三十四、初めての手料理
「明日は休みだけど、お前らどっか行くのか」
家に着いて、お兄さんがそう言った。
「小春の親が迎えに来るから、行かねぇよ」
「あ、もう明日来るのか」
「はい・・」
「そっか。それなら仕方がねぇな」
「兄貴はどうすんだよ。葵ちゃんと会うのか」
「いや、俺も小春ちゃんの親に挨拶するよ」
「そっか」
「え・・お兄さん・・どうぞ葵さんと会ってください。私のことはいいですから・・」
「そんなわけにはいかねぇ。大事な娘さんを預かってんだ。挨拶はきちんとしねぇとな」
「そうですか・・すみません・・」
「いいってことよ。んで、お前ら一緒に寝るのか?」
「はっ・・はあああ?兄貴、バカじゃねぇのか!」
「あはは、冗談だよ」
ひぃ~~~・・お兄さん・・冗談きついわ・・
「俺の目の黒いうちは、そんなことはさせねぇからな。健人、お前、小春ちゃんを襲うんじゃねぇぞ」
「バカ兄貴!てめぇと一緒にすんな!ったく・・なに言ってんだよ!」
時雨さんは、顔を真っ赤にして怒っていた。
でも・・なんか、嬉しいな・・
「小春、こんなバカ兄貴の言うことなんか、気にすんじゃねぇぞ」
「はい。大丈夫です」
私はそう言って笑った。
「んじゃ~、そろそろ寝るか」
そう言ってお兄さんは、押し入れから布団を取り出した。
「小春、お前はこっちの部屋な」
時雨さんは隣の部屋に、一組の布団を運んでくれた。
「はい、ありがとうございます」
「それにしても、小春ちゃんって、丁寧な言葉遣いだよな」
「いえ・・そんな・・」
「タメ口でいいんじゃねぇのか」
「でも・・私、年下ですし・・」
「っんなもん、彼氏に気を使うことなんてねぇぞ」
「はあ・・」
「健人、その方がいいだろ」
「それは、小春が決めることだよ」
「まあなあ」
タメ口なんて・・無理だわ・・
「んじゃ、小春、おやすみ」
そう言って時雨さんは、襖を閉めた。
はぁ~~・・なんか、もっと話したかったな・・
時雨さんの子供の頃のこととか・・
それこそ、誘拐された時のこととか・・
殺されそうになったって言ってたよね・・
よっぽど怖い目に遭ったんだわ・・
でも・・あまり詮索すると、ダメよね・・
また怒られちゃうな・・
さて・・寝ようっと・・
そして私は電気を消した。
翌日、私はとても早く目が覚めた。
何時かな・・
私は携帯で時間を確かめた。
げ・・まだ六時にもなってない・・
でも・・また寝ちゃうと、今度は寝坊するかも・・
寝坊なんて失礼よね。
あ・・そうだ・・
朝ごはん、どうするんだろう・・
勝手に台所に立つなんて・・いけないかな・・
っていうか・・私、ろくに作ったことなんてないし・・
なにを作ればいいかもわかんないしな・・
あっ!トーストとハムエッグくらいは作れるわ。
あと・・サラダと・・
でも・・材料があるのかな・・
そうだ!コンビニがあるよね。
よーーしっ。買い物に行こう。
そして私は服を着替え、静かに外に出た。
確か・・近くにあったよね。
見たことあるんだよね。
私はしばらく歩いてコンビニを見つけた。
よしよし・・
そして中へ入り、食パンとハムと卵と、野菜サラダを籠の中へ入れた。
えっと・・そうだ、ヨーグルトなんかもいいよね。
それとバナナも籠へ入れた。
私はそれらを買って家へ戻った。
ガラガラ・・
静かに入らないと起こしてしまうよね・・
そ~~っと・・
幸い二人は、まだ寝ていた。
私は台所のテーブルに袋を置いた。
えっと・・フライパン・・フライパン・・
あっ、あった。
よしっと。
油・・油・・あ、ここね。
そして私はハムエッグを作り始めた。
焦げないでね~~・・お願いしますよ~~・・
それと・・サラダをお皿に・・えっと・・どれがいいかな・・
勝手に選んじゃっていいよね・・
ジュ~~~
あっ・・焦げちゃう!
ひぃ~~~・・
「小春・・」
時雨さんが後ろで私を呼んだ。
「あ・・」
私が振り向こうとすると、時雨さんは後ろから私を抱きしめた。
え・・ヤダ・・なに・・これ・・
す・・すごく・・嬉しいんですけどぉぉ~~・・
「お前、朝メシ作ってくれてんのか」
「はい・・」
私は前を向いたまま、そう返事した。
「そっか・・ありがとな」
ヤダ~~・・耳元で時雨さんの声が・・
「あの・・上手くできませんが・・」
「そんなのいいんだよ・・」
「はい・・」
「お前、ほんとにかわいいな・・」
「え・・」
「好きだよ・・小春・・」
ううう・・うわあ・・
ど・・どうしよう・・めちゃくちゃ緊張してきた・・
でも・・失神しそうなくらい・・嬉しい・・
「あの・・焦げます・・」
「あと少しだけ・・こうさせてくれよ」
「え・・」
「三年も会えねぇんだぜ・・」
「はい・・」
「んっんんんっ・・」
後ろでお兄さんが咳払いをした。
するとすぐに時雨さんは私から離れた。
ぐはっ・・見られていたのね・・恥ずかしい・・
「っんだよっ。起きてたのかよっ」
「朝からお熱いこって」
「うるせぇ!それ以上言うとぶっ殺す」
「あははは。照れるお前もかわいいな」
「バカ兄貴!黙れ!」
この兄弟・・ほんとに仲がいいのね。
私は一人っ子だから、羨ましいな・・
やがて拙い朝食が出来上がった。
美味しいって言ってくれるかな・・
でも、たかがハムエッグだし・・大丈夫よね。
「小春ちゃん、ありがとな。気を使わせてしまったな」
「いいえ!不出来ですけど・・どうぞ召し上がってください」
「よーーし、食うぞ!いっただきま~~す」
私たちは手を合わせてそう言った。
「ん・・小春」
「はい・・」
「これ、塩、振ったか?」
「え・・」
ハムエッグって・・塩をかけないといけないんだ・・
ヤダ~~・・恥ずかしい!
「あのっ・・ごめんなさい・・忘れてました・・」
「いいじゃねぇか!ハムの塩加減でちょうどいいぞ。小春ちゃん」
「あ・・ありがとうございます・・」
「まあ~~・・俺に食わせる初めての料理としては・・六十点ってところだな」
「その上から目線のクセがすごいぃぃ~~!」
「あははは。言うと思った」
「小春ちゃん・・それってなに・・?」
「ああ・・えっと・・別に意味は・・ないです・・」
「なんだか知らねぇけど、小春ちゃんって不思議ちゃんだな」
「あはは・・そうですか・・」
ひぃ~~・・不思議ちゃんにされてしまった・・
もっと他のギャグを・・
えっと・・どやさ~は、もう使ったし・・
なにがあったかな・・
なんか「アメマ~」とか言ってたけど・・これこそわけわかんないし・・
そうだ・・挨拶ギャグ・・あったよね・・
「あの・・お手洗い借りてもいいですか」
「ああ、トイレ、そこのドアな」
時雨さんがドアを指して教えてくれた。
「ありがとうございます」
そして私はドアの前に立った。
よ~~し・・
小春、覚悟はいいね。
絶対に決めるのよ!
「ごめんください!どなたですか!薄柿小春と申します。お入りください、ありがとう」
私はそう言って二人を見た。
すると二人は、呆気にとられて私を見ていた。
「ぶっ・・あはは・・あははは!お前、なに言ってんだよ。あははは、おもしれぇ~~」
時雨さんは本気で笑っていた。
きゃ~~~笑ってくれたわ!やった~~!
「小春ちゃん・・なんか変な物でも食べたか・・」
「いいえ~~・・あはは。ではお借りします」
私はそう言ってトイレに入った。
お兄さんは・・明らかに引いてたよね・・
でも、いいや。
時雨さん、笑ってくれたもん。
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※文中に出てくるギャグ
「アメマ~」は、間寛平さんのギャグです。
「挨拶ギャグ」は、吉本新喜劇、桑原和男さんのギャグです。




