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三人王子と三匹の子ブタちゃん  作者: たらふく
33/94

三十三、優しいお兄さん



私は居た堪れない気持ちで、下を向いて座っていた。


「どういうことか、説明しろ」


時雨さんは、半端なく怒っていた。


「私・・行くつもりだったんです・・。ほんとに。でも急に・・逃げたい衝動に駆られて・・気がついたらバスに乗ってて・・」

「んで、親には連絡したのかよ」

「はい・・お母さんは、戻ってくるって言ってました・・」

「ったく・・マジでバカか」

「・・・」

「家には入れねぇのか」

「はい・・。もう鍵を親戚に渡してるんです・・」

「親が迎えに来たら、今度こそ行けよ」

「・・・」

「おい!返事をしろ!」

「は・・はい・・」

「今日のところは置いてやっから。いいな、今日だけだぞ」

「は・・はい・・」

「でもなぁ・・置いてやるっつっても、どこに寝んだよ。部屋、二つしかねぇんだぜ」

「僕、静ちゃんちへ行くよ」


東雲さんがそう言った。


「和樹、お前、それでいいのかよ」

「うん。もう何度も泊まらせてもらってるし」

「そっか・・わりぃな」

「東雲さん・・すみません・・」

「いいんだよ。薄柿さん、ゆっくり休んでね」

「ありがとうございます・・」


「ただいま~~」


あっ・・もしかして・・お兄さん・・?


「兄貴、おかえり」

「あっ・・この子は・・」


お兄さんは私を見て、驚いていた。


「どうも・・はじめまして・・薄柿小春と申します・・」

「おおお~~小春ちゃ~ん。来てくれたのか」

「え・・」

「ったく・・兄貴はなに言ってんだよ。こいつ、ほんとは今頃アメリカへ行ってたはずなんだぜ」

「あ・・そっか。え・・だったらなんでここにいんだよ」

「こいつ、超バカだから、逃げて来たんだとよ」

「あははは!そっかそっか。やるじゃ~~ん、小春ちゃん」


お兄さんは、お腹を抱えて笑っていた。


「なに無責任なこと言ってんだよ!笑ってる場合かよ!」

「いいじゃねぇか。あれだな、健人に会いたかったんだな」

「ばっ・・バカかっ!くだらねぇこと言ってんじゃねぇよ」

「小春ちゃん、俺、こいつの兄貴で真人(まさひと)。よろしくな。以前、街で会ったよな」

「はい・・よ・・よろしくお願いします・・」

「んでさ・・兄貴」

「なんだよ」

「こいつ、今日、泊めるけど、いいか」

「おう~かまわねぇぜ。遠慮すんなよ、小春ちゃん」

「小春ちゃん小春ちゃんって、馴れ馴れしいんだよ!」

「いいじゃねぇかよ。お前だって葵ちゃんって言ってんじゃねぇか」

「ふんっ、知るかよっ」

「お兄さん、僕、静ちゃんところへ行きますね」

「なんでだよ、和樹」

「薄柿さんに、部屋を一つ使わせないとダメでしょ。だから」

「ああ~・・そっか。済まねぇな、和樹」

「じゃ、僕は、これで」


そう言って東雲さんは出て行った。


「小春ちゃん、遠慮しなくていいからな」

「は・・はい・・」


お兄さんって、とても気さくで優しい人だな・・

んで・・やっぱり、すごくイケメン・・

世の中にはこんなイケメン兄弟いるんだ・・


「今から飯作るから、待ってろよ」


お兄さんはそう言って台所へ行った。


「ったく・・お前には参ったぜ」

「すみません・・」

「あんま無茶すんじゃねぇよ」

「はい・・」

「お前、誘拐されそうになったって、マジかよ」

「はい・・」

「だからな、こういうことなんだよ。女子が一人ってのは危ねぇんだよ」

「なんか・・ヤクザの人だったみたいです・・」

「げっ・・マジかよ」

「西雲とか言ってました」

「げぇ~~西雲のやつら、まだいんのかよ」

「時雨さん、ご存じなんですか」

「知ってるも何も、俺は西雲の跡目に殺されそうになったことがあるんだぜ」

「えええええ~~~!」


私が叫んだことで、お兄さんが驚いて振り向いた。


「でけぇ声出すんじゃねぇよ」

「すっ・・すみません・・。でも・・殺されそうになったって・・」

「俺も誘拐されたことがあんだよ」

「そ・・そうなんですか・・」

「でもその跡目も・・今じゃあの世だけどな」

「そうなんですか・・」

「西雲の跡目って成弥(なるや)ってんだけど、実はそいつが東雲の跡目だったんだぜ」

「え・・どういうことですか・・」

「東雲の爺さんの実の孫が、成弥なんだよ。まあ、この話はややこしくてな」

「そうなんですね・・」

「でも通りかかったのが和樹でよかったぜ」

「はい・・」

「あいつ、相手になんて言ったんだ?」

「なんか・・私を放さないと、なんちゃらの親分に言って消すぞ・・とか」

「あはは。それって景須って言ってなかったか?」

「あああ!それそれ、景須の親分って言ってました」

「そりゃ、相手もビビるわな」

「そうなんですか・・。そんなに怖い人なんですか」

「まあな。でも景須のおっさんはいい人だぜ」

「そう・・ですか・・」


なんか・・すごい話・・

東雲さんはヤクザに拾われたのだから・・こんな話も当然なのかも・・


「あの・・私、お手伝いします・・」

「あ?飯のことか?」

「はい」

「いいんだよ。台所も狭いから、(かえ)って邪魔になんだよ」

「そうなんですね・・」

「それにしても・・小春」

「はい・・?」

「お前、結構、大胆なんだな」

「え・・」

「俺に会いたかったのか?」

「はい・・」

「そっか・・」


時雨さん・・あんなに怒ってたのに、なんだか嬉しそう・・


「でも二度と、こんな真似すんじゃねぇぞ」

「はい・・」

「今度やったら、お前とは別れるからな」

「え・・そんなの嫌です・・」

「だったら、もうすんなよ」

「はい・・」


「おーい、できたぞ~~」


お兄さんが台所で叫んでいた。


「あっ、はい」


私は急いで立ち上がり、台所へ行った。


「小春ちゃん、これ運んでくれな」

「はいっ!」


私は野菜炒めのお皿を、ちゃぶ台に運んだ。

そして時雨さんも、お茶碗にご飯を入れていた。

やがてちゃぶ台に夕食が並んだ。


「こんなもんしかねぇけど、遠慮しないで食ってくれな、小春ちゃん」

「はいっ。いただきます!」


わあ~~・・お兄さんの手作りだわ~~・・

どれどれ・・あっ!美味しい!

お味噌汁も・・あああ~~とても美味しいわ~~


「お兄さん、とっても美味しいです!お料理、上手なんですね」

「そっか。ありがとな」

「兄貴はずっと作ってくれてるからな」

「そうなんですね」

「俺もたまには作るんだぜ」

「そうですか~。ハンバーグですか?」

「いや・・カレーとか」

「わあ~~カレーですか~。時雨さんの手料理、食べてみたいな~」

「三年後に作ってやんよ」

「はっ・・はいっ!」


やがて食事も終わり、私たちは銭湯へ行くことになった。

銭湯か・・

行ったことがないけど・・なんだか楽しみかも・・

あっ・・私・・着替えがないんだった・・

どうしよう・・


「あの・・私・・着替えがないんですけど・・」

「あっ、そうか。下着もか?」

「し・・下着って・・まあ・・そうです・・」

「確か・・中で売ってなかったか?」


お兄さんがそう言った。


「そうか。んじゃ、下着は買えよ」

「はい・・」

「んじゃさ・・俺のジャージ着ろよ」

「え・・」

「ブカブカになると思うけど、ないよりマシだろ」


そう言って時雨さんは、タンスの引き出しからジャージを出して私に渡してくれた。

で・・でかい・・


「この大きさのクセがすごい~~!」

「あははは、またそれかよ」


時雨さんは笑ってくれたが、お兄さんは不思議そうな顔をしていた。

そりゃ・・そうよね・・

でも・・引かないで・・お兄さん・・


そして私たちは銭湯へ行った。

わあ~~・・大きな浴槽が三つもあるのね~~。

すごいな~~・・

えっと・・そうそう、下着を買わなくちゃ。

私は係りの人のところへ行き、下着のことを訊ねた。

すると・・男性用のしか売ってなかった。


げ~~~・・しかも・・ボクサーパンツ!

でも・・これしかないのよね・・

しかたがないか・・

そして私はボクサーパンツを買った。


大きな浴槽に浸かると、身体全体が温まって、すごく気持ちがよかった。

私は改めて、今日のことを思い返していた。

お母さんが迎えに来たら・・やっぱり行かなくちゃいけないよね・・

また逃げたりしたら・・今度こそ時雨さんにぶっ殺されるわ・・

いや・・別れるって言ってたよね・・

それは嫌だな・・


私はお風呂から上がり、ボクサーパンツを穿いて、ジャージを着た。

で・・でかい・・

私は外に出て、二人を待った。


ほどなくして出てきた二人は、私の姿を見て笑っていた。


「あはは、お前・・マジでブカブカだな」

「だって~仕方がないです~」

「あはは、かわいいよ、小春ちゃん」


お・・お兄さん・・かわいいだなんて・・

ぐはっ・・照れる・・


「お兄さんったら~~、どやさぁぁぁ~~~!」

「え・・なに・・?」

「あははは、兄貴のその顔、おもしれぇ~」

「もう~~どやさ~~どやさぁぁ~~」

「ちょ・・小春ちゃん・・大丈夫・・?」

「どやさって、嬉しいって意味なんだってさ」

「へぇー」


あ・・時雨さん・・違うんですけど・・

私・・間違って教えちゃったからな・・

ま・・いっか・・

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