二十二、風邪
「小春~~~!」
次の日、美琴と紬が早速、声をかけてきた。
「小春~~、昨日、手を繋いでたやんかいさ~~!」
「そうそう。驚いたでありんすよ~!」
「そうなのよ~!んでね、携帯の番号も交換しあったの!」
「ひゃあ~~マジかーー!」
「ああ~~・・とうとう・・この日がきたでありんすな・・」
「紬・・この日ってなによ」
「我々が、日々妄想し続けたことが・・現実に・・。感無量でありんす・・」
「そんなあ~。まだ付き合うとか、そういうんじゃないのよ」
「いいえっ!手を繋ぐ・・そして!携帯の番号まで交換しあうとは・・これぞ一足飛びラブっ!でありんす」
「なに~~、それ」
「でもよかったな、小春」
「うん!私、すごく嬉しかった!で、時雨王子・・やっぱり優しい人だったわ・・」
「そっかー。それはなによりやん」
「でね、遊園地のチケット、翔王子が用意してくれたのよ」
「あらまあ~、翔王子、粋な計らいをしたでありんすな~」
「私・・諦めなくてよかった・・ほんとに・・よかった・・」
私はそこまで言うと、涙が溢れてきた。
「泣きなや・・私まで泣けてくるやんかいさ」
「小春・・気持ちは痛いほどわかるでありんす・・」
「二人とも・・ありがとうね・・」
「んで、小春。電車の時間はどうするん?」
「あ・・そっか・・」
「また同じのに乗りたいでありんしょ・・」
「どうしようかな・・」
私の気持ちとしては、毎朝、時雨王子に会いたいけど・・
それより、時雨王子から電話がかかって来ることを待ちたかった。
それと・・これは二人には言えないけど、また三人で一緒に乗ったら・・「事件」が起こりそうな気がして、私はそれが不安だった。
「通学は・・今まで通りでいいよ」
「え・・そうなん?」
「会いたいでありんしょ・・」
「いいの。なんていうか・・連絡があるまで待ちたいの・・」
「おお~~。なんや小春、色々と考えてるやん」
「ここは・・浮足立たずに、でありんすか」
「うん。そんな感じかな。あはは」
「よっしゃ、わかった!」
「私たち、全力で応援するでありんすよ」
「ありがとう・・」
それから私は毎日、時雨王子からの連絡を待った。
一日が過ぎ・・二日が過ぎ・・
そしてとうとう、一週間が過ぎた。
どうしたのかな・・
こういうのって・・すぐにかかってこないものなのかな・・
ひょっとして・・私のことなんて、もう忘れちゃったのかな・・
「ねぇ・・紬・・」
「なんでありんすか」
「時雨王子・・どうしたのかな・・」
「うーん・・そうでありんすなぁ・・」
美琴と紬は毎日、時雨王子から連絡があったのかと訊いてきたので、連絡がないことを知っていた。
そのため、紬は返事に困っていた。
「ただの・・気まぐれだったのかな・・」
「いや。それは違うでありんすよ」
「どうして・・?」
「時雨王子は一時の気まぐれで、女子を惑わせるようなことしないでありんすよ」
「そ・・そかな・・」
「からかうつもりだったら、これまでも、いくらでもからかえたでありんしょ」
「うん・・まあ・・ね・・」
「なんやの~~!暗い顔してからに!」
そこに、トイレへ行っていた美琴が戻ってきた。
「時雨王子のこと・・」
「それかいな~。っんなもん、小春から電話したら済む話やがな」
「えっっ!わ・・私から・・?」
「だって小春、私も連絡しますって言うたんやろ」
「そ・・そうなんだけどぉ・・」
「ほな、したらええがな」
「でも・・冷たくされたりしたら・・」
「っんなこと、ないって」
「小春。美琴の言う通りでありんすよ。こっちからかけるべきでありんす」
「えええ~~・・」
私から、電話を・・
もし・・冷たくされたりしたら・・
そこで私の夢は終わっちゃう・・
「ほら~~、迷てんと、かけぇな」
「え・・」
「傍で聞いててあげるでありんすから、大丈夫でありんすよ」
「でも・・」
「でももへったくれもあらへんっ!迷うなら行動すべし!」
「んじゃ・・放課後になったらかけてみる・・」
そして放課後になり、私は電話を手に取った。
ううう~~・・どうしよう・・
なんて言えばいいのかな・・
まずは・・この間のお礼よね。
そうよ!お礼の電話をすればいいんだわ!
「じゃ・・かけるね・・」
私の傍で美琴と紬は、心配そうに見ていた。
ルルル・・
出てくれるかな・・
もう、授業も終わってるはずだし・・
ルルル・・
「は・・い・・」
あっ!出たっ!時雨王子の声だ~~~!
ん・・?でも・・なんか様子が変よ・・
「あのっ!もしもしっ!わ・・私・・小春です」
「あ・・そうか・・」
「あのっ!この間は、ありがとうございました!」
「ああ~・・」
「あの・・どうかされたんですか・・」
「うん・・?ああ・・ちょっと寝てて・・」
「そ・・そうなんですか・・すみません」
え・・寝てたって・・学校は・・?
「あの・・学校は・・」
「ああ・・ちょっと風邪ひいてよ。んで、今は家で寝てる・・」
「ええええ~~~!だっ・・大丈夫なんですか!」
「ったく・・でけえ声出すなよ。頭に響く」
「あっ・・すみません・・」
「んじゃ、そういうことだから」
「いやっ・・あのっ・・」
「なんだよ」
「えっと・・熱とかは・・あるんですか」
「ああ・・ちょっとだけな」
「病院へは行ったのですか」
「行ってねぇし。つか・・もう切るぞ」
「いや・・あの・・」
プチッ・・
げ~~~切られた・・
時雨王子・・とてもしんどそうだった・・
そっか・・風邪ひいてたから連絡がなかったのね・・
「どうやった?」
「時雨王子・・風邪でもひいたでありんすか」
「うん・・。で、寝てたみたい」
「あら~、そうでありんしたか」
「でも・・しんどそうだった・・」
「小春・・」
「なに・・?美琴」
「行き」
「え・・?」
「行くんやがな」
「行くって・・どこへ・・?」
「時雨王子の家に決まってるやろ」
「ええええ~~~!なっ・・なんで私がっっ!」
「絶好のチャンスやがなっ!」
「げ~~~!」
その後も私は美琴と紬に押され、結局、時雨王子の家へ行くことになった。
「ええな、家は知ってるやろ」
「う・・うん・・」
「大丈夫ですか~~、言うたらええねん」
「でも・・引かれないかな・・いきなり押しかけて・・」
「あれこれ考えるのは後や」
「なんか買って行った方がいい・・?」
「そうやな~、ヨーグルトとかプリンとか、ええんちゃう?」
「いや・・風邪には生姜湯でありんしょ」
「うわっ・・オバハン臭いなあ」
「なにを言うでありんすか。効果てき面でありんすよ」
「それか、シンプルに市販の風邪薬とかええんちゃう」
二人はあれこれ案を出してくれたが、私は清涼飲料水を買おうと思っていた。
「じゃ・・行って来るね・・」
「ご武運を祈ります!」
「なによ・・ご武運って・・」
「細かいことはええがな。頑張ってな」
「うん・・」
「小春、しっかり・・でありんすよ」
「うん・・」
そして私は、時雨王子の家の前に到着した。
うわあ~~・・ほんとに来ちゃった・・
この扉を開けると・・時雨王子がいるんだ・・
ダメだ・・ドキドキしてきた・・
ちょっと深呼吸・・はあ~~~・・
いよーーっし、行くぞ!
「こんにちは」
私はまず、玄関の前で声をかけた。
しかし、返事がない。
きっと寝てるんだわ・・
「時雨さん!いらっしゃいますか!」
また声をかけたが返事がない。
えぇ~~い・・仕方がない・・扉を開けるしかないよね・・
ガラガラ・・
私は思い切って扉を開けた。
すると玄関を上がったところの部屋で、時雨王子が寝ていた。
「あの~~・・お邪魔しますぅ・・」
すると時雨王子の身体が、少しだけ動いた。
起こした方がいいのかな・・
でも・・かわいそうだな・・
ペットボトルを置いて帰った方がいいよね・・
私は玄関先に、ビニール袋に入れたペットボトルを置いて帰ろうとした。
すると物音に気がついたのか、時雨王子が目を覚ました。
「あ・・お前・・」
「あっ!あのっ・・!風邪、大丈夫ですか・・?」
「お前、なにしに来たんだよ」
「え・・なにしにって・・」
「来てくれと言った覚えはねぇぞ」
「そうですが・・心配になって・・」
「あのな!俺は風邪をひいてんだよ。お前、わざわざ移りにきたのかよ」
「はいっ!どうぞ私に移してください。そしたら時雨さん治りますから!」
「はっ、バカか」
「あの・・食事は・・どうされてるんですか・・」
「っんなもん、適当」
「え・・それじゃ、治りませんよ」
「兄貴が帰ってきたら、なんか作ってくれんだよ。んで、和樹も、もうじき帰ってくるし」
「そ・・そうですか・・」
「だからお前は帰れ」
「あの・・私・・邪魔ですか・・」
「はあ?」
「心配になって・・来ただけです。でも邪魔なら帰ります」
「邪魔なんて言ってねぇだろ。移るっつってんだよ」
「私・・移ってもいいです・・。それで時雨さんが治るなら、移ってもいいです・・」
「ったく・・なに言ってんだよ」
「でも・・今日は帰ります・・。あの、これ・・よかったら飲んでください・・」
私はそう言って、袋を差し出した。
「おい、小春」
「は・・はい・・?」
「ちゃんと聞け」
「え・・」
「俺はお前に風邪を移したくない。それだけだ」
「・・・」
「わかったか」
「わ・・わかりません・・」
「はあ?わかんねぇのかよ」
「だって!好きな人が風邪ひいて、熱を出して苦しんでたら、心配になります!で・・移ったっていいと思ってます!」
「じゃあ聞くけどさ。お前が風邪ひいて、俺が会いに行ったら、お前、俺に移して平気なのかよ」
「え・・」
「だから帰れ」
い・・今のは・・どういう意味・・?
えっと・・どう理解したらいいの・・?
ダメだ・・頭が混乱してきた・・意味わかんない・・
「じゃ・・帰ります・・」
「ああ」
「早く治るといいですね・・では・・」
そう言って私は家を出た。
さっきのは・・どういうことなんだろう・・




