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三人王子と三匹の子ブタちゃん  作者: たらふく
39/94

三十九、上手くいかない



それから私は、一日でも早く仕事に慣れるために、放課後もバイトすることにした。

そんな中、設楽さんともシフトが重なる時が、間々あった。

私は設楽さんの完璧な仕事ぶりに圧倒されながらも、なんとか自分も少しでも近づきたいと努力していた。


「おい」


私はカウンターの中でタバコの補充をしていたら、後ろで男性客に声をかけられた。


「あ、いらっしゃいませ」


私はカウンターの前に立ち、そう言った。


「いらっしゃいませじゃねぇんだよ」

「え・・」


その男性客は中年のおじさんで、なにやら怒っている風だった。


「ここの弁当さ、わざと不味く作ってんのか?」

「え・・どういうことでしょうか・・」

「この間さ、幕の内買ったんだけどさ、クソ不味かったぜ」

「そうですか・・すみません」

「なのによ、五百円ってどういうことだよ!」

「それは・・私に言われましても・・」

「ったく、金をドブに捨てたようなもんだぜ」

「す・・すみません・・」

「お前の顔もクソ不味いよな」

「え・・」

「弁当は不味い、お前の顔も不味い、二重に損だぜ」

「私の顔のことを言われましても・・」

「もうちょっとマシなの、いねぇのかよ」


「お客さま」


そう言って設楽さんが奥から出てきた。


「おおお~~こりゃ~たまげた!あんたべっぴんさんだねぇ~」

「当店のお弁当ですが、お客さまのお口に合わなかったことはお詫び致しますが、従業員の容姿をとやかく言われる覚えはございません」

「なんだよ~、気の強いねぇちゃんだな」

「それで?五百円をお返ししたらよろしいのですか?」

「そんなことは言ってねぇさ」

「お弁当の製造については、お客さまの貴重なご意見として本社へ報告いたしますので、ご理解ください」

「そんなに怖い顔しなさんな。べっぴんさんが台無しだぜ」

「わたくしの顔のことはどうでもよろしいです。それで?ご理解いただけましたか」

「ああ、わかったよ」


そう言って客は店を出て行った。


「設楽さん・・ありがとうございました・・」

「薄柿さん・・」

「はい・・なんでしょうか」

「ああいった客には、もっと毅然としてもらわないと困るのよ」

「はい・・」

「どうせ言いがかりなんだから、怖気づいてはダメなの」

「はい・・すみません・・」

「この際、はっきり言わせてもらうけど、あなたやる気あるの?」

「え・・」

「言っとくけど、高校生であろうが、大学生であろうが、主婦であろうが、更に言えば初心者であろうがベテランであろうが、この制服を着た瞬間からお客さんにはそんなこと関係ないのよ」

「はい・・」

「だから甘えないで」

「そんな・・甘えてなんかいません・・」

「だったら、なんでさっきのような対応ななるわけ?」

「それは・・」

「あなた、仕事を何だと思ってるの?」

「・・・」

「お金を稼ぐってことは、甘くないのよ」

「はい・・」

「じゃ、補充の続きやって」

「わかりました・・」


クレーム対応か・・

私には無理・・

あんな変なおじさんに・・設楽さんのような対応は無理だよ・・

毅然とするっていったって・・どうすればいいか・・わかんないもん・・


「小春~」


そこに時雨さんが入ってきた。


「時雨さん・・」

「もうすぐ終わりだろ。迎えに来たぜ」


時雨さんは私のバイト終わりの時間に、こうして毎日のように迎えに来てくれていた。


「あと十分で終わります」

「うん。じゃ、外で待ってるからな」

「はい・・」


私は時雨さんの顔を見て、思わず泣きそうになった。

ダメダメ・・こんなことくらいで泣いてちゃダメ・・


そしてレジに女性客がきた。


「いらっしゃいませ」

「えっと、おでん、ちょうだい」

「はい。どれになさいますか」

「えっと~・・そうね、玉子と、大根と・・それと・・こんにゃくと、厚揚げね」

「はい」


私はおでん用のカップに、言われた具を入れた。

そしてお玉でスープをすくっていたら、こぼしてしまい、自分の手にかかった。


「熱っ・・」


私は思わず、お玉を離してそれが床に落ちた。


「あなた、大丈夫?」


女性客が私を心配してそう言ってくれた。


「はい・・すみません・・」

「早く水道で手を冷やしなさい」

「あ・・はい・・」


「薄柿さん、なにやってるのよ」


そこに設楽さんがきた。


「すみません・・こぼしちゃって・・」

「先にお玉を拾いなさいよ」

「あ・・はい・・」

「お客さま、申し訳ございません。すぐにスープをお入れしたしますので、少々お待ちください」


設楽さんはそう言って、別のお玉でスープを入れていた。


「お客さま、お待たせいたしました。玉子、大根、こんにゃく、厚揚げでよろしいですね」

「うん。ありがとう」


そして設楽さんはレジを済ませ、床にこぼれたスープを雑巾で拭いていた。


「設楽さん・・私がやりますので・・」

「あなたはもう帰る時間でしょ」

「でも・・」

「早く帰りなさい」


時計を見ると、バイトの時間を超えていた。


「小春・・まだか」


そこで再び時雨さんが店に入ってきた。


「あ・・うん、そうなんだけど・・」

「どうかしたのか」

「私・・おでんのスープをこぼしちゃって・・」

「あらら・・そうだったのか」


そこで時雨さんは、床を拭いている設楽さんを見た。


「こいつのせいで、済まねぇな」


時雨さんは設楽さんにそう言った。


「いいえ、仕事ですから」


設楽さんは時雨さんの顔も見ずにそう言った。

時雨さんは、少し怪訝な表情になった。


「小春、んじゃ、帰るぜ」

「あ・・はい・・」

「ったく・・甘やかすのも大概にしてほしいわね」


設楽さんが小声で呟いた。


「え・・」


その声は時雨さんにも聞こえた。


「なんだよ、それ」

「別に」


設楽さんは立ち上がってそう言った。


「甘やかすってどういうことだよ」

「彼女、一人暮らししてるのよね」

「それがどうした」

「あななたちがどういう関係であろうと、私にはどうでもいいけと、ちょっとあなた、この子を甘やかし過ぎじゃないかしら」

「はあ?」

「この子はあたなに甘えてるわ」

「なに言ってんだよ」

「毎日迎えに来て、あなたがそうすることで、この子はいつまで経っても自覚が足りないままよ」

「てめぇ・・わかった風なことを言ってんじゃねぇよ」

「私はこの子のためにならないわよって言ってるの」

「俺はな、こいつを預かってんだよ。親元を離れて一人暮らししてるこいつを、母親から頼まれてんだよ」

「そうなの。それならそれでいいんじゃない」

「ったく・・小春、帰るぞ」

「はい・・」


私は制服を脱ぎ、ロッカーにしまった。

なんか・・変なことになっちゃった・・

私のせいだわ・・どうしよう・・


「お先に失礼します・・」

「お疲れさま」


設楽さんは私を見ずにそう返事をした。


「ったく・・なんだよ、あいつ」


店の外に出て、時雨さんは怒っていた。


「私がもっとしっかりしてれば・・」

「嫌味な女だぜ」

「設楽さんはしっかりしてるから・・私のことは頼りないって思えるんじゃないかな・・」

「それにしてもだぜ・・」

「設楽さんは悪くないんです。私さえしっかりすれば済むことなんです」

「小春・・あんま気にすんな」

「はい・・」

「んで、仕事は慣れたのか」

「えぇ・・まあ・・」

「そっか」

「あの・・」

「なんだよ」

「その・・もう迎えは・・いいです・・」

「ダメだ」

「え・・」

「昼間ならともかく、夜はぜってー迎えに行く」

「でも・・」

「お前になんかあってみろ。俺はお前のかあちゃんに顔向けできねぇんだぞ」

「・・・」

「俺はぜってー、お前がアメリカへ行くまで、お前を守ると決めたんだ」


私は時雨さんの気持ちがとても嬉しかったが、私のわがままで始めた一人暮らしのせいで、時雨さんを縛ってるんじゃないかと思い始めていた。


「時雨さん・・」

「なんだよ」

「受験勉強・・やってますか・・」

「けっ。っんな心配してんのかよ」

「はい・・」

「やってるに決まってんだろ」

「そうですか・・」

「お前はなんも心配しなくていいんだよ。だからバイト頑張れよ」

「はい・・」


ほんとに勉強やってるのかな・・

大丈夫なのかな・・

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