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三人王子と三匹の子ブタちゃん  作者: たらふく
32/94

三十二、超絶のバカ



そしてとうとう出発当日を迎え、私は両親と成田空港にいた。

私は携帯の画面を見ていた。

時雨さん・・いい顔してるよね・・

ちょっとぎこちないけど、優しい顔してる・・


「小春、電話でもするの?」


母がそう訊ねてきた。


「ううん。なんでもない」

「だって、ずっと携帯見てたじゃない」

「えっとね・・お母さんだけに言うけど・・この人、私の彼氏なの」


私はそう言って、母に画面を見せた。


「えっっ!あんた、彼氏いたの!?っていうか・・めちゃくちゃイケメンじゃない!」

「でしょ~」

「ちょ・・あんた・・今頃になって・・」

「だって、言えないでしょ。そんなこと」

「いつ・・?いつから付き合ってたの?」

「まあ・・最近よ」

「そっか!あんた頑なに行きたくないって言ってたのは・・彼がいたからなんだね」

「うん、それもあるし、美琴や紬とも離れたくなかったのよ」

「そうだったんだ・・。紹介してくれたらよかったのに」

「まあ、いいじゃない」

「で・・彼は、見送りに来るの?」

「ううん。来ないでって言ったの」

「なんでよ」

「だって、行きたくなくなるもん」

「そっか・・」


母は、まじまじと携帯の画面を何度も見ていた。


「それにしても・・イケメンよねぇ・・」

「顔のことはいいの。時雨さんはいい人よ」

「時雨さんっていうのね。へぇ~」

「時雨さんね、私が行きたくないって駄々をこねてたら、親を心配させんなって、ずっと言ってくれてね」

「そうなんだ・・」

「私が残ることに、最後まで反対したのよ」

「・・・」

「ずっとお父さんやお母さんのこと、考えてくれてたんだよ」

「そうなの・・。なんていい子なの・・」

「うん。そうなのよ。とてもいい人」

「時雨さんっていくつなの?」

「十八よ。E校生なんだ」

「ええ~~~!E校生!すごいね~。秀才なんだね」

「でも、そんなこと全然自慢なんてしないの。むしろE校生らしくない感じかな」

「へぇ~、そうなのね」

「時雨さん、ずっと待ってるって言ってくれてるから、帰ったら紹介するね」

「小春・・」

「なに?」

「なんか・・悪かったね・・。あんた辛いんじゃないの・・?」

「いいのよ。もう」

「そっか・・ごめんね」


私は時雨さんが「行くなよ」と、本心を言ってくれたことで、この三年間を耐えられると思っていた。


「小春~~!」


ほどなくして、美琴と紬が来てくれた。


「美琴~~、紬~~」

「いよいよやなぁ~」

「あ・・おばさん、こんにちはでありんす」

「美琴ちゃん、紬ちゃん、今まで小春をありがとうね」

「そんなあ~おばさん。今までって、これからもですがな~」

「そうでありんす~」

「小春は、あなたたちのおかげで、学校が楽しかったのよ」

「んな~~んな~~、なんもなんも。こちらこそです~」

「小春、ゆっくり話しなさい。お母さんは、お父さんが行ってるカフェでお茶してくるから」

「うん、わかった」


そして母は、歩いて行った。


「小春、元気にしてなあかんで」

「うん、わかってる」

「かける言葉が、見つからないでありんすが、早く帰ってきてほしいでありんす・・」

「うん、ありがとう」

「時雨王子に電話せんでもええんか?」

「うん、いいの。きっと泣いちゃうし・・」

「そっか・・泣いたら時雨王子、心配するもんな」

「うん・・」

「向こうでなにか辛いことがありんしたら・・すぐに私たちに言うでありんすよ」

「うん、そうするね」

「あ、そうや。英語で捲し立てられたら、「クセがすごい!」を使うんやで」

「あはは。通じるかな」

「そらもう、身体全体で表現するんや。Habit is amazing!」

「それ・・正解なの?」

「知らん」

「あははは」


「そろそろ行くわよ、小春」


そこに父と母が戻ってきた。


「うん。じゃ、美琴、紬、私、行くね」

「うん、元気でな・・小春・・」

「小春・・淋しいでありんす・・」


二人とも泣き出した。


「ヤダ~、泣かないでよ~。泣くそのクセがすごい!」

「あははは・・小春は・・ほんまに・・」

「ほんと・・どやさ~~でありんす」

「私ら、展望台へ行ってるわな」

「うん、わかった」

「ほなな、小春」

「展望台で手を振るでありんすから、見るでありんすよ」

「うん」


そして二人は展望台へと歩いて行った。

とうとう・・私は行くのね・・

そうだ・・やっぱり最後に・・時雨さんに電話を・・

声が聴きたい・・


「お母さん、私、ちょっとだけ電話してくる」

「え・・もうあまり時間がないわよ」

「わかってる。すぐに行くから」

「そっか。早く来なさいよ」

「うん」


そして私は、ロビーの隅で電話を手にした。

でも・・でも・・何を話せばいいんだろう・・

泣いて・・何も話せなくなるんじゃないかな・・

時雨さん・・今、なにしてるのかな・・

会いたい・・会いたいよ・・


私・・やっぱり行きたくない・・

ずっと時雨さんの傍でいたいよ・・


私は急に、そんな思いが込み上げてきた。

どうしよう・・行きたくない・・

でも・・もう時間がない・・

どうしよう・・どうしよう・・


私は無意識に空港から飛び出していた。

お母さん・・ごめんなさい・・

私・・やっぱり行かない・・


そして私は空港バスに乗った。

もう・・戻れないよね・・

お母さんに・・電話しないと・・


「もしもし・・」

「あっ!小春?あんたなにやってんの?早く来なさい!」

「お母さん・・ごめん・・私、やっぱり行かない・・」

「は・・はあああ?ちょ・・小春・・落ち着いて・・」

「今ね・・バスに乗ってるの・・」

「えええええ~~~!もう間に合わないじゃないの!」

「うん・・ごめん・・」

「ちょ・・えっと・・小春!あんたどうするつもりなの!」

「家に帰る・・」

「バカっ!鍵は俊ちゃんに渡してるのよ!」

「そうなんだ・・」

「ったく・・ああ・・もう機内モードにしなくちゃいけないわ。とにかく!えっと・・どうしようかな・・そうだ、とりあえず美琴ちゃんか紬ちゃんのお家にいさせてもらいなさい」

「うん・・」

「ほっんとバカなんだから!向こうに着いたら、お母さん引き返すからね」

「わかった・・」

「じゃ、切るね」


そう言って電話は切れた。


私って・・なにやってるのかな・・

これってすごく親不孝よね・・

時雨さんに知れたら・・ぶっ殺されるわ・・


美琴と紬は・・今頃、展望台で私を見送ってくれてるのよね・・

ごめん・・美琴・・紬・・


バスはやがて都内に着き、私は歩くともなく歩いていた。

どうしよう・・どこへ行けばいいのかな・・

美琴と紬に連絡する・・?

でもなぁ・・あんなに心配して・・淋しがってくれたのに・・今更連絡なんて・・


時雨さんのお家へ行く・・?

間違いなく、100%・・死ぬほど怒られるよね・・

しかし、それでも私の足は、時雨さんの家へ向かっていた。


駅前に到着し、私は行くか行かないか迷っていた。

そして私は、とりあえずカフェに入り、この後のことを考えてみることにした。

それにしても、鍵くらい置いてってよね・・お母さん。

俊ちゃんって、いつ引っ越してくるんだろう。


でもなぁ・・引っ越してきても、新婚だからなぁ・・

邪魔するわけにはいかないし・・

どこかに泊まるっていっても・・お金もあまりないしなぁ・・

そっか・・漫画喫茶はどうかな。

でもなぁ・・昼間はいいけど・・夜となると・・危ないよね・・


そうこうしてるうちに、日が暮れる時間となった。

あああ~~・・もうすぐ夜になるわ・・

このまま、ここで粘るわけにもいかないし・・


私はカフェを出て、しばらく歩いた。


「よう~、ねぇちゃん」


私はそこで、不審な中年男性に声をかけられた。


「なっ・・なんですか・・」

「どっか行くの?」

「あ・・あなたに・・関係ないでしょ・・」

「家出かな~」

「ち・・違います!今から帰るところなんです」

「ちと・・顔はいまいちだけど・・俺んところで働かねぇか?」

「なによ~~!顔はいまいちって失礼ね!」

「おおっ・・なかなか、威勢がいいな」

「ふんっ」

「でも・・細身で小柄ってのがいいな・・」

「なっ・・なによ・・」

「いい仕事なんだよ。損はしねぇぜ」

「しつこいわね!警察、呼びますよ!」

「ふふっ・・呼べるもんなら呼んでみやがれ」

「え・・」


するとその男は、いきなり私を後ろから羽交い絞めにして、口を塞いだ。

うっ・・動けない・・

だっ・・誰か・・助けて・・


男は私を強引に、車へ乗せようとした。

ダメだ・・これに乗せられると・・もう逃げられない・・

どうしよう・・私・・殺されるかも知れない・・


「おい」


そこで誰かが男に声をかけた。


「お前、なにしてるんだ」


あ・・東雲さん!


「あ・・あんたは・・東雲の・・」

「そうだが。この女性をどこへ連れて行くつもりだ」


東雲さんは、まだ私を小春とわかっていないようだった。


「ふっ・・もう東雲組は解散したんだ。いくらあんたでも力はねぇはずだよな」

「お前、どこの組の者だ」

「組・・?そんなもんねぇさ」

「そうか・・西雲(せいうん)の生き残りか」

「だったら悪いのか」

「ったく・・いつまでこんな非人道的なことやってるんだ。これは犯罪だぞ」

「あんたには関係ねぇさ」

「この女性を放さないと、景須(けいす)の親分に消してもらうぞ」

「け・・景須の親分って・・それは勘弁してくれ」

「だったら放せ」

「わ・・わかった・・」


そして男は私を解放し、去って行った。


「あっ!き・・きみっ!」


東雲さんは私を見て、仰天していた。


「ど・・どうも・・」

「いや・・どうもじゃなくて・・きみ、アメリカへ行ったんじゃなかったの?」

「そうなんですが・・。逃げて来ちゃったんです・・」

「え・・うそ・・」

「はい・・」

「で・・こんなところで何してるの?」

「その・・家へは帰れなくて・・行くところを探してたと言うか・・」

「家へ帰れないってどういうこと?」

「親戚が住むことになってて・・それで・・」

「そうなんだ・・」

「私・・どうしたらいいですかね・・」

「どうしたらって・・。そうだなぁ・・健人くんの家へ行く?」

「え・・そんなことしたら・・私、時雨さんにぶっ殺されます・・」

「あはは。まさか。でも、ここにいてもしょうがないし、とりあえず行こうよ」

「あのっ・・でも・・誘拐されそうになったこと・・時雨さんには黙っててください・・」

「うん、わかった」


そして私たちは家に向かって歩き出した。


「それにしても、僕が通りかからなかったら、きみ、確実に連れて行かれてたね」

「はい・・助けてくださって、ありがとうございました」

「それはいいんだけど、高校生の女の子が一人でフラフラ歩いてるのって、危険だよ」

「でも・・東雲さん・・すごかったですね・・」

「え・・?なにが?」

「その・・なんちゃら親分に言って、消すぞ、とか・・」

「あはは。僕、これでもヤクザの家で育ったからね」

「そ・・そうなんですね・・」


私はそのことを時雨さんから聞いて知っていたが、初めて聞くふりをした。


「健人くんさ、きみのこと、とても好きだよ」

「え・・」

「まあ、口は悪いけど、きみのこと、とても想ってることは確かだよ」

「そうなんですね・・」


それからほどなくして、時雨さんの家に着いた。

こ・・怖い・・

絶対に怒られるわ・・


「ただいま~」


東雲さんはそう言って、玄関の扉を開けた。


「おかえりー」


中から時雨さんの元気な声がした。


「健人くん、お客さん連れてきたよ」

「え・・誰だよ、客って」

「さ・・きみ、入って」

「あ・・はい・・」


私は東雲さんにそう言われ、玄関に足を踏み入れた。


「あっっ!お前っ!」


時雨さんは、目を丸くして驚いていた。


「小春・・てめぇ!なんでここにいんだよ!」

「まあまあ・・健人くん、落ち着いて」

「てめぇ・・まさか・・」

「ごめんなさい・・私・・逃げて来ちゃったんです・・」

「逃げて来ただと!おまえ・・バカかっっ!」

「私・・やっぱり行きたくなかったんです・・」

「はあああ?なに言ってんだ!」

「健人くん、まあまあ・・そんなに言わなくても」

「うるせぇ!」

「彼女、行くところがないらしいよ。このまま追い返すつもり?」

「知るかよっ!ったく・・逃げて来たって・・超絶のバカだぜ!」

「あのね、健人くん」

「っんだよっ」

「彼女、さっき誘拐されそうになったんだよ」

「なにいいいいいい~~~~~!」


げ~~~~東雲さん・・言わないでって言ったのに・・


「それでたまたま僕が通りかかって大事に至らずに済んだけど、ここで彼女を追い返したら、また同じ目に遭うよ。それでもいいの?」

「誰もそんなこと言ってねぇよ!」

「だったら、いいね?彼女、上がってもらうよ」

「勝手にしろ!」


そして私は、部屋へ上がらせてもらった。

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