇ~そうだったんだぁ~」
「葵ちゃん、とてもいい人だから、これからも色々と教えてもらえよ」
「はい~もう~、絶対、そうします~」
「んじゃ、おやすみ」
「え・・もう切るんですか・・」
「なんだよ、淋しいのか」
「え・・いや・・別に・・」
「なんだよ」
「えっと・・その・・」
「だから、なんだよ」
「あの・・私に会いたいですか・・」
「ああ。めちゃくちゃ会いてぇよ」
「そっ・・そうですか・・」
きゃ~~~~!なんか、キュンってなる~~
「小春・・」
「はっ・・はいっ・・」
ヤダ~~~、この次・・なんて言われるのかな・・
ドキドキする~~~
「どやさぁぁ~~!」
「げ~~~~!」
「あははは」
「もう~~、時雨さん~!」
「あはは、んじゃ、おやすみ~」
そう言って電話は切れた。
もう・・私、おやすみって言ってないのに~~
ったく・・ここで、どやさを使う?普通。
よーーしっ・・今度仕返ししてやるっ。
でも・・私に会いたいって言ってくれた・・
嬉しいな・・
そして次の日・・
私は朝からバイトに入っていた。
設楽さんは・・午後からなんだ・・
葵さんが彼女と知って、どう思ったのかな・・
ショック受けたのかな・・
「小春ちゃーん」
お昼頃、お兄さんが店にきた。
「あ、お兄さん~。昨日はありがとうございました」
「いいえ。こちらこそ。これ、葵ちゃんから預かったから」
そう言ってお兄さんは、紙袋を差し出した。
「え・・なんですか」
「小春ちゃんに借りたスウェットだよ」
「ああ~~そっか。わざわざすみません」
「葵ちゃんな、用事があるから、直接返せなくて申し訳ないって言ってたぜ」
「いえ~、そんな~」
「洗濯して、乾燥機にもかけてたから、乾いてるぞ」
「そうなんですか~。なんか反って悪かったですね」
「っんなことねぇよ」
え・・洗濯したこととか・・乾燥機にかけてたこととか・・知ってるってことは・・
そっか・・お兄さん、葵さんのお家に泊まったのね・・きゃー
「小春ちゃん・・?なにニヤケてんの?」
「えっ・・」
げ~~・・私・・ニヤケてたんだ・・恥ずかし~~
「健人は、明後日帰ってくるからな」
「はい~」
「んじゃ、またな」
「ありがとうございました~」
お兄さんが店を出た時、ちょうど設楽さんが出勤してきた。
偶然会った二人は、笑いながら話しをていた。
お兄さん・・なんて優しい顔で笑ってるんだろう・・
設楽さんも・・とても嬉しそう・・
「薄柿さん、こんにちは」
お兄さんと別れて、設楽さんが入ってきた。
「設楽さん~、こんにちは」
「さっき表で、時雨さんに会ったわ」
「あ・・そうですよね」
「薄柿さん・・」
「はい・・」
「いや・・なんでもない」
「え・・」
「さてと・・在庫、見てくるわね」
そう言って設楽さんは、奥へ行った。
設楽さん・・私に何か話したいことでもあるんじゃないかな・・
葵さんのこと・・気になってるのかな・・
そしてバイトも終わりの時間になり、私は設楽さんに声をかけることにした。
「あの、設楽さん」
「なに?」
「今日は、亮介くんは?」
「家にいるわよ」
「そうですか・・」
「それがどうかしたの?」
「あの・・もしよかったら、少しだけでも話しませんか・・」
「話・・?」
「設楽さん・・私に何か訊きたいことがあるんじゃないですか・・」
「そんな・・別にないわよ・・」
「お兄さんのこと・・気になってるんじゃないですか・・」
すると設楽さんの表情が、明らかに変わった。
「あたなには関係のないことよ・・」
「そうですか・・」
「薄柿さん」
「はい・・」
「あなた、なんか勘違いしてるんじゃない?」
「え・・」
「私が時雨さんを好きだとか・・思ってるでしょ」
「え・・別に・・」
「私はね、亮介が時雨さんのことをすごく慕ってて、その気持ちに時雨さんが応えてくれていることに感謝しているだけよ」
「そう・・ですか・・」
「あなたには亮介を助けてもらって、ほんとに感謝してるの。でも、そのことと、私が時雨さんをどうのとか、それは詮索しないでほしいの」
「詮索なんて・・。私はただ・・心配になって・・」
「心配?」
「その・・」
「薄柿さん、その話は、また今度」
「あ・・はい・・」
カウンターにお客さんが来て、設楽さんは私を制した。
そして私は店を後にした。
感謝してるだけって・・ほんとかな・・
だったらなぜ・・私に話があるそぶりを見せたの・・?
私に訊きたいことがあったからじゃないの・・?




