二十三、王子からの誘い
それから三日後・・
私が家の自室にいると、時雨王子から電話がかかってきた。
「この間は悪かったな」
「あの・・風邪はどうですか」
「もう治ったぜ。んで、学校も行ってるし」
「そっ・・そうですか!よかったです!」
「んじゃ、そういうことで」
「ああ・・あのっ・・!」
「なんだよ」
「あの・・あの日、帰る時、私に言ったことって・・どういう意味なんでしょうか・・」
「別に、意味なんてねぇよ」
「え・・」
「つか・・てめぇで考えろよ」
「そ・・そうですか・・」
「んじゃあな」
そして電話は切れた。
てめぇで考えろって・・やっぱり何か意味があるんだ・・
私はあの後、色々と考えた。
紬と美琴にも相談したけど、いまいちピンときてなかったし・・
でも・・もし・・もしよ・・?
私の勘違いでなければ・・
私に風邪を移したくないってことは・・
私を守ってくれたってこと・・?
私のことなんてどうでもいいなら、ペットボトルを受け取って「サンキュな~」って対応もあったわけだし・・
なんなら・・「お茶でも飲んでけよ」とか・・あり得る話だよね・・
でも、そんなことは一切なく、私、追い返されたのよね・・
これは・・迷惑だったんじゃなくて・・風邪を移したくないってことだったんだよね・・
でもな・・別に特別な気持ちがない相手でも、誰にだって風邪なんて移したくないよね。
ってことは・・私もその中の一人ってことになるか・・
そうね・・きっとそうよ。
単に・・そういうことだったのよね・・
ダメダメ・・小春。
変な期待なんて抱いちゃダメ・・
私はあくまでも、その他大勢の一人なのよ。
でも・・時雨王子・・
ご両親がいないから、病気になった時とか大変だろうなぁ・・
辛くても苦しくても・・一人で耐えなきゃいけないんだよね・・
ほんとだったら、お母さんが世話してくれるのに・・
食事の心配なんてしなくていいのにね・・
それにしても、時雨王子の家庭って複雑なんだなぁ・・
私たちは気軽に「王子」って言ってるけど、いわゆる王子の「それ」とは程遠い環境にあるんだなぁ・・
やっぱり二次元とは違うよね。
現実は・・そんなに甘くないんだ・・
「王子」って呼び方も・・やめよう・・
それからまた数日後・・
ルルル・・
あっ!電話だ。
きゃ~~~!時雨さんだわっ!
なにかしら~~~!
「はい・・もしもし」
「おう。俺」
「はい・・」
「お前、放課後、用事とかあんの?」
「え・・いえ・・ないですけど・・」
「そっか。じゃ、駅前で待ってろ」
「え・・」
「え、じゃねぇよ。聞こえてんのか?」
「あっ・・はいっ!聞こえてますっ!」
「んじゃ、そういうことで」
「はいっ!」
そして電話は切れた。
駅前で待ってろって・・なんだろう・・
ちょっと・・内容くらい教えてくれてもいいのに・・
でもそんなことはいいや!
やったあ~~~!時雨さんに会える!
「小春ぅぅ~。なんや、えらい嬉しそうやな」
「どうしたでありんすか」
私が廊下で電話を握りしめていると、美琴と紬が声をかけてきた。
「あのね・・時雨さんから電話があって・・放課後、会うことになったの!」
「おおお~~~!時雨王子からデートのお誘いかいなっ!」
「よかったでありんすな~」
「もう、自分ら付き合ってんちゃうん」
「まっ・・まさかっ!」
「いや、これって普通は付き合ってるって言うで」
「でも、愛の告白はまだでありんしょ?」
「愛の告白て・・なんか紬って古風やよなぁ。こないだは生姜湯とか言うてたし」
「いや・・待って。告白とかって・・全然違うんだけど・・」
「なんやの?」
「いや・・まだそんな段階じゃないっていうか・・。会ったのだって一回だけだし・・」
「若い二人に時間とか・・段階など・・無意味でありんすよ・・」
「また紬は・・若い二人って・・」
「一旦火がつくと・・一気に燃え上がるでありんす・・」
「だから・・そんなんじゃないんだって・・」
また二人の勝手な妄想劇が・・
ほんとに付き合ってるなら・・あんなに事務的な内容じゃないわよ・・
まるで連絡事項を伝えるみたいだったもん・・
「それにしても、楽しみやな」
「そうでありんすな~」
「え・・なに・・?」
「駅前か・・」
「ちょ・・なに言ってんのよ・・。まさか・・着いてくるとか言わないよね」
「着いて行く?まさか。そんな野暮なことせぇへんっちゅうねん、なあ?紬」
「そうでありんす。我々は常に陰から応援を・・でありんす」
なにが陰からよ~~!
遊園地の時なんて、堂々と目の前に現れたじゃない~~!
「私・・一人で行くからね」
「はいはい、どうぞ、そうしておくんなはれ」
「おくんなはれって・・なによ」
「細かいことはええがな」
「小春、頑張るでありんすよ」
「ったく・・」
そして私は放課後、駅前に向かった。
あ~~・・あの日と同じだわ~。
日曜の朝・・ドキドキしながら待ってたのよね~~。
でも今日は・・あの日と違う。
今日は、時雨さんが誘ってくれたんだもん。
堂々と待ってたらいいのよね。
そして私は時雨さんが住む町の駅前に着き、周りの様子を見ながら待っていた。
するとほどなくして、時雨さんが改札口から出てきた。
ぎゃあ~~~~!来た~~~!
やっぱり・・なんか緊張するな・・
「よう」
時雨さんは私を見つけてそう言った。
「こ・・こんにちは・・」
「さてと。行くか」
「え・・どこへ行くんですか・・」
「俺んちだよ」
「ええええ~~~!」
俺んちって・・時雨さんの家へ、私がっっ!?
「なんだよ」
「え・・だって・・」
「お前、俺が風邪ひいたとき、来たじゃねぇか」
「あ・・それは・・そうですけど・・」
「嫌ならいいけど」
「いえっ!嫌じゃありません」
「んじゃ、着いてきな」
そう言って時雨さんは、私の前を歩きだした。
「あの・・」
「なんだよ」
時雨さんは振り向いてそう言った。
「東雲さんは・・」
「ああ、和樹か。由名見と会うんだってさ」
「そ・・そうなんですね・・。翔さんは・・」
「あいつは塾」
「そ・・そうですか・・」
家で二人・・?
ヤダ・・ますます緊張してきた・・
でも・・なんで私を家へ連れて行くのかな・・
こんなことなら・・なにか買ってくればよかったな・・
やがて家の前に到着し、時雨さんは鍵を開けて入った。
「なにやってんだよ、入れよ」
私が玄関で立っていると、そう言われた。
「あ・・はい・・。お邪魔します・・」
「汚ねぇところだけどよ、まあ、座れよ」
「はい・・」
私は靴を脱ぎ、玄関を上がったところの部屋に座った。
「俺んち貧乏だからさ、なんもねぇぞ」
「あ・・いえ・・そんな・・」
「ジュースしかないけど、いいよな」
「はいっ!」
そして時雨さんは、冷蔵庫からジュースを取り出しコップに注いでいた。
「はい、どうぞ」
時雨さんは私の前に、コップを差し出してくれた。
「ありがとうございます・・」
「飲めよ」
「え・・はい・・」
私は一口だけ口に含んだ。
ダメだ・・緊張して・・飲めない・・
「ぶはっ・・ゲホッ・・」
私はジュースを吐き出してしまった。
ひぃ~~~・・かっこ悪いぃぃ~~~・・
私は急いで鞄からハンカチを出し、口を拭った。
「はっ、なにやってんだよ」
「す・・すみません・・緊張して・・」
「ったく・・いつまで緊張してんだよ」
「はい・・」
「こないだは、悪かったな」
「え・・」
「せっかく来てくれたのによ」
「あ・・いえ・・そんな・・」
「あの後さ、兄貴にも翔にも和樹にも、怒られたぜ。人でなしって。あはは」
「え・・」
「いや、俺もわりぃとは思ったんだよ。だから今日は、そのお詫びな」
「そ・・そうなんですね・・ありがとうございます・・」
そっか・・あの日のこと、気にしてくれてたんだわ・・
嬉しいな・・
「でさ、なんかご馳走でもと思ったけど、俺、金ねーしさ」
「・・・」
「んで、外だとゆっくり話せねぇだろ。だから家がいいかなと思ってさ」
「ありがとう・・。私、とても嬉しいです」
「そっか。そりゃよかった」
そう言って時雨さんは、ニコッと微笑んだ。
うわあ~~~・・失神しそうになる・・
なんて素敵な・・なんて優しい笑顔なのかしら・・
この後、なにを話せばいいのかな・・
時雨さんを退屈させたくないし・・
つまらないって思われたくないし・・
「俺さ・・」
「はい・・?」
「女とデートしたの、お前が初めてなんだぜ」
「ええええ~~~!ほっ・・ほんとですか!」
「っんだよ。そんなに驚くことねぇだろ」
「いや・・だって・・その・・時雨さん、モテるでしょう・・?」
「別に」
「え・・別にって・・」
「俺、未だに彼女とかできたことねぇんだぜ」
「えええええ~~~!うっ・・嘘でしょ!」
「嘘じゃねぇよ」
「信じられない・・どうして・・」
「俺さ、今でこそE高校なんて行ってるけど、昔はバカで不良だったんだよ」
「そ・・そうなんですか・・」
「でさ、ダチなんて翔だけで、みんなは俺のこと避けてたんだよ」
「そう・・ですか・・」
そっか・・時雨さん不良だったんだ・・
でも・・意外な感じはしないな・・
言葉遣いや話し方が・・あれだし・・
それから時雨さんは、自分のことを少しずつ話し始めた。




